徒歩で来るメリーさん   作:アッパーカット

4 / 8
10にちめ メリーさんと勝負。

 

 

 

 

 

『クイーンでそのポーンを撃破です』

「次でチェックか……フッ、甘い! 蜂蜜入りの紅茶のように甘いぜメリー! ナメるな、その戦術は読みきっていた……! キャスリング!」

『はい、じゃあこっちのプロモーションしたポーンでチェックです』

「はっ? え、じゃあ……おい、詰んでんじゃねえかこれ」

『ええ、詰んでます。チェックメイトです』

 

 さて、メリーが千里眼を駆使することによって実現したこの電話越しのチェスなのだが……現在12戦3勝9敗。俺はメリーに大きく負け越していた。

 

「クッソなんで勝てねえんだよ。不良品じゃねえのコレ」

『チェス盤と駒が不良品でも結果は変わりませんよ?』

「……チッ、こうなりゃしょうがない。メリー、あえて直接聞くが、俺の敗因はなんだ?」

 

 不思議でならない。最初のうちは三回、立て続けに勝ったのだ。しかしそれ以来ぱったりと勝ち星がつかなくなり、このザマである。さっぱり理由がわからん。

 

『……いえ、その。本気で言ってます?』

「本気も本気だよ。その口ぶりじゃなんかあるみたいだな」

 

 もったいぶった口調のメリーに急かすと、呆れ声で返された。

 

『だってアキラさん、毎回必ず、それも終盤にキャスリングするじゃないですか。勝ちそうになってても無意味にキャスリング、負けそうになっててもとりあえずキャスリング。そのせいで一手遅れますし、読みやすいですし、ルークとキングの動きがずっと制限されますし。……あの、キャスリングをやめたらどうですか?』

「はっ? ……はっ!?」

『いえ、キャスリングという戦術は、間違いなく有効な戦術なのです。でもですね、毎回やっていたらそれは戦術ではなくて、ただのルーチンなのですよ』

 

 それに続けて俺の戦術にケチをつけるメリー。

 俺はふぅ、と息を吐き出し、やれやれと肩を竦めた。

 

「メリー、メリーよ。お前は何にもわかっちゃいないな」

『えっと、何がです?』

「チェスにはな、キャスリング以上に格好いい戦法なんて存在しない」

『へっ?』

「いいかメリー、キャスリングってのはな、王に忠誠を誓った城が最後の最後、水際で王を守り通すために全力を振り絞った脱出劇なんだよ」

『王に忠誠を誓った城!? 付喪神か何かですか!?』

「そこに存在するのは、我が身を犠牲にしてでも王を守り通すという気高い誓いだ。ルークがハドラー様を消滅すら覚悟して守ったあの時から、キャスリングは俺の中で一番格好いい戦術なのさ」

『ああ……付喪神といえば付喪神ですね……』

 

 だから俺の我儘でキャスリングしないなんてことはありえないと言ったところ、メリーは『だったら勝ってる時はしなくていいのでは……?』とかなんとか言っていたが、関係ない。格好いいからにはやらねばならないのだ。

 

「が、まあ敗因はわかった。次はそれを逆手にとってやるよ。……次の勝負だ。勝ち逃げは許さんぞ」

『いいですけど。でも、罰ゲームを忘れてませんか?』

「お前、だんだん抜け目なくなってきたな……」

『間違いなくあなたのせいなのですよ……』

 

 チッと舌打ちを残し、中身を抜いたティッシュ箱からごそごそと紙切れを取り出す。

 このティッシュ箱に入っているのは様々な罰ゲームが書かれた紙切れで、敗北したらこれを一枚引き、実行しなければならないのだ。

 まあもちろん、そんなに厳しい内容なわけでもないのだが。俺と違ってメリーは外にいるわけだし。羞恥心を捨てれば実行にはそんなに苦労しないようなものばかりだ。

 

 ……だがまあ、向き不向きというのはあるもので。

 個人的に地獄だったのは赤ちゃんプレイ(五分間)だ。父性を感じてみたいとか迂闊に考えて罰ゲームにしてしまったあの時の自分を殴り飛ばしたい。負けて赤ちゃんになりきらねばならない時のことも考えろ、と。

 何が辛いって、メリーが微妙に楽しんでるのがわかってしまったのが逆にキツかった。自分の状況が客観視できてしまって、なんかもうほんとに泣きそうになった。アレはもうやりたくない。

 

