私は教授じゃないよ。大袈裟だよ   作:西の家

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なんとか書けました。バスジャック編は難しいですね。


バスジャック その2

キンジ時点

 

「「ヒャッハー‼︎助けに来たぜー!」」

 

対向車線から何かがやって来たーー目を凝らして見つめると、それはフォード・マスタングだった。それもオープンタイプに改造してある。馬のエンブレムが一際目立つ。

運転席には、何がそんなに楽しいのかーー狂暴な笑みを浮かべたボニーが、無造作に伸ばした金髪を靡かせハンドルを握っている。反対に助手席には、大きく布に包まれた細いモノーー形からして銃器だろう。大事そうに抱えたクライドが座っている。此方もボニーに負けないくらい狂暴な笑みを顔に貼り付けている。

車に乗っている2人の姿を見回す。

相変わらず派手に改造したダメージ加工のセーラー服だ。武偵が『出入り』の際に着込む、攻撃的な装備ーーC装備とは違う。

 

2人の姿を目にした瞬間、俺は口をあんぐりとだらしなく開けた。最悪だ、いや災厄だ。

 

「何でアイツらを助っ人として呼んだ?もっとマトモな奴はいなかったのか?」

 

「あー、そこは私からの進学祝いと思ってよ」

 

俺は零の顔をじーっと捉えながら質問する。

絶対に動かせるヤツらがあの2人しかいなかったな。あと、あんな進学祝いはいらねぇよ。貰う方が迷惑するだけだ。

迷惑の根源ーーボニーとクライドに視線を移す。

 

ーーグォオオオオオン‼︎

 

獣の咆哮にも似たエンジンをトンネル内に響かせ、フォード・マスタングはバスの後方にバックで張り付いた。

ハンドルを握るボニーはバスとギリギリぶつかるか、ぶつからない距離感を保っている。大した運転技術だ。この腕なら車両科でも十分に通じるな。

バスの後方に来ると、ボニーとクライドはこちらに顔を向けて、

 

「よっ!キンケツ。人が助けに来てやったのに、自分はこんな時に発散かヨ」

 

「シかも、走行中のバスの上でお楽しみとはやるね〜」

 

呑気に話しかけてきた。

お楽しみって、何の事だ?俺と零を見てニヤニヤしやがって。

零を見てみると、制服のボタンが外れ、綺麗な曲線美のくびれと見事な輪郭の胸が丸見えだ。

 

「ち、違う!これは事故だ」

 

バス内でのやり取りが鮮明にフラッシュバックする。

しまった......あの時、怒りに我を忘れて零と取っ組み合いになった。その過程で俺は零の制服のボタンを剥ぎ取り、今の姿にしてしまった。それに抵抗して零は俺の頭にクラッチを決めてきた。柔らかい太ももの感触がまだ残っている。必死に抵抗する零の表情も鮮明に蘇るーー若干涙目だった。

 

ドクン!ドクン!

 

自分の血流が早くなる。落ち着け!ヒスるな。あんな状況下でのやり取りでヒスったら、金輪際、どんな事をされるか分からん。

 

「何が違うのかな?金次君。私を押さえつけて......その上、無理矢理......これは白雪さんにチクろう」

 

零が淀んだ目で俺を睨む。普段の零の瞳ーールビーの様な真っ赤な目と違い、変装しているからだろう。碧眼の目で睨まれると違った迫力がある。

やめてくれ!そんな目で俺を見ないでくれ。あと、白雪にチクるな。俺が死ぬ。

 

「本当にすまなかった。あの時、俺はどうかしていた」

 

「ま、まぁ、私の方も紛らわしい事をしていたから......私も悪かったよ」

 

俺が謝ると零は意外にもスンナリと許してくれた。今日はどうしたんだ?何時もなら揶揄ってくるのに......バスジャックで緊急事態だからか?なんで口を尖らせて喋る?

俺たちのやり取りをバスの下からボニーとクライドは、またニヤニヤしながら眺める。腹が立つからやめろ!

