私は教授じゃないよ。大袈裟だよ   作:西の家

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リアルが忙しいよ(´°̥̥̥̥̥̥̥̥ω°̥̥̥̥̥̥̥̥`)


送り迎え

零視点

 

一通り話し終えると、窓から見通す『学園島』を夕日が金色に染めていた。

 

「ねぇ、金次君。この後はどうするんだい?」

 

「どうするって、今後の予定の事か?まあ、そうだな......このままマンションに戻るかな」

 

金次君は頭をポリポリかきながら答える。

真っ直ぐ帰るとは良い心がけだね。ここにお姉......じゃなかった、お兄さんが居ればきっと褒めてくれるよ。

お兄さんは今頃どうしてるのかな〜。金一さんもいいが、カナさんもいいよね。カナさんだけにどうしてるかな。なんちゃって......笑えないか。まぁ、彼女?彼?の変身解除後、顔を真っ赤にして恥ずかしがる様子が1番笑えるが♪

 

「なら私も同行してもいいかな?」

 

「はあ?なんでお前まで来るんだよ?」

 

疑問に満ちた顔で私に答えを求める。

うん、そうなるよね〜。きっと彼は女子が無闇に男子寮に来るんじゃないって、今思ってるね。

しかし、同行しないと大変な事になる。何故なら金次君は監視されているからだーー『武偵殺し』にね。

2日前の朝でのカージャック。『武偵殺し』は金次君が通学で乗る自転車に爆弾を仕掛け、チャリジャックを仕掛けるつもりだったが、私が爆弾を撤去した為に急遽カージャックに変更した。まあ、カージャックはハッタリだったがネ。

私の推理では犯人のターゲットは金次君。犯人のプランーー爆弾付きの自転車とセグウェイで金次君を追い詰め、最後は何処かで始末するつもりだった。しかし、私が妨害した為に台無しになった(金次君は助かったが、私の愛車が犠牲になったーーアリアの所為で)。『武偵殺し』がこのまま終わりにするとは思えないし、1人で帰らせるのは心配なんだよね。

 

「おい!零。どうした?ボーッとして。熱でもあるのか?」

 

金次君の声でハッ!と我に帰る。いけない推理に夢中になっていた。

私の様子を心配してか?金次君が私の額に手を当てて、熱を測る。ちょっと顔が近くないかい?ヒスらないよね?まあ、それはそれで面白くなりそうだがネ。

 

「大丈夫、熱は無いよ。夏風邪ならぬ春風邪にはなってないさ」

 

「風邪と熱は違うと思うぞ」

 

「まあ、細かい事は気にしない気にしない♪」

 

「探偵科のエースの言葉とは思えないな......」

 

金次君が呆れる。

 

「熱がないならいいけどよ......それで?何でお前まで同行するんだよ?」

 

「お家に帰るまでが捜査です」

 

「なんだよソレは?遠足じゃねぇぞ」

 

金次君がワケがわからないという顔をする。

金次君......前に言ったと思うけど、君は実に馬鹿だな〜。この部屋の様子にしろ、トラップにしろ色々とヒントを与えてるつもりなんだけどな〜。危機管理ーー自分は狙われているとね。

 

「君は今、狙われているんだよ」

 

「狙われているだと?誰にだよ」

 

「『武偵殺し』にさ」

 

私のカミングアウトに金次君は目を見開く。

 

「何で俺が狙われるんだよ⁉︎この前の朝のカージャックの事を言っているのか?でも、あれは俺もそうだが、零や白雪も狙われたと捉えられるぞ」

 

金次君がこの前のカージャックを振り返る。

おっ!珍しく推理が冴え渡るね。関心するよ。

 

「そう見えるのは仕方ないか......これは探偵科にも黙っていた事だけど、実はカージャック当日、金次君の自転車に爆弾が仕掛けられていたんだよーープラスチック爆弾。自転車どころか車も吹き飛ばせるサイズのがね」

 

「はぁ⁉︎初めて知ったぞ。それと何でそんな重要なことを報告しないんだよ?事件と関係ありまくりじゃねぇか」

 

