私は......人手が足りなくて大変とだけ言っておきます(泣)
・零の呼び方に違いをつけるために、武藤はレイ、金次は零と呼ぶようにしました。
・そして、レキファンの皆さん。ごめんなさい!決して違いますからね。
キンジ視点ーー
「平賀さんが誘拐って、どうして誘拐されたんだよ」
携帯に届いたメールを再度確認し、俺は訳がわからなかった。武藤と和解のつもりで夕食に食いに来たのに、注文する前にコレかよ。
「これって、最近多発している武偵ーー装備科をターゲットにした誘拐犯の仕業か?」
「正確には武器密売組織だよ武藤君。まあ、密売が主で誘拐は二の次だろうけどさ」
誘拐・密売も犯罪に変わりはねぇよ。
しかし、零の武器密売という言葉にピンとくるものがあった。
最近、東京を中心に活動している謎の武器密売組織。武偵から強奪した銃を密売することで名が上がっている連中だ。
先に武藤が言ったように、武偵の中でも装備科が狙われている。
装備科の作る銃は質が高いからな。おまけに前線向きじゃないから、それが狙われやすい原因になっているのかもしれない。
「教務科いや、正確には平賀さんからの''依頼''だし、早く助けに行こうよ」
「だな!みんなのマスコット平賀さんのピンチだぜ。ここで助けに行かないとあっちゃ、男の名が泣くぜ」
誘拐は1分1秒を争う事件だ。今は座っている場合じゃないな。
会計を済ませ(何も注文していないが)、全員で店を出る。まずは武偵高に戻って、教務科から正確な情報を提供してもらわないとな。
自動ドアを抜けて、
「遠山 金次と玲瓏館 零だな?」
店の外に出ると、突然見知らぬ3人組の男たちから声をかけられた。
服装は着崩しており、おまけに目つきが普通じゃない。
なんだコイツら?見るからにガラの悪い奴らだ。
男の1人は手に写真のようなものを持って、俺と零を見比べている。
「なんだよ。俺らに用でもあるのか?」
「あの私たちに急いでいるんですが......」
「そこを通してくれよ。緊急事態なんでな」
俺と零・武藤の3人はいつでも銃が抜けるよう警戒しながら、男たちの様子を伺う。
「間違いねぇ。このカップルだ。やれ!」
1人の男の掛け声とと共に、2人の男が俺と武藤に襲いかかった。
しかし、動きが素人だな。遅すぎる。ひらりっと、簡単に背後に回れた。
覆い被さるように襲ってきた奴の背後を取ると、そのまま腰に蹴りを放った。
見かけによらず随分と軽いな。ゴロゴロと転がっていったぜ。
「あらよっと!」
一方、武藤の方はというと懐に飛び込み、顎にアッパーカットを放った。武藤の巨体から放たれたパンチをくらって、体が宙に浮いたぞ。
おまけに1発K.Oだし。コイツら弱すぎだな。
「ウッ⁉︎」
後ろから零の呻き声が聞こえた。
慌てて振り返ると、ドサッと音を立て零は倒れた。
零の後ろにはバチバチと、スタンガンを持った2人の男が立っていた。しまった!伏兵が潜んでやがったか!
「おい!遠山金次。この女がどうなってもいいのか!」
倒れた零の髪を持ち上げるようにし、喉元にナイフを突きつける。
くそッ!人質を取られたか。
「おい!てめえ、レイから離れろ!」
「止めろ武藤!」
男に向けて、銃を構えた武藤を俺は止める。
「へへ、それでいいんだよ。大人しく来い!」
引っ張られる形で俺と零は、近くに止めてある(おそらく連中の)車にドンッと押し込められた。
「キンジ!レイ!」
武藤が追いかけようとしたが、連中の仲間から腹に蹴りをくらわされ地面に蹲る。
「おっと、騒ぐなよ」
武藤の様子を見て思わず、車の窓から身を投げ出そうとした俺の首筋にナイフが突きつけられる。どうにかしたいが、今は気を失った零もいる。ここは大人しく従うしかないか.......
車の中で目隠しと後ろ手に縄をされ、おまけに銃まで取り上げられた。暫く走ると何処かに停車した。ここが目的地ーー連中のアジトか?
「おら!とっとと降りろ!」
怒鳴りつけられ、俺は車から降ろされた。
降りる際、鼻腔から潮の香りが入ってきた。ここは海に近い場所なのか?
目隠しされてわからないが、おそらく零も一緒だろう。車の中で意識を取り戻した様子がなかったから、連中に抱えられる形で降ろされたか。
「ほら、歩け!」
背中に冷たいモノが突きつけられる。多分、銃だな。
後ろでガラガラと扉が閉まる音が聞こえる。
そのまま歩かされると、パサリと目隠しを外された。
ここは......何処かの倉庫か?
