私は教授じゃないよ。大袈裟だよ   作:西の家

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グタグタしてますが、どうか暖かい目でご覧ください。
狙撃手って、索敵と配置が基本でしたよね(苦笑)


猟犬と狼

「それでは主、行ってきます」

 

「......」

 

「うん、頑張ってね」

 

モランとレキさんは山に入っていく。森林に4、5歩ほど入った所だろうか。二人は互いに背を向けると、それぞれ反対方向ーー深い森の中に消えていった。

私?勿論、見学さ!これは狙撃手の戦いだからね。邪魔をしてはいけない。

ああ、結果が待ち遠しいな。

 

「君もそうは思わないかい?ワンちゃん」

 

側で気を失っているニホンオオカミに話しかけるが、応答はない。

せめて、ガウかワンでもいいから吠えてよ。

オオカミを観察してみる。戦いの前にレキさんが介抱し、容体は安定している。その証拠に脊髄の麻痺は抜けて、スースーと寝息を立てているし。

 

「シミュレーションしてみるか」

 

私は地面に腰を下ろし、目を閉じて瞑想を開始する。

この戦いをイメージしてみる。

まずは地理の把握ーー比叡醍醐山地・標高848.3 m・私たちがいたのは滋賀県の西部よりだ。

 

モランとレキさんは、まずお互いに身を隠す。

モランは途中で拾った葉っぱと枝で迷彩服ーーギリースーツとトラップを作成ーー地中に弓矢を仕掛ける。

仕掛け終えると見晴らしいのいい高台ーー木に登る。凄いな......銃を片手に指の力だけで登っていく。さすがは野せ......ゴホン、狩猟をしていただけはある。

 

レキさんは......早い。こっちも山育ちだろうか?ササッと苦もなく山道を駆け巡る。おまけに腰を曲げての行動が早い。

制服姿のまま草むらに飛び込み、うつ伏せでドラグノフを構えた。

最近の狙撃科生は汚れるのがイヤで、地面にうつ伏せになるのを躊躇うのに、レキさんには躊躇いがない。

汚れなど気にせず、ジッとしている。まるで獲物を待つオオカミだ。

 

お互いに暫く静観を決め込むが、ここでモランが仕掛ける。索敵だ。

獲物を取りたいのなら、敵が自分の前に来てくれることを待つよりも、こちらから獲物を探しに行くか。

太い枝を選んで、木を飛び移っていく。地中に仕掛けたトラップなど気にせず堂々と移動する。

 

レキさんも索敵開始。

白の防弾制服は目立つので、ワザと土で汚して見つかり難くしている。走る、ひたすら走り抜ける。草原でも走っていたのだろうか?この速度は異常だ。

だが、そこでストップだ!罠を発見ーーモランの即席の弓矢だ。

地中に仕掛けられていることを確認すると、矢を撃ち出すトラップに繋がった細いロープをナイフで切り無効化。

 

木の上でモランがレキさんを発見ーー背後から狙い撃ちできる。

罠を警戒して慎重に索敵を開始するレキさんを背後から発砲!

弾丸は突き進んで行くが、突然ここでレキさんが反転からの発砲、銃弾はモランの弾とぶつかり合い、軌道をズラした。

おお、凄いな。モランが使用している577 Snider弾はボクサーパトロンと呼ばれており、丸みを帯びているからレキさんの7.62mm弾の軌道をズラすが、レキさんはそれを把握している。

「馬鹿な⁉︎あの体勢から発砲だと⁉︎」とモランは驚く。一発に拘るが為に外されたことがショックみたいだ。その所為で次の動作が遅い。

 

その隙を逃さないとばかりに、今度はレキさんが発砲ーー狙いはモランが乗っている枝だ。銃弾は枝をへし折り、モランは地面に落下。

体勢を整え、地面に着地したモランにレキさんは間髪を入れず、連射する。ドラグノフ狙撃銃は箱型弾倉ーー装填数10発だ。

弾丸はビシッ、ビシッとモランのギリースーツを剥がしていく。これは挑発だね。やろうと思えば落下する時点で仕留められるだろうに......

 

ギリースーツを剥がされながら、モランは逃亡ーーしっかりと再装填することはいいことだ。

しかし、逃げた先には自身が仕掛けたトラップーーモランはトラップの弓矢で右足を負傷する。

激痛に襲われながらもモランはフッと考える。「何故だ?殺ろうと思えばあの時点でできたはず?」と思う。

ここで初めて自分が挑発されていた事に気付く。

あちゃー、これはキレるぞ。

 

レキさんはモランを追う。これって、狙撃手の戦いだよね?