 人ってのは辛い経験を乗り越えながら成長していくのだ。

 そんなことを虚ろな眼で考えながら紙切れを開くと、『阿波踊りしながら豆知識を一つ話す』というのが出てきた。

 

『これはまた誰も得をしない……』

「誰がこんなアホなもん書いたんだ」

『いえ、アキラさんですが』

 

 そーですね。途中で罰ゲーム考えるのに飽きて適当に考えたのがダメだったんでしょうね。

 仕方がないので立ち上がり、流麗な動きで阿波踊りを始めながら、豆知識を披露する。

 話し出す寸前、俺の目が壁にかかる姿鏡を捉えた。そこに写っているのは、伴奏もないのにたった一人で一心不乱に踊るバカである。率直に言って死にたくなった。

 

「……では、明日役に立たない豆知識を話すとしようか。俺の専門分野からな」

『アキラさんの専門分野というだけで、少し先行き不安なのですが……どうぞ』

 

 鋼っ……! 俺の精神力は鋼だっ……!

 今だけはただひたすらに阿波踊れっ……!

 自分を鼓舞しながら豆知識を披露する。

 

「メリーはブルマーという衣服を知っているか? かつての日本で体操着として用いられていたアレだ」

『ええ、話には聞いたことがありますけど……』

「ならば話が早い。ブルマーってのは運動しやすく機能的な服として、ごくごく健全な目的から体操着に採用されたんだが、しかし『ブルセラ』なんていう言葉を生み出すほどに、少しばかり性的な視線を浴びてきた。何故だかわかるか?」

『その、なんといいますか……丈が短いからではないのですか?』

 

 メリーのその答えに、俺は動きにこぶしをきかせながら頷く。

 

「そう。もちろんそれは一つの原因だろう。股下ですっぱりと布が切り取られたあの形状は、まるで神と悪魔の悪戯であるかのように、意図せざるとも仕方なしに太ももを大胆に露出してしまう。……その形状からして、そこに僅かながらも性的なものを感じるというのは、褒められたことではないにしても責められることでもないだろうな」

『あの、アキラさん? もしや、ただブルマーについて語りたいだけなのでは?』

 

 そのメリーの問いに、俺は美しいダンスフォルムを維持しながら首を振る。

 

「いやいやメリー、ここからが豆知識だ。そのブルマーだが、メリーよ。お前、あの衣服の起源を知っているか?」

『……体操着、ではないのですか?』

「残念、ハズレだ。……実はな、あのブルマーというやつ、元々は下着なんだよ」

『へー。……へっ?』

「ブルマーが開発された当時は、女性服ってのはかなり着づらいものだった。中世のドレスのコルセットやらを考えりゃわかると思うが、そもそも下着からしてやたら硬く重く、とてもじゃないが活動的に動ける服じゃない。女性は否応なしに、静かに過ごすことが求められていたわけだ。で、それじゃいかんということで代わりに作られた下着がブルマーなのさ」

『そ、そうなのですか?』

「そうだ。まあつっても、当時のブルマーってのは今の短いやつじゃなくて、膝くらいまで丈があったらしいし、もう少しゆとりのある設計だったらしい。だから、今のブルマーの起源がそのまま下着かと言ったらちょっと違う気もするけどな。が、まあ、源流の一つは間違いなく下着だったわけだ。……つまりメリー、俺の言いたいことがわかるか?」

『……うっすらとわかりますが言いたくありません』

「ならば仕方がない。俺が言うとしようか」

 

 俺は阿波踊りをフィニッシュし、結論を述べた。

 

「ブルマーは元々下着だった。だったら、ちょっとくらいエロく見えるのはそりゃ当たり前だよな、って話だ。……以上、豆知識だ」

『わー。本当になんの役にもたちません』

「そりゃ、豆知識だしな」

『それはそうですけれども。というかアキラさん、これが専門なのですか……?』

 

 戦慄したようなメリーの言葉を無視し、チェス盤に向き合う。

 

「さ、次の勝負だ。まだまだ罰ゲームはたくさんある。メリーも次が年貢の納めどきだぜ」

『さっきもその前もそんなことを言っていた気がするのですが……いいでしょう』

 

 かちゃかちゃと駒を元の位置に戻しながら、ふと、何の気なしにメリーに聞いてみる。

 

「……そういやメリー」

『なんですか?』

「今日で確か、長崎を出発して何日目だっけか?」

 

 毎日毎日メリーと電話して会話しているので時間感覚が消失しているが、もう結構な日数が経った気がする。

 メリーは電話越しに『いち、にー、さん、し……』と指折り数え、その結果を告げた。

 

