様々な事が有ったIS学園の臨海学校が終わり、臨海学校に参加したIS学園の一年生達は普段の学園生活へと戻った。
ただその中で織斑百秋は臨海学校における福音との戦いの怪我の影響で今学期の復帰は不可能となり、夏休み期間中の補習が決まった。
まぁ、百秋は臨海学校での福音の件で既に夏休み期間中は補習が決まっていたのでせめて入院中が彼にとって少し早い夏休みのようなモノになった。
一方、百秋と同じく福音の討伐の際、虚偽の報告をしてイヴを見捨てた箒も夏休みは百秋と同じく補習が決まっていた。
そんな中、イヴは臨海学校の最終日の夜の事がどうしても気になっていた。
(ねぇ‥‥)
『ん?なんだ?』
イヴは自分の中に居る獣に珍しく声をかけた。
(実はあの後の事をよく覚えていないんだけど、お前は何があったか覚えているか?)
『ん?あの後?』
(ほら、デュノア君が私に告白してきただろう?)
『ああ、あの時か‥‥』
イヴはシャルルから告白された所までは覚えているがそれ以降の事を覚えていない。
シャルルが自分に告白した時、獣が無理矢理表に出てきたのかと思い、獣がシャルルにあの告白の返答をしたのかと尋ねる。
『いや、実は私もあの後の事はよく覚えていない』
(覚えていない?)
なんと獣もあの後の事は覚えていないと言う。
(それ、どう言う事!?私はてっきりお前が表に出てきてデュノア君に返事をしたのかと思ったんだけど‥‥)
『私だって知らねぇよ。急に眠くなったて気が付いた時にはお前があの青髪と一緒に風呂に入っていたからな』
獣も覚えていないと言うのであれば、あの後あそこでは何があったのか?
シャルルならば何か知っているだろうか?
でも、シャルルとはあの告白の一件があり、何となく気まずい。
しかし、獣さえも知らないとなると何かがあったに違いない。
気になったイヴは告白の件はひとまず置いておいて、あの時の事を聞きにシャルルの下へと向かった。
しかし、寮のシャルルの部屋をノックしても中からは応答がない。
(留守かな?)
「あっ、ねぇ、デュノア君何処にいるか知らない?」
イヴは通りがかった同級生にシャルルの居場所を尋ねた。
「デュノア君なら、格納庫に居るのを見かけたよ」
「そう、ありがとう」
シャルルの居場所を聞いて早速、シャルルが居ると聞いたISの格納庫へと向かった。
格納庫ではシャルルが自らの愛機である ラファール・リヴァイヴ・カスタムIIを修理しているシャルルの姿があった。
上着とネクタイを脱ぎ、ワイシャツを腕まくりして工具を手に取るシャルルの手と頬には機械油がついている。
そしてシャルルの愛機のラファール・リヴァイヴ・カスタムIIは彼方此方が変形したり、凹んでいたりとどう見てもシャルルがラファール・リヴァイヴ・カスタムIIをカスタマイズしているようには見えない。
(えっ?なんで、デュノア君の専用機‥あそこまで壊れているの?)
福音討伐後はISを使用する機会なんてなかった筈だ。
そもそも福音戦の時、シャルルはイヴを捜索する時にISを使用し戦闘はしていないから壊れる筈はない。
ならば、シャルルのラファール・リヴァイヴ・カスタムIIは一体いつ壊れたのだろうか?
もしや自分達の記憶が欠落している事に何か関係があるのだろうか?
