夕方の夏の京都。男は部活動の一日練習を終え、自転車に乗り帰路をのんびりと通っていた。「練習マジ疲れたわー。しばらく休みだし好きなことしててぇな」この男「川田 走平」(かわたそうへい)は陸上部に属している大学一年生である。彼の大学の陸上部はそんなに強豪と言うわけではなく、気軽に入れる自由な雰囲気をまとっていた。高校でも陸上をやっていた走平は部活動見学
をすることもなく取り敢えず入部した。緩い雰囲気を感じ取り、楽そうな部活と舐めてかかっていたのだが練習好きなコーチと根が真面目な部員が多いこの部活は練習量は多く、100m10.72秒という高い実力をもっていながらサボリ癖があった走平はみっちりしごかれていたというわけである。
自宅のアパートの近くに差し掛かった時、走平は小道で二人の会話している女性とすれ違った。
「月面ツアーいつ行く?」「夏は混みそうだし秋とかはどう?」女性2人はこんな事を話していた。月面ツアーかぁ。現代っ子は旅行で宇宙行っちゃうのか。まぁ確かに興味はあるけどな。予約は……今からは無理そうだな。また別の休みにでもダチ誘って行くか。
にしても随分とハイテクな世の中になったよなぁ。車は空なんか飛んで無いけどガソリンとかいう油みたいなのも使ってねぇ上に自動操縦だし、喫茶店とかもスターウォーズとかいう昔の映画に出てくる青いやつにに似てるロボットが品を運んでるしな。親父から聴いた昔の日本と比べてみると今の日本はとても変化したということが感じられるぜ。
なんて年寄り臭い事言ってるけど俺も十分現代っ子だよなぁ。
そんなことを考えながら、走平は自宅であるアパートに着いた。近くにスーパーとファミレスのある結構いい立地にある。自転車置き場に自転車を置き、二階にある自室に向かおうとしたその時だった。
「万引きよ!!」「あ?」声のした方を向くと小学生ぐらいの男児がエコバックを肩にかけて脱兎のごとく走平の眼前を駆け抜けて行く。「そこの兄さん!捕まえて頂戴!」反射的に「え?あ、おう!」と返してしまった走平は男児を追いかけ始めた。
部活での疲労こそあれど短距離でのスピード勝負なら絶対に負けない自信がある。
あっという間に男児に追いついた。走平はガキの方を掴み、「オイお前ッ!止まれッ!」と怒鳴った。のだがその怒声はクラクションによってかき消された。
パパーッ!
横を見ると車が走平と逃げていた男児に突っ込もうとしていたところだった。
ヤベェしまった!とっさにガキを強引に自分の前に引き寄せてガキを庇う。
そうするや否や車が突っ込んで来てーーーー視界が暗転した。
「んん…」走平は少し唸ってから目を覚ました。腰を起こしてから辺りを見回すと辺りには田んぼが広がっており、遠くに家が立ち並んだようなものが見えた。空がオレンジ色に染められていて時間的には夕暮れっぽい。
何処だここは?俺は車にはねられたはずじゃ?走平は自分の体を確認する。外傷は一つもない。どういうことだ?まさかと思い自分の頬を叩く。
痛い。普通に痛い。どうやら夢の中というわけでもないようだ。しかしここはどこだろうか。
ここにいてもしょうがないと思い走平は住宅街と思われる場所に向かって歩を進めた。
そこは人が住んでいる集落のようだった。ここは走平がよく見ていた住宅街ではなく、都会に慣れていた走平はここを疑問に思った。なんだここは?今時観光地以外にこんな超ド田舎が存在してたのか。
よくこんなとこに住めるなぁ。車も全然通ってねぇし。道行く人も現代の学校ではなく江戸時代みたいな格好をしてるし。
だが今はそんなことはどうでもいいな。まずはここが何処か聞かなくては。
走平はたまたま近くにいた老婆に話しかけた。「すみませェん。此処って何処ですか?」「ああぁ?」老婆は耳が遠いらしく耳に手を当てて聞き返して来た。まぁお年寄りやししゃあないよな。走平はそう思いさっきよりも声の音量を挙げた。「すみませェん!!此処ってどこっすかァ!?」老婆はウンウンと頷いてから「あんたぁここの住人じゃないだろう」と返して来た。んなもん当たり前だろうが。ここの住人じゃないんだから此処が何処かわからないんだろ。
「えぇ、まぁ」「うむ。ではあそこの寺小屋の中にいるけいね先生の元を尋ねるといい。あたしが説明するよりはけいね先生が説明したろうがいいからのう」
と老婆は木造建築の小さな建物を指を指して教えてくれた。寺小屋?なんだそりゃあ。がとにかく寺小屋という場所に向かうことにした。おっと礼を言わなくては。「ありがとよ!婆さん!」「ええよ」そんなやりとりの後、走平は寺小屋へと歩を進めた。
走平は寺小屋のドアの前に立った。ん?チャイムがないな。叩いて呼べばいいのか?「すいませェん!」と言いながらドンドンとドアを叩いてみる。「どちら様?」そう言って出て来たのは………………
続く