…夜にありて迷わず、血に塗れて酔わず
名誉ある教会の狩人よ
獣は呪い、呪いは軛
そして君たちは、教会の剣とならん
そういえば、教室棟に行ったときもアメンドーズに掴まれたのだったな。群がる罹患者のフレンズを切り伏せると、じゃあここもきっと悪夢の世界だね、とサーバルちゃんが返す。彼女が手を引き抜くと、野太い断末魔とともに狂った古狩人が息絶えた。はじめこそ彼らに苦戦したが、慣れてしまえば攻撃力が高いだけのでくのぼうだ。遺骨も水銀弾もなしに加速するのはさすがに驚いたが、なにしろ使い方が下手なのであまり脅威ではなかった。
ふたりで進んでいくと、大聖堂に似た建物を発見した。罹患者のフレンズどもがうっとうしいので武器を代えようとすれば、サーバルちゃんの耳がぴくりと動いた。急いで離れろと叫ぶから慌ててそうすると、なんと文字通りの火の玉が転がってきた。あわれ罹患者のフレンズたちはローストフレンズに突然変異。二撃目を警戒したがその兆候はない。恐る恐る階段をのぼると今度は群衆の死体がすっ飛んできた。今度は何だと思えば、ぬう、と聖堂のなかから肉のかたまりが歩み出てきた。白い装束は教会のそれに見えるが、ヤハグルの兜に似た防具。顔の格子からゆらめく触手は、あたかも巨人のおぞましい本性を幽閉するように見えた。それにしても医療教会め、こんな見るからにろくでもないものを飼っているとは。バカでかい斧を前転回避し、ぼくたちは攻撃を仕掛けた。しかし、堅い。有効打を与えられず攻めあぐねていると、巨人の動きが緩慢になる。好機、とばかりにサーバルちゃんが突っ込むが、ぼくの目にはそれは悪手と映った。静止の声も間に合わず、巨人の顔に宇宙的な輝きが広がる。信じられないほど伸びた触手がサーバルちゃんをからめとった。ぼくの行動は速かった。すかさず敵の背後に回り込み、何度も何度も斬りつける。サーバルちゃんが解放されると、同時に巨人も息絶えた。宇宙的な輝きが、死の間際にも垣間見えた。
やはりサーバルちゃんは結構ぴんぴんしていた。とはいえ、何が起こるか分からないから心配なものだ。ぼくたちは今度こそ大聖堂に足を踏み入れる。奥へ進むと、なにやら火の粉が舞いだした。だれか火をおこしてるのかな、とおびえ出すサーバルちゃん。先ほどの火の玉を出した元凶かもしれぬ、おのれ教会の狂人とぼくは怒りを燃やす。そして視界に入ったのは、祭壇にあるはずの頭蓋でなく、そこで寝そべる聖職者のフレンズだった。火を恐れ嫌うはずのフレンズだというのに、それは内側から、あたかも篝火のように、ぼんやりと光と熱を放っていた。大きー、でも死んじゃったのかな、サーバルちゃんは悲しげな視線を向けた。ぼくはたぶん生きているよ、眠っているようだから起こさず立ち去ろうと提案する。聖職者のフレンズらしく、いびつに大きな左腕。サーバルちゃんは、その手の中に輝きを認めた。しかし火の粉が怖いのか、近寄れずにいるからぼくは苦笑して代わりに見に行った。大きな手の中に輝く、美しいとはいえない、不気味な瞳のペンダント。みるからに悪趣味だが経験上持っていても損はない、そう判断してサーバルちゃんに目配せする。意を察した彼女は戦闘態勢に入った。戦うためではなく逃げる準備のためだ。ぼくはフレンズを刺激せぬよう、慎重にペンダントを手にとる。果たして聖職者は目覚めなかった。ぼくたちは顔を見合わせ深く息を吐いた。