まず目に付くのは、辺り一面まで埋まっている木箱の山だ。まだ梱包されていないのだろうーー箱の蓋が開いたままの物がある。箱の中には銃器がギッシリと詰まっている。
これは武偵から奪ったか、自分たちで密造した銃だな。
倉庫の中には俺と零を誘拐してきた連中の仲間だろうかーー10人ばかり姿を確認できる。
「とっとと座れ!」
パイプ椅子に座らされた。隣を見ると零と平賀さんもいる。2人とも俺と同じように後ろ手に縄をされているーーまだ意識を失っているのか、零の方はグッタリとしているが。
「平賀さん無事か?」
「大丈夫なのだ。ちょっと怖いけど、とーやま君と零ちゃんが助けに来てくれて元気が出てきたのだ」
助けに来て、俺らも誘拐されたけどな。
でも、何で連中は俺と零を誘拐したんだ?零は探偵科、俺は強襲科ーー装備科とは無縁なのに。
「なあ、平賀さん。何で誘拐されたんだ?」
「前に零ちゃんから差し入れで貰ったケーキが急に食べたくなったのだ。それ学校の帰りにお店に寄ったら、連れていかれたのだ」
つまり、零に買って貰ったケーキが食べたくなって、買いに出かけたら誘拐されたと。
「う〜ん......あっ、金次君。平賀さんおはよう......いや、こんばんは」
零が意識を取り戻した。
目覚めて、早々こんばんは、じゃねぇよ。自分の置かれた状況を理解してんのか?
「ここは......何処だい?金次君わかる?」
零は辺りをキョロキョロと見渡す。
「知らね。でも、何処かの倉庫じゃねえかな」
「喋ってんじゃねえ!」
連中の1人からガッと殴られた。
「金次君⁉︎」
「とーやま君⁉︎ああ、血が出ているのだ」
心配してくれて悪いが、こんなの蘭豹の鉄拳に比べたら、大した事ねぇよ。
「ガキ共!今からボスが来る。大人しくしろよ」
ボス?コイツらの親玉か。
誘拐されて災難だったが、連中のボスの顔を見れるとは丁度良い機会だぜ。面を拝んでやる。
暫く待っていると倉庫の奥ーー木箱の陰から1人の男が歩いていた。
洒落た青のスーツに、長髪の若い男だ。
こいつがボスか。そいつは手下にパイプ椅子を持って来させると、俺らの前にイキヨイよくガッと座りこんだ。
「ようこそ我がアジトへ」
「あなたは......」
「静かにしろ!」
誰かと尋ねる零に手下の1人が大声で怒鳴る。てめえの方が静かにしろうるせぇよ。
「荒っぽいのは許してくれよ。どうしてもお前らに聞かなきゃならねぇ事があって来てもらったんだ......何だか分かるよな?」
「......何でしょう?どうもここは学校ではなさそうですね。となければ私や金次君・平賀さんには皆目見当も付きませんが」
「下らなねぇ事抜かしてんじゃねぞ。お前らがパクった商品をどこにやったかって聞いてんだよ!」
零の言葉に親玉はキレたのか。零を顔をバシッと平手打ちした。叩かれた零の顔は赤く腫れた。コイツ......!女の顔を叩きやがったな!
反撃しようと縄を解こうとしたら、零がこっちに顔を向けてパチパチと瞬きをした。これは瞬き信号か。
意味は、大丈夫・止まれ・機会・伺え・耐えろだった。
機会を待ってか......わかったよ。
「部下の報告によると、お前らがパクって隠し持ってるそうじゃねぇか」
さっきからコイツは何を言ってやがる?俺らが何をパクったっていうんだ?商品がどうの言っていたーー密造・強奪した銃器のことか?
全く心当たりがねぇぞ。
「武偵サマには過ぎた玩具だろう?返してくれよ。まんまと全部奪われたなんて上に知られたら俺の首がヤベェんだよ......さぁ吐け!」
「オイラー等式......それが答えですよ」
身に覚えがない俺や平賀さんの代わりに、零の口から出た答えは見当違いなモノだった。
確か......解析学における等式だな。
e^iπ + 1 = 0
e: ネイピア数、すなわち自然対数の底
i: 虚数単位、すなわち二乗すると −1 となる複素数
π: 円周率、すなわち円の周の直径に対する比率
前に零から教えてもらったが、意味がわからんくてそのままにしていた。取り敢えず、答えがゼロになるとだけは覚えていたが......
