~side楯無~
「勝負!!」
ミステリアス・レイディの残りのエネルギーから見てもこれが最後の攻撃になるわね‥‥
なら、出し惜しみなんてしないで、この一撃にミステリアス・レイディのエネルギー全てをつぎ込む!!
ミステリアス・レイディのブーストを一気にふかして一気にあの化け物へと突っ込む。
化け物を倒すのは何時だって人間‥‥
そうよ、私は人間‥‥
貴女の様な化け物じゃない。
化け物は人間の手によって斃されるべきなのよ!!
「はぁっ!!」
私は渾身の一撃をあの化け物へと向ける。
しかし、あの化け物は私の渾身の一撃をヒラリと躱した。
「しまっ‥‥!!」
躱された!!
次にアイツの攻撃が来る!!
躱さないと!!
そう思ったその瞬間‥‥
ブシュッ!!
私の腹部に激痛が走った。
また次の瞬間には今度は背中に凄まじい衝撃とまたもや体に激痛が走った。
あの化け物の一撃は私の腹部を突くだけでなく、私をISごと壁に叩き付けたのだ。
生身の体で絶対防御機能を貫いてISごと壁に叩き付けるなんて、どれくらいの腕力をしているのよ、この化け物‥‥
「ゴフッ!!」
口から大量の血を吐く。
そして、あの化け物は私のお腹に刺さった
その瞬間、腹部からも大量に血が流れ出る。
床に倒れ、自分のお腹を見ると、綺麗な風穴が開いてそこからドクドクと血が流れてくる。
人のお腹に風穴なんて開けてくれちゃって‥‥
私は風穴が開いた自分のお腹に手を当てるがその行動は何の意味もない事だと自覚はしているが、少しでも生き長らえたいと言う思があった。
でも‥‥
この出血量‥‥とても、助からないわね‥‥
それに中の臓器も幾つか傷ついている筈‥‥
私は死のその瞬間までこれまでの事を振り返った。
これが所謂走馬灯ってやつだろうか?
自分で作り上げた専用機たるミステリアス・レイディにも自信があった。
だが、あの化け物はそれらをあざ笑うかのような強さを私に見せつけた。
何が更識家の当主よ‥‥
何がロシアの国家代表よ‥‥
そんな肩書、あの化け物には一切通じなかった‥‥
でも、どんなに悔しがっても私の人生はもう、これまで‥‥
出血多量で私の人生は終わり‥‥
我ながら短い人生だった。
心残りがあるとすれば、妹の簪ちゃんのことだけだ‥‥
私が更識家の当主になってすぐにあの子とは関係が悪化している。
いや、元々だったのかもしれない。
あの子は常に私の後を追いかけようとしてきた。
でも、簪ちゃんには私の影を追うよりもありのままの簪ちゃんでいて欲しかった。
暗部なんて薄汚れた世界とは関係ない、日の光が当たる世界で普通に生きて欲しかった。
私は更識家の当主と言う立場からそれを上手く口であの子に伝える事が出来なかった。
私が死んだら簪ちゃんが18代目楯無になるかもしれない。
そして、私の様にこの化け物に殺されるかもしれない。
そんな事態だけは避けたかったのになぁ‥‥
いざ、こうして死の瞬間を迎えるとやり残して来た事がある事に後悔した。
そんな私にあの化け物が近づいてきた。
止めを刺すつもりかしら?
もう、何もしなくても私の死は確実なのに‥‥
まったく、化け物は空気も読めないのかしら?
すると、あの化け物は私の前で跪くと、髪の毛がまるで触手の様に動き出し私の傷口の中へ‥‥私の体内へと入って来た。
そして、耳元に顔を寄せて‥‥
「っ!?」
私がバッと目を開けると、真っ先に見えたのは真っ白い天井。
辺りからは薬品の匂いがしてくる。
そして、私の腕には点滴が着けられている。
どうやら、此処は天国でも地獄でもない様だ‥‥
此処は‥‥病院‥‥?
