目を覚ませば、隣には誰も居なかった。
いつもならそこには愛しくて大切なひとのあどけない寝顔があるから、少女は慌てて上体を跳ね起こして、部屋を見回した。
カーテンは開けられず、明かりもつけられていない薄暗い部屋に、少女は一人。サイドテーブルを振り返り、そこに置かれた時計を見れば文字盤にはいつもより遅い時間が表示されていて、納得した。
どうやら、寝過ごしてしまったらしい。納得すると同時にある心配が頭を過って彼女は身体にかかったシーツを取り払う。そうしてベッドから降りて、向かう先は隣の部屋。リビングだ。
ドアノブを捻って扉を開ければ、照明の明るさに目を細める。
「やっと起きたか、遅ぇぞユリシア」
一番に聞こえるのは、低めの男声だ。少しだけ咎めるような台詞を送って、男は緩く手を振ってくる。緑髪を撫でつけた男、テルミだ。その声に少女――ユリシアが謝ろうとするより早く、次の声が聞こえてそちらを向く。
「もう、テルミさんってば。ゆで玉子だけの朝食が嫌だからって、ユリシアを責めてはいけませんよ。ユリシアだってたまにはゆっくりと眠りたいでしょうから」
今度はハザマだ。テルミと同じ声をしているけれど、こちらは声のトーンがいくらかテルミより高い。さらりと下ろした緑髪は、少しだけ寝癖が出来ていて微笑ましい。
皿の上から、いくつかあったであろう白い塊(ゆでたまご)の最後の一個を摘み、口に運ぶハザマを見て、少女は安堵に微笑む。一応、食事はできているようだ。もっとも、ハザマの台詞からしてバランスの取れたものではないらしいけれど。
「おはようございます。てるみさん、はざまさん」
そうやって挨拶をすれば、にこやかに二人揃って挨拶を返し、名前を呼んでくれる。それがたまらなく幸せで、少女は、ふふっと小さく笑いを零した。
「そうそう、ユリシアの朝食も用意していますから、少し待っていてくださいね」
言って椅子を引き、立ち上がるのはハザマだった。
それを目で追いながら頷いて、ユリシアは三つめの椅子に腰かける。今日の朝食はテルミ達と同じ、ゆで玉子だけになってしまうようだ。
それを考えて苦笑こそするけれど、ユリシアは嫌な顔一つせず受け入れる。
皿に乗せて運ばれてきた二つのゆで玉子を見て、小さく笑う。やはり彼の食事は分かりやすいな、なんて思いながら、ユリシアはそっと楕円形の白い塊を手に取った。
カツン、と小気味よい音を何度か響かせてゆで玉子を剥く。
カグツチにある三人暮らしの小さな家で、ユリシア達は今日も大切なひとと幸せに過ごしていた。
やまなしおちなしいみなし。
ただ幸せに過ごす短い話が書きたかっただけです。
完結してから半年以上が経ったことにびっくりしています。