質問の答えが気に入らなかったのか、親玉はゴッと殴った。
「クソがッ‼︎ナメてんじゃねーぞ‼︎」
零は再び、自分を殴ろうとした親玉の鼻先スレスレまで足を上げ、ス......と静かに足を組む。
その動作は思わず見惚れてしまう程、優雅で気品に溢れている。気のせいか。零の座っているパイプ椅子が玉座ーーそこに座る零は女王のように見えるぞ。
「東京を中心に活動する武器密売組織''刀狩り''。意外だったね。神奈川しかも横浜の倉庫街がアジトーー堂々とした場所にあるなんて。どうりで見つからない訳だ。アナタの組織の後ろには相当の権力か、社会的影響力のある人物がいる様だ。こんな立派な倉庫街をポンッと貸し出すなんてーーそんな相手には武偵もなかなか手を出しにくい」
刀狩り......それが連中の名前か。つーか、零。お前はいつから分かってたんだ?
相手の情報ーー横浜の倉庫街、組織名など俺はわからなかったぞ。また、お得意の分析か?
「......ハッどうやら本当に死にたいらしいな」
「......だから''君達''を利用させてもらった。キミに私と金次君の写真を送りつけてね」
写真......レストランを出てすぐに声を掛けてきた男が待っていた写真のことか?うん?ちょっと待てよ。
「正確に私と金次君を攫ってもらう為に送ったんだ。横浜をウロウロしていたキミの部下を装ってね。レストランでちゃんと声を掛けてくれて助かったよ」
「......待って。お前は一体何を言ってんだ⁉︎」
「......まだ分からないのかい?なら、教えてあげるよ。これは全て私が企てた事なんだ。私立相談役のこの玲瓏館・モリアーティ・零がね」
「零ちゃん。なんだかカッコいいのだ‼︎」
おい、平賀さん。そこは黙って聞いておこうぜ。多分、これは零のキメ台詞だと思うからよ。
企てたって......まさか密売組織の存在を知った時から、逮捕するために罠を張ってたのか‼︎こいつの知略には畏れ入るぜ。
それにしてもMはモリアーティの頭文字だったんだな、初めて聞いたぜーーそれにしても、モリアーティか......何処かで聞いたような?
「ありがとうね平賀さん。さてと......君達は最初から私の手の平の上で踊る駒に過ぎない」
零はス......と足を上げ、
「もう一つ教えてあげるよ。さっきの数式の答えは......ゼロだよ‼︎」
ダンッと床を叩いた。
それと同時にドドンッという爆発音が鳴り、倉庫が揺れる。
「何だ⁉︎」
「おい!外に誰かーー」
外の様子を確認しようと、倉庫の扉を開けた手下の1人がサッと入って来た何者かに、ダダダンッと撃たれ後ろに倒れる。
それを合図に一斉に何者かが、なだれ込んで来たーーTNK製の防弾ベルト。強化プラスチック製の面あて付きヘルメット。武偵高の校章が入ったインカムをつけている。あれは武偵高の連中だ。
SATやSWATにも似たこのC装備は武偵がいわゆる『出入り』の際に着込む、攻撃的な装備だ。大概は強襲科が着込むのに、俺が見た限り強襲科だけでなく、前線とは程遠い装備科までいるぞ!
ダダダダダッと激しい銃声が倉庫内に鳴り響く。
よく見るとPP-19-01 Vityaz、トンプソン・サブマシンガン、スパス12、ウージー、ARー18を躊躇いなく撃ちまくっている。銃検に通せば1発でアウトな武器ばかりだ。
おい⁉︎弾はゴム弾とかプラスチックの模擬弾だよな?撃たれたヤツから血が出てないから大丈夫だろうが......
「な......武偵だと⁉︎どうしてここが......」
親玉は状況が理解できない様子だ。
それを見た零が俺に顔を向ける。今なんだな!
後ろで縛られた縄を解き、周りにいる手下の急所ーー顎、首、鼻に後遺症が残らない程度に攻撃を叩き込む。
簡単に攻撃が入るってことは連中の練度は高くないなーーまったく、こっちの攻撃に反応もできていない。
俺の隣ーー零が縛られている場所から、ガンッと音が聞こえた。向いて見ると、
「アナタの兵の練度は思ったより低いね。人質の縄すら満足に縛れないとは」
パイプ椅子を手に立っている零がいた。その足下には殴られたのだろう。手下が頭から血を流して床に伏せていた。やり過ぎだぞ!