でも、どうして‥‥
あの出血量から考えて生きていられるはずは‥‥
痛む腕をゆっくり動かして、あの時、あの化け物に貫かれたお腹に手を当てると、傷口はきれいさっぱり無くなっていた。
手術で縫合をされた後もない。
まるで、最初から傷なんてなかったかのように‥‥
傷口を手で撫でていると、私はあの時の事を思い出した。
あの化け物が私の体内に髪の毛を入れてきた時、あの化け物は私の耳元で呟いた。
「‥‥貴女はお父様の友人の子‥‥だから、今回は助けてあげる‥‥でも、私の事をもし、他者に触れ回ったりしたら‥‥分かっているわよね?‥‥妹さん、死なせたくはないでしょう?」
これまでの中で一番の饒舌な口数であの化け物は私に警告をしてきた。
しかも私に
もし、私が殺戮の銀翼の正体を言えば、アイツは間違いなく私ではなく、簪ちゃんを殺すつもりだ‥‥。
私に警告を入れた後、あの化け物は悠々と私に背を向けて歩いて行った。
私が覚えているのは其処までであった。
その後、どうやら私は意識を失い、駆け付けた警察によって救助されたのだろう。
イヴ・ノイシュヴァンシュタイン・アインス‥‥
アイツが殺戮の銀翼と言う事はアイツが言った「お父様」は恐らくあの時のパーティーで出会ったショウ・タッカー‥‥。
奴は生物化学、ナノマシン研究者だった‥‥
ならば、ナノマシン技術を使った生物兵器を作る事が出来たのかもしれない。
その生物兵器がアイツ‥‥イヴ・ノイシュヴァンシュタイン・アインス‥‥
犯人を突き止めているのに、手が出せないなんて‥‥
私はその悔しさから自然と握りこぶしを作り、ギュッと握りにしめる。
その後、警察が私に事情聴取の為、入院中の病室にやって来た。
私がこうして生きているのだから、あの護衛対象だった女性官僚も生きているかもしれないと言う僅かな希望を抱いて警察官に聞いてみた。
「あの‥‥」
「なんだね?」
「あの人は‥‥?」
「‥‥殺されたよ。殺戮の銀翼の手によってね‥‥」
「‥‥」
「全身がバラバラに切り裂かれていて、人の形を留めていなかった‥無残な現場だったよ」
「‥‥」
警察が言うにはあの現場の生存者は私一人だけだった。
あの女性官僚は同性の私から見ても確かに気に食わない人物であったが、与えられた任務を果たせなかったのは事実だ。
そして、警察は生き残っていた私に殺戮の銀翼の正体を聞いてきた。
私はあの時の化け物の忠告が耳に残り、警察には殺戮の銀翼の正体を教える訳にはいかなかった。
私は背後から突然奇襲を受けて、そのまま倒れたので、殺戮の銀翼の顔は見ていないと警察に証言した。
その時の警察官の目が私に語っていた。
「それでも
「役立たず」
「何故、お前は生きているんだ?」
「汚らわしいイエローモンキーめ」
等の侮蔑の視線が込められていた。
今回の事態を知った親戚連中からも、
「更識家の恥さらし」
と、言われた。
だが、両親だけは、私の無事を喜んでくれた。
それだけがせめてもの救いだった。
でも、簪ちゃんは興味無さそうだったのが、ちょっと心にグサッときた。
お姉ちゃん、マジで死にかけたのに‥‥
いや、実際に死んでいてもおかしくはなかった。
今回のことで私はロシアの国家代表の座を引きずり降ろされるかもしれない。
でも、汚名は甘んじて、うけよう‥‥。
元々ロシアの国家代表の座には深くこだわっては無い。
そんな座よりも妹や家族の生命の方が私には何よりも大事なのだから‥‥
お腹に空いた風穴はあの化け物が塞いでくれたみたいだけど、私は暫く入院する事になった。
「‥‥」
だが、眠れば決まってあの化け物にお腹を突き刺された時の光景が浮かび、その夢を見るたびに飛び起きては自分のお腹を確かめる。
この先、きっとあの時以上に死の恐怖を感じる事などないだろう。
私がこうして生きているのは、父があのタッカーと知り合いだから生きているのだ。
私はただ運が良かっただけだ‥‥。
もし、父がタッカーと知り合いでなかったら、私は十中八九、あの化け物に殺されていただろう。
「はぁ~酷い顔~」
鏡に映る自分の顔を見て一言そう呟く。
最近は満足に寝ていない為、目の下にはくっきりと隈が出来て、髪はボサボサ‥‥
食事も喉を通らないので、頬もこけている。
こんな姿、とてもじゃないが、簪ちゃんには見せられない。
もし、今の私のこんな姿を見られたら、
「あれだけ大口を叩いておいて、その体たらく‥‥無様ね、姉さん」
そんな事を言われそうだ。
もし、そんなことを言われたら、私、別の意味で死ぬかも‥‥
任務の失敗、九死に一生を得た事、入院生活‥‥これらの出来事から私はすっかり気が滅入ってしまっていた。
故に気づかなかったのだ‥‥
この人が私の病室に来ていた事を‥‥
「っ!?」
私は病室に私以外に人の気配を感じて、起き上がろうとした時、
「むぐっ‥‥」
突然、口を手で押さえられた。
まさか、あの化け物が来たのかと思ったが、病室に居たのは‥‥
「やっはろー、艦隊‥‥もとい、皆のアイドル、篠ノ之束だよぉ~」
其処に居たのはISの生みの親とされる篠ノ之束博士だった。
どうして篠ノ之博士が此処に!?