「報告しなかったのはワケがあるのだよ」

 

「どんなワケがあるんだ?」

 

「まあ、それについては出てから話そうか。というワケで同行してもいいかい?」

 

「......勝手にしろ。でも、ちゃんと聞かせてもらうからな」

 

金次君は同行を許可してくれた。

やはり、気になるよね〜。報告しなかったのは、『武偵殺し』は捜査状況ーー武偵に内通しているからなんだよネ。あの時、報告していれば相手に情報を教えることに繋がるからさ。まあ、そこは外を歩きながら話そうか。

我々は監視されているーー寮の裏口から出ようか。

 

「よし!いざ!」

 

玄関に向かう。

私が突撃!金次邸(家じゃないけど)に行こうとすると、

 

「ちょっと待ってぇぇぇぇぇぇぇぇ‼︎」

 

金次君が私の肩をガシッと掴んできた。

ちょっと手を離してよ。何気なく痛いんだけど?

 

「どうしたんだい?何か問題でもあるの?」

 

「出る前に服を着ろ」

 

自分の姿を確認する。

金次君を揶揄うネターー観賞用植物を飾る際、汗を掻いたので金次君を待っている間、彼を揶揄う為に水着に着替えた。

この部屋にいる間、ずっと水着のままだったね。着替えるのを忘れていた。

私は着替えーー変装の衣装がある別室に向かう。

部屋に入る際、ドアの隙間から金次君にチラッと顔を向けて、

 

「覗かないでね」

 

「誰が覗くか。待ってやるから早くしろよ」

 

一言だけ揶揄ってみた。

ははは、少しはエッチくてもいいのにね。部屋の外でさり気なく待っててくれるなんて金次君らしい。

 

着替えを済ませ、部屋から出る。

 

「お待たせ金次君」

 

「それ、変装のつもりか?」

 

金次君が驚いている。

襟は外し、スカートを折って丈を短くし、袖を捲り上げ二の腕が出ている状態。頭にはハーフアップの金髪のカツラを、トドメとばかりに爪には爪半月を隠す程度の渋いピンクのジェルネイル!薬指にだけ施されたラインストーンが健気さをアピール!

これはアップルに教えてもらった変装術だ。泥棒だけに変装が得意なんだよね〜あの子。時々、私そっくりに変装してイタズラしたりもするな。

 

「その格好は校則違反じゃないのか?」

 

金次君が愚問をぶつけてきた。

今更だね〜一度、学校を見て回りなよ。世紀末みたいになってる所もあるからさ。

それにうちの学校って、校則はないようなモノじゃないか。変装の一つや二つ、捜査には必要だよ。まぁ、今より校則をメチャクチャにした私だけどね。

 

「大丈夫だって、この格好はちゃんと校則の範囲内だよ。校則は破る為にあるモノさ」

 

「......生徒会長が言うようなセリフじゃないな」

 

呆れながらも金次君は部屋から出る。私は玄関に立てかけているステッキを手に取ってから部屋を出る。これがないと始まらない。

さて、気を取り直して出発だ!

 

「そのカツラは一晩中被ってるつもりか?」

 

「君のマンションに到着したら外すよ」

 

「俺は『武偵殺し』に狙われてるんだろう?なのに、一緒に来るお前が、そんな格好でいいのか?」

 

「目立ち過ぎると逆に目立たないのさ♪」

 

 

男子寮に到着すると、窓から見える夕日が沈もうとしていた。

武偵高とこの寮、生徒向けの商店だけが乗っているこの人工浮島、元々は東京湾岸の再開発に失敗して叩き売りされていた土地だ。その証拠に、レインボーブリッジを挟んですぐ北にある同じ形の人工浮島は未だに空き地で、『空き地島』とあだ名されている。私はこの空き地島を重宝しているがネ。鳩の餌やりから、密会など様々だ。

そのがらんとした浮島の南端には風力発電機がノンキに回っている。うーむ、のどかなだね〜。いいねこの光景。

 

『太平洋上で発達した台風1号は、強い勢力を保ったまま沖縄上空を北上しています』

 

