オリジナルライダー設定集   作:名もなきA・弐

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以前短編で投稿した色彩ライダーのリメイクです。

リメイク前はこちら →https://syosetu.org/novel/114713/32.html


仮面ライダーファルベ 色を失くした色彩ライダー

それは、バケツをひっくり返したような酷い雨の日だった。

何処までも広がる青空が灰色の雲に覆われ、近年稀に見る豪雨の中を一人の男性が慌てたように走る。

 

「あーったく、買い物帰りって時に!」

 

年は四十代ぐらいの、それでも背筋がしっかりとした長身の彼『色ヶ谷縁(しきがやエニシ)』は人懐っこい印象を与える顔立ちをしかめながら、買い物袋を抱えたまま転ばないように足を動かす。

片手で差している傘は頭を守る程度の役割しか果たせておらず、上下の衣服もずぶ濡れとなっていた。

「帰ったら最初に風呂だ」と今日の天気に愚痴を零す代わりにそう独り言ちながら、慣れ親しんだ道を走っていく。

 

「……んっ?」

 

やがて自宅まであと少しのところで、思わず足を止めた。

気になった縁が路地の方に視線を向けると、一人の少年が座り込んでいた。

傘も差さず、雨や土で汚れたコートで身を守るように……。

 

「なっ!?」

 

この雨の中で服を着ていない少年に慌てて駆け寄り、自分が濡れるのも構わずに雨から彼を守るために傘を向けると安否を確認する。

 

「おい、大丈夫かっ?」

「……」

 

ここで、ようやく少年は顔を上げた。

虚ろな表情は焦点が定まっておらず、呆けたようなあどけなさの残る顔で男性を見つめる。

同時に、縁は少年の姿を見て驚いた。

短く切られた髪は白くなっており、ストレスや遺伝子による白髪……というよりは色素が一切なく、まるで色が抜け落ちたよう。

虚ろな瞳もまた色がなく、硝子のような無彩色の視線が縁に向けられている。

 

「……俺は」

 

少年が口を開く。

必要以上に低くもなければ高くもない、声色すらも何処か色味が感じられない。

それでも言葉を聞き逃さないように、縁は次の言葉を待つ。

だが……。

 

「俺は、誰なんだっ」

 

頭を抱え、悲痛な表情で少年は問い掛けてくる。

同時に、縁は気づいてしまった。

目の前にいる少年は記憶も姿も声も、自分自身という『絵』を構成する全てが失ってしまったのだと……。

それは、モノクロに染まった酷い雨の日のことだった。

 

 

 

 

 

人が集まり、賑わうテーマパーク内で悲劇は起こっていた。

大勢の家族連れや恋人たちが恐怖と混乱で逃げ惑い、パーク内のスタッフたちが懸命に避難誘導を行う。

多くの来客を楽しませるためのアトラクションは全ての機能を停止し、束の間の休憩地である飲食店も破壊され尽くしている。

しかし、それは強大な力によって破壊されたものではない。

 

『……』

 

騒ぎの根源であるエバーグリーンの霧がゆっくりと動く。

それが過ぎ去った場所は瞬く間に砕けてしまう……が、それは暴風などではない。

周囲の器物は壊れたというよりは、奇妙なことに無数の生物が齧った痕跡が残っている。

実際に、その印象は正しい。

あれは霧などではない。

 

『ギシィィィィィィィッ』

 

甲殻類の如き棘を生やした小さな蝗が、夥しいほどの群れで構成されている。

それらは見境なく周囲を貪り尽くしながら、逃げる人々を追跡する。

やがて、蝗の群れが動きを止めた。

 

「ひぃっ。あぁ……!?」

 

腰を抜かし、必死に逃げようと足掻く小太りの中年男性。

スタッフの中でも問題児に該当する彼は、肥えた身体を引きずりながら「どうして自分が」と自問自答する。

自分は支配人になるべき人種、それなのにどうして自分は選ばれない、何故こんな無様な姿を晒して逃げねばならないのか……そんな自分本位の考え。

歪に彩られた彼の理想に、蝗の群れが気づいた。

 

『お前、飢えているのか?』

「……へっ?」

 

