私は教授じゃないよ。大袈裟だよ   作:西の家

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キンジ、アーメン。


話の内容を変更してみました。
やはり恋愛は......


部屋まで

「イタタタ......アイツら、問答無用で殴ってきやがって」

 

俺は強襲科の授業を終え、男子寮に帰ろうとしていた。

何故か今日は不幸だ。

食堂では同級生に襲われ、強襲科の授業ではヤケに俺と組手をしてくる奴が多かった。

組手するたびに「死ね死ね!キンジ!マジで死ね!」「地獄に堕ちろ!」「お前の命は今日ここで終わる」「この人でなしが!」と叫んでくる。おまけに女子まで......

あいつら今日は妙に殺気立ってたぞ。何故だ?

俺は疑問に思いながらも、第3体育館前を通りすぎた。

あとはこのまま校門を目指すだけだ。

 

「うん?誰だあれは......?」

 

体育館前ーー俺の進行方向に誰かが倒れている。武偵高校セーラー服を着た女子だ。

 

「おい、大丈夫⁉︎」

 

俺は駆け寄った。

 

「って、零⁉︎」

 

倒れていたのは同級生の零だった。

目立った外傷はなく、呼吸は正常ーーしかし、目を覚ます様子はない。

 

「おい⁉︎起きろ零!零!」

 

俺は耳元で呼びかけるが、目を覚まさない。

どうしたんだよ一体?何があった⁉︎

 

「クソったれ......!」

 

俺は零を抱えて、衛生学部に向かった。

 

 

 

衛生学部ーー

 

「疲労ね」

 

「疲労......?」

 

衛生学部に零を抱えて飛び込んだ俺は零を診断した女子の先輩から椅子に座って、診断結果を聞いていた。

診断書を持った先輩は座っていた丸椅子から立ち上がって、

 

「おそらく、脳を過度に酷使したことによる疲労かしら。それで脳が休息を欲して、睡眠に入っている」

 

ベットの上で眠っている零を見下ろしながら言う。

脳の疲労ーー俺の兄さんは長時間ヒステリアモードになれるが、同時に脳に過大な負荷がかかる。その際、長時間の睡眠が必要になる。

今の零の状態は正にそれと同じだ。

まさか、零も兄さんと同じような力があるのか?

 

「まあ、それ以外に目立った異常はないし、ゆっくり寝かせておけば大丈夫でしょう。目が覚めたら送ってあげなさい」

 

「なんで俺が零を......?」

 

俺が疑問に思うと、先輩はやれやれと首を横に振り、最後にハァとため息を吐く。何故だ?

 

「君......よく鈍感って呼ばれるでしょう?」

 

確かに武藤からはよく言われるが、強襲科の特訓は積んでいるし、遅れはとっていない自覚はあるぞ。

 

「普通は男子ならこういったシチュエーションを喜ぶんだけどなー。お姉さん残念だなー」

 

なんだよ突然。その間伸びした言い方は?

 

「あっ、お姉さんこれから教務科にいかないと!じゃあ君、彼女のこと宜しくね」

 

「ちょっ⁉︎待っ......!」

 

「大丈夫。彼女が目を覚ましたら動かしてもいいから。あと鍵はかけなくていいからね♪」

 

そのまま先輩は「バァイ」と言って部屋から出て行った。

待ってくれよ......おい。

同級生の女子と2人きりとか勘弁してくれ......

 

「それにしても零って、こういう顔して寝るんだな......」

 

俺は未だベットで眠っている零を見る。

肩まで伸ばした黒髪、きめ細かい白い肌、細く整った眉毛、綺麗な小顔。

そんな女子が静かに寝息を立てている。

普段は知的でクールな印象を受けるが、寝顔を見ていると可愛げのある女の子だ。

まじまじと見ていると、血流が!ヤバい!ここでヒスるなよ俺!

ヒスったら何するかわからん。

 

「う〜ん、そこにいるのは誰......かな?」

 

俺がヒスらないよう奮闘していると零が目を覚ました。

よ、よかったぜ。危うくヒスるところだった......