ニュースを流す液晶テレビが、この部屋の心地よい静けさを際立たせる。

あー、金次君の部屋はいいね。今、ここにいるヤツを除いたらネ。

 

「遅い」

 

ギロ、とソファーから頭を傾けてアリアはこっちを見てきた。

馬鹿な......何故、アリアがここに居るの?今頃、ロシアの驚異的な身体能力で有名なコサック出身の連中に歓迎されているハズ......しくじったか。闇に紛れて人を襲うーー暗殺が得意とあったのに、使えないなー。別の駒を探すか。

 

「アンタも一緒に来たの?ベランダでの一件が懲りてないみたいね」

 

アリアが私に顔を向けてきた。アリアは前髪を上げてパッチンと銀色の髪留めでまとめ、おでこを出していた。

 

「ベランダではお世話になったね。カナヅチさん」

 

「あたしはカナヅチじゃない!浮き輪があれば......!」

 

ハッ!とした顔で言葉をつむる。

それは自分がカナヅチと認めたようなモノだよ〜。ベランダーー海から落ちた私とアリアは水中でも取っ組み合いになった。カナヅチのクセに私と殴りかかってきた。途中、飛び込んできた金次君に止められたけど......殴り合いなら、次は負けないーー陸ではね!

 

「どうやって入ったんだ」

 

金次君が愚問のような質問をする。大方、意思表示の為かな。

 

「あたしは武偵よ」

 

ほら愚問だった。金次君もそう思うよね。

ここのカードキーを偽装したか。鍵開けは武偵技術の基礎中の基礎だからね〜。私も持っているし。

 

「あんたはレディーを玄関先で待ちぼうけさせる気だったの?許せないわ」

 

「逆ギレして海に落ちるようなヤツはレディーとは呼ばないぞ、でぼちん」

 

金次君......それは私にも言ってるのかな?

た、確かに海に落ちたさ!あの一件は大人気なかったと反省しているよ。だからさ、その言葉は撤回してくれない?本当にお願いだから。

それにしても、でぼちんね......

 

「でぼちん?」

 

「「額のでかい女のことだ(さ)」」

 

金次君とハマった。おお〜奇遇だね〜。

でぼちんの意味がわからないとは、アリア、君は実に馬鹿だな〜。

 

「ーーあたしのおでこの魅力が分からないなんて!あんた達いよいよ本格的に人類失格ね」

 

アリアは大げさに言うと、べー、と舌を出した。

 

「私達が人類失格なら、君は人間失格だよ」

 

「何処が失格なのよ!」

 

「おいっ!さり気なく俺を含めるな」

 

「この額はあたしのチャームポイントなのよ。イタリアでは女の子向けのヘアカタログ誌に載ったことだってあるんだから」

 

アリアは私達に背を向けると、楽しそうに鏡をのぞきこんだ。

ふーん、イタリアのヘアカタログ誌にね。なら、今度は額に『肉』と書いて載ってごらんよ。スキがあれば絶対に書いてやろうーー油性マジックでネ♪

 

「さすが貴族様。身だしなみにも気を遣われていらっしゃるわけだ」

 

金次君は洗面所に入って、ちょっとイヤミな口調で言ってやった。

するとアリアは、

 

「......あたしのことを調べたのね?」

 

なぜか嬉しそうに私の横を通り過ぎて、金次君の元にやってくる。

そう言えば私の部屋に来る前に、りこりんと会ってたんだよね。金次君が彼女と会う理由は情報収集だろう。この発言からして、りこりんに調べてもらったのは、アリアについてか.....振り返ってみれば、私はアリアの事を知らない。調べなかった、いや調べようとしなかったね。今度、本格的に調べてみようかな。

 

私は横目でアリアを観察する。

日本語は流暢だけど、日本人じゃないーー顔つきからしてクォーターかな。

イタリアのヘアカタログ誌に載った事があるーー海外活動経験あり。

 

「ああ。本当に、今まで1人も犯罪者を逃したことがないんだってな」

 

「ヘェ〜1人も逃した方がないなんて凄いね。小学生みたいなのに」

 

「小学生みたいは余計よ。それは兎も角、あんた武偵らしくなってきたじゃない。でもーー」

 

そこまで言うとアリアは壁に背中をつけ、ぷらん、と片脚を蹴るような仕草をした。

 

「その情報は間違いよ。2人逃したわ。1人はイギリスで、もう1人は日本でね」

 

「へえ。凄いヤツもいたもんだな。誰を取り逃がした?」

 

「気になるね。聞かせてよ」

 

1人は予想が付くけどね。

おそらく、今この部屋の洗面所にいる......