霧のように見えるほどだった蝗の群れが集まり、徐々に人の形へと成していく。

その姿は、蝗を人型にしたような異形……。

手足や両肩には口を大きく開いた蝗の顔が埋め込まれており、インクで構築されたような鈍い緑に彩られた細い身体から放たれる威圧感はまるで『蝗害』のようだが、背中から生やしたダーククリムゾンの筋足はまるで巨蟹を思わせる。

ちぐはぐでありながら、何処か芸術性を感じさせる異形……怪人の腰には三つのボタンがあるカラースプレーやエアスプレーのようなバックルが装着されており、右側にインク壺のような小さいアイテムを装填したスロットとグリップが備わっていた。

 

『お前、飢えているのか?』

「ひぃっ!?な、何を言って……」

『自分の理想を理解しない連中に苛立ち、理想が描かれない今の状況に飢えているんじゃないか?』

 

まるで心を見透かされたように言い当てられた男性の恐怖心が少し消え、問われるままに頷く。

それで充分に満足した怪人『グラフィティ』は愉悦の混じった笑い声を漏らすと、懐から小さなインク壺を取り出す。

円柱の容器にはフレイムレッドのインクが詰まっており、ラベルには火を噴き出しているゴツゴツした溶岩のイラストが描かれている。

 

『理想を描け。描いた理想の自分で、この遊園地を塗り潰せ』

 

受け取ったインク壺『カラーライドポット』を暫く見つめていた男性は言われるがままに、蓋の形状をした上のスイッチを押し込んだ。

 

【DRAW……MAGMA!!】

 

不気味な音声と共にインクポットからインクが噴き出し、彼の身体を塗り潰す。

全身を包むインクは肉体を男性が思い描く理想の姿へと描き、その姿を変貌させた。

 

『何だこれ、力がっ!力が漲って来るっ!?これなら、ここの支配人に……いや、もっと上の地位にだってなれるっ!!』

 

画用紙を思わせる歪な灰色の身体に、フレイムレッドに染まった溶岩を纏ったような不気味な上半身を持つグラフィティ。

岩の隙間からは燃え盛る炎のような装飾があり、見ようによっては溶岩や炎を人型にしたような不気味な造形をしていた。

力を込めて全身を赤く染めた異形『マグマ・グラフィティ』は雄叫びをあげて身体中から炎を撒き散らすと、既に人がいないテーマパークの中心で自らの理想を形にするべく破壊活動を行う。

それに満足した蝗害のグラフィティは再び身体を無数の蝗に変化させると、今度こそ完全に姿を消してしまう。

それに気づくことなく、暴走するマグマは更なる破壊活動を進めるべく歩き始めた。

 

『は、ははっ、ひゃっはははっ!』

 

グラフィティに芸術性などない。

手前勝手に描いた理想に酔いしれ、歪みに歪んだ価値観で全てを塗り潰すまで止まることはない。

この世界は、悪意を抱いた人間の生み出した落書きによって蹂躙されようとしていた。

しかし、それを許さない者がいる。

 

『……あっ?』

 

一人の少年が、真っ直ぐと歩いているのが見えた。

緑色のストールを首に巻き、青いジーンズを履いた彼はグラフィティに恐れることなく近づいてくる。

赤と青の靴が印象に残る彼の服装はカラフルだが、奇抜ながらも何処か様になっている。

 

「うーわ、派手にやったなぁ」

 

少年が荒れたテーマパークを見ながら溜息を零す。

その様子は警戒心ではなく残念そうな感情が見え隠れしており、目の前にいる怪人よりも荒れ放題となっている惨状に対して関心を向けている。

当然、それに面白くない反応を見せたのがマグマだ。

人知を超えた力を手にした自分に興味を持たない少年に苛立ち、威嚇とばかりに炎を軽く噴き出す。

しかし、それすらも少年の心に恐れの色が付着することはない。

 

「親っさんから聞いたけど……『遊園地』ってのは色々な人が楽しむ場所なんだろ?それを台無しにするってのは、許せないよな」

 

瞬間、色素のない瞳がマグマに向けられた。

無彩色の視線は僅かながらの怒りが宿り、目の前の怪人に明確な敵意を込めて睨む。

そして、懐からタブレット端末のような形状をした機械を取り出した。

右側には小さなスロットと中央には横に配置された長方形型のディスプレイがあり、左側に持ち手のようなサイドハンドルがあるそれを腰に当てて左右から伸びた銀色のベルトによって固定する。

