―東方撞賢木― 『巫女と男の運命』   作:Veruhu

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"第四節"

 食事を終え、俺は縁側に向かった。星空を見るためだ。田舎と都会じゃ見える星の量が全く違う。星が沢山見えることを期待して、やってきたのだが。

 

 やっぱり此処は全然違うな。圧倒的だ。俺の居た所ではせいぜい5~6個、程度しか見ることができなかった。しかし此処はまるでプラネタリウムだ。100個以上の星を確認することが出来る。俺は嬉々しつつ、縁側に腰掛け星空を仰いだ。

 

 実に綺麗だ。そう思いながら星空を満喫していると。

 

 

「星空なんか見ていて楽しいですか?」

 

 

 後ろから声を掛けられた。霊夢だ。霊夢は縁側の俺から少し離れた所に座ると「はい。」と言って、お茶を手渡してくれた。

 

 

「外界は夜も明るくてね、星が全然見えないんだよ。」

 

 

 俺はお茶を受け取り軽く「ありがとう。」と言い、そう話した。

 

 

「へぇ~。」

 

 

 霊夢はそういって茶を啜る。多分、霊夢は外の事情をあまり知らないのだろう。いや、知れないのか。

 

 

「だから凄い綺麗だなぁ~、この景色は最高だなぁ~って、思ってたんだよ。」

 

 

 俺はそう言い、霊夢から貰った茶を啜る。旨い。

 

 俺たちは暫くの間、縁側に腰掛け茶を啜りながら星空を楽しむ。その姿はまるで夫婦のようであったが、これは言わないほうが身のためだろう。

 

 

「霊夢はいつごろから一人暮らしをしているんだ?」

 

 

 俺は星を仰ぎながらそう尋ねる。すると霊夢は思惟するかのように、首を傾げた。少しの間が過ぎ、霊夢が口を開く。

 

 

「曖昧なんですけれど、大体10歳位の頃でしたかね。」

 

 

 10歳っ!? いくらこちらの世界が現世の常識とかけ離れているとしても、少し速すぎやしないだろうか。俺の頭の中では疑問の渦が渦巻く。

 

 

「…………それは凄いな。10歳で独り立ちか。霊夢の親は厳し……。」

 

 

 待て、10歳で一人暮らしなど例えこちらの世界であっても、珍しいことではないのだろうか。俺はさらに思惟する。やっぱり親が亡くなったという説が一番有力か。しまった、後の祭りか?

 

 

「――――――そうです。多分10歳の頃、母が亡くなりました。…………その頃から私は独りです。」

 

 

「わ、悪いっ……。」

 

 

 やはりそうだったか。畜生。

 

 

「別に、気にしないで大丈夫ですよ。もう慣れましたし、母が亡くなった事も疾(と)うの昔に納得していますから。」

 

 

 霊夢は軽く溜息を吐きながらそう言った。だが動揺しているように見える。10歳で母を亡くして、父の事は聞かないほうがいいだろう。そんな早くから親を亡くして独り暮らしか。相当辛かっただろうな。

 

 

「――――――独りは辛かったか?」

 

 

 気づけば俺はそんなことを口走っていた。何を言っているんだ。まだ俺達は出会ったばかりなんだぞ、余計なお世話と思われるに決まってるじゃないか。心の中で俺は自分にそう言い聞かせる。だが俺の心の中に根強く張った信念では、なんとしてもこの娘を気遣ってやりたい。そんな深層意識が働いていた。

 

 

「……そうですね、辛かったです。でも今は全然平気ですから、気にしないでください。」

 

 

 そういって霊夢は湯呑みを一層傾け、茶を全て啜った。俺は罰が悪いように視線を落とし、まだ湯呑みに残っている茶を回す。

 

 

「そうか……、余計なことを聞いて悪かった。」

 

 

 霊夢はいいですよと言う様に数回頷いた。だが僅かながら動揺していることが見て取れる。やっぱり聞かないでおくべきだったか。そう思った。

 

 

 また無言の時間が訪れる。俺は先ほどの思いを振り切るように茶を啜り、天を仰いだ。だがやがて湯のみの茶が無くなる。それを見計らったのか霊夢が口を開いた。

 

 

「そろそろ天体鑑賞は終わりでいいですか? 寝間に案内したいので。」

 

「あぁ、いいよ。お願いする。」

 

 

 そう言うと霊夢は立ち上がり、湯のみを貸してくれと目伏せした。俺も立ち上がり湯のみを渡す。後で食器洗いを手伝った方がいいだろうと考えながら、「こっちです。」と言って歩き始めた霊夢につづいた。

 

やがて目的の場所に着いたのだろうか、霊夢は立ち止まりその部屋へ俺を招き入れた

 

 

「ここは普段は茶の間として使っているんですけど、真ん中の机を退かせば十分に布団を敷けます。もともと寝る為に作られた部屋じゃないんですけど、なにぶん此処しか開いてないもので、我慢してもらえませんか。」

 

 

 霊夢はそう言って机を退かそうとする。俺もそれを手伝いながら話した。

 

 

「全然構わないよ。こんないい部屋、外界じゃあまりなかった。喜んで使わせてもらうよ。」

 

 

 俺はそういって微笑みながら霊夢の誘導に従い、机を部屋の端まで移動させた。予想よりも重い炬燵(こたつ)を移動させ終わると、霊夢と俺は軽く息を吐く。

 

 

「布団はそこの押入に入っているので、そちらは自由に使ってください。後この部屋、私も使うので朝はあまり遅くまで寝てないで下さいね。」

 

 

 霊夢はそう念を押した。そして霊夢は部屋の出口まで戻る。

 

 

「では後はご自由に。私は食事の後片付けをしてきますので。」

 

 

 そういって霊夢は部屋を出る。だが俺はその後を追い、「食器洗いもさせてくれ」とそう頼んだ。霊夢は頷き二人で台所へ戻る。そしてそこで一緒に食器洗いをした。霊夢はあいかわらず男が食器を洗っている所を見て不思議がっている。

 

 

 そうして食器洗いをしながら他愛の無い話をし、作業が終わるとさすがに居心地が悪くなったのだろうか、霊夢は寝間に向かった。俺も流石に後追いはせず、自分の寝間に向かう。

俺は明日早起きして神社の掃除に取り組もうと心に決め、布団を敷いた。俺はその布団の上に寝転がり、今ある情報を使い考察する。

 

 幻想郷は現世での常識はあまり通じないことが分かった。ここは現世馴れした俺からしてみれば異常な世界だ。やはり文化の遅れが著しいらしい。だがまぁ俺は日本の文化には多少なりとも興味があるから、大して問題ではないかもしれない。

 

 霊夢は予想に反して礼儀正しかった。俺の年齢が少し自分より高いからか? それとも男だから? 理由はよく分からない。だが普通に話せる人間で助かった。紫さんの言う通り精神年齢は十八歳程度なのかもしれない。

 

 紫さんは今頃、何をしているのだろうか。ま、あの調子だからまた直に会いに来るだろう。

 

 

 まあ、こんな所か。一日じゃやっぱりこの程度の情報しか集まらないだろう。明日は朝早くから神社の掃除だ。速めに寝て備えよう。俺は部屋の電気を消し、いつもよりも2時間ほど早く床についた。

 

 

 

 

          ―――これから幻想郷での日々が始まる―――

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