 

「このまま眺めるのもいいけど......それどころじゃなさそうダ。なぁ、クライド?」

 

「ダな、ボニー。オーい、お二人さん。イチャイチャしてないで前を見ろ。前を」

 

だからイチャイチャしてねぇよ。

クライドが指し示す方角にはスパイダーが見えるーーその数は合計12台だ。ボニーとクライドが駆けつける前は、全部で10台だったのに2台も増えてるぞ。

スパイダーは隊列を組み、こっちに向かってくる。

 

「あちゃー、どうやらヤッコさん。まだ、伏兵を隠していたか。大方、トンネルの入り口付近に待機させていたか」

 

零は冷静に顎に手を添えてスパイダーを観察する。

バスの走行風に吹かれて、ボタンの取れた制服がバタバタとはためく。

前を何かで隠せよ。そんな姿にしたのは俺だけどよ......

 

「ボニー先輩⁉︎どうしてここに⁉︎」

 

「クライド先輩もいるよ!」

 

バスの窓から後輩ーー強襲科生達が顔を覗かせた。

後輩達に余程慕われているのか、その顔はボニーとクライドの登場に歓喜している様子だ。

元強襲科として言わせてもらうが、無防備に顔を覗かせるなんて、相手に撃ってくださいと言ってる様なものだぞ。

 

「「この出来損ないの野郎どもめ‼︎」」

 

ボニーとクライドは突然怒鳴り声を上げた。

走行中だというのにボニーとクライドの怒鳴り声はよく響いた。

 

「何ビクビク縮こまってやがル!」

 

「オ前らは誰かに水を与えられるのを待つだけの雑草か‼︎」

 

ボニーは運転中にも関わらず、腰に斜め掛けされた革ガンベルトから拳銃ーーコルト・グリズリーを引き抜いた。

 

『コルト・グリズリー』アメリカのコルト社が1986年-1990年まで生産していた「MK-Vシリーズ」の回転式拳銃『コルト・キングコブラ』にパイソンの銃身を取り付けた1997年ごろの製品で限定品だった。おまけににシリンダーはノンフルーテッドだ。

 

ーードォン!ドォン!ドォン!ドォン!

 

ボニーは後ろ向きで、あろう事か後輩に向かって発砲した。突然のボニーの凶行に後輩たちは「ヒィ⁉︎」と短い悲鳴をあげて、バスの中に縮こまってしまった。後輩たちを殺す気か⁉︎

 

「お前らに教えたよナ!誰も助けちゃくれねぇ!最後に頼れるのは自分だけだとヨ!」

 

「自分の力を信じろ!自分を信じられなくなったら、そこでくたばるだけだ!」

 

未だバスの中で縮こまっている後輩達に向かって大声で叫ぶ。

言ってる事はメチャクチャだが、まぁ、合ってるっちゃ合ってる。しかし、最初の発砲は無いだろう。

 

「そ、そうだな!やるしかない!」

 

「よっしゃぁぁ!やってるぜ!」

 

ボニーとクライドのメチャクチャな言葉に心動かされたのか、縮こまっていた後輩たちが反撃に出た。強襲科で見た顔もいれば、車両科もいるし、ドンパチと殆ど縁のない情報科や衛生科の奴もいる。

 

パァン!パァン!

 

ドォン!ドォン!ドォン!

 

スパイダーに向かって、上手く狙いを定めて撃つ奴もいれば、見当違いな所に発砲する奴もいる。

撃たれるかもしれないのに、大胆にも身体を窓から出して発砲する奴もチラホラいるぞ。後輩だけにやらせる訳にはいかんな。

俺も眼前のスパイダーに向かって発砲する。続けて零もしゃがんで発砲する。お前はちゃっかりと安全姿勢かよ。

 

「ヒャハハ、これこそ銃撃戦の醍醐味だよナ!」

 

「名誉の死で俺たちの最期を飾るとしよぜ!」

 

ボニーとクライドはタダでさえ狂暴そうな笑みをさらに強める。この状況がいたく気に入ったようだ。お前らは戦闘狂か⁉︎銃撃戦の何処が楽しいんだよ。下手したらお前らも死ぬぞ。

 

バリバリバリバリバリバリ!