大聖堂は行き止まりだったので、街の方へ進むことにした。設置銃や時限爆弾などの悪質な罠、狂った群衆や古狩人らが猛威を振るう。彼らを狩り尽くして歩いていくと、眼下に血の川が広がるのが見えた。あまりに悪夢的、冒涜的な光景に絶句していると、血舐めがいっぱいいるよとサーバルちゃんが耳打ちする。悪趣味にもほどがある。このままでは苦戦は必至なのでおとなしく青い秘薬を飲んで探索することにする。そういば悪夢のなかだと暗くないね、メンシスは夜だったけどと言われ、なるほどと思い出した。血舐めたたちをやり過ごし、奥に見えた洞窟を探索すれば、妙な狩人がいたので姿を消したまま一方的に叩いた。するとなんということだろう、こいつが落としたのはあのガトリング銃だったのだ。狩りがはかどるね、みゃんみゃんみゃんみゃんみんみー!たーのしー!!サーバルちゃんは大喜びだ。さらに奥へ進むと血に渇いたフレンズがいたのでさっそく蜂の巣にしてやった。
もう洞窟には何もないので血の川の反対側へ進む。相変わらず血舐めがうっとうしいので秘薬が手放せない。石橋が見えてくると銃を持った人影が見えたので、撃たれる前に狩り進む。突き当たりに見えるのはオドン教会に酷似した建物だ。こんなところに繋がっていたのか、高低差が激しいから気がつかなかった。中に入ると誰かいたので、斬りかかろうと思ったがサーバルちゃんに止められた。目に包帯を巻いておりまぎらわしいが、シモンと名乗る彼はまだ正気の狩人らしい。彼のそばの扉を開けるとぼくたちが最初にいた場所だった。開けてくれればいいのに人が悪い。
再び血の川に戻り、奥へ進む。はしごを登ったり降りたりしているうちにまた巨人と出くわした。大砲を持っているが射程が長い、よく狙う、爆発する、近づけば殴ると四十苦である。ふたりで殴っているとまた斧の巨人が出た。
道がわかりにくかったが、進んでいくとヘムウィックの魔女もどきがのんきに背を向けていたので殴ると不様に吹っ飛んだ。降りると門を叩いている細いのがいたが、うるさいので狩る。フレンズになれなかったカラスたちを蹴散らしながら進むと、おぞましい死体溜まりが見えてきた。どうやら血の川はここから流れてきたらしい。助けてくれ、か細い声をサーバルちゃんが拾う。しかし重苦しい足音によって、その声はかき消された。醜いフレンズ、ルドウイーク。そう呼ばれたものは、フレンズ化しているのに、たのしそうに見えない。足取り重くやってきたそれは、けたたたましく叫びながら襲いかかる。
しばらく戦っていると、ルドウイークは体勢を崩した。追撃を試みるサーバルちゃんだが、用心深くぼくは静止した。彼の背中から、神秘的な緑の光がのぞいていたからだ。それは、悪夢の中においてなお、輝く大剣だった。ルドウイークはフレンズと化した左手、でその剣をとった。あたかも、懐かしい友人に再会したように。
そこにいるのはもはや醜いフレンズではない。月光の聖剣を振るうもの、聖剣のフレンズだ。
先ほどとは打って変わり、すばらしいまでの冴えた剣技で襲いかかる。鋭い振りにあわせて放たれる光の波を、ぼくとサーバルちゃんはかろうじてかわす。見事としかいいようのない動き、しかしフレンズの体でヒトの動きをするがゆえに、その動きはかえって読みやすい。皮肉にも、つかの間の正気が彼の敗因となった。
首だけになったルドウイークに、ぼくたちは何かの導きを感じながら彼に近づいた。サンドスターの糸を見たことがあるか、私など醜く歪んだフレンズ憑き、そう自嘲してむせび泣く。悪夢と絶望の中、息絶えようとするルドウイーク。そんなことないよ、あなたは立派な剣だったよとサーバルちゃんは微笑む。ぼくも彼女に同意した。死の間際にも悪夢では、あまりに救いがなさすぎる。一瞬驚いたような顔をしたルドウイークは、ありがとう。これでゆっくりと眠れる。暗い夜に、しかし確かに、月光を見たのだと…。そう言い残し、まどろみに沈んだ。
一振りの聖剣を残して。
ちかろう ぶらどーおにいさん(かりゅうどのあくむ)
…ほう、狩人か。おかしなところに現れるものだ
お主、今、鐘の音は聞こえているかね?
…ならばよい
お主の敵は獣、こんなところにはいないだろう
狩りに戻るんだな。そして、叶うなら夜を忘れることだ
…囚われるべきでない場所、知るべきでない事…
…近付くなど愚か者の仕業よ…