 

「1人はあんたよ」

 

ぶっ!と、名指しされた金次君は水を盛大に噴き出してしまった。

やっぱりね〜。あのセグウェイの一件だろう......私のポルシェ。

 

「大丈夫かい金次君?」

 

私は金次君の背中をさすってあげた。

すると、アリアは私を睨んできた。どうしたんだい?さては、悔しいのかな〜。

 

「俺は犯罪者じゃないぞ!なんでカウントされてんだよっ!」

 

「強猥したじゃないあたしに!あんなケダモノみたいなマネしといて、しらばっくれるつもり⁉︎このウジ虫!」

 

「あー、確かに。アレは強矮だよー金次君。私から見ても立派な強褻だー。金次君、有罪」

 

「零まで⁉︎アレは不可抗力だって!弁論してくれ!」

 

金次君は助けを求める。

弁論してくれって、私は君の弁護士じゃないよ。大袈裟だよ。

まあ、アレは不可抗力1として許してあげようか。チラッとアリアを見る。がるると犬の様に唸っている

やれやれ、まだご機嫌斜めだね。ここは話題を変えるのが吉だね。

 

「まあ、この一件は兎も角、ねぇアリア」

 

「何よ?あんたそこのケダモノを庇う気?」

 

「ただ、その前に君の言ってた犯罪者ーー2人取り逃がしたって、言ってたよね?1人は金次君」

 

「だから、俺は犯罪者じゃないぞ」

 

「シャラップ!」

 

私は金次君の腹に右ストレートを打ち込んだ。ゴフッ!と前屈みになる。

私が弁論?してあげているんだから、君は被告席で黙っていたまえ。

 

「.......あんた容赦ないわね。そいつ、パートナーじゃないの?」

 

「ちょっとお灸を据えただけさ。さて、話を戻すけど、アリアが取り逃がした犯罪者って、もう1人いるんだよね?それって、誰なの?私から見てアリアはかなりの手練れだと思うんだけど」

 

「あんたに褒められるのは変な感じがするわ。まぁ、いいわ。あたしが取り逃がした犯罪者って言うのは、そこのキンジとイギリスであたしが追ってた『ヤツ』よ」

 

アリアが語り出した。いいよ、この調子で強猥の一件をあやふやにしてやろう。金次君の為にネ。

 

「『ヤツ』?もっと具体的な名前はないのかい?例えば異名とか」

 

「無いわ。武偵庁もマークできてない謎の犯罪者よ。でも、あたしはソイツの事を『犯罪相談役(クライムコンサルタント)』と呼んでいるわ」

 

『犯罪相談役』ーーその言葉を聞いた瞬間、私の頭に電流が走った。

ヤバッ!これって、私の事じゃない?おかしいな......武偵庁や警察にもマークされないよう気をつけていた筈なのに。一介の武偵に追われるヘマはしてない。

 

「武偵庁もマークできてないって、そんな事があるのか?」

 

金次君が横槍を入れる。

だから、君は黙っていなよ。また、腹パンを食らいたいのかい?

 

「存在が立証できてないのよ。巷では存在してないなんて呼ぶ輩もいるわ。でも、あたしの直感では必ず存在してるわ」

 

アリアは自信満々に答える。

直感......ねぇ?