 

【FARBE DRIVER!!】

 

自らの名を告げる『多彩装色ファルベドライバー』を装備した少年『色ヶ谷彩人(しきがやアヤト)』は、今度はブライトグリーンのインクが詰まった小さなインク壺を取り出す。

 

『それはっ!?』

 

マグマが分かりやすい動揺を見せる。

それもそのはず、それは自分が変異した物と同じカラーライドポットだったからだ。

彩人は得意気に笑うと、旅人を思わせる仮面の戦士が描かれたライドポットのスイッチを押して起動する。

 

【SEEKER!】

 

『シーカーライドポット』の音声が鳴り響き、すぐにスロットへと装填。

ドライバーから流れる待機音声を背後に、左側のサイドハンドルを押し込んだ。

 

「変身!」

【GRADATION UP!】

 

短く紡がれた言葉と共に音声が響き、ディスプレイにラベルイラスト同じ戦士の絵図が映し出されると、全身を黒いスーツに包んだ彩人の頭上にスロットへ装填したカラーライドポットと同じ形状をした壺型エネルギーが出現。

それは下へ傾くと同時にインク型のエネルギーが降り注がれることで彩人に変化が起こる。

上塗りを繰り返すエネルギーは小さなハット型のマスクと軽鎧型のプロテクターを徐々に形作り、スーツの上から覆うように描き出していく。

腰の下半分から伸びるローブを靡かせ、一人の戦士が完成したことを証明するように橙色の複眼を輝かせるのは、探索者を彷彿させる甲冑の戦士だった。

 

【色彩を求めるWIND SEEKER! FANTASTIC!!】

 

完成図に賞賛するようなファンファーレが鳴り響くと、ブライトグリーンに彩られた柄が特徴的なショートソードが出現し、それを握る。

刀身は白く、切っ先が淡く緑色に染まった独特な形状の筆剣『シーカーソード』を軽く振って風の軌跡を描く戦士。

その姿は英雄……自分という色彩を失った彼が想像する『理想の英雄像』そのもの。

狼狽するグラフィティに向けて、剣を構えた戦士が高らかに名乗る。

 

「俺は『仮面ライダーファルベ』。勝利の色を見せてやるよ」

 

瞬間、彩人の変身するファルベが地面を蹴った。

踏み出した足で確実に距離を詰め、勢いを削ぐことなくマグマに向かってシーカーソードを振り下ろす。

不意を突かれた形となったグラフィティが避けることも出来ず、岩のような身体から自身の炎とは違う火花を散らして大きく仰け反る羽目になる。

 

『がぁっ!?あ、このっ!』

「よっと」

 

プライドを刺激されたマグマが怒りを露にして反撃を繰り出すも、単調な軌道を描く攻撃は瞬く間に躱されてしまう。

それは気ままな風のように、自分の求めるままに道を探し求める旅人のように、歪な理想に染まることなく探索者の英雄は余裕のままだ。

ファルベの基本形態でもある『シーカーカラー』はスピードとパワーのバランスに優れており、ショートソードによる剣術を織り混ぜた格闘戦を得意とする。

 

『ふざけっ、がっ!ごあぁぁああああっ!』

 

マグマの攻撃が大降りになった隙を縫うように強烈なミドルキックを叩き込み、その身体を吹き飛ばした。

 

『ぐぶぅっ!?くそっ、がぁぁあああああああっ!!』

 

激情に染まったマグマが絶叫し、半狂乱となって全身から溶岩を噴き出した。

放たれた溶岩は火球のようにファルベに向かって降り注がれる。

当然それも回避するが、着弾した個所は炎と共に溶解しており、決して侮れない威力を物語っている。

 

「マジかっ!?」

 

怒りのマグマは絶え間なく溶岩を撒き散らす。

攻撃は激しくなり、シーカーソードで弾いたりもしているが時間の問題だ。

 

「ならっ!」

 

しかし慌てることなく、ファルベはドライバーに装填されたシーカーライドポットのスイッチを押し込んで起動する。

 

【SEEKER PAINT!】

 

インクを補充されたドライバーが鳴ると同時に、突如として激しい風が巻き起こる。

緑に彩られた旋風はファルベの周囲を薙ぐだけでなく、あまりの強風にマグマが怯んでしまう。

その隙を逃さなかった。

 