気になったイヴはシャルルに声をかけた。
「デュノア君‥‥」
「っ!?あっ、アインスさん」
突然背後から声をかけられたシャルルはビクッと身体を震わせるが、イヴだと知るとホッとした顔をする。
「ね、ねぇ‥‥その‥‥どうしてデュノア君のリヴァイヴ‥そこまで壊れているの?」
「えっ?」
「あの‥それに私‥‥デュノア君から告白された後から記憶がないの‥‥もしかして、私がデュノア君のリヴァイヴを‥‥」
恐る恐るシャルルに尋ねる。
憶測でもいいから外れて欲しいと思うイヴ。
「‥‥」
すると、シャルルは気まずそうにイヴから視線を逸らす。
「やっぱり‥‥私が‥‥」
シャルルのその態度で自分がシャルルのリヴァイヴを壊したのだと悟ったイヴ。
IS学園では間もなく期末テストがある。
当然、一般教養の他にISによる実技試験も期末テストの中に含まれている。
それなのにシャルルの専用機は壊れている。
とてもシャルル一人では期末テストまでの短い期間には直らない。
もし、シャルルの期末テストでのIS実技の試験結果が悪かったらと思うと深い罪悪感に囚われるイヴ。
それにあの機体はシャルルの機体であると同時にフランス国家の所有でもある。
シャルルは自由国籍を取得した暁にはリヴァイヴはフランスへ返還しなければならない。
返還した際、傷物で還すわけにはいかない。
その事実に関してもイヴは罪悪感を与えていた。
「ち、違うよ!!アインスさんが悪い訳じゃないから!!こうなったのも僕の腕が未熟だったのが悪いんだし‥‥」
シャルルは慌てた様子でイヴが悪い訳ではないと言う。
「ねぇ、教えて‥一体あの後何があったの!?私は何をしたの!?お願い!!教えて!!」
イヴはシャルルにしがみつき、縋るような目であの後、何が起きたのかを尋ねる。
「‥‥でも‥これはあまり、アインスさんにはちょっと辛い事だし‥‥」
「それでもいい!!それでも、私には知る権利があるから!!」
「わ、分かったよ」
イヴの勢いに負けてシャルルはあの告白の後、何があったのかをイヴに話した。
「そんなっ!?たばちゃんが‥私に‥‥」
「で、でも篠ノ之博士も博士なりにアインスさんの事を心配しての行動だから‥‥」
「うん‥分かっている‥でも、そんな事をするならちゃんとアフターケアーだってちゃんとしないと‥‥ちょっと待っていて」
イヴはポケットからスマホを取り出し、電話をかけ始めた。
~♪~♪~♪
「おっ?この着メロは!!」
束は自分の携帯にかかってきた着メロを聴くと、彼女の頭についている機械の兎耳がぴょこッと反応する。
「はぁ~い、もすもす、皆のアイドル、篠ノ之束だよぉ~」
いつものお茶らけた様子で電話に出る束。
すると、通話口の向こうから、
「た~ば~ちゃ~ん~」
呪詛の様な不気味な声が聞こえてきた。
「ひっ、い、いっちゃん?ど、どうしたのかな?」
通話口の向こうから聞こえてきたイヴの声に束は思わず身震いする。
「『どうしたのかな?』それはたばちゃんがよく知っていると思うけど?」
「な、何の事かな?」
電話口の向こう方は束の動揺している声が聞こえる。
「そう‥まだしらばっくれるの?‥‥私をあんな化け物の姿にしてデュノア君と戦わせたのに‥‥」
動揺している束とは反対にイヴは物凄く冷静‥と言うか何となく殺気の様な冷たい声であの時の事を束に問いただす。
「っ!?そ、それは‥‥」
「たばちゃんが私の為にしたのは分かるけど、でも、酷いよ!!」
「そ、それは‥ごめん‥‥でも‥‥」
イヴは先程の冷たい声から一転し、問い詰める様な大声をあげる。
その声を聞いて束は益々委縮している事がその声から窺える。
「デモもストもないよ!!」
「‥‥」
通話口の向こうから聞こえる涙声のイヴの声に束は思わず俯いてしまう。
「もう、たばちゃんなんて知らない!!友達でもなんでもない!!」
「そ、そんなっ!?待って!!いっちゃん!!」
「‥‥たばちゃん」
「な、何かな?いっちゃん」
