投稿が遅くなり誠にすみません!
最後の投稿から半年以上が経過していました。
これから投稿再開していきますのでよろしくお願いします。
深夜0時を回った頃、私はモランを連れて人気のない武偵高の地下最深部へと足を運んだ。
元々、この武偵高が立つ人工浮島は都市開発の折に東京湾に建設されたが、予算の都合や人手不足などで途中放棄され、それを武偵庁が学園島として安く購入したのだが、途中放棄された為、様々な欠陥も抱えている。
例えば、浮体ブロックのつなぎ合わせが甘かったり、固定する杭の本数が基準より少ない。
或いは、武偵庁・学校の教職員も把握できていないーー見取り図には載っていない地下空間などだ。
モランが3重の金属板の扉を開け、そこから船のデッキみたいな多重構造を階段を使って下り、さらに下へ下へと下って行く。
地下4階、5階と下りて行きーー"地下8階"に到着。
武偵高の最深部とされる7階地下倉庫よりも深い場所ーー公式には載っていない隠し空間『地下工房』だ。
生徒会長に就任した際に、学園島を調査して発見した。私を含め限られた人間しか知らない。
電気・換気設備も充実してあるので、地下空間は明るく清潔に保ってある。
『地下工房』と名の通り、広々とした空間にはドンッカンカンと音をあげて稼働する機械類や使い込まれた工具が置かれた作業台。
そして、作業場を抜けた先にあるガラス張りの陳列棚には、装備科顔負けの銃器・仕立屋にあるような衣類が所狭しと並んでいる。
ここにある全ては"組織の活動"に必要な装備品やメンバーが個人的に使用する物資など......ここで生み出されるのは組織の粋を集めた物ばかりーー他組織の一歩二歩先を行くべきものとして作られた施設である。
相変わらず凄いね〜見渡すだけで惚れ惚れするよ。
あっ!このスーツいいね!一着くらい貰っていこう。
側のハンガーラックに掛かっているダークスーツを手に取ろうとした時、
「教授ダメですよ。私の許可なく勝手に持ち出されては」
コッコッと革靴を鳴らし、黒のスリーピーススーツを着こなし、薄い金髪、目には真っ黒な遮光眼鏡、手にはグラスファイバー製の安全杖で周囲を確認しながら此方へと向かってくる男性の姿が。
「やあやあ、ヘルダー」
私達を出迎えてくれた彼こそ、『地下工房』の最高責任者フィン・ヘルダー。
遮光眼鏡と安全杖を必要しているから分かるように、完全な盲目であるが、超か付くほどの腕前を持つ銃技師でもある。
「新しい工房にはもう慣れたかい?」
「えぇ。まぁ、地下排水のせいで多少臭いますけど」
彼は「フフ」と陽気に笑ってみせる。
排水の臭いとな?換気はしっかりとしているはずたが......
試しにクンクンと嗅いでみるが、機械油の匂いしかしない。
匂いはさておき、3人で工房内を歩き出す。
「そういえばレインボーブリッジで使った銃どうでしたか?上手く改造しておいたので、不具合は出なかったでしょう?私が手掛けた自信作でしたし」
りこりんの一件で使用した銃の事をモランに尋ねてくる。
あの事件に際して、彼に平賀さんの銃の改造を頼んでおいた。
平賀さんの銃は決まって一つは不具合が生じるから、万全の状態で挑む必要もあり、彼女には悪いが改造は致しかねない。
ヘルダーも平賀さん特製の銃を前にした時は燃えて(物理的に)仕事に取り掛かったし、万事OKだよね。
「壊れました。ちょっと強くトリガーを引き過ぎて」
モランの簡潔な答えにヘルダーは「ええッ⁉︎」と驚愕する。
「な...何て事を....!あれほど乱暴にするなって、ちゃんと伝えたじゃないですかッ‼︎只でさえ貴女馬鹿力なのに!」
「いえ、イライラしていたものですから。うっかり....」
「じゃないですよ‼︎改造にどんだけ手間がかかったと思ってるんですか⁉︎今度壊したらブチ殺しますよ‼︎」
自分の改造した銃が壊された事がショックなのか、暗いため息の後、側の壁に手をつけ、ブツブツと念仏のように何かを呟く。
銃の事となると神経質になるから仕方ないけど。
「あの......ヘルダー。本題に入ってもいいかい?」
ここで私は話題を変える為、落ち込むヘルダーに話しかけると、
「......あぁ......銃の件ですね......こちらへ」
彼は察したのか、工房の一角に案内する。
ここに来た目的は遊ぶ為ではないーーモランの新装備を受け取る為に来たのだから。
工房の一角に移ると、そこには作業台に置かれた一丁の狙撃銃が。
ソレをモランは当たり前のように手に取ると、
「エルマSR100......いや、DSR-1ですか」
