その後、俺達は昼食を食べることになったが、そもそも根本的な食料が不足していた。そこで人里に昼食の材料を霊夢に買いに行ってもらうか、俺自身も人里に向かいそちらで昼食を食べるか二つの選択肢が考えられた。俺は後者を選択するが、そもそも俺は空を飛べない。だが俺は如何(どう)しても人里に行ってみたかった。少し意固地(いこじ)に頼んでみると、仕方無しに霊夢が俺の両腕を持って飛ぶことになる。俺は元々こちらで換金する予定だった現世でのお金や珍しい物を持ち、さらに先ほど貰った刀、"小豆長光"(あずきながみつ)、脇差"風鎮切光代"(ふうちんぎりみつよ)を差していくことにした。
「じゃあ、行きますよ。」
霊夢はまず一人で飛び上がる。
「お~。話には聞いていたが、"百聞は一見にしかず"だな。凄い物だ。」
霊夢はその後、俺の両腕を自分の両腕で持ち、飛び立った。
「うわっ。お~っ! すげぇぇえええ!!」
俺は霊夢に持ち上げられ宙に浮く。どんどん高度があがり10m程度まで達した。
「あんまり長く私の腕は持ちませんので、急ぎますよ!」
そう言って霊夢はどんどん加速していく。
「うぉおお~。……うわああああああああああああッ!」
怖ええええええええええええッ!! 時速60km程度は出てるんじゃないか!? 腕持たれただけの状態でこれは怖い。落ちたら大怪我か死ぬぞっ!?
俺はジェットコースター並のスリルを味わいながら、人里まで向かった。
人間の里、通称"人里"の門に辿り付くと霊夢はそこに俺を下ろし、自身も降り立った。
「ここが人里か…………。」
人里は時代劇やゲームで見るような村と大して違いが無かった。普通の家々や、店が並んでいる。
「じゃ、行きましょう?」
霊夢は立派な門をくぐり中に入っていく。俺もそれに続いた。村は無茶苦茶大きいというわけでは無かったが普通に大きかった。沢山の店があり、霧雨店、蕎麦屋、団子屋、カフェ、花屋、豆腐屋、お茶屋、酒場、古道具屋、八百屋、小さなスーパーなどが在った。ほかにも命蓮寺というお寺や、寺子屋、そしてとんでもなく大きな屋敷が立てられていた。
「私に付いて回っても良いし、自由に回ってもいいですよ。お好きなようにどうぞ。」
霊夢はどんどん前に進んでいった。俺にとっては何も分からない異国の地だったので、霊夢に付いて回る事にする。
さて最初に行った店は八百屋だった。そこである程度の野菜を買い占めたのだが。
「おっ霊夢ちゃんじゃないかい!毎度ありー! んっ!? 珍しく男を連れているなぁ。まさか……これか?
なかなかにいい男をひっかけたなっ?」
「「違うっ!」」
霊夢は常連のようだったがこれには参った。続いてお茶屋に行き茶葉と茶菓子を購入する。だがここでも。
「霊夢ちゃん、毎度おおきに。ところで連れているお侍様は彼氏さんかい? あんないい男何処に居たんだい?」
「違うんだって!」
小声で喋っていたので何を言っていたかは分からないが、前の店と同じような事を言われたのだろう・・・。
続いて小さなスーパーへ行った。なんとここでは外界で売っているのと全く同じような商品が並んでいた。霊夢によると幻想郷じゃあまり自給自足できないから大抵のものは外界から持って来ているのだと言う。
だが二度あることは三度ある。ここでも。
「連れの男は……。」
「「違ぁぁあああうッ!」」
「まだ何も言ってないんだけれどねぇ……。」
――――――付いて回ったのは失敗だったかも知れない。
俺達は必要な用事終え、次の行動を考えていた。
「さて、次は何処に行きましょうか……。」
霊夢は腕を組み思惟する。
「そうだなぁ……。」
俺も一緒になって考える。霊夢に付いて廻ったことで、行ってみたい所が幾つか出来た。だがその前に・・・。
―――クゥゥゥゥゥ
「「……。」」
今の音は多分、霊夢の腹の虫だろう……。当人は恥ずかしくなったのか、そっぽを向いてしまった。
そういえば俺達はまだ昼食を食べていない。昼出かける時も、そもそも食料が不足していた為に人里に出て昼食を食べ、今日の夕飯の材料をそろえる予定だったのだ。だがその肝心の食事処、蕎麦屋が混雑していた為、買い物を先に済ませることになっていた。だがどの店でも霊夢と俺の関係が勘違いされたため、互いに緊張してそのことも忘れてしまっていたのかもしれない。
