勿論、本編もしっかり書いていきますので!
外伝:さあ、りこりん‼︎事件が私たちを呼んでいるよ‼︎ 相棒 理子編
武偵高校女子寮にて
「この事件も見捨て難いね」
私は部屋の壁に貼られたヨーロッパ州の地図を見ていた。
ヨーロッパで10〜20年前に起こった連続誘拐事件を私なりに調べてみたのだ。
地図には様々な新聞の切り抜きはもちろん、当時の証言を纏めた調書、誘拐された被害者の写真なども貼ってある。
「この犯人は何が目的なんだろうネ」
誘拐された被害者は全員、年齢、国籍、出身地などバラバラだ。しかし、共通するものが2つある。それは、全員が血統書付きと言ってもいいくらいのサラブレッドであることだ。
1つ目は先祖に高名な人間ーー武闘家、科学者、スポーツ選手、政治家などetc.....決まってそういった人間だけが誘拐されている。
2つ目は保護された被害者は全員、身体から一定の血液が抜かれている。
「先祖に高名な人間がいるか......前にりこりんが相談してきたAさんの事例と似ているネ。この誘拐犯はVの可能性が高いな」
改めて、事件を推理してみると、誘拐事件とりこりんの友達のAさんの過去が類似している。おそらく、誘拐犯はVで決まりだろう。
「りこりんの友達のAさんに直接会って、話を聞いてみたいな」
Vーー連続誘拐犯
Aさんーーその被害者
調書では保護された被害者は全員、犯人の姿は見ていない。いや、覚えていないそうだ。
被害者の身体からは薬物反応は無かった。ならば、催眠術だろう。
しかし、前にりこりんの話からVを分析してみたが、Vは他人の力で強くなろうとする人物、しかも自己中心的。
催眠術は他者の心を操作する為に、デリケートな作業が求められる。
つまり、相手の気持ちになれて尚且つ、人間の心という、決まった形の無いものを相手する高度な知識が求められる。
「私の見立てでは、Vはそこまで頭がいいとは思えないな。どちらかと言うと大雑把でガサツな性格だネ」
Vには少なくとも、2人の共犯者が存在する。
1人は高度な知識を持つ人間ーー科学者か教師タイプの人物かな。
二人目は難しいな。催眠術を使える人間......これは全世界の人間に共通することだ。
催眠術は資格などいらないし、ネットや本で調べれば知識は簡単に手に入る。訓練すれば誰でも簡単にできる。
「被害者の記憶を操作するとなると、高度な催眠術が必要になる。自分の身元を隠させるーー重大な仕事を任せられる人物」
Vに親しい人物?友達?ーー好き好んで犯罪の片棒を担ぐ人間はそんなにいない。
絶大な信頼を得ているーーVの身内ーー記憶を操作、高度な催眠術を操るとなると、高度な知識と知能、技術が求められるーー女性の可能性大
「Vには年頃の娘か妻がいる」
再び地図を眺める。
誘拐事件のある時期には女性、それも年頃の若い娘が大勢誘拐された年がある。
Vと似て、妻か娘もほぼ同じような性癖ーー他者を痛めつけ、監禁し愉悦に浸るような性格?それも相手は女性限定?
「Vは妻か娘、両方いる。妻子持ちか......」
しかし、女性を狙うなんて変わった性癖だね。まるでハンガリーのエリザベート・バートリーのようだ。
彼女は頭痛がすると、年頃の女性を殺害することで頭痛を治めたという。殺害する過程で様々な拷問器具や殺害方法も開発したそうな。
あっ、でもアイアンメイデンは作っていないそうだ。
ちなみに彼女は『吸血鬼カーミラ』のモデルだ。
『吸血鬼』。その瞬間、私の頭にピキンッと閃くものが!