「えぇ。ボルトアクション式は勿論、初弾の着弾性が特出しており、様々な戦術にも直ぐに対応出来るオプションが備えられています」
ヘルダーの解説を他所にし、モランは黙々と銃の動作を確認する。
同性の自分から見ても、銃を構えるモランの姿はカッコ良く見えるね。
一通りの動作を終えると、モランがある事に気付く。
「銃身の溝が滑らかになってますよ。これでは精度が落ちてしまいます」
銃身にはライフリングと呼ばれる螺旋状の浅い溝があり、銃身内で加速される弾丸に旋回運動を与え、ジャイロ効果により弾軸の安定を図り直進性を高めるのだ。
ライフリングのない状態で実弾を発射すると、旋転されない弾丸は空気抵抗を受けて横弾となったり、でんぐり返りながら飛ぶので命中精度は全く期待出来ない。
そんな疑問に目を向けるモランを尻目にヘルダーは「ふふん」と鼻で笑うと、
「この銃はコレの使用を前提に製造したのですよ」
私達の眼前に1発の銃弾を見せてくる。
外見はただの308ウィンチェスター弾だが、私は一目で銃弾の正体に気付いた。
「あぁ、成る程スマート弾か」
「何ですかそれは?」
モランが説明を求めてくる。
おや?彼女はスマート弾を知らないようだ。全くしょうがないな〜。
「GPSとレーザーで誘導できる銃弾の事だよ。一度ターゲットにロックオンしたら遠回りしようが、ターゲットが動いても命中するんだよ。だから......」
「独自の誘導システムがあるので銃身に溝がなくても問題ないのです」
最後の解説辺りでヘルダーが割り込みをかける。
銃の自慢がしたい気持ちは分かるけど、そこは遠慮してよね。
「説明は分かりましたが、肝心の照準システムがなければ意味がないのでは?」
「それでしたら問題ありませんよ」
モランの問いに答える否、それを待ってたとばかりにヘルダーが私に差し出してきたのは、一台のタブレット端末だった。
一般販売はまだされていないのに、もう手に入れてあるとは流石はヘルダーだね。
「その中にスマート弾の照準システムが入っていますので、調整の方はお手数ですが......」
「OK。こっちの方でやっておくよ。寧ろ、専門的なものだからさ」
武偵として培ってきた、プログラミングの見せ所だ。自然と腕がなるよ。
一通りの説明を終え、モランにケースに納めさせて工房を後にしようとした時だった。
作業台の上、正確には隅っこにぽつんと置かれたモノに私の目がいったのは。
それは手錠だった。
一般的に武偵が使用するものとは違い鉛色をしている。
手に取ってみると、輪の部分にアルファベットで「F」の刻印が。
「おや、新作の手錠だね。これも貰っていくけどいいよね?」
「またそうやって勝手に......まぁ、いいですよ。それに関しての説明はいりますか?」
「自分で使い方を調べるからいいや」
最後にそう言い残し今度こそ工房を後にしようとするが、
「教授、最後にちょっといいですか?」
ヘルダーに呼び止められる。
この流れはもしや......
「ドイツ銃は?」
「超最高でしょう?分かるよ」
「......本当ですか?私に隠れてベレッタを賞賛してないでしょうね?ドイツ銃を虚ろにしてませんよね?馬鹿にしてませんよね?時代遅れなんて思ってませんよね?あと....」
延々と呪詛のような問いかけがくる。
怖い怖い怖い‼︎地下の暗がりでそんな事を口走っりながら来られると超怖いんだけどさ!
「大丈夫だって!ドイツ銃は素晴らしいよ。ねっ、モラン!」
「はい、素晴らしいの一点張りですとも」
ここでヘルダーを宥める為、モランと一緒にドイツ銃を褒めまくる。
ヘルダーはドイツ銃に関しては病的なまでに誇りに思っているのだ。
悪口など以ての外、下手したら殺されかけない。
特にベレッタ社を目の敵にしている。なんでもベレッタ社お抱えの銃技師とウマが合わないそうな。
「ですよね。おふたりなら分かってくれると思ってました。最近はベレッタに人気と取られて散々な思いで......ドイツを時代遅れ呼ばりしやがった、あのチビ絶対ぶっ殺したる!ドイツこそ最強じゃあぁぁぁ‼︎ドイツ万歳!」
ヘルダーの雄叫びが工房内に響き渡る。
完全にキャラ崩壊じゃん。
いつものですます口調はどこへ?火星辺りまで飛んで行ったのかな?
「あーはいはい。分かった。分かりました。ドイツばんざーい。行くよモラン」
途中から完全に個人的な恨み言を始めたヘルダーに付き合い切れず、私とモランは逃げるように今度こそ工房を後にした。
最後に仕事中にケガだけはしないようにしましょう!
特に利き手をケガすると大変ですから......ご飯食べたり、スマホが使い難い(涙)