私は教授じゃないよ。大袈裟だよ   作:西の家

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この話はどうするか迷いました。


相談という名の講習

ね、眠ーい‼︎

何なんですか、この眠気は⁉︎

私、玲瓏館・M・零は急激な睡魔に襲われていた。

専門授業が終わった瞬間、一気に眠気がやってきたのだ。

 

「は、早く寮に帰らないと......!」

 

頭を抱えながら、フラフラと危ない足取りで寮を目指す。

今、私の願い事は翼ではなく、寝床がほしい!

 

「れいれいー!待ってよ〜!」

 

後ろから聞き慣れた声がーーりこりんだ⁉︎

 

「追いついた!二ヒヒヒ、逃がさないぞ〜」

 

私の前に回り込むと、通さんぞとばかりに両手を広げて道に立ちはだかる。

お願いりこりん!そこを通して!

 

「あー、りこりん?悪いんだけどそこを通してお願い」

 

「どうしても通りたければ私の屍を越えていけ!」

 

ある意味、懐かしい名場面だけど今はそれどころじゃない!

 

「れいれい凄かったね。あっという間に事件を片付けちゃった。りこりん思わず尊敬しちゃった」

 

「ありがとう。でも、あれくらい誰でも少し考えれば解けるよ」

 

あっという間に......あれは眠くて早く帰りたかったからだよ。

 

「ねぇ、れいれいはどんな相談にも乗ってくれるって、前に言ったよね?」

 

「うん、言ったね」

 

「じゃあさ、りこりんのお悩みも聞いてくれる?」

 

りこりんの悩み?珍しいな......いつも元気一杯で明るいりこりんに悩みがあるなんて......いや、りこりんも人の子だから悩みの一つくらいはあるか。

 

「勿論だよ。どんな相談にも乗るよ。だって私、私立相談役だからね」

 

「ぷぷ、そこは私立探偵の間違いでしょう?」

 

まただ。何だろう?私立探偵というワードを聞いた瞬間、この頭の奥から込み上げてくる不快な感情は一体?

気のせいか眠気がなくなってきた......妙に頭が冴える。

 

「どうしたのれいれい?気分でも悪いのかな?」

 

「ごめんごめん、何でもないよ。じゃあ、りこりんのお悩みを聞かせてくれるかな?」

 

「うん!実はりこりんのお友達がね......」

 

そう言ってりこりんは語り出した。

りこりんのお友達ーーここではAさんとしよう。

Aさんはある家のお嬢様だった。

代々高名な一族で、初代は偉大な人だったそうだ。

ある日、両親が事故で亡くなり家は没落。使用人は散り散りになり、財産は盗まれてしまった。

1人だけ残されてしまったAさん。そんなAさんにある日、転機が訪れる。

親戚を名乗る人物ーーVが養子にならないか?と申し出てきたのだ。

他に行く当ても無かったAさんはその申し出を受けた。

しかし、それがAさんのさらなる不幸の始まりだった。

養子の話は嘘で、VはAさんを暗くて狭い檻に閉じ込めたのだーー監禁だ。

ろくに食べ物も与えず、衣服はボロ布を纏わせるだけ......最悪の一言に尽きるだろう。

しかし、Aさんは檻から逃げ出したーー脱出したのだ。

これで助かった、もう悪夢は終わったと思われたが、そうでは無かった。

逃げ出したAさんの元にまたVが現れたのだ。

このままではまた監禁されると思ったAさんはVと戦ったが、敵わなかったーー負けたのだ。

負けたAさんにVは「Aが初代を越えるまでに成長し、その成長を証明できればもう手出しはしない」と言ってきた。

その条件を呑んだAさんは自由になる為、今も必死に頑張っているそうな......

 

「なるほどね......りこりんはその友達を助けたいのかな」

 

「うん。でもどう助ければいいのかわからなくてさ」

 

「しかし、妙だね......」

 

「何か気になることでもあるの?れいれい」

 

「いやね。何故、VはそこまでしてAさんにこだわるのかなと思ってさ」

 

そこが疑問なのだ。

りこりんから聞いただけだが、何故、VはAさんにこだわる?ある意味で異常だ。いや、監禁する時点で既に異常か......

