私は教授じゃないよ。大袈裟だよ   作:西の家

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皆さん、お盆はどうでしたか?私はUターンラッシュの対応でヘトヘトです。今年は人が多かった......
夜に執筆したので、変なところがあるかもしれません。ご了承ください。早く前の投稿ペースに戻れるようにしなくては‼︎自分に気合を入れてきます。


計画始動

零視点ーー

 

私は昼過ぎに退院し、モランにタクシーを手配してもらった。

病院を出る際、そっと手をお腹に当てる。うん、今はお腹も安定している。何?.....間に合ったかって?何の事さ?分からないよ。

取り敢えずタクシーに乗り込み、適当にその辺りを走ってもらおう。気晴らしのドライブというやつだ。

私が乗り込むと、運転手がくるっと振り返り、

 

「出し......退院おめでとうモリちゃん」

 

聞き慣れた声で話しかけてきた。この声は......

 

「あれ?もしかしてアップルかい?」

 

「アッタリー‼︎そうだよ」

 

運転手もといアップルが乗っていた。ご丁寧に変装までして。彼女の姿は頭に制帽、背丈は平均的な平凡な顔立ちの女性運転手だ。

どこから見てもタクシー運転手にしか見えない。いや、タクシー運転手に化けないと不自然か。あと、退院おめでとうの前に何か言わなかったかい?出し......出所かな?

 

「モリちゃんが病院に運ばれたって聞いて、私驚いちゃったよ」

 

「心配かけてゴメンね」

 

私の謝罪を合図に発車する。

フッと後部座の窓から空を何となく眺める。今は雨が上がっているが、また降り出しそうな曇り空だ。

 

「モランにタクシーを手配してもらったけど、まさかアップルが来てくれるとは思わなかったよ」

 

「私からモランちゃんにモリちゃんを迎えに行かせてって、お願いしたんだー。ついでにモリちゃんには内緒にしてってね☆」

 

キュピンとバックミラー越しにウインクしてみせるが、今の彼女の姿でやられると、不自然にしか見えない。

モランがね......サプライズのつもりかな?

 

「そうなんだ......まぁ、いいけど。そのモランから聞いてると思うけど」

 

「勿論聞いた。『武偵殺し』を本格的にヤルんだってね。準備の方は進んでるよー。夜までには完了するってさ」

 

「それで炸薬量は?」

 

「えーっと、確かド派手にやるって事だから......ざっと2000ポンド」

 

ーーブッ⁉︎

私は思わず吹いた。に、に、に、2000ポンドって、日本の単位に直すと1トンじゃん。

『武偵殺し』どころか東京都が吹き飛ぶよ。

 

「因みに爆弾を魔改造したのは誰?」

 

「へーちゃんだよ。『どうせやるなら、ド派手にいきませんとな!イタリアに負けてられるか‼︎』だってさ」

 

あの人は......私は思わず頭に手を当てて唸る。イタリアーーベレット社は爆弾を作ってたかな?あの会社は銃器がメインだった筈......

ヤバイ、頭痛がしてきたよ。誰か頭痛薬を......っていないか。

 

「ハァー、用意してしまった物は仕方がないか......爆弾の全長は?」

 

「87.4インチ」

 

「直径は?」

 

「10.75インチ」

 

「種類は?コンポジションB?それとも、コンポジションCかい?」

 

「コンポジションCーーC4爆弾を使用しております」

 

「パーフェクトだ、アップル」

 

「感謝の極み!って、コレやりたかっただけでしょう?」

 

某吸血鬼アニメのネタを披露する。流石、アップル。あのシーンも見ていたか。このネタはヘルダーにやってあげると、メチャ喜ぶんだよね。その内、あの化け物拳銃を作ってしまうのではないか?ヘルダーなら、マジで作りそうだ。使用者の安全性を全く無視するし......今はどうでもいいか。

 

「アップル、このまま新宿警察署に向かって」

 

「あれ?てっきり、マンションに戻ると思ったのに」

 

「現在、新宿警察署に勾留されているK氏についてはアップルも知ってるでしょう?」

 

「うん。『武偵殺し』の替え玉でしょう?その人がどうかしたの?」

 

「その替え玉の正体はアリアの身内なんだよ。その人から聞きたい事があってね」

 

「あれれ?モリちゃん、悪そうな顔しているね〜」

 

バックミラー越しに私の顔を見て、アップルがニヤニヤと笑う。

そんなに悪い顔をしていたかな?ただ、私はK氏に直接アリアについて教えて欲しい事があるだけだ。

 

「私はねK氏からの情報を元に......アリアを利用できないかなって、考えているだよ」

 

「利用って、何をやらせるの?」

 