『これで十日目ですね』

「マジか。もうそんなか」

 

 十日。一週間+三日。一ヶ月の三分の一。

 そりゃもちろん一生のうちからしてみればなんてことない期間だが、しかし体感からしてみりゃ結構な時間だ。

 特にメリーなんぞはその期間中、毎日歩いているわけで。

 よくぞこうも元気に、俺と電話する余裕があるもんだ。

 

「で、今どこなんだ?」

『今ですか? そうですねー』

 

 ちょっとチェス駒並べを中断し、適当に考えてみる。

 メリーの歩くのが時速三キロとして、一日十時間くらい歩くとして……十日だと三百キロか。そう数字にして予想を弾き出してみると、とんでもない。とてもじゃないが女の子の歩く距離じゃないだろう。

 

「……だいたい、山口ってとこか?」

 

 関門海峡をどうやって越えたのだろうか。ああいや、アレって確か、徒歩でも渡れるんだっけか……?

 とまあ、俺の予想はだいたいそんなもんだったのだが。

 

『いえいえ。そろそろ神戸駅に着くと思いますよ?』

「はぁっ!?」

 

 ──その予想は、見事に外れていた。

 驚きで、せっかく並べ終わりそうだった駒が軒並み倒れる。

 

「はっ? お前、えっ? 神戸?」

『はい、神戸ですけど……どうしたのです? あっ、神戸ポートタワーです! 記念写真でも送りましょうか?』

「お、おう……」

『わかりました! ではではー』

 

 そう言い残して数分後、送られてきたのは、確かに神戸ポートタワーをバックに写っているメリーである。

 案の定目元は隠されているものの、見間違えるということもありえまい。

 狐につままれたような気分だった。

 

『よく撮れてますか?』

「あ、ああ。よく撮れてるけどよ……。え? なんで? なんでお前、神戸にいんの?」

 

 再びかかってきた電話に、驚きの声を返す。

 だって、どう考えてもおかしいだろう。俺の予想と比べればざっと二倍以上。ターボババアやらなんやらについて語っていたメリーの口ぶりからすると、俺の予想したメリーの歩く速度にはそんなに違いがないはずで……。

 

『? いえ、それはだいたいそんなものですよ。だって私、一日に七十キロほど移動してますし』

「おい、まさかとは思うが……お前、()()()移動してんの?」

『ええ、はい。それはもう二十四時間営業年中無休です。……ど、どうしたのですか?』

 

 呆然に、ぽかーんとアホみたいに口を開ける。

 一日? 24時間? 1440分? 86400秒?

 

「に、二十四時間ってお前……睡眠時間は!?」

『わっ! きゅ、急に大きな声を出さないでください……!』

「あ、ああ、すまん……」

『ええと、睡眠ですか? 必要ないのですよ。私はこれでも怪異ですから』

 

 ……いやはや、全く。

 俺にしても、メリーが都市伝説だということは理解していたのだ。が、普通に会話ができて普通に遊んでるから、そんな意識がどこかに吹っ飛んでしまっていたらしい。理解と実感は別物というか、そっか、そうだよな。怪異だもんな、そっかー……。

 

 遠い目をする俺の様子に気づいたのか、メリーが慌てて声を出す。

 

『……その。……引きますか?』

 

 ……引く、か。ふむ。

 改めてそう問われてみると……別にそんなでもないか。

 

「いや、そういうわけじゃねーんだけどな。単純にびっくりしただけだ」

『そ、そうですか……?』

「ああ。要するにアレだろ? イルカやらマグロやらが半分眠りながらも泳ぎ続けるようなもんだろ? メリーさん=魚介類と考えれば、そこまで無茶苦茶なこと言ってるわけでもねーよ」

『魚介類っ!? そっちのほうが無茶苦茶ですよ!?』

「肺魚みたいなもんだろ」

『メ、メリーさんのイメージが……!』

 

 ……しかし、そうか。

 俺みたいな普通人は一日に八時間、三分の一くらいは寝て過ごしてるわけだ。

 それでもちょくちょく退屈を感じることがあるんだから、俺よりも長い一日を過ごすメリーはもっと退屈だろう。メリーが俺と長く話したがるのには、そういう退屈さを紛らわす意味もあるのかもしれない。

 

 と、ふと気づいたことがあって、『肺魚……』と呟いているメリーに声をかける。

 

「……そういやこの写真」

『ひゃっ! ……は、はいなんでしょう?』

「お前、日焼けしねーのな」

 