「そうか!Vのアジトは吸血鬼の故郷、ルーマニアだ!」
私は何かに取り憑かれたように壁に貼られた事件の関係図を洗いなおした。
糸で繋ぎ、繋ぐ、繋ぎ直す、それを繰り返した。
結果、糸はルーマニアに結びついた。
「ははは、できたよ。そうか、Vは捜査の手など恐れなかったから、ルーマニアでも犯行に及んでいたのか」
ルーマニアでも誘拐事件は起こっていた。被害地の一つだと思っていだが、違ったのだ。
Vは捜査ーー警察や武偵など恐れていない。だから、ヨーロッパで大胆にも犯行を重ねていたのだ。自分のアジトがあるであろうルーマニアでもね。
しかし、ルーマニアか〜。吸血鬼の故郷と呼ばれているけど、あれはルーマニア、ワラキアの君主であるヴラド3世が『吸血鬼ドラキュラ』のモデルになったことで、根付いたイメージだ。
「吸血鬼か......そういえば、被害者からは一定の血液が抜かれていたネ〜」
Vの正体は吸血鬼だったりして......Vampireなんちゃって♪
私は吸血鬼に会ったことはないが、存在するなら会ってみたいネ。
吸血鬼というと十字架、聖水といった聖なる物が苦手と言われている。気のせいか、Vはヨーロッパの中でも、イタリアやバチカン周辺では犯行に及んでいない。
Vの正体ーー吸血鬼?もしくは吸血鬼のなりきり屋さん?
「......いれい!れいれい!」
「うわ⁉︎何⁉︎」
私が思考していると、突然後ろから声が聞こえてきた。
誰だ貴様‼︎と後ろを振り向いてみると、そこには、
「さっきから呼んでいるのに、無視なんてヒドイよーれいれい」
「あっ、りこりん」
ほっぺをぷっくりと膨らませた、りこりんが立っていた。
何だかご機嫌斜めだね。私、何かした?
「どうしたのりこりん?私の部屋に上がってさ?何か用があるのかな?」
「もう!忘れたの〜今日、学校でクエストを一緒に受けようって、約束したじゃん!」
あー、そうだった‼︎専門科で一定の授業を受けた後、何かクエストを受けてみようと思って、掲示板を見ていると、りこりんがやって来て一緒に受けようと誘ってきた。
それで、何にするかはりこりんに任せていたんだった。
「ごめんね。りこりんが来るまでの間、過去の事件を調べていたんだよ」
「へぇ〜、つまり何かな。りこりんとの約束を忘れるくらいに夢中になってたんだ〜ヒドイぞ〜」
「本当にごめん‼︎今度、ケーキ奢るからさ」
「もうヒトコエ‼︎」
「りこりんの気の済むまで食べまくっていいよ」
「いいよ、許してあげる」
よっしゃ!りこりんに許してもらったよ。
彼女は甘い物に目がないからネ。知っていてよかった。これぞ、知らぬが損。いや、知らぬが仏だったかな?
「それで何の事件を調べ......れいれい、どうやってここまで調べたの?」
うん?りこりんが私の作った事件の関係図を見て、呆然としている。
特にルーマニアに焦点を当てた結果に驚いている様子だ。
「ああ、それね。私なりに推理した結果だよ。この事件の誘拐犯と、りこりんの友達を監禁したVは同一人物。そして、アジトはルーマニアにあると判明したよ。いやー、まさか吸血鬼で辿り着くとは思わなかったネ」
「どうして吸血鬼で辿り着いたの?Vと何か関係があるの?」
おや?何だかりこりんの様子がおかしいぞ。うーん、まあ、いいか!このまま続けて、話そう。
「私の頭にピキンッと来るものがあってね。最初はVの共犯者を調べていくと、犯人の家族に辿り着いた。ヤツには妻と娘がいるとね」
そして、私は自分の推理ーー辿り着いた結果をりこりんに語った。
Vには共犯者がおり、最低でも2人。
共犯者は恐らく、身内。妻か娘。或いは両方とも共犯。
ルーマニアにアジトを構えており、武偵や警察など恐れていない。
しかし、イタリアとバチカンでは犯行に及んでいない。
この二つを恐れている。吸血鬼のなりきり屋さん。
「辿り着いたって、それだけで?ねぇ、れいれい......いや、零。お前は何者なんだ?あたしが言うのも何だがお前は普通じゃない」
突然、りこりんが男口調で喋り出した。
驚いたー、えっ?何なの一体......イメチェン?遊びでやっているのかな?