アップルは分からないという顔だ。

私はアリアに『武偵殺し』こと、りこりんを仕留めて貰おうと考えている。最初は金次君に仕留めて貰おうと思っていたが、彼にやらせるのは嫌になった。金次君には......手を汚して欲しくないと思えてきたからだ。私情で計画を変更するとは言えないーーこれだけは絶対にね。

 

「突然で悪いけど計画変更だ。舞台は空の上ーー飛行機にしよう。空なら逃げ場がないからね」

 

「飛行機にするの?突然だね。最初はホテルでヤルって言ってたのに」

 

どデカイ花火をセットしてくれたのに、私の我が儘で変更することになって、本当にごめんね。我ながら勝手だ。

 

「一フロアを吹き飛ばすだけなら、良かったんだけど......ヘルダーが張り切っちゃったから、ね?」

 

「あー、そうだよね......うん!分かった。計画変更って皆んなに伝えておくよ」

 

何とか納得してくれた。

あー、よかった。アップルは話がわかる子で助かったよ。

さて、計画変更にあたってアリアをどうするか......私は側頭部に手を添え思考する。

アリアをどうやって飛行機ーー対決の舞台におびき出すか。

りこりんの狙いはアリアだ。彼女が飛行機に乗り込めば、必然的にりこりんも乗り込む事になる。そこを仕留めればいい。

りこりんが勝とうが、アリアが勝とうが”どうでもいい”。最後はみ〜んな吹き飛ぶのだから。

 

「アップル的にはアリアと『武偵殺し』を戦わせるなから、どうやる?」

 

「モリちゃんが意見を求めてくるなんて、珍しいね。う〜ん、そうだね......飛行機に乗せるなから、そうなるように仕向けちゃえば?」

 

「ははは、成る程ね。素晴らしい意見をありがとう」

 

見事なまでの直球な意見だね。しかし、理にかなっている。

そうなるようにか......再び思考する。

 

ホームズ一族は代々探偵の一族。探偵ーー推理。

アリアは推理が苦手な様子だった。そんな彼女が果たして一族の一員として認められているかと言えば、答えはNoだ。

彼女はホームズ一族の中では除け者扱いされている。そういった人間がホームズ性を名乗っているのには、訳がありそうだ

 

心の在りどころ又は支えーー特定の身内?ーー現在は勾留中。他の人物?

イギリス貴族は能力のない人間には厳しいと聞く。例えそれが身内であってもーールイスからの情報なので有力だ。

貴族であり続けるのには、並み大抵の気力では務まらない。身内となれば尚更だ。

ホームズ性を名乗り続ける理由が必ずある。それは利用すればいい。

強い憧れーー特定の人物ーーシャーロック・ホームズ。

 

「アリアは初代ホームズに憧れているのかもしれない」

 

「ようやく戻ってきてくれた。モリちゃん、考え過......うわっ!」

 

アップルが叫ぶと同時に車体が大きく右に傾く。それに伴い私の身体が大きく揺れる。

ギギィィィーーーー‼︎

鼓膜が破れそうなブレーキ音が鳴り響く。タクシーは反対車線をギリギリではみ出なかった。あ、危なかった〜。

 

「突然、どうしたのアップル?」

 

「なんか道路に猫が飛び出してきたんだよ」

 

猫?そんなの居たかな?思考する事に夢中になって気づかなかったか......まぁ、いいか。

気を取り直し、再び思考を開始する。

 

初代ホームズに強い憧れを持っている。ホームズは卓越した推理力と鋭い勘の待ち主だった。自分に推理力が無くても、勘があれば曽祖父と同じとはいかなくても、少しは近づけると思っているかもしれないネ。それを心の支えにして今まで頑張ってきたか......

そこまで行き着くと思わず頬が緩くなる。

 

「うわー、またモリちゃん悪い顔しているよー。それって、アレだ。僕の勝ちだ、って言う前の顔になってる」

 

「えっ?私ってそんなに悪い顔してる?」

 

「うん。悪の顔だ。そんな顔していると死亡フラグ立つ......うわっ‼︎」

 

グリリィィィィーー‼︎

 

今度は車体が大回転ーースピンし出した。グルグルと回転し、危うくガードレールに激突しそうになるが、何とか止まった。

 

「今度はどうしたの?」

 

「分かんない。突然、ハンドルを取られちゃった」

 

ハンドルを取られたって、道路に油でも撒かれたのかい?後ろを見てみるが、道路には真っ黒なタイヤのブレーキ跡以外は何もない。気のせいか?車内がやけに冷える。冷房は効いてないはず......

 

「......このまま走って」

 

「本当に?なんかヤバそうだよ?」

 

引き返そうよ、と顔で訴えるアップルを無視して、私は彼女に車を走らせる。また思考し直しだ。

アリアはホームズに憧れている。なら、その憧れが崩れるーー輝かしい英雄像がまやかしだったどうなるのやら。

この一つに行き着いたとき、私の中でプランが決まった。ルイスの協力が必要だね。

 

キキィーーーー‼︎

 

突然アップルが急ブレーキをかけた。Gに引っ張られて、私の体は前屈みになる。

痛っ⁉︎前のシートに頭をぶつけちゃったよ!