「夜、歩く時は背後に気を付けてね‥‥死はその素早き翼をもって飛びかかるよ」
イヴは束に殺害予告の様な言葉を言い放つ。
「そ、そんな!?待って!!いっちゃん!!今回の事は本当に悪かったと思っているから!!だから、チャンスを!!挽回のチャンスを!!」
電話の通話口の向こうからは束の必死な声がする。
そんな束の必死な嘆願を聞いているイヴの方は‥‥
声では涙声を出していたが、表情はニヤリとあくどい顔をしていた。
(勝った‥‥計画通り‥‥)
(あ、アインスさん何だか物凄く悪そうな顔をしている‥‥)
そんなイヴの姿を見てシャルルはドン引きしていた。
「じゃあ、デュノア君のIS‥急いで修理して」
「えっ?あのふたなり‥‥」
「ん?」
「あっ、いや、あの子のISを?」
「そう!!」
「あっ、いや‥でも‥‥」
「そう‥たばちゃんがそんな態度をとるならもうたばちゃんとの関係もこれまでだよ」
「わ、分かった!!分かったから!!」
束が自棄になったように叫ぶ。
こうしてシャルルのラファール・リヴァイヴ・カスタムIIは期末テストまでには何とか無事に使えるみたいになった。
翌日、イヴとシャルルが格納庫に行ってみると、そこには新品同様に修理されたラファール・リヴァイヴ・カスタムIIの姿があった。
一晩で、しかもIS学園のセキュリティに引っ掛かる事無くシャルルのISを直した束はやはり流石としか言えなかった。
ISについての心配事は解決したので、後は一般教養の座学である。
期末テストが近づいている中、ある日の放課後、
「ねぇ、イヴイヴ」
「ん?どうしたの?のほほんさん」
「その‥今度の期末に向けて一緒に試験勉強しない?」
本音がイヴにテスト勉強を一緒にやらないかを持ち掛ける。
「うん。いいよ」
本音の頼みをイヴはあっさりと了承する。
(ヤッタ!!)
イヴの返答を聞いて本音は心の中でガッツポーズをとる。
「それなら、私も混ぜてもらえないか?」
そこへ、ラウラも一緒にやりたいと言う。
「ボーデヴィッヒさんも?」
「うむ‥ISに関してはいいのだがその‥現代文が自信ないのだ‥‥」
外国人であるラウラにとってこの国の言葉は難しい様だ。
「うん。いいよ」
「えっ?なになに?試験勉強をやるの?」
そこへ、鈴も会話に加わる。
「うん」
「じゃあ、私も一緒にやる!!ついでに夜食も作ってあげるわ!!」
「ありがとう鈴」
(あら~なんだか人が‥‥)
本音としてはイヴとワンツーマンでやりたかったのだが、声をかける場所を間違えた感があった。
なんだかイヴと試験勉強をする面子がドンドン増えていく。
「のほほんさん、かんちゃんはどうなの?」
「えっ?かんちゃん?」
「うん。やっぱり、四組の人とやるのかな?」
「うーん‥どうだろう?かんちゃん、最初の内は専用機の一件で高校生デビューに出遅れた感じがするし‥‥」
「じゃあ、声をかけてあげよう」
「えっ?あっ、うん‥‥」
簪にも声をかけると決まった時、
『おい、一夏!!当然、デュノア君も誘うだろう!?いや、誘え!!』
イヴの中の獣がシャルルも誘えと言う。
(わ、わかった、わかった)
このまま獣を放置しておくと勝手に表に出て好き勝手にしそうなので、イヴはシャルルにも声をかけることにした。
シャルルからの告白の一件がまだ片付いていないが、学生の本分としては青春と思春期における恋愛も大事だが、今は目の前に迫っている期末テストに集中しなければならない。
そこはシャルルだって理解している筈だ。
「で、デュノア君」
「ん?何かな?アインスさん」
「その‥今日の夜、一緒に試験勉強をしない?」
「えっ?アインスさんと?」
「う、うん‥ダメ‥かな?他の人とやる約束とか、一人の方が集中出来たりする?」
「ううん、大丈夫だよ。やろう、試験勉強」
「そう?よかった。じゃあ、8時に私の部屋に来てね」
「うん。必ず行くよ」
シャルルに声をかけたイヴは次に四組へと向かう。
「かんちゃん」
「イヴ」