「さすがにこの時間帯だ、もう混雑は収まっているんじゃないか……?」
俺はさっきの腹の虫など全く気にしてないという素振りで霊夢に話しかけた。
「そ、そうですね。い、行きましょうか……。」
霊夢は頭を垂らし、落胆しているのか溜息を吐きながら蕎麦屋に向け歩き始めた。
「霊夢待てっ、危ない!」
―――ドンッ
霊夢は正面から歩いてきた女性とぶつかった。
「「あっ。」」
互いは軽く衝突し、後ろに後ずさった。
「ごめん。」
「ごめんなさい。」
その女性は主として青色に染色された服を纏い、摩訶不思議な帽子を被っていた。霊夢とその女性は顔を見合わせる。
「あんたは……。」
「あなたは……。」
霊夢とその女性は知り合いなのか、互いに顔を見合わせ口を開いた。
「霊夢さん……ですか。」
その女性は軽く乱れた服を整える。そして俺と霊夢を交互に見た。そして頭を傾げ、口を開く。
「……おめでとうございます?」
「違うッ!」
「違いますよっ!!」
――――――この流れは何時になったら、終息するのだろうか。
その後、俺たちはその女性と一緒に蕎麦屋に入った。どうもその女性、上白沢 慧音(かみしろさわ けいね)も昼食はまだだったらしい。だが進行方向が違かった為、他の用事を切り上げて一緒にここに来たのかもしれなかった。
俺達は順に食べたい蕎麦を注文すると少しの間、押し黙ってしまう。その沈黙を破ったのは綺麗に湯のみを持ち上げ中の茶を啜る慧音さんだった。
「……峯野さんは外来人なのですか?」
慧音さんは湯のみを机に置きつつ口を開いた。
「はい、そうです。」
俺は頷く。
「なるほど。どうしてこちらへ?」
慧音さんは首を傾げた。霊夢には詳しくある程度話したがさすがに縁の少ない慧音さんにそうそう言うわけにはいかないだろう。
「まぁ、紫さんの遊び心ですよ。」
俺はそれっぽい抽象的な事情を話した。そして湯のみを啜る。
「へぇー。あの妖怪の賢者が……ですか。」
慧音さんは頷いた。
「ではなぜ霊夢さんと行動を共にしていらっしゃるのですか。」
「けほっ!けほっ!けほっ!けほっ!」
茶を啜っていた霊夢が突然、気道に詰まらせたのか咳込んだ。
「だ、大丈夫か?」
背中をさすってやりたいがセクハラ呼ばわりされると困るからやめておこう。
「……大丈夫です。」
霊夢はほっと胸を撫で降ろす。だが直ぐに口を開いた。
「変えようのない事情ってものがあるのよ!」
そう強く言って視線を外す。まあ霊夢は紫さんに逆らえないということなのだろう。
「そうなのですか……。ではお二人は同棲されて居るのでしょうか?」
慧音さんは微笑みながらそう聞いた。
「「あっ。」」
霊夢と俺は同時に言葉を吐く。その姿はまるで豆鉄砲をくらった魚のようだった。
「いや、その、えーと……。」
俺は動じて何を喋ればいいか分からなくなってしまった。だが霊夢は先ほどの動揺を感じさせないキリッとした姿勢で口を開く。
「えぇ、そうよっ! 悪いっ!?」
――――――ひらきなおったぁぁぁぁぁぁぁ
「い、いえ……。」
慧音さんは軽く押されたのか体を引いた。霊夢は興奮しているのか茶を勢いよく啜る。俺は苦笑いしか出来なかった。
「すみません……。俺の所為なんです。あまり追求しないで貰えませんか?」
「はぁ……。」
慧音さんは了承してくれたようだが首を傾げたままだった。その後ちょっとした他愛の無い話をしていると、先ほど注文した蕎麦を店員さんが届けてくれた。それを俺達は啜る。
「ところで慧音さんは人里に何用で?」
俺は慧音さんに問い掛ける。だが当人はその質問に驚いたのか「えっ」と言葉を漏らした。
「あー、いえ私はここに住んでいるんです。外からこちら来た訳では無いんですよ。まあ確かに人里には用がありますが、誤解があるみたいなので修正しておきますね。」
けいねさんは微笑みながらそう言うと、また新たな蕎麦を啜った。そうだったのか・・・。俺達と連む所を見ると霊夢とはちょっとした仲なのだろう。それを考慮すると相当な能力者だと思うが、そのような人が人里に住んでいるとは。人里には大した力を持っていない人が多いかと思っていたがそうでも無いみたいだ。
「すみません……、てっきり人里に遊びに来ているのだと思っていたので。」
「ぜんぜん気にされなくて大丈夫ですよ。」
