つい昨日のこと、ワイバーンを討伐して新たにドラゴンスレイヤーの称号を獲得した私は、無事にパーティに加わることとなった。その際に、カズマが何やら私のことを死んだ魚のような目で見ていた気がするが、私のような超絶美少女天才魔道士が仲間になったというのにそんな顔をするわけないので、きっと気のせいだろう。
「ところでめぐみん、スキルってどう覚えればいいんだ?」
そしてその翌日、冒険者ギルドに隣接している酒場兼食事処で昼食を摂っていると、隣に座っているカズマがひょんなことを聞いてきた。
ちなみにアクアは、他の冒険者相手に宴会芸を披露している。チラリと見た限り冒険者たちの受けは良く、もういっそのこと
「スキルですか?私も詳しくは知らないのですが、確かカードに記されている『現在習得可能なスキル』の欄から―――」
そこまで言いかけて、思い出す。そういえば、カズマは確か初期職業の『冒険者』だった。
「―――失礼。冒険者の場合は他の職業とは違って、習得には条件があるらしいのです」
「条件?」
「はい。一つは、スキルの使用方法を教えてもらうこと。もう一つは、実際にそのスキルを見ること。これを満たすと、先ほど言った『現在習得可能なスキル』の欄に項目が現れるので、あとはスキルポイントを消費すれば習得できます。多分」
「多分って……まあ、アークウィザードのめぐみんじゃ、勝手の違う冒険者のことに詳しくないのも無理ないけどさ」
そう言って、カズマはなんとなしに自分の冒険者カードをボーっと眺めている。確かに、
「それじゃあさ、俺もその気になれば昨日のめぐみんみたいな魔法も使えるのか?」
「いやぁ、それは多分無理じゃないかと。カズマの冒険者カードには、私の使った呪文が記載されていないでしょう?」
テーブルの上に置かれたカズマのカードに目をやると、予想通り、『現在習得可能なスキル』欄には何も書かれていなかった。
「本当だ。でもおかしいぞ?受付のお姉さんが言うには、冒険者はすべてのスキルを覚えられるはずだろ?」
「それは―――」
カズマがした当然の疑問。それに対し私は、左手の人差し指を立てて自らの口の前に持っていき、片目を閉じる。
「―――秘密です」
「なんだそりゃ」
私のはぐらかす様な態度に飽きれた様子のカズマは、そのまま食事を再開―――しようとしたところで、突然の来訪者によって再び食事は遮られた。
「何だか面白そうな話をしてるね」
私とカズマが振り向くと、そこには頬に傷のある盗賊職風の活発そうな少女と、凛然とした佇まいのナイト職と思われる女性が立っていた。
「それで、えっと……そこの紅魔族の君、なんでファイティングポーズで身構えてるのかな?」
おっと、無意識の内に身体が戦闘態勢に入っていた。
「すみません。つい盗賊というものに反応してしまって。他意はありません」
「そ、そうなんだ。なんだか変わってるね」
「よく言われます」
冒険者稼業を行う冒険者とカズマのクラスである冒険者が違うように、私が日ごろ襲っている盗賊とクラスでいうところの盗賊は意味合いが全く異なる。それはわかっているのだが、いやはや、条件反射というものは恐ろしい。
すると、カズマが盗賊少女の後ろに立っている女性を、何やら見たくないものを見てしまったような目で見ている。知り合いなのだろうか?