「ねぇ、今夜一緒に試験勉強をしない?」
「イヴと一緒に?」
「うん」
「する!!絶対にする!!」
「分かった。それじゃあ、夜の8時に私の部屋に来てね」
「うん。絶対に行くから」
「それじゃあ、夜ね」
そこで簪に今日の夜、一緒に試験勉強をやらないかと誘うと彼女は即座に了承した。
そしてイヴは簪に時間を伝え、寮に戻った。
それから試験勉強をする夜8時‥‥
「「むっ?」」
イヴの部屋の前で筆記用具と教科書、参考書を持ったシャルルと簪が鉢合わせをする。
「どうして更識さんが?」
「そう言うデュノア君こそ‥‥」
「僕はアインスさんと一緒にテスト勉強をしに来たんだよ」
「私だってイヴと一緒にテスト勉強をしに‥‥デュノア君は男同士‥織斑君とやればいいじゃない。腐った女子だってきっとそれを望んでいる」
「更識さんこそ、布仏さんや同じクラスの人とやればいいじゃないか」
「むっ!?」
「むむっ‥‥」
シャルルと簪の目からは互いにバチバチと火花が散る。
そんな中、イヴの部屋の中からは、
「ねぇ、イヴイヴ、これどうやってやるの?」
「あっ、これはね‥‥」
「ちょっとラウラ。アンタ、此処の漢字間違っているわよ」
「むっ?そうなのか?」
部屋の主であるイヴの他に本音、鈴、ラウラの声が聞こえた。
シャルルと簪もいつまでも部屋の前でいがみ合っている場合ではない様なので、部屋をノックした。
「はーい」
ノックの音を聞いてイヴが応対に出る。
「あっ、二人とも待っていたよ」
笑顔でシャルルと簪を出迎えるイヴ。
シャルルと簪を部屋に招き入れたイヴは早速二人の為に紅茶を淹れる。
そして、皆はテスト勉強をするのだが‥‥
「ねぇ、イヴイヴ、この問題は?」
「ここはねぇ‥‥」
「「‥‥」」
イヴは本音につきっきりで勉強をしている。
そんな様子をシャルルと簪は面白くないと言う顔で見ている。
しかも座っている席がイヴは片方が壁際でもう片方は本音が座っている。
その為、シャルルと簪はイヴの隣に座る事も出来ない状況となっている。
シャルルも簪もイヴにほぼワンツーマン状態で勉強を教わっている本音を羨ましそうに見ている。
「デュノア君とかんちゃんは大丈夫?どこか分からないところはない?」
イヴは勉強が進んでいない二人に声をかける。
「「えっ?」」
そこで二人はチャンスだと思い、
「あっ、此処が分からないんだけど‥‥」
「僕は此処が‥‥」
二人は参考書を差し出して分からない所を尋ねる。
「ん?どれどれ」
イヴは立ち上がって場所を変わり、シャルルと簪の間に座り、参考書を見る。
「あっ、ここはねぇ‥‥」
そして、イヴは二人に問題の解き方を教える。
(むぅ~)
そんな様子を今度は本音が面白くなさそうな顔で見ていた。
「なぁ、鈴‥‥」
「何?ラウラ」
「なんか、あの辺りから見えない攻防戦が行われている様な気がしてならないんだが‥‥」
「奇遇ね、私もそれを感じるわ」
若干蚊帳の外に置かれている鈴とラウラはこの部屋で見えない戦闘の気配を感じていた。
その後、鈴が作った夜食を食べ、この日は解散となった。
期末テストの日までイヴ達は夜、部屋に集まり、試験勉強をしながら夜食を作り合い、一緒に食べると言う時間を過ごした。
ただ、どの時間の時もイヴの隣を狙う見えない攻防戦があったのは言うまでもなかった。
そして、迎えた期末テストでは、
(えっと‥‥この問題は‥‥)
(あっ、此処イヴイヴに教わった所だ)
(此処の問題は確か‥‥)
(この問題はイヴが教えてくれたところだ)
と、中々の手応えを感じた者も居れば、
(くそっ、あの疫病神のせいで折角の夏休みが‥‥)
と、夏休みが無しと決まっていた事ですっかり勉強する意欲を無くした者も居た。
ISの実技でも専用機持ちはそれなりの実績残した。
しかし、臨海学校のほんのわずかな時間しか乗っていない箒は未だに専用機に振り回されている様な乗り方だった為、折角の専用機も宝の持ち腐れと言う結果に終わった。