慧音さんは首を横に振り、また蕎麦を啜った。俺も新たな蕎麦を啜りまた質問を呈す。
「慧音さんは人里でどのような事をされているのですか?」
「そうですねぇ……、寺子屋の教師をしていますよ。」
「あ、あのさっき在った寺子屋の先生……でしたか。」
寺子屋は確かに先ほど見かけた。だが寺子屋など歴史の授業で習った事しか無い。そのような物が此処には現存しておりさらにその寺子屋の教師と今、話しているとは・・・。巡り合せとは実に面白い物だ。
「はい。でも大した事では無いですよ。」
「いやいやいやいや。十分凄い事だと思いますよ。」
慧音さんは謙遜し微笑んだ。道理で先ほどから妙に上品な訳だ。俺は合点する。
その後も俺達は霊夢も交え様々な雑談を交わした。だが流石に時間が経ち過ぎていたので、そこでお別れとなった。
さてその後、俺達は適当に人里を巡り楽しんだ。こんな機会を与えてくれた霊夢に多大なる感謝をしなければならないだろう、そう考えながら軽く人里の観光を楽しんだ。その後俺達は神社に帰ろうとしていたのだが・・・。
「無理だろ……。」
俺は絶望して言葉を吐く。俺達は少し買い物をし過ぎたようだ。その所為で霊夢に持って飛んでもらうのには明らかに重量オーバーをしている。
「うーん、だからと言って歩いて帰るのもまた面倒ですねぇ。」
俺達は少しの間だ首を捻って思惟した。だがやはり根本的な名案は思いつかなかった。
「やっぱり飛んで帰ります。私が疲れたらそこで降りて残りは歩きで行く形にしましょう。」
やがて霊夢は口を開いた。
「別に俺は歩きでもいいんだぞ?」
俺も口を開く、だが。
「いえ、駄目です。そろそろ夕方です。危険な妖怪が出て来るかも知れません。……それに今日は何か嫌な予感がするんです。貴方一人ではきっとどうしようも出来ないでしょう。私が持って帰ります。」
霊夢は有無を言わさぬ表情をする。
「分かった。その方法で頼む。」
俺は頷いた。その後、俺は霊夢に持ち上げられ空を飛んだ。
「うあああああぁぁぁぁぁぁぁぁ……」
―――相変わらず怖かったが。
* * *
「お、おい。大丈夫か? 霊夢。」
人里から飛び立ってから暫く経つと、やはり霊夢は疲れてきたのかフラフラしていた。
「もう無理っ。降ります!」
そう言って霊夢は森の中に在る道に降下し始める。やがて俺をその道に降ろすと、自分も降りて傍の草の上に座りこんだ。
「あぁー、腕が痛い。」
霊夢は自分の腕をさすった。
「大丈夫か?」
俺は霊夢の傍に駆けより顔を覗き込む。
「えぇ、この程度の痛み直ぐに引きますよ……。自分の修行不足を痛感しますねッ!」
「すまない……。だけど此処まで無理しなくてもよかったのに。」
「言ったでしょう?嫌な予感がするって。少しでも神社に近付きたかったんですよ。」
霊夢は微笑む。しかしここは何処だろうか。土で出来た道が森林に囲まれているが、分かるのはそれだけだ。だが不意に体に悪寒が走った。この先で何か不幸が降りかかるような、そんな予感を感じた。
「なぁ、嫌な予感って伝染する物なのか?」
霊夢は「えっ?」と首を傾げる。
「直ぐに移動した方がいいと思う。」
俺は霊夢にそう提案する。それに霊夢も頷いた。
「確かにそうですね……。移動しましょう。」
霊夢は立ち上がり緋袴のようなスカートを叩いた。そして歩き始める。
「無理そうだったら肩貸してやるぞ?」
「そこまで弱っているように身えるんですか?」
霊夢は勢いよくこちらに振り返る。
「……いや見え無いな。」
霊夢は笑い、また歩き始めた。
―――だが歩を進める事に俺の中の危険信号は警笛を強めて行く。それはまるでこれ以上先に進んではならないと、俺に告げているようで在った。だがこの道を進まなければ神社には帰りつけないのだろう。俺はそう自身に言い聞かせ、歩みを続けた。
* * *
―――ギリギリギリ
あれから一時歩き続けていたが突然、風で揺り鳴らされる木々の葉の音の中から、異音を聞き取った。
「なんだ……?」
俺は不審に思い、歩(あゆみ)を止める。
「どうしました?」
霊夢は振り返り首を傾げた。それを視界に入れながら、今聞こえた音が何の音だったかを必死に思惟する。放って置いては危険な感じがしたのだ。そして俺の中で一つの音が検索網に引っかかった。
――――――これはッ!!!