そんなことを考えていると、盗賊少女が話を切り出した。
「そ、そうだ!そこの少年、何かスキルを覚えたいんだって?だったら、盗賊スキルがお勧めだよ!」
*****
ところかわって路地裏。
盗賊少女もといクリスの、シャワシャワ1本で盗賊スキルを教えてくれるという気前のよさそうな提案に対し、カズマはその条件を飲んで今に至るというわけだ。まあ実際は、ギルドに頼めば無償でスキルを教えてくれるらしいので、気前良くもなんともないのだが。ふむ、中々にしたたかな人だ。流石は盗賊。
そして私はカズマの付き添い兼、野次馬気分でついてきた。盗賊のスキルもそうだが、何よりも
「そういえば、自己紹介がまだだったな。私はダクネス。職業はクルセイダーだ」
すると、私と一緒にやや後ろでクリスとカズマを見守っていた女性、ダクネスが話しかけてきた。
「ほう、上級職ですか。私はめぐみん。想像通りかもしれませんが、アークウィザードです」
私も挨拶を返す。相手は既に私が紅魔族だと知っているので、あの仰々しい自己紹介はいいだろう。
「ところで、ダクネスはカズマと知り合いみたいですけど、何処で会ったんですか?」
「ああ、それは昨日の夜に酒場でだ。パーティ募集の張り紙を見かけてな。声を掛けさせてもらった」
なるほど。大方アクアあたりが貼っていたのだろう。彼女のことだから無茶なことを書いていそうだが。ふむ、しかしそれはそれで気になることが。
「ダクネスはどうしてカズマのような駆け出し冒険者のパーティに入ろうと思ったのですか?私が言うのもなんですけど、上級職なら他にもいく当てがあるでしょうに」
「いや、そうでもないさ。前衛は数が多いから他のパーティでも余りがちになりやすい。それに昨日の夕方、粘液でぬちょぬちょになった君らの仲間のプリーストを偶々見かけたのだ」
昨日というと、ジャイアントトード(とおまけにワイバーン)を狩った帰りのことだろう。
「あんな全身にべた付くほどの粘液を浴びれるなんて羨まゴホンッゴホンッ―――騎士として見過ごせないからな」
……今、不穏な言葉が聞こえたような。
そんなことを考えていると、カズマは無事『窃盗』のスキルを覚えられたようだ。傍から見ていると、ただ冒険者カードを操作しているだけだったので、別段面白味もなかったが。
あ、今度はクリスがカズマに窃盗スキルの勝負を仕掛けた。
「まったく、クリスも駆け出し相手に困ったものだ」
「まあ、本人たちは楽しそうだからいいんじゃないですか?」
ベットは、手本として見せたスティールでクリスが奪ったカズマの財布。それを含めたクリスの装備の一つを、カズマがスティールして奪い返すという勝負らしい。そしてクリスは、手元に大量の小石を持って当たりの確立を下げるという鬼畜仕様。汚いさすが盗賊きたない。
一方のカズマはというと、悔しそうにしながらもこの状況を楽しんでいるように見える。その理由がもし、この荒くれた冒険者っぽい駆け引きに憧れているとかだとしたら、カズマも中々の紅魔ソウルを持っている。
「やってやる!俺の幸運を舐めるなよ!『スティール』ッ!」
カズマが何やら主人公っぽいことを言って、握りしめた右手を前に突き出すと、一瞬その右手に光が帯びた。しかし、お互いの見た目に特に変化はない。
ふむ。先程二人の会話を聞いた限りでは、窃盗スキルは幸運値に左右されるらしいので、幸運値の高いカズマは1発で成功するものだと思ったが。
すると、カズマは右手をゆっくりと開き、手のひらに収まっている物を確認した。どうやら、スティールは成功していたらしい。そしてカズマは右手に持った、三角形っぽい形のフリルやリボンが施されている布を上着のポケットに仕舞い、そのまま私たちに背を向けて歩き出す。
「ちょ、ちょっと待った!なんで何事もなかったかのように立ち去ろうとしてるの!?」
そんなカズマの服の裾を、クリスが右手で掴んで引きとめた。
「何って、勝負はもう終わっただろ?財布を取り返せなかったのは残念だけど、まあ、これも俺の実力不足ってことで。じゃあな」
「じゃあな、じゃないよ!自分が何をスティールしたのかわかってるの!?私の、ぱ、パンツなんだよ!?」
「こらこら、クリス。女の子がこんな往来でパンツなんて大声で叫んで、はしたないぞ」