そして草陰に隠れているモランを発見。投降を促すが、モランには届かないーー頭に血が上っているからだ。

唸り声を上げ、自分に向かってくるモランに発砲ーー狙いは両足だ。

しかし、両足を撃たれながらもモランは止まらない。まるで野獣のようだ。

一旦、退避を開始したレキさんをモランは追跡する。

おい、おい。私は一発でも被弾したら試合終了と言ったよね?

 

 

シミュレーションを終えると、丁度山から発砲音が聞こえてきた。

最初に2発、少しして5発だ。

これはモランの負けだな。

 

「頭を冷やせモラン」

 

自分でも驚く程の低い声が出た。

すると山が静かになった。どうしたんだ?野鳥の気配もしないし、モランとレキさんの気配もしないぞ?

私が謎に思っていると、ガサッと背後の草むらからモランとレキさんが出てきた。モランは右足に矢が突き刺さったままだ。

ああ、そんな怪我をして。

 

「モラン、大丈夫かい?」

 

私は心配になり、モランに駆け寄ると、

 

「主!何卒、もう一度チャンスを与えてください」

 

モランは私に懇願してきた。ははは、モラン?君は何を言っているのかな〜

 

「今度こそ、必ず仕留めてみせます!私は......まだ負けていない!」

 

「モラン?私は言ったよね。一発でも被弾した時点で終了だと?まさか......頭に血が上って忘れた、とは言わないよね?」

 

私が尋ねると、モランはビクッと身を震わせて、ワナワナと狼狽し始めた。その様子は飼い主に捨てられそうになっている犬のようだ。

 

「主......私は......私は......‼︎」

 

モランは目に涙を浮かべ悔しそうだ。

えっ?モランって、こんな顔ができるの⁉︎ヤバい!何だか可愛いよ。これは前にりこりんが言っていた、ギャップ萌えってやつかな?

 

「モラン......君は負けてしまった。これは事実だ。でもね。君の様子を見れば頑張ったことはわかる。そんな怪我をしてまで私の為に戦ってくれたんでしょう?」

 

モランの側に寄って、宥めるとグスンっと泣きべそをかきながらモランはコクリッとうなづく。

 

「ほらほら、可愛い顔が台無しだよ」

 

私はハンカチでモランの顔を拭いてあげる。

170cmあるからつま先立ちしないと顔に届かないよ。

 

「わぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!主ぃぃぃぃぃ!ごめんなさいぃぃぃぃ‼︎」

 

モランは私に抱きつき、本格的にワンワンと泣き出してしまった。

おおー、よしよし。そんなに悔しかったかモランちゃん......うんうん。わかるよ。キャラが被っているレキさんにムカついていたんだよね〜

 

「レキさん。モランはこんな感じだから謝罪は私がするけどいいかな?」

 

私はオオカミの側にいるレキさんに尋ねる。

 

「あなたは何なんですか?」

 

「どういう意味だい?」

 

レキさんが逆に私に尋ねてきた。何って、私は......モリアーティさ‼︎なんちゃってね。

あっ、こらこらモラン。そんなに私の胸に顔を埋めないでくれたまえ。何だかくすぐったいよ。

 

「風は言っています。あなたの存在そのものが間違っていると」

 

うーむ?質問の意味がわからないよ。そもそも風って何?レキさんの友達かな?でも、誰かと連絡を取っている様子はないし、いやあのヘッドオンかな?あれで連絡を取っているとか。

 

「それじゃ、その風さんに伝えてよ。私は間違ったことはしないとね」

 

武偵法に則って犯罪者を裁く意味だけどさ。

 

「警告します。あなたは自身の間違いを理解しないまま死ぬ」

 

「ははは、それは予言かな?それじゃ、私はその予言を覆してみせよう」

 

正直、何のことだかわからないな。

私はモランを連れて、山から去っていく。

さて......今のモランではレキさんを倒すことはできないな。早急にモランを強化しないと......まずは装備の変更からだ。装備科に駆け寄って、

いくつか見繕ってもらおう。

おっと、その前に傷の治療からだよね。

 

「もう一つだけ警告します。滝にご注意を」

 

去り際にレキさんがそんな事を言ってきた。

滝ぃ?ナンノコト?

 




次回は装備科に訪問します。

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