 

「Vなりの考えでもあるんじゃないの」

 

「そう、そこだよ。その考えとは一体何か?監禁・誘拐する犯人には必ず動機がある」

 

私は様々な可能性を計算してみた。

 

動機として考えられるのは身代金ーーしかし、Aさんの両親は亡くなり家は没落、お金なんてないだろう。それはV自身も知っていたはず。

身代金を要求しようにもAさんには要求する身内がいない。

 

異常な性癖の持ち主ーーまあ、これもありえる。ろくに食べ物も与えず、ボロ布を纏わせ監禁するくらいだから。

 

Aさんに何らかの弱みを知られていたーー逃げ出したAさんをわざわざ追いかけてくるくらい......しかし、弱みを知られたら、捕まえた時点で口封じで殺すだろう。しかし、りこりんの発言からしてAさんはまだ生きている。殺せない理由がある?

 

Aさん自身が目的ーーAさんが何らかの特異能力の持ち主。一般人にはない何かがある。特異体質・DNA・Aさんの一族にしかない何か。

 

「VはおそらくAさん自身が目的だったんじゃないかな?」

 

「......どうしてそう思うの?りこりん気になるなー」

 

りこりんがじーっと、私を見つめる。

どんな事を言ってくるのか気になるのかな?やっぱり友達のことを気にかけているんだね。

 

「おそらくVは人間収集家じゃないかな。海外には殺した人間の体の一部を収集する猟奇殺人者もいると聞く。Vもそれと同じ仲間の類いだろうね。Aさんを自分のコレクションの一つにしたいから監禁したと考えられるね」

 

「で〜も〜さ〜、なんでりこりんのお友達をコレクションしようと思ったんだろう」

 

気のせいかりこりんの声には憎悪・怒気・不快な感情がこもっているようにも思える。

あー、お友達をモノみたいに言ったのが悪かったかな。

 

「りこりんから聞いた話によれば、Aさんの家は高名な一族。Vはそういった人間を集めることに高い執着心がある。いや、コンプレックスの裏返しかもね」

 

「コンプレックス?」

 

「うん。大概の人間は自分より優れた人間を見れば劣等感を覚える。Vもそれだろう。優れた人間をそばーー監禁し、自分はお前らより優れているぞ!と小さな虚栄心を満たしている臆病者。私の見立てではVは激しく自己中心的、過去の栄光に頼り向上心がない.......いや、あるが自分の力で成し遂げず他人任せ。それなりの権力が過去にあった人物だと思うよ」

 

「......本当に凄いねれいれいは......理子から聞いただけで答えを導くなんてさ......」

 

うん?りこりんの声が暗いような......?

 

「でも私が聞きたいのはVのことじゃなくて、お友達を助けるにはどうしたらいいのかだよ。これじゃ、推理だよれいれい」

 

「あ、そうだったね。ごめんね。考えるとつい......」

 

いけない、相談がいつの間にか推理になってたよ。私の馬鹿!

考え過ぎると要らないことまで答えを導こうとするのは私の悪い癖だな......気をつけないと。

 

「それじゃ、早速。さっきも言ったけどVは根は臆病者。心の奥で激しい劣等感を抱えている。そこを突くんだよ」

 

「どうやるの?」

 

「相手のコースに油を撒いてやれ」

 

「えっ......?」

 

「いや、マシンに細工をするのもいい案だね」

 

「いやいや、れいれい?どういう意味なの?理子わかんないよ」

 

あー、例えが悪かったかな......なら、

 

「りこりんがお友達を助けるーーそれは一緒になってVと戦うという事。失礼かもしれないけど、真っ向から戦っても返り討ちにあうのが関の山だろうね」

 

「......うん」

 

りこりんが俯いているーー今にも泣き出しそうな感じだ。

ちょっと厳しく言い過ぎかな......

 

「例えるならVはF1カー、りこりんとAさんは軽自動車。同じコースを走っても勝てない。じゃあ、勝つにはどうしたらいいか。狡猾になることだよ」

 

「狡猾......?」

 

「そう狡猾にね。お友達を助けるーーそれは立派な善行、正義だ。正義の名の下であればどんな『卑怯』も許される。りこりんにはその才能があるよ。私が保証する」

 

これは私の母からの貰い言葉だが、不思議と私は気に入っている。

りこりんの助けになればいいのだけどな。

 

「なるほど......ありがとうれいれい!すごーーく参考になったよ。またねー!」

 

「あ、りこりん」

 

りこりんはそのまま走って去っていった。

大丈夫かな......例えばの話で助けになればいいけど。

あっ、よくよく考えれば、教務科や同級生、先輩を頼るという案もあったじゃん⁉︎

何故私は狡猾になれと言ったのだろう......

うっ⁉︎また眠気が⁉︎

ダメだよここで寝ては風邪を引く......寝ては......

私はそのまま意識を失った。

 

 




さて次回は倒れたオリ主を助けるのは誰か?
もうわかる人はわかりますね?あの女たらし......

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