 

「今度はなに?」

 

痛む頭を抑えながら、アップルに尋ねる。

 

「いや、ちょっと前にね.........コラー‼︎危ないじゃないか!」

 

運転席の窓を上けて、アップルが声色を変えて怒鳴る先には女の子が道路上に倒れていた。ツインテールの金髪に、着崩した制服姿の可愛らしい子ギャルだ。

年頃と服装からして学生かな?でも、この辺りでは見かけない制服だ。年頃からして後輩だね。

女の子はピクリとも動かない。もしかして、アップル引いちゃった?しかし、車には衝撃は走らなかった。ギリギリで引かずにすんだかな?

暫くして、彼女はムクリと立ち上がった。よかった〜大事に至ってないようだ。

私がホッとしていると、彼女は私の方ーー後部座までやって来て、コンコンと窓を叩き始めた。

ーーなんだろう?窓を開けてみる。

 

「ちょっとお姉さん!危ないじゃないか!あと少しであたし引かれる所だったよ!」

 

窓を開けて早々、マシンガントークが襲って来た。これはアレかな?いわゆる当たり屋ってヤツだな。自分から車両に当たりにいって、慰謝料を要求してくる手口だ。

この場合、私じゃなくアップルに要求してくるのが妥当じゃないかい?でも、これは明らかに悪質な要求だ。アップルが従う必要はない。

 

「君〜絶対にワザと当たりにきたでしょう?」

 

寄ってきた彼女をジッと観察する。うん、明らかに典型的な当たり屋だ。器用な事にギリギリ接触しない位置で車道に飛び出したね。

 

「違うしー!当たってきたのはそっちだしー」

 

「コラーッ!車から離れなさい!」

 

彼女は食い下がる。どうやら、意地でも認めない様子だ。

タクシーに張り付く彼女をアップルが注意するが、効果はない。

どうしよかなー、この場合は示談ではなく、警察に通報するのが一番だ。示談だと、後でどんな要求をしてくるか分かったものじゃない。

しかし、今は『武偵殺し』の件もあるし、警察沙汰は正直御免だ。

 

「ちょっとばかり、お金を恵んでくれない?さっきので、手を悪くしちゃってさー」

 

彼女はひらひらと手を見せびらかす。捻挫もしていない綺麗な手だ。

どこも悪くないでしょう。賭けてもいい。

まずいな〜時間をかけていると野次馬が寄ってきそうだ。

私は窓から袖をピンと伸ばして、袖の中に仕込んであるスリープガンを彼女の額に当てた。

 

「ひぃぃ⁉︎ご、ご、ごめんなさい‼︎どうか、ご勘弁を......!」

 

彼女は悲鳴を上げて、顔を庇うように遠ざかった。

タクシーから離れたことを確認し、私はスリープガンを仕舞い込み、アップルに発進するよう指示する。

 

「どうしたのモリちゃん?何だか、いつものモリちゃんらしくないね」

 

「うん?いつものって?」

 

「今日のモリちゃんはイラついてるなー、って思ってさ」

 

「あー、ちょっと色々あってねー」

 

私は無意識にお腹を摩る。ここまで来る途中、カーアクションのせいか......お腹の調子が悪くなってきた。これも全て、アリアが買ってきた差し入れのせいだ。アレはあん饅に見せかけたももマンだ。間違いない!

アリアは私の変装ーーキョウはももマンが嫌いだとは知らない筈......誰かの差し金か?

 

「......なんか、興が冷めてきちゃった。やっぱり、このままマンションに戻って」

 

偽あん饅事件について思考していると、何かどうでもよくなってきた。早く帰ってプランの再確認をしないと......

タクシーはそのままマンションーー新宿警察署のある方向とは反対に走っていった。

 

 

 

 

後日ーーあらゆる報道機関は一つの話題で持ちきりになった。

特にイギリスーーお昼のロンドンでは、

 

『シャーロック・ホームズにイカサマ師の疑いが掛かる⁉︎』

 

『全てはでっち上げ!解決した事件の数々はホームズによる自作自演』

 

『誰もが知るホームズとワトソンの初の出会い。ワトソンの経歴を当てたのは、推理ではなく予め調べてあった。動機はこいつ凄いなと思われたかったから』

 

『宿敵ジェームズ・モリアーティは実在しなかった。ホームズが雇った役者。犯罪組織など始めから存在せず』

 

『ホームズ邸に報道陣が詰め寄り、一時パニック状態に。周辺の道路が通行止めになる』

 

『ホームズ家は全面的にコレを否定』

 




最後のネタはドラマ「シャーロック シーズン3」を使わせてもらいました。

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