「あと『どうして』と言ってましたね。簡単だよ。誘拐されたあの時から仲間たちがずっと付けていたんだよ。発信器のついた私をね。ロクに身体検査もせず、銃だけ取り上げるなんてお粗末だね」
「この......!」
親玉が右手を懐に突っ込んだ。銃を取り出すつもりか!
「さぁ罰を下しましょうか!」
そんな事御構い無しに零はパイプ椅子を振り上げた。
零を押し退け、俺は親玉の右手から銃を叩き落とし、顎にストレートをかましてやった。
それだけで親玉はノビた。よ、弱い......親玉なんだからもう少し骨があってもいいだろ。
「もう、金次君。手出しは無用だったのに」
「お前、問答無用でコイツの頭を砕くつもりだったろう?」
平賀さんの縄を解きながら、零は俺に文句を言ってきた。
俺の見間違いだったのだろうかーー零はパイプ椅子で殴ろうとした瞬間、笑っていた。あのままやらせていたら取り返しのつかない事になっていたかもしれない。
「そんな訳ないさ。金次君の気のせいだよ」
「じゃあ、何でそこの手下は頭から血を流しているんだ?」
「思わず力が入り過ぎたんだよ」
入り過ぎたって、軽いノリで言うな。
零は悪いと思ったのか。手下に応急処置を施す。妙に手馴れている。こいつも武偵だからこれくらいできて当然か。
「キンジ!レイ!助けに来たぜ」
完全に制圧したのだろうーー倉庫で立っているのは武偵高の連中だけだ。密売組織の連中は1人残らず、地に伏している。し、死んでないよな?
連中の波を掻き分け、武藤がやってきた。お前も来てたのか。できればスパス12を置いてきてほしいぜ。
「おお、武藤君なのだ!」
「平賀さんも捕まってたのか。キンジとレイ・平賀さんも助けられて一件落着だな!」
「だね。さて......偶然、犯人達は武器密売組織で偶然、私と金次君・平賀さんは誘拐されてしまった。はてさて、教務科に何て報告しようか」
零の言葉に俺は呆れた。
偶然で済ませられる訳がねぇだろう。誘拐されたって、教務科から知られたら怒鳴られる事間違いなしだなーー特に強襲科の俺はな!
「なあ、零。親玉が『商品をパクられた』と言っていたが、まさか本当にパクッてないよな?やってたら証拠隠滅罪になるぞ」
「まさか。私はやってないよ。そう思わせただけさ。丁度、彼らの組織の武器が何者かに強奪されたという情報を掴んでね。それを利用させてもらった。あとで情報科に駆け寄ってごらんよ」
そんな情報まで掴んでたのかよ。それを利用し、ワザと誘拐されてアジトを突き止めるとな。クールに行動するのではなく、大胆に行動するんだなコイツも。
「あとよ。発信器なんて何処に仕込んでたんだよ?もし身体検査されたらバレるし......」
「ここだよ」
零が指し示した場所は......胸の谷間だった!
ハダけた制服から谷間と僅かながら黒の下着まで見える。
なんて場所に隠してやがるんだ⁉︎
「どうしたんだい?あっ!そうか〜私の計画に加担したご褒美が欲しいんだね。ほら、眺めてもいいよ」
胸をアピールするように、ズイズイと距離を詰めてくる。
計画に加担って、犯罪ぽく言うな!おまけに近づいて来るな!
武藤助けろ!俺は武藤たちに助けを求めるが、全員鼻の下を伸ばして「うひょー‼︎」と零を眺めてる。こ、この......エロガキどもめ!
「おお、何だか面白そうなのだ!あややもするのだ」
零につられて平賀さんまでも悪ノリし、ズイズイと距離を詰めてくる。平賀さんは......大丈夫だな。
取り敢えず、今は逃げることから始めないとな!
「おーい、金次君。待ってよー」
「待つのだ。とーやま君」
後ろから零と平賀さんが追いかけてくる。来ないでくれー‼︎
せめて前のボタンを閉めてからにしろよ!
俺は逃げながら、零のMーーモリアーティという名前が不思議と頭から離れなかった。あいつのミドルネームを初めて聞けたな。
事件の翌日に聞いた話だが、横浜市内で一台の大型トレーラーが発見された。探偵科と鑑識科が調べた所、武器密売組織''刀狩り''の車両と断定。荷台は空っぽだったが、運転席には頭を撃ち抜かれた遺体を発見ーー他殺体だった。殺害に使用されたのは、7.62mm弾ーードラグノフの見方が強い。
次回は物語を原作に突入できるように早くします。時間枠は冬あたりになるかな。金一の行方不明ーー豪華客船事件に挑む。
早くアリアとの面会が書きたい。やりたいネタが沢山あるのに(泣)