 

「あ、金次君だ」

 

「迷子センターの子供かお前は」

 

起きて早々、俺を指差して名前を言う。まるで子供みたいだ。

 

「ここは?ああ、衛生科目の教室だね。もしかして、金次君がここまで?」

 

「ああ、そうだよ。お前、第3体育館の側で倒れていたんだぞ」

 

「ごめんね。心配させて。何だか急に眠くなってね。ご飯食べ過ぎたせいかな?」

 

「食べ過ぎで倒れるのはわかるが、眠くなるのは聞いたことがない」

 

俺が呆れていると「はは、そうだね」と頭の後ろに手を当て笑い出した。

起きて早々、元気だなコイツ。

 

「ここまで運ばせてごめんね。それじゃ......きゃ!」

 

「おい....⁉︎」

 

ベットから降りようとして倒れた。

俺は慌てて体を支える。よかった、どこも打ってないな。

 

「大丈夫か?零」

 

「ははは、ごめんね金次君。まだうまく身体が動かないや」

 

困った、困ったなと苦笑いする零を見て、

 

「ほらよ」

 

「ちょっ!金次君......?」

 

俺は背中を貸してやる。

かなり軽いな。これなら余裕だぜ。

 

「おぶってくれるなんて......さすがに悪いよ金次君」

 

「いいから黙ってろ。少し揺れるが我慢しろよ」

 

「それじゃ、お言葉に甘えて」

 

握り手に〈M〉の刻印が彫られている黒いステッキを持って、俺の背に体を預けた。

気を失っていた時もこれだけは握っていたな......

女でステッキを持っているのはコイツくらいだろう。不思議と似合っている。

そのまま零をおぶったまま衛生科目の教室を後にする。

 

 

尚、零をおぶって学校を出て行くキンジの姿を''たまたま見ていた''強襲科の生徒達が後日、「うん、キンジ殺そう」と決意し、連合を組むことになるのをこの時のキンジはまだ知らない。

 

 

 

零をおぶってお互い黙って歩くこと数十分ーー女子寮に到着した。

うっ⁉︎外にいるのに女の匂いがするぞ⁉︎

 

「ほらよ到着したぞ零」

 

俺は匂いに負けないよう気を引き締め、零に声をかける。

しかし、歩くことに集中していて気づかなかったがコイツもいい匂いだな......月光花のような香りだ。

 

「うん。ありがとうね金次君。ここからは自分であるい......」

 

「無理すんな。このまま部屋まで送ってやるよ」

 

「さすがに悪いよ金次君。だって女子寮だよ?下手したら女子のみんなから袋叩きに......」

 

「されねぇよ。それにベットから降りようとして倒れたのは誰だよ?そんな女を歩かせられるか馬鹿」

 

「ば、馬鹿......?ははは、初めて言われたよ。金次君が記念すべき第1号だね」

 

「俺は仮面ライダーじゃねぇよ。ほら、何階だよお前の部屋?」

 

「3階ですよ。ナイト様」

 

ナイト様って、侍ならわかるがナイトはないぞ。

 

女子寮に入ると、俺は零に言われた3階を目指して階段を上がる。

一段一段慌てずゆっくりと上がる。

踏み外して倒れたら大変だからな。

 

「凄いね金次君。人をおぶったまま階段を上がるなんてパワフルだね」

 

「そりゃ、伊達に強襲科で鍛えられてないからな」

 

強襲科の訓練は厳しいものが殆どだが、まあ慣れればどうって事はない。

しかし、今日の訓練ーー組手はやけに厳しかったぞ。何故だ?

そんなくだらないことを考えていると、3階に到着した。

 

「部屋はどこだよ」

 

「あの一番奥の部屋だよ」

 

零の指差す方を見るーー俺から見て右手側の奥の部屋だ。

 

「ほら、降ろすぞ」

 

「ゆっくり降ろしてね。また倒れるかも」

 

た・お・れ・る・な!

部屋の前に到着し、ゆっくりと零を降ろす。

 

「今日は本当にありがとうね金次君。おかげで助かったよ」

 

「まあ、人助けは家の家訓にあるからな」

 

「はは、まるで正義の味方だね」

 

「そんなご大層なものじゃねぇよ俺は」

 

「そうだ!折角だし部屋に上がっていきなよ金次君」

 

はぁ?何でだよ!

 

「何でだよ、って思ったでしょう?金次君は本当にわかりやすいな」

 

「またお得意の心理学か。そうやって相手の心を読・む・な」

 

本当にこの女は油断も隙もない。

相手の心の底を暴いてくる。入学試験から只者ではないと思ったが......

 

「ごめんごめん。つい相手の事を観察してしまうの。探偵科でついてしまった癖......かな?」

 

いらん癖をつけやがってコイツめ......

俺が呆れていると零はパァン!と手を叩き、

 

「まあ、私の事はさておき、上がっていきなよ。ここまで運んで貰っておきながら何もお礼をせずに帰すのも後味が悪いし」

 

俺の背を押しながら「さあ上がって、上がって」と急かす。

わかったから押すなよ。しかし、急に元気になったよなコイツ。

衛生学部のベッドから降りて倒れたのに......

 

「散らかっているけど、そこは我慢してね」

 

「あ、ああ......」

 

部屋に上がると香水の匂いはしない。

香水はつけないのか?