「パンツを持ち去ろうとしている君に言われたくないよ!お願いだから返してよぉー!」
クリスが涙目になりながらカズマに手を伸ばすものの、それを無駄に洗練された無駄のない無駄な動きで躱していくカズマ。これは、自分で勝負を吹っかけておいて痛い目に合ったクリスを憐れむべきか、それとも何の葛藤もなく女性の下着を持ち去ろうとするカズマの根性を称賛すべきか。
「なんという男だ……野外で堂々とパンツを剥いでおきながら悪びれもせず、それどころか羞恥の女性を弄ぶなど……」
そんなこんなしていると、私の横に居たダクネスが顔を俯かせて身体をふるふると震わせていた。流石に、友人の下着を盗まれたことに怒りを感じているのだろ―――
「やはり私の目に間違いはなかったッ!」
―――うん。知ってた。
薄々感じてたが、このダクネス、どうやら
そして私は、これ以上は収集が付かなそうだと、隣で息を荒くしているクルセイダーを無視してカズマとクリスに近づく。
「カズマ、無駄な抵抗は止めて、それを早くこちらに渡しなさい」
「!助けてくれるんだね!」
「くっ!2対1か……ッ!」
私とクリスに挟まれ、カズマは流石に焦りの表情へと変えた。そんなカズマに、私は手を差し出して言い放つ。
「女性冒険者の下着は高く売れます。私に任せて頂ければ、相場の倍以上の値段で売って見せましょう」
あっ、クリスが盛大にこけた。
「な、何言ってるの!?」
「そうだぞ、めぐみん!これはウチの家宝にするんだ。そんな勿体ないこと出来るか」
「家宝!?いま家宝って言った!?」
「第一、めぐみんはそんなにお金に困ってないだろ?いざとなったら盗賊団狩りすればいいんだからさ」
「いえ、暫くはお休みです。時間をおいて、また財宝を溜め込んだ頃に狩る。そうしないと、盗賊団も居なくなっちゃいますしね」
「ちょッ!?ツッコミどころがいっぱいあるんだけど、取り敢えず盗賊団は養殖するものじゃないからね!?」
クリスの発言を黙殺し、カズマと相対する。
「お宝を横から奪われるのも冒険者の宿命か……いいぜ、相手になってやる!」
「その意気やよし。手加減してあげますから、全力で足掻いてみなさい、カズマ!」
「他人のパンツで勝手に盛り上がらないでぇー!!」
*****
「それで、二人して何処行ってたのよ?私を置いて」
再び酒場に戻ってきた私とカズマ、そして泣いているクリスと頬が高揚して息が荒いダクネス。先ほどの勝負は、結局ダクネスがクリスに加勢したおかげで「2人に勝てるわけないだろ!!」と言わんばかりに敗北した。
「ああ、それは―――」
「この男は野外でクリスのパンツを剥ぎ、そしてそれを返す代わりに、クリスに全財産を払わせたのだ」
「ちょっと待て!それだと俺が全部悪いみたいじゃないか!いや、半分くらいは俺のせいだけど!」
そう、私はただでは転ばなかった。無力化され拘束されそうになったとき、隙をついてカズマの懐からパンツを引き抜いたのだ。そして、パンツに
そうして、女性冒険者の冷ややかな視線がカズマを射抜いていると、アクアが話しかけてきた。
「ねえねえ、めぐみん。そういえば、この女騎士は誰?もしかして、カズマが昨日行ってた加入希望の人?」
「そうみたいですよ。職業はクルセイダーだとか」
それを聞いたアクアはダクネスを興味深そうに観察する。パッと見は清純な騎士なのだが、アクアからの視線に気づいて息を荒くしている姿を見ると、その面影すらない。これが噂に聞く『ギャップ萌え』というやつか。
そんなことを考えていると、ギルド内に警報が鳴り響いた。
『緊急!緊急!冒険者の皆さんは至急正門まで集まってください!』
―――――――――――――――
――――――――――
―――――
「……で、急いで来てみたはいいものの」
カズマは正門の外に居ろがる大草原、その向こう側から飛来してくる緑色の群れを見て呟く。
「……なんだ、あれ?」
「見て分からないのですか?キャベツですよキャベツ」
「んなことは分かってるわ!なんでキャベツが空飛んでんだよ!なんでキャベツ相手に緊急クエストなんだよ!」
この男は何を言ってるんだ?キャベツなのだから空を飛ぶのは当たり前だろうに。それに、緊急クエストは急を要する場合や街に危機が迫っている場合以外にも、今回のようなとにかく人数が必要なクエストにも発令される。何もおかしなところはない。