 思い返してみると、メリーの写真は初めてメリーから電話がかかってきた時に見た写真と同じ、真っ白の肌だった。この炎天下を、十日間も歩いてるってのにだ。

 

『あ、はい。メリーさんという怪異は人形がベースですので、日焼けはしないのです。……というかそれ以前に、怪異ですから肉体的な傷はすぐさま治るのですが』

「え? 怪異って物理攻撃無効なのか? じゃあどうやって祓えばいいんだよ」

『祓う気なのですか!? 私、祓われてしまうのですか!?』

「ああいや、そういうわけじゃないんだけどな。参考までに」

 

 そう聞くと、メリーは投げやりな声で言った。

 

『たぶん塩とかじゃないですか? 一キロ二百円くらいの』

「おい、クッソ適当だな」

『いえ、だって知りませんし。一時的に祓うのは別として、都市伝説が本質的に滅びるのは、人から忘れ去られた時ですから』

「あー、なるほど。ある意味、儚い奴らだな」

 

 強いのか弱いのかよくわからん。

 ……となると。

 

「『紫の鏡』とかはどうなんだ? アレはある意味、忘れられることが本質みたいな都市伝説だろ?」

『ああ、紫の鏡さんですか。自己矛盾に苦しんで、毎年成人式ごろは胃が痛いそうです』

「不憫な……」

 

 鏡の胃ってどこだろうな。

 他にも案外、闇を抱えている都市伝説がいそうだ。

 

「ま、とにかく。お前が俺のとこまで来るのが、案外遠い未来じゃないってことはわかった。……となると、だ」

『? はい?』

「お前、俺の所に来てどうするつもりなの?」

 

 そう。そういえば俺は、メリーが俺の所に来て何をするつもりなのか、一度も聞いていなかったのだ。……毎日いっしょに遊んでて、楽しかったからな。

 

『どう、とは?』

「いや、メリーさんってやつは大抵、『あなたの後ろにいます』で終了だろ。その後ってどうなるんだ? ……もしかして、殺されたりすんの?」

『し、しませんしませんしません! 何を言っているのですか! ありえないです!』

「じゃ、どうすんの?」

『そ、それは……』

 

 メリーが口籠もった。

 背筋にたらりと冷や汗が垂れるのを自覚する。おいおい、ここで口籠もるってのは、まさか本当に……?

 

「お、おい。メリー、まさか……」

『いえ、その。…………私も、知らないのですよ』

「……はい?」

 

 そのメリーの言葉に、俺はぽかんと口を開ける。

 

『し、仕方がないじゃないですか! だって私、まだメリーさん見習いなのですから!』

「……いや、その理屈はおかしい。メリーさん見習いでも、メリーさんの仕事くらいは知ってるだろ」

『いえ、違うのです。メリーさんというのは、()()()()()()()()()怪異なのです』

「……どういうことだ?」

 

 俺は首を傾げた。

 そりゃそうだろう。メリーさんが振り向く所で終了する都市伝説だってのはわかる。だからってなんで、振り向いた後を知らないんだ?

 

『いいですか。メリーさんというのは、振り向いた後に()()()()()()()()()()()()()()()()、都市伝説として今なお有名なのですよ』

「……んん?」

『もし、もしですよ? 仮にメリーさんが、振り返ったと同時に相手を殺す怪異だとしましょう。その場合、そもそも破綻しているのです』

「なんで?」

『だって、誰がその都市伝説を伝えるのですか』

「……あー」

『メリーさんという怪異は、結末を定めてはならない怪異なのです。結末が定まらないからこそ、これまで都市伝説として生き残ってこれました。……ですから、全てはケースバイケースなのですよ』

「そういうもんなのか?」

『そういうものなのです。怪異にとっての人間は、商売に例えればお客様ですから。口裂け女さんなんかは武闘派で有名ですが、その代わりに対抗手段も有名でしょう? ヘタに人間に手を出しても得がないので、問答無用で害を与える都市伝説というのは実はそんなにないのですよ』

 

 要するに、ターゲットが振り向いた時点で都市伝説としては終了。その後に何があろうと、そんなのはその時のメリーさんの気分次第ってことか。まあある意味、当たり前っちゃ当たり前なのかもしれないが……。

 でもなー。なんかすっきりとしない。

 思いついたことを提案してみる。

 