「弓だッ!!!」
―――シュッ
叫ぶと同時に矢が放たれる独特の擦り音が、右後方から聴こえてきた。
「えっ?」
霊夢はあっけに取られている。
「くそっ、伏せろッ!」
俺は無理矢理霊夢に後方から飛び突き地面に互いに倒れこんだ。
―――ヒュンッ
矢が頭上を飛び越えて行く音がした。
「チッ。」
外した事に苛立ちを覚えたのか同じ位置から舌打ちが聴こえて来る。これは第二射が来るだろう、俺は直感的に感じた。
―――ギリギリギリ
「隠れろッ!」
やはり敵は第二射を射るようだ。俺は急いで霊夢を引っ張り無理矢理木の遮蔽(しゃへい)まで行こうとする。だがもう間に合いそうに無い。悟った俺は直ぐさま帯刀してきた刀、"小豆長光"(あずきながみつ)を抜刀する。
―――矢を斬り落とす修練ならしたことがあるッ! 来るなら来いッ!
俺は霊夢の前に立ちはだかり防壁となった。そしてやがて俺の思考の中で昔、師から教わった教えが蘇る。
――――――花は桜木 人は武士 柱は檜 魚は鯛 小袖はもみじ 花はみよしの
桜は散り際が美しく花の中で一番に美しい。武士もまた散り際が潔く人の中で一番美しい。つまり散り際が潔く美しいもの。
――――――武士道とは死ぬこととみつけたり
武士は生きながらつねに、いかに死すべきかを考えろ。生きる可能性と死ぬ可能性があるのならば、死ぬ可能性を選択しろ。
そうだ! 俺が死んでも犬死じゃない! 霊夢を守れる! それだけで十分だ! どうせ自殺未遂したこの体、人の為に使えるだけありがたいものじゃないか! さあ来て見やがれ!
俺は刀の柄を自分の頭の右に持つ、八相の構えを取った
―――シュッ
やがて第二射が放たれた。そしてその放たれた矢が視界内に突入してくる。俺はその矢に向け刀を振り降ろし始める。。
「やあああああああああッ!」
「二重結界ッ!」
俺が矢に対して刀を振り下ろしている間、周りに何かが展開された様に見えた。だが必死の俺は気にも留めず、刀を振り降ろし続ける。
―――キンッ
弓がまるで鋼で出来た板に弾き返されたような音が響いた。
矢は俺達の周りに展開された何かに弾き返され地面へと落下していていた。俺の刀は虚空を斬った。
「……結界を張りました。弓矢程度なら貫通しません。」
霊夢そういって立ち上がった。
―――――結界!? 物理的な障壁を作り出したというのか! 馬鹿な!