 

「そこまで言い切るには、直感だけじゃなく別の理由ーー根拠があるんでしょう?」

 

「あら、よく分かったわね。そうよ、ヤツは必ず存在する。だって、あたしがヤツの手先ーー尻尾を掴んだからよ」

 

「尻尾って、ソイツの手下でも捕まえたのか?」

 

「捕まえたというより、追い込んだというのが正しいわね。手下の二人組の強盗が逃走する際に言ったのよ。「犯罪相談役万歳‼︎」って、言いながらね」

 

「それって、イギリスの何処で?」

 

「イギリスの銀行ーーロイヤルバンク・オブ・スコットランドよ」

 

イギリス4大銀行の名を上げた。

イギリス......銀行......二人組の強盗.....ボニーとクライドか。

そう言えば、前にあの2人に「イギリスの仕事はどうだった?」と聞いたら、「ダ、大丈夫さ......」「Excellentだゼ......!」と挙動不審で言ってたな......情報流出の原因はあの2人だったか。''補習''が必要だネ。ただ補習するだけじゃ可哀想だし、手料理でも差し入れするか。

 

「でもさ、アリア。それって、『犯罪相談役』を取り逃がしたって言うより、強盗2人組を逃したって言うのが正しいよね」

 

私は話の主導権を奪う。

ここで『犯罪相談役』の存在を大ぴらにするワケにはいかない。いくら直感といっても油断できない。何処で確信に変わるか分からないからね。

 

「そうだぜ。今までの話を聞く限り、その強盗組が捜査を撹乱する為に敢えて、狂言を吐いたかもしれんぞ」

 

「あたしが存在するって言ったらするの!あたしの勘が言ってるわ!」

 

「はいはい、存在するんですね。教えてくれて、ありがとうね」

 

「あんた絶対に信じてないでしょう!態度がムカつくわ!」

 

アリアがキーッ!と金切声を上げて威嚇する。

さてと、ここで話の主導権を返してあげますか。

 

「話は変わるけど、この前の金次君をドレイにするって話。アレはどういう意味なのかな?もしかして、アリアから逃げられた事が関係してるの?」

 

「え、ええ、そうよ!キンジ!あんたなら、あたしのドレイにできるかもしれないの!強襲科に戻って、あたしから逃げたあの実力をもう一度見せなさいっ!」

 

「あれは......あの時は......偶然、うまく逃げられただけだ。俺は探偵科Cランクの、大したことのない男なんだよ。はい残念でした。出て行ってくれ」

 

「ウソよ!あんたの入学試験の成績、Sランクだった!そして、レイ。あんたの成績もSランク。でも、入学して早々、探偵科Aランクになったわよね」

 

ほーう。勘だよりってワケじゃないみたいだね。

ある程度の情報戦はできるみたいだ。しかし、その程度の情報戦じゃまだまだだネ。恐喝君の方がもっと上だ。

でも、入学試験か〜、懐かしいな。あの後で分かった事だが、金次君は白雪さんでヒスったらしいね。ごめんね、厨二病と勘違いして。

 

「と、とにかく......今は無理だ!出てけ!」

 

「今は?ってことは何か条件でもあるの?言ってみなさいよ 。協力してあげるから」

 

協力してあげるーーそのワードに反応してか、金次君の顔がかあああっと。赤くなった。

おや?ヒスるのかい?金次君には爆弾発言だったかな。

 

「教えなさい!その方法!ドレイにあげる賄い代わりに、手伝ってあげるわ!」

 

また金次君の顔が一段と赤くなった。

『手伝わせてる』色々な光景を想像しているね。それ以上考えたら、渾身の右ストレートパンチを食らわせるよ?

 

「なんでもしてあげるから!教えて......教えなさいよ、キンジ......!」

 

ずずいっ!とアリアが金次君に詰め寄ってた。

あっ!コレあかんヤツだわ。

私はグッと拳を握り、

 

「セイッ‼︎」

 

「ぐはッ!」

 

バァン!

金次君の右頬にストレートパンチを叩き込んだ。金次君の身体が一瞬、宙を舞う。

我が生涯で一番マトモに入ったパンチだ。

 

「あんたいきなり何してんのよ⁉︎」

 

「はい、金次君。今ので2回死亡」

 

床に伏せる金次君を見下ろす形で眺める。

気のせいか。腫れた頬とは別に彼の顔が赤い。何なの?まさか、君ってそっち系?