「……じゃあ、先輩とやらはどうしてんだ?」

『先輩、ですか?』

「ああ。お前が見習いだってことは、必然的に現役もいるってことだろ? ちょっと興味あるし、実際どんなふうにしてるのか聞いてみようぜ」

 

 俺のその提案に、メリーは興味を示した様子だった。

 

『おおー! ナイスアイデアです! 早速メールで聞いてみます!』

「あ、現役のメリーさんはメールなのか……」

 

 メリーが使ってるのは無料通話アプリなのにな。これが世代間ギャップってやつか。

 数分して、メリーから再び電話がかかってきた。

 

「メリー、もう連絡ついたのか? 速いな」

『電話は商売道具ですから。メリーさんでしたら、必ずチェックを欠かしません。……ええと、そのまま読み上げますね?』

「おう、頼む」

 

 メリーは画面をスクロールしながら、スマートフォンのマイクに向かって読み上げている様子だった。

 

『ええと……【メリー、そこに興味を持つとはどうやら、見習い卒業も近いようですね。先輩として嬉しく思います】……えへへ。やったあ、褒められちゃいました!』

「はいはいすごいな。続きは?」

『もう少し喜んでくださいよ。……では読み上げますね? 【あくまでも私の場合の例ですから、あまりここに挙げたことに拘泥しすぎないようにしてください。その一、財布を奪って逃走する】』

「ただのコソ泥じゃねーか!」

 

 先輩っぽいこと言ってんなと思ったら台無しだ。

 拘泥しすぎるなっつーか、こんなもんメリーに参考にして欲しくない。

 

『そ、その! きっと、なんらかの理由があるのだと思います! ええと、続きは……! ……【その二、股間を蹴り上げて逃走する】』

「確定だよ! その先輩メリーさん、ただの性悪だよ!」

『え、えっと、えっと! ……【その一とその二は、主にムカつく相手だった時に使用する手段です。合わせ技も可。背後からの奇襲なので、成功率は100%です】』

「タチ悪っ! ド畜生だな!」

 

 こんなんただの通り魔だろ。

 メリーもそう感じているのだろう、慌てて続きを読んだ。

 

『こ、これだけではないはずです! ……【その三、気配を消して逃走する。相手がヤーさんだったり超怖い人だった時は、この手段を選択することをお勧めします】』

「擁護の隙がないクズっぷりだぜ!」

 

 怖い相手だったら逃げるとか、なんのための物理攻撃無効だ。

 もはや俺のメリーさん像はガラガラに崩れ去っている。

 

『……あっ! これは大丈夫です! 【その四、相手が子供の場合は、飴ちゃんをあげて頭を撫でて立ち去る】』

「露骨に好感度を稼ぎにきたな……」

 

 ……だが。これはまあ、いいんじゃないだろうか。

 ほだされたわけじゃないが、子供に優しいってのは大きな美点だ。別にメリーさんも純度100%のクズじゃなく、不良で言えば雨の日に子犬を拾うタイプの不良だった。

 つまりはきっと、そういうことなのだろう……。

 

『……【その五、相手がこっちに見惚れているようだったら飯を奢らせて、タクシー代を貰って速やかに立ち去る(※その後、連絡を取らないように注意すること)】』

「だよな! なんか逆に安心したわ!」

 

 この上げた評価を地の底まで堕としていくスタイル、嫌いじゃない。一周回ってクズっぷりが清々しくなってきた。

 メリーの声はしょげかえっている。

 

『つ、次が最後のようです。……【その六、相手が好みのタイプだった場合は、その後めちゃくちゃセッ】……!?』

 

 メリーの声は途切れ、電話の向こうから『はわわわわわ……!』とか『ど、ど、どうしたら……!?』とか聞こえてくる。

 きっかり三分の後、メリーは言った。

 

『そ、その六。気に入った相手でしたら、よ、夜のスポーツをするそうです……』

「もうはっきりと言えや!」

 

 なんだその中途半端な意訳。

 逆になんかエロいわ!

 

「とりあえずメリー、お前は現役のメリーさんに替われ」

『ア、アキラさん!? そ、そういうのは良くないと思います! だいたいアキラさんなんて先輩が相手にするはずがありません! で、ですから。その、わ、わ、わた……』

「お前は十年歳取ってから来い。ロリには興味ねえ」

『アキラさんのバカーっ!』

 

 続いてプツンと通話が切れる。

 次の日のメリーはちょっと、怒っているのだった。

 

 

 

 

 

 









メリーさんvsゴルゴ13 みたいなB級クソ映画がどっかにないものでしょうか。
割と見てみたい。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。