「はぁっ!」

『ぎぎゃあああああああっ!?』

 

風邪を纏ったファルベの一撃が、またしてもマグマの身体を斬り裂く。

情けない悲鳴を漏らすグラフィティに連続蹴りを浴びせ、その勢いを利用してシーカーソードを何度も振るう。

そして、柄にあるトリガーを弾いて切っ先からインク型のエネルギーを纏わせると片手斧のような形状へと変化させ、強烈な一撃がマグマに叩き込まれた。

 

『がっ、はぁ……うぁっ』

 

どうにか立ち上がるも、その身体には色が失われており、苦しそうに胸元を抑えている。

その覚束ない様子から勝機を確信したファルベがサイドハンドルを再び押し込んだ瞬間、ドライバーから新たな音声が鳴り響いた。

 

【SEEKER! FINISHING COLOR!!】

 

両の複眼が一際強く輝き、緑の風が不規則に流れながらも右脚へと収束される。

そして、空高く跳躍すると強い光を放つ片足を突き出して急降下を始めた。

 

「でりゃああああああああーっ!!」

 

圧縮させたエネルギーを一気に解き放ち、緑の軌道を真っ直ぐ描きながら止まることなくマグマへと暴風が迫り来る。

それは衝撃と音が周囲一帯を揺らし、理想を騙る歪な溶岩の落書きを捉えた。

 

『ぐっっぎゃあぁああああああああっっ!!?』

 

必殺技のキックが直撃し、壮絶な断末魔の叫びをあげたマグマ・グラフィティは爆散。

変異していた男性も白目を剥いて気絶した状態で地面を転がり、近くに落ちた空のインクポットが爆ぜるように小さく砕け散る。

戦闘を終えたファルベは先ほどまでグラフィティとなっていた男性の元まで駆け寄り、安否を確認すると何事もなかったようにその場から立ち去るのだった。

 

 

 

 

 

マフラー部分が絵具チューブを象った緑色の専用バイクを走らせながら、ファルベは誰に聞かせるでも一人問う。

 

────自分は何者なのか────

 

縁に拾われ、彼の養子となったファルベ……彩人が覚えていたのは一般的な現代社会の知識だけ。

携帯や箸などの道具の使い方、食事の作法や動物の名前なら人並みに分かる。

だけど、自分の名前や家族のことが何も分からないし何も思い出せない。まるで色が抜けたデッサンのように、『自分』に纏わる記憶や情報だけが思い出せない。

手元にあったのはカラーライドポットとファルベドライバーだけで、身分を証明するものすらなかったのだ。

 

「それでも、俺は戦わなきゃいけないっ」

 

グラフィティと仮面ライダーの確かな共通点、それを明らかにするまで彼は戦う。

自分の記憶だけではない、心の奥底に宿る優しい熱を、それが名前すらも失ってしまった自分がやりたいことだと信じている。

 

「目の前に映る景色は、絶対に消させない」

 

そう決意を口にして今の自分である『色ヶ谷彩人』を新しく塗り直すと、ファルベはアクセルを噴かしてマシンを加速させた。




アルカナ要素を廃止し、色の要素を強くする形で再構築したのが本作の仮面ライダーです。
ファルベはドイツ語で「色」を意味していて、シンプルかつお洒落な名前になりました。改めてですけど、ドイツ語やラテン語って日本人の中二心に刺さりますよね。
『色』がモチーフとなる本作のコンセプトは『理想』がテーマとなっています。仮面ライダーはファンタジー職業をモチーフとし、インクの色とモチーフから『理想の英雄像』を思い描くことで変身、その真価を発揮します。反面、己の理想に縛られて偏った姿や解釈をしてしまったのが本作の怪人グラフィティです。
幹部クラスはドライバーを使うドーパントタイプ。モチーフは黄道十二星座……ではなく、黄道十二宮の天使(デーモン)です。理想を守っていた天使が理想で全てを塗り潰す悪魔に変じたというイメージです。
主人公はアギトの翔一やビルドの戦兎みたいな記憶喪失系。髪が白かったりなどまるで彼を構成する何かが抜けてしまっています。色モチーフの仮面ライダーで服装もカラフルなのに、身体に色素がない容姿の変身者にしました。

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