だが俺の刀は虚空を切っていた。しかも結界が無く矢が飛んで来ていれば……。
―――刀は外れ同じく虚空を斬り、矢は俺の胸を貫いていただろう……。
「誰っ! 妖気を消して居るみたいだけど大体の位置は分かってんのよっ!」
霊夢は敵が伏在していたと思われる辺りに向かって叫びかけた。霊夢の周りに黒と白の勾玉が合体したような球体が二つ出現する。
「そんなせこいことやってないで正々堂々と勝負しなさいっ!」
―――サササササササササ
犯人が動き始めたらしい。木々を掻き分け移動する音が聞こえてくる。
「無駄っ!」
霊夢は袂から沢山の御札を取り出し、敵が伏在していると思われる茂みの中に投げ付けた。それは霊夢が手に入れた瞬間、硬くピンと張った。それはまるで鉄の板のようである。またそれと同時にさきほど出した二つの球体から、謎の模様が描かれた光るなんとも形容しがたい板状の物が敵が居ると思われる茂みの中に飛んで行った。それはまるで弾幕を作り出し、茂みの中に制圧射撃をかけているように見える。飛翔する二つの御札と光る板は信じられない堅さと鋭さでそこらじゅうの木に突き刺さった。この様な、不思議な術を見ていると最早、自身が信じられなくなってくる。
「くっ!」
―――バサッ
弾幕の弾が当たったのだろうか、人が茂みに倒れる音がした。霊夢は弾幕を維持したまま一気に距離を詰める。俺も左手で鞘を押さえ右手で刀を持ってそれに続いた。
茂みの中をどんどん進む。
「痛っ!」
また茂みの中から声が上がった。もう距離は近いようだ。俺は刀の構えを"脇構え"に変え警戒しながらその方向に進む。
「あーもうっ、しつこいんだよッ!」
―――バサッ、ガサガサガサ
草叢(くさむら)から飛び上がり、生い茂った木々の葉群(ようぐん)を突破したような音がした。上をみると葉群の向こう側に人影が確認出来る。
「霊夢っ、上だッ!」
俺は叫ぶ。だが既に気付いていたのだろうか、霊夢は脚を曲げ飛び上がる寸前だった。
「分かってます、よっ!」
霊夢は生い茂る葉や枝にぶつかりながらも、林の上まで一気に飛び上がる。俺はその葉や枝で出来た葉群で上に対しての視界が悪い中、必死で二人の様子を目で追った。霊夢は射撃を停止し、一気に敵との距離を詰める。
「逃げても無駄よッ! 妖気を消せても存在自体は消さないんだから!」
「そのようだねッ!」
敵は女だった。それは振り返りざま、霊夢に黒色の弾のような物を射撃し始める。
「くっ!」
霊夢はそれを寸んでのところでよけ、自信も二種の弾で反撃を開始する。
頭上で壮絶な撃ち合いが開始された。撃ち出される弾には直進する物もあれば、誘導される物もある。それを互いに素早く避けながら敵に弾を射撃し続けた。最早それを止める術は俺には無く、また参加する術さえも無かった。
――――――だがこの光景は最悪な事に、今まで見たこともないとても美しい物で在った。例えるならば、″弾幕戦″が相応しいだろう。
「あなたっ! 何者よ! 名くらい名乗りなさい!」
霊夢は弾を射撃しながらも、必死に敵の弾を避けながら叫んだ。
「ははははっ! 名を尋ねる余裕なんて君にあるのかなっ?」
―――輪符 円月輪陣撃!(えんげつわじんげき)
突然霊夢と対峙している敵が何かを叫んだ。すると敵の弾に変化が起こる。それまで誘導されずに直進していた弾までもが霊夢に誘導されていたのだ。しかもその弾は霊夢に近づくにつれ、連(つら)なり霊夢の周りに輪陣を形成する。そしてその輪陣は霊夢に急接近した。
「あぁ、もうっ!」
霊夢はその輪陣の下を潜(くぐる)る。輪陣の輪の弾幕にこそ隙間が無いものの上下には穴が開いているのだ。だが輪陣は一つや二つでは無い。何十個という輪陣が既に作られているのだ。さらに不幸なことに敵から射撃される弾がまた新しい輪陣を形成する。避けても避けても、次から次絵と輪陣が霊夢に接近した。霊夢が必死に高度を変化させてそれを避け続ける。
「ほらほらっ! スペルを発動する余力も残ってないんじゃないのっ!? こんなんじゃ名前も教えられないなぁ?」
霊夢は人里から博麗神社に戻る途中の道まで70kg近い俺と、荷物を両手で持って飛行していたのだ。疲れていてもおかしくない。
「畜生ッ! 霊夢!」
俺は不意に力が入っていたのか、言葉を吐く。だが俺には弾も出せないし飛べもしない。掩護することも不可能だ。こうなったのも俺の責任。俺が一緒に人里に良くなんて言い出さなければ・・・・・・。
俺は悔しさのあまり両拳を強く握り締める。