「じゃんじゃん獲るわよ、カズマ!今年のキャベツは出来が良いらしいから高値で売れるわ!」
「……俺、キャベツを収穫するために異世界に来たんじゃないのに」
儲かると聞いてハイテンションなアクアとは対照的にブツブツと何やら文句を言っているカズマ。だが、私もかまってあげている暇はない。燃費の悪い私にとって、お金はいくらあっても困ることはない。
『今年のキャベツは一玉1万エリスで買い取らせていただきます!なお、換金は後日まとめて支払わせていただくので、ご注意ください!それでは皆さん、くれぐれもキャベツに怪我を負わされない様、気を付けて下さい!』
ギルド職員のアナウンスを聞いた冒険者たちが、雄たけびを上げながらキャベツの群れに突進していった。こうしてはいられない、私も続かなくては。
そして、飛来してくるキャベツに注意しながら歩みを進めていると、冒険者たちの中にダクネスを見つけた。ふむ、こうして剣を振っている様を見ると、普通の騎士のように見える。……攻撃が一切当たっていないことに目を瞑れば。
「しかし、これは……」
よくよく観察していると、大の男が突き飛ばされるほどのスピードで迫ってくるキャベツの直撃を食らってもなお、ダクネスは頬を赤く染めるだけで、足元がふらつくこともなく立っていた。どうやら、防御力はかなりのモノらしい。
これは丁度よかったと、籠を抱えた私はキャベツに蹂躙されてハァハァ言っているダクネスに近づいた。
「め、めぐみんか……どうしたんだ?……はぁ……はぁ、魔法職が前衛に出ては……んっ……危ないぞ……」
「いえ、お構いなく。ダクネスを肉壁に使うので」
「肉壁ッ!」
興奮してるところをお構いなしに、ダクネスの背中を押して草原の方へと前進していく。もちろん、その間にもキャベツがダクネスに激突するが、本人は喜んでいるので問題ない。
「背中を無理やり押し、キャベツにこの身を痛めつけられようとも構うことなく私を壁にするとは……んっ……中々やるな、めぐみん!」
「いいから黙って進んでください」
「はぅ……っ!」
このドМは……。まあ、この方が罪悪感なく壁にできるのでありがたいが。
……よし、これだけ離れれば街の方へは被害が出ないだろう。あっ、そうだ。一応声ぐらいは掛けておかねば。
「同業者の皆さーん!巻き込まれたくない人は正門の方まで離れていて下さいねー!」
「な、なんだなんだ?」
「おい、どうしたんだよ」
「ああ。それが、あそこのウィザードの嬢ちゃんが―――」
他の冒険者は何事かと此方を見る。一応警告はしたのだから、今から巻き込まれたとしてもそれは自業自得だ。
「全ての力の源よ 母なりしこの無限の大地よ
私はダクネスの後ろで右手を空に掲げ、呪文を詠唱する。
「盟約の言葉によりて 我に従い力となれ」
「め、めぐみん?一体何を―――」
「【
「あばばばばばッ!」
私を中心に、辺り一帯に雷撃の雨が降り注いだ。それは高速で飛翔するキャベツでさえも避けること敵わず、次々と雷に打たれていく。
「ぐわぁーッ!」
「なんだこれ―――うぉッ!」
「きゃぁあああッ!」
……そして、正門付近に居なかった冒険者もついでに巻き込まれていく。あーあ、この術は効果範囲が広いから態々街から離れて撃ったのになー。それに、正門の方まで離れてって言ったのになー。しょうがないなーこれは不可抗力だからなー。
そして、電撃を食らったキャベツたち(と偶然!運悪く!巻き込まれた
「はぁ……はぁ……電気攻めとは……私はめぐみんを侮っていたようだ……」
そんなことを考えていると、ダクネスは膝をついて起き上がった。おかしい、暫くは動けなくなるはずなのだが。流石はクルセイダーという訳か。
というか、そんなことで見直されても困る。
「まあ、動けるのなら丁度いいです。ほら、ダクネスもキャベツが動き出す前に拾うの手伝って下さい」
「んっ……自分でしておいてこの仕打ち。お前と言いカズマと言い、お前たちのパーティは最高だな!」
ダクネスの妄言を無視しつつ、私は辺り一帯に転がっているキャベツたちを籠の中に入れていくのだった。
・作中のダクネスの扱いについて
別にダクネスは嫌いな訳ではないです。むしろ、今回に限っては優遇すらしてる気がします。