 

撃たれてばかりではいられないと、スパイダーが反撃に出た。

12台の銃座のUZIから銃弾の雨が容赦なくお見舞いされた。

後輩たちはバス内に、俺と零はしゃがんでやり過ごす。

ガァン!ガァン!とバスに被弾しているのが分かる。今までの比じゃない。

まずいぞ!俺らは兎も角、バスの後方にいる2人には銃弾を遮るモノがない。乗車しているフォードマスタングだけじゃ防ぎきれないぞ。

 

「イテェなこの野郎‼︎」

 

銃弾の雨の中、ボニーは立ち上がった。防弾制服だけでアレを耐えたらしい。防弾制服で銃弾は防げても、衝撃までは防げないんだぞ!どんな身体をしているんだ?あと、ハンドルから手を離すな!クラッシュするぞ。

俺は2人が乗車しているマスタングをバスの屋根から顔だけ覗かせてみると......あ、足でハンドルを操作してやがる。お前は曲芸師か⁉︎アクセルはどうしてる?

運転席から立ち上がったボニーはアクセルを踏んでなく、代わりにクライドが助手席下に、あれアクセルか?らしきモノを踏んでいる。車の教習所の教官が、教習生と実際に一緒に乗車し、緊急時にブレーキをかける為、助手席に設けられているブレーキ。そのアクセル版か。

 

バリバリバリバリ‼︎

 

銃弾は容赦なく2人を襲う。

ボニーは撃たれながらも姿勢を崩さず、足でハンドル操作を、クライドはパリンと、頭にかけていたサングラスをUZIに砕かれながらも、布に包んだ銃器を側に抱えたままだ。

クライドはなんで何もしないんだ!さっきのはマジでヤバかったぞ。下手したら頭を撃たれていた。

スパイダーはさらに接近してくる。

 

「よーし、そのまま来いヤ」

 

ボニーは腰のガンベルトからもう一丁コルト・グリズリーを抜くと、前方を走る4台のスパイダーたちに発砲した。

 

ドォン!ドォン!ドォン!ドォン!

 

放たれた4発の銃弾は一切の狂いなく、吸い込まれるように銃座のUZIの銃口に飛び込み、

 

ズガガガガガガンッ‼︎

 

4台のスパイダーたちは吹き飛ばされた。

スゲェ......走行する車からあの体勢で発砲したのに、あの命中率は驚きだ。メチャクチャな性格の割に何て腕だよ。

2人が何もしなかったのは、スパイダーが有効射程に来るのを待っていたからか。無駄玉(後輩への攻撃は兎も角として)を減らすのが目的か。

 

「やれイ。やっちまえ、クライド!」

 

「アあ、くそッ!最近、弾の相場上がってんだぞ、クソッタレ!」

 

ボニーの合図にクライドがバサッと、銃器を包んでいた布を取り払った。取り払った布が宙に舞い、その下から姿を現したのは、ラインメタルMG3。

第二次世界大戦中のMG42を、戦後の運用状況にあわせて再設計した汎用機関銃である。この銃の基設計は、第二次世界大戦当時のドイツ国防軍の汎用機関銃であったMG42であるが、使用弾が7.92x57mmモーゼル弾から7.62mm NATO弾に変更され、同時に弾薬リンクもNATO標準のM13分離式リンクが使用可能になったことが最大の相違点で知られる。

銃検査に通せば完全にアウトだ。あの姉妹のやり過ぎぷりを間近で見てきたから今更、もう銃くらいで驚かない自分はどうなんだろうか......

 

クライドはラインメタルMG3に弾帯を装填すると、銃に取り付けてある二脚銃座をドォンとマスタングのボンネットに突き立てた。

思いっきり突き立てられたボンネットには凹みができる。マスタングに何て事をするんだよ。武藤が見たら悲鳴を上げるぞ。

そんな事など御構いなしとばかりにクライドは引き金を引いた。

 

ガガガガガガガガッ!

 

ラインメタルの銃口から無数の銃弾が火を噴く。同時にパラパラと車道に空薬莢がばら撒かれる。

 

ズガガガガガガン!

 

狭いトンネル内では逃げ場がなく、スパイダーの隊列はクライドの容赦ない銃撃の餌食となった。

使用している銃弾が7.62mm NATO弾とはいえ、この威力は異常だ。

スパイダーが原型を留めてもいない。明らかに違法改造してある。対人使用だと一瞬でミンチだな。

銃撃戦を繰り広げるバスはトンネルを抜けて、お台場に出た。トンネル内にいたから分からなかったが、外は豪雨だ。バスの外にいる俺と零に容赦なく雨が降りかかる。

 




今回はボニーとクライドをメインにしてみました。
次回あたりでバスジャックは''解決''にしたいと思います。

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