病室の前には警官が張っている筈なのに‥‥
「とりあえず、話がしたいから手は退けるけど、大声を出さないでもらえるかな?」
篠ノ之がそう尋ねてきたので、私は首を縦に振った。
私の返答を聞き、篠ノ之博士は私の口から手を退けた。
「そ、それで篠ノ之博士、貴女はどうやって此処へ?外には警官は居た筈‥‥」
「うん、居たよ。だから、窓から入って来た」
篠ノ之博士が窓に指をさすと、窓の鍵の部分には綺麗な円形の切り口があり、その穴から鍵を開けた様だ。
その手口はまさにプロの空き巣の様だった。
「‥‥貴女は一体いつから科学者じゃなくて、泥棒に転職したんですか?」
私はジト目で篠ノ之博士を睨む。
破天荒な人だと聞いたが、まさかここまでの人とは‥‥
いや、それ以上に窓に穴を開けられ、篠ノ之博士が病室に入って来た事に気づかなかったなんて、入院中とはいえ、私も随分鈍ったものだ。
「それで、何の用があって態々此処に?」
あまり時間をかけても無駄なので、私は篠ノ之博士に何故、私を訪ねて来たのか要件を尋ねる。
「君個人には大して興味はないよ。私が此処に来たのは君のISを見てみたいだけ‥なんでも君のIS、ナノマシン技術を使っているみたいだからね‥それと君‥‥」
篠ノ之博士は私にズイッと顔を近づけ、耳元で囁いた。
「あの殺戮の銀翼と戦って唯一生き残ったらしいじゃない?ねぇ、ソイツ、どんな奴だったの?」
篠ノ之博士は私のISと殺戮の銀翼について尋ねてきた。
「ど、どうして篠ノ之博士は殺戮の銀翼に興味を?」
私のISについては予想圏内だが、篠ノ之がどうして殺戮の銀翼に興味を持ったのかが疑問に思った。
噂では篠ノ之博士は、他人に関してあまり興味を持たない人物だと聞いたからだ。
「うーん、アイツは世界の彼方此方で権力者達を殺しているでしょう?んで、その時に警護についているISも沢山壊しているみたいじゃない?ISを壊せるのは核かISぐらいだもん。アイツが乗っているISってどんなのか、ISの生みの親としては興味が湧くじゃん」
篠ノ之博士も殺戮の銀翼はIS乗りだと思っている様だ。
だが、彼女がそう思うのも当然だろう。
篠ノ之博士が言うようにISを壊すには核か同じくISぐらいでないと破壊できない。
警護にはIS部隊がつき、殺戮の銀翼はそのISを悉く壊しているのだから‥‥しかも搭乗員諸共‥‥
そして今のところ、殺戮の銀翼を見て生きているのは私だけ‥‥
ISの生みの親である篠ノ之博士が殺戮の銀翼がどんなISに乗っているのか?
どんな戦闘を行ったのか?
どんな武器を使用したのか?
そして、どんな奴だったのか?
興味を抱いても不思議では無かった。
「そ、それが‥‥」
私は警察に答えたように殺戮の銀翼の姿を見る前に倒されたと証言した。
だが、
「ふぅ~ん、そう‥‥まぁ、君が見ていなくても、君のISは見ていたと思うよ、殺戮の銀翼の正体を‥‥」
「えっ?」
「ISのコアにアクセスすれば、多分その時の映像が残っている筈だから」
「ISのコアにアクセスって‥‥」
ISの原動力のキーとも言えるISコア。
世界に限られた数しかなく、未だに解析がこんなんなオーバーテクノロジーの塊。
篠ノ之博士は未だにそのISコアの製法を秘匿している。
故に世界は篠ノ之博士を指名手配し、ISコアの製法を聞き出そうと躍起になっているのだ。
「あっ、これだね、君のISは‥‥」
篠ノ之博士は
「あっ‥‥あっ‥‥」
殺戮の銀翼に‥‥あの化け物に映像を篠ノ之博士に見られたと知ったら、簪ちゃんの命が‥‥
「だ、ダメ!!」
私は篠ノ之博士を止めようとするが、
バタン!!
「グッ‥‥」
勘が鈍っていたと思ったら、体力も落ちていた。
まぁ、当然と言えば当然だ。
入院生活をして寝れば悪夢を見てほとんど寝ていないし、食事もとっていない。
体力が落ちているのも当然だ。
篠ノ之博士は飛び掛かった私を投げ飛ばした後、傷口の有った腹部を踏みつける。
「ぐっ‥‥」
「黙っていろよ、負け犬」
篠ノ之博士は冷たい声、冷たい視線で私を見下ろしていた。
「うっ‥‥」
私は何も出来ずにただ篠ノ之博士の行動を黙って見ているだけしか出来なかった。
篠ノ之博士は待機状態のミステリアス・レイディにコードを着けて、それをタブレットに接続し、映像を再生させる。
「‥‥」
ああ‥‥もう、おしまいだ‥‥
私のせいで簪ちゃんが‥‥
私は悔しさのあまり涙が出そうだった。
その時、
「‥‥そんな‥‥ばかな‥‥あの子が‥‥」
篠ノ之博士が絞り出すような声を上げながらタブレットに表示されている映像を見て大きく目を見開いていた。