「うーむ、普通の定義はわかないな。ただ、私は推理、いや、分析しただけさ♪」
「嘘つけ。分析にしても限度があるぞ。1人の力でここまで辿り着けるワケがない。お前には協力者がいるんだろう?でなきゃ、これだけの資料が手に入るわけがない」
りこりんは床に散らばった書類、壁に貼られた写真や調書に目をやった。
「協力者かー、まあ、いない事はないね」
協力者といっても、探偵科と鑑識科、諜報科と尋問科、通信科と情報科の皆から資料を''貰っただけ''。あとは、自分だけで纏めただけさ。
彼らは私の協力者というより、友達だよ。
「お前はこの事件を調べてどうするだ?まさか......Vを捕まえる気か」
「そうだね。私は武偵ーー''正義の味方''だから犯罪者は捕まえるよ。だって、Vのやっていることは、立派な犯罪だからね」
なんだろう?正義の味方って単語を自分で聞いているとゾクゾクしてきたぞ。
「やめておけ、Vには勝てないぞ」
「おや?まるでりこりんはVと面識があるような感じだね。友達のAさんと一緒に会ったことがあるのかい?」
「......ああ、そうだよ」
うん、素直でよろしい。
りこりんの様子からして、前にアドバイスした通りに、りこりんなりに計画してVに戦いを挑んだが、この様子を見る限り負けてしまったようだね。
しかし、よく生きてたなー。Aさんは兎も角、りこりんが生きているとはね。VならAさんを生かしておくだろう。りこりんはそのまま殺されてもおかしくない。
もしかして、Aさん=りこりんの可能性が大かも。
「それで、りこりんから見て、Vはどのくらい強いのかな?私なら捕まえられそう?」
「無理だ。零でもヴ、Vには勝てないし、捕まえられない」
今、噛みそうになったね。いや、別の言い方をしそうになったから、言い直した感じだね。
「ねぇ、りこりん。これが何だが分かる?」
私は本棚からある本を取り出し、りこりんに渡した。
「何これ?えーっと、『吸血鬼ドラキュラ』?」
りこりんに渡したのは、ブラム・ストカー作の『吸血鬼ドラキュラ』だった。私はこの本、結構気にいっているんだよね。
「その本に出てくる吸血鬼ドラキュラと呼ばれる怪物は、それはそれは恐ろしい怪物でね。夜中、人間の生き血を啜り、自分の犯行は人間には悟られないようにする。まさにVと似ている」
「だから何さ?吸血鬼の話でもしたいのかよ」
「落ち着きたまえ。ここからだよ」
私は続けて、りこりんに内容を説明した。
トランシルヴァニアに住むドラキュラ伯爵はイギリス人の弁理士ジョナサン・ハーカーを雇い、ロンドンに屋敷を買って移住してきた。
ロンドンに移住したドラキュラ伯爵はジョナサンの妻であるミナ・ハーカーの友人のルーシー・ウェステンラを襲い吸血する。
ルーシーの婚約者であるアーサー・ホルムウッドは原因不明で衰弱していくルーシーの事を友人であるキンシー・モリスとジャック・セワードに相談。ジャックはさらに自分の恩師であるヴァン・ヘルシング教授に助けを求め、ヘルシング教授は原因が吸血鬼にある事を突き留めますがルーシーを助けるには至りませんでした。
その後、ヘルシング教授たちはドラキュラの住まいを発見しますが、逃亡されてしまいます。
ドラキュラ伯爵はロンドンからトランシルヴァニアに撤退し、その際に気に入ったミナを誘拐して連れ去ります。
ミナを連れ去ったことがかえって仇になり、ドラキュラはジョナサン、ヘルシング教授一行に追い詰められます。
そして決戦が行われ、ドラキュラは夕日の中、胸を刺されて塵になり滅びました。
「ここまでの話で私が言いたいことは何かわかるかな?りこりん」
「......怪物は最後は必ず倒されるってことか?は、そんなの作り話だ。現実は本みたいにはいないぞ」
「怪物は人間に倒されなけばならない。私はあの言葉は好きなんだけど......おっと、ごめん、ごめん。さっきのりこりんの答えだけど違うね」
「策を練ったところか?」
「おおー、いい線いってる。しかし、惜しい。本当に惜しい」
「なら何だよ!お前はわかるのかよ」