 

「金次君。今の君は危機感が足りてない」

 

「き、危機感って、何がだよ?」

 

腫れた頬を撫りながら立ち上がる。

 

「私の不意打ちに反応できないほど、今の君は弱い。これじゃ、武偵人生真っ暗どころか幕を下ろす事になるよ」

 

「パートナーのあんたが何で不意打ちすんのよ?」

 

「犯罪者の中には武偵ーーそれこそ相棒に変装して暗殺を企だてる者もいるからね。もし、私に成り代わった犯罪者に殺されても同じセリフを言うのかい?」

 

私はアリアと金次君の方を向いて、ニコッと微笑む。

その瞬間、2人が一歩後ろに引いた。

 

「さて、金次君。ここまで言えば分かるだろう?危機感が足りてない君に必要なモノが何なのか?それは強襲科でしか手に入らない」

 

「緊張感ーー強襲科で培った技術か」

 

「その通り。私の部屋でのやり取りからして、それは身に染みただろう」

 

「部屋って、あんたコイツの部屋に行ったの⁉︎身に染みたって、何したのよ‼︎」

 

アリアが私を指差す。

ちょっと彼に強襲科での感覚を思い出してもらいたかっただけさ。

 

「まぁ、そうだねー。あんな事やこんな事もしました」

 

ここでちょっとポッと顔を赤くする。

まあ、実際は大したことはしてないよ。

 

「へ、へ、へ、変態⁉︎あんた異性の相棒に手を出すなんて......!本当のケダモノね‼︎」

 

「違えよ‼︎そんな事実はない!零も紛らわしい発言をするな‼︎あー!分かったよ。戻ってやるよーー強襲科に。ただし、お前と組んでやるのは1回だけだ。戻ってから一件だけ、お前と一緒に解決してやるよ。零もそれでいいな?」

 

金次君がヤケクソ気味だ。

 

「いいよー。でも、分かってるよね金次君?」

 

「分かってる。転科じゃなく、自由履修として、強襲科の授業を取る」

 

武偵高では、自分が在籍していない専門科目の授業も自発的に受けることができる。これは自由履修と呼ばれ単位には反映されないのだが、多様な技術が求められる武偵という仕事に就くため、生徒たちは割と流動的にいろんな科の授業を受けているのだ。

武偵のアリアは金次君を欲しがっているーー猛烈に。

ヒステリアモードの彼に出会い、取り逃がしたことで、目をつけたのだ。

悪いけどアリア。君に金次君を、私のパートナーをあげるつもりはないよ。あくまで今回は協力という名のレンタルであって、購入じゃないからネ。もし、今回の件で手を引かなかったら排除するから。

 

「......いいわ。じゃあ、この部屋から出てってあげる」

 

金次君の譲歩案に、やっとーーアリアが出ていく宣言をした。

よかったね金次君。さて、ここの辺りで......

 

「あたしには時間がないし。その一件で、あんたの実力を見極めることにする」

 

時間がない?何か切羽詰まっているのかな?プライベートぽいね。

 

「......どんな小さな事件でも、一件だけだぞ」

 

「OKよ。かわりにどんな大きな事件でも一件よ」

 

言質は取ったからね。

私はポケットに忍ばせていたテープレコーダーを確認する。

 

「よし!じゃあ、お互い契約も成立したことだし、お開きにしようか」

 

私はアリアの腕を掴んで玄関に移動させる。

しかし、脚で踏ん張りを利かせているのか、アリアは動こうとしない。

 

「離しなさいよ。後、腕を掴むのに力を入れ過ぎよ」

 

「話は終わったんだし、早く帰れよ」

 

「頼むお前ら。もう、ベランダでの二の舞は勘弁してくれ。後、零。お前も帰れ」

 

 




ベランダの一件が答えて頭が冷えた零でした。
次回は強襲科にお邪魔します。あの二人組と、過去の負の遺産でアリアと零に悲劇が...,.

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