部屋の中は本で一杯だ。

床にも何冊もの本が積み重なっている。

本棚にもビッシリと本が並べてある。

部屋の中央に置いてあるテーブルにも本があるぞ。いや、本だけじゃないパソコンとチェス盤もある。

 

「本が好きなんだな」

 

俺が尋ねると零はリビングからキッチンに移動していた。いつの間に?

 

「うん好きだよ。本はいいよー。色々ためになるし。金次君も読んでご覧よ。もしかしたら勉強で役立つものが発見できるかもよ」

 

キッチンで何かしながら後ろ向きで答えた。

まあ、気が向いたら読んでみるのもいいかもな。

しかし、零はどんな本を読むんだ?

俺は周りにある本を見渡して見る。

『心理学大全集』『世界の犯罪者一覧』『犯罪における初動捜査』『これであなたも今日から怪盗!変装のコツ』『世界のトリック』などなどある。

中には物騒なタイトルもあるぞ?『猟奇的な殺人とは』『なぜ彼女は彼を殺したのか』『世界の拷問集』『完全犯罪』

まあ、どんな本を読むかは本人の自由だよな......

俺は他に何かないか見て回る。

 

「これは新聞か?」

 

部屋の隅ーー窓から離れた場所に大量の新聞が棚に収めてある。

これは新聞の切り抜きだな。

手に取って見てみると、最近の新聞記事もあれば......こっちは昭和の新聞の切り抜きだ。

窓から離れて置いてあるのは陽の光に当たって変色を防ぐためか?

 

「こっちは化粧台か。まあ、零も女だからな」

 

探偵科に属している為か、変装の道具がある。

鏡付きの化粧台の上にはカツラーー金髪、茶髪など種類が豊富だ。

眼鏡もある。うん?これは付け髭か。何故こんな物が?男装でもするのか?

 

「金次君お待たせ」

 

零が戻ってきたーーその手に飲み物を乗せたお盆を持って。

 

「はい、金次君。コーヒーだよ」

 

「いただくぜ」

 

本やチェス盤の置かれたテーブルにコーヒーを置いた。

俺は遠慮なく飲んだ。

うん、丁度いい熱さだぜ。温くもなく熱すぎない。

おまけに俺の好きなブラックだ。

 

「金次君の好きなブラックだよ」

 

「ちょっと待て。俺はお前にブラックが好きだと言った覚えがないぞ」

 

「だって金次君男性的なところが強く出ている人だからね。そういった人はコーヒー派でブラックが好きな人が多いからね」

 

最後にティーカップに口をつけて終えるーーお前は紅茶派か。

ぐっ!ムカつくが様になっているぜ。

 

「あと先導役に最適かな。将来リーダーになって人を率いていく才能があるね」

 

「......俺はそんなガラじゃねぇよ」

 

リーダーって、俺にはそんなもの務まらない。

 

「君は将来必ずリーダーになれるよ。金次君にはカリスマ性がある」

 

「お前、武偵よりも占い師になったらどうだ?」

 

占い師の零ーー黒い衣装に身を包み、水晶玉に手を当てる光景を想像した。

ぷっ、ダメだ。笑ったら......でも、凄く似合っているような......

 

「それじゃ金次君の要望通りに占い師になろうかな私」

 

「真に受けるなよ」

 

「嘘だよ」

 

また人を揶揄いやがって......本当にコイツは掴み所がない。

 

「ねぇ金次君。今度の日曜日に一緒に新国立劇場にオペラを観に行かない?気分転換にさ」

 

突然、零が話を変えてきた。

日曜日か......まあ、大丈夫だろう。

 

「俺はオペラなんてわからないぞ。それにあれ、英語で喋るからまったく内容が理解できん」

 

「そこは大丈夫。最近の劇場には液晶モニターがあってね。それに日本語が字幕として映し出されるんだよ。だから金次君でもわかるよ」

 

それなら俺でも内容がわかりそうだな。

最近の劇場はそんな物まで完備しているとは知らなかったぜ。

 

「演目は何だよ」

 

「ドン・ジョヴァンニだよ。知らない?」

 

「知らないな」

 

そもそもオペラなんて初めて観るから知らないぞ。何だよドン・ジョヴァンニって?

 

「どんな内容なんだ?」

 

「それは行ってからのお楽しみだよ。ここで内容を言ったらつまらないでしょう?」

 

まあ、確かに。

マジックでもネタとタネがわかっていたら、つまらないからな。

 

暫くして、零の部屋でお茶をご馳走になった俺は部屋を後にした。

 

 




恋愛はワンクッションが大事だと実感しました。
話を少し変えました。

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