やばい!りこりんが怒っちゃったよ。意地悪し過ぎたな。気をつけないと。
「この話にはヘルシング教授一行が出てくるでしょう?つまり、ヘルシング教授は仲間を集めたということさ」
「自分だけじゃ、勝てないと思ったか?それが何だよ。早く答えを言えよ」
「つまり、怪物と戦う上で、一対一で戦う必要はない、と言うことさ♪」
怪物と呼ばれる連中にサシで戦うなんて、私から言わせてもらえば自殺行為だ。そんな役は勇者と呼ばれる生贄だけで十分。
身近な例を挙げるなら、教務科の先生たちがまさに怪物だ。
私が戦っても、かすり傷を与えることもできないだろう。しかし、先生たちといえど、武偵学校の全生徒を相手にはできない。
皆、強かれ弱かれ鍛えられている。中には先生から直接指導された者も少なくない。そんな生徒は自ずと恩師の弱点も知っている。
その弱点を全員が知っていれば、勝てると私は思っている。
おっと、話が逸れてしまった。いけないネ。また、悪い癖が出てしまった。
その後、りこりんにある程度のアドバイスしていると、
「うわ〜れいれいって、えげつないね。りこりん怖くなっちゃたよ」
何時もの口調に戻っていた。よかったー。やっぱり、この感じこそりこりんだよね。
「参考になったかい?」
「うん!れいれいは本当に頼りになるよ。もし、よかったらさ......犯人のプロファイリングとかの相談に乗ってもらってもいい?」
プロファイリング......犯人像を分析し、どんな人間かを分析していく技術だったね。
「いいよ。それだけじゃなく、私でよければ他にも力になるよ」
「ありがとうー!じゃあさ、この犯人なら''どんな手口で犯行に及ぶ''かも相談してもいい?」
「うん?つまり、どう意味だい」
「だからさ、れいれいなりに''犯罪をするならどうやるか''を聞きたいんだよ。もう!鈍いぞ〜武偵ならこれくらい把握しないと」
「あー、なるほどね。まあ、あくまで考えーーアイデアだからね。実際に犯罪をしたらダメだよ」
「うん?何かな、まるでりこりんが本当にやりそうに聞こえるけど?」
りこりんが疑問に思っている。
何かはっきりしないけど、りこりんは犯罪者の気がありそうなんだよね〜。あっ、これは失礼か。りこりんだって武偵だし、これはあくまで私の考えを聞きたいだけだよね。
「そんな事はないよ。おっと、話し込んでしまったね。肝心のクエストについて話してくれないかい?」
「そうだったね!突然ですが、れいれいには私、りこりんと海外に行ってもらいまーす!」
海外......ほ〜国外でのクエストか。まだ、受けたことがないね。
しかし、海外となると他国の言葉が喋れないといけない。
私は英語くらいしか喋れないぞ。
「クエストの内容は?」
「アメリカで誘拐事件だって。何だが地元の武偵もお手上げみたいでさ。それで日本にまで依頼が回ってきたみたいなんだ」
へー、珍しい事もあるんだね。アメリカの武偵は仕事を取られるのを嫌う傾向があるのに、日本ーー他国にクエストを回してくるなんてさ。
「どんな事件なのかな?」
「誘拐だよ。何かストリートチルドレンを狙った連続誘拐事件なんだって」
誘拐......丁度、私は過去のヨーロッパでの誘拐事件を調べていたのに.....こんな偶然もあるんだね。バタフライエフェクトってやつかな?
「なるほどね」
私はテーブルの側に寄り、トン、トン、トンっと、指でついて、思考する。
「れいれい!また、考え事してるでしょう⁉︎帰ってきて、れいれい!」
りこりんの声でハッと、私は我に返る。
いけない......また、夢中になってしまった。
まだ、りこりんから詳しく事件の詳細を聞いていないのに......早とちりし過ぎた。
「ごめん、あーそれで?アメリカの何処かな?」
「ふー、帰ってきてくれたね。じゃあ言うよ」
りこりんは額の汗を拭うような動作をした後、
「アメリカのニュージャージー州 ゴッサム・シティだよ」
この話の時間枠は、理子がオリ主に相談して暫くしてからの話です。つまり、まだ手作り料理の餌食にはなっておりません。