―東方撞賢木― 『巫女と男の運命』   作:Veruhu

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"第四節"

「そんな……。」

 

 

 霊夢はその事実を知った為か俯き声を漏らした。俺は動揺して身動き一つ取る事ができない。

 

 

――――――霊夢の先祖があいつの子殺しの犯人……。そんなまさか……。

 

 

「……あの渡された巻物に書かれていた事は事実だったてことね。」

 

 

 霊夢は俯きながらそう喋った。巻物とはなんのことだろうか。

 

 

「へぇー、あいつがそんな物をねぇ? 訳の分からないことをするなぁ。自身の過ちを後世に伝えてどうするのかね?」

 

 

 敵は余裕さを取り戻したのか大分落ち付いた口調になった。だがその口調には怒気と狂気が残っている。霊夢は顔を上げ阿比留 菊理(あびる くくり)を視界に入れた。

 

 

「違う。高祖母はそんなことだけを伝ようとしていた訳じゃ無い……。」

 

「ハァ?」

 

 

 霊夢は怒気を押さえるように喋った。敵はその言葉の真意を理解出来ないのか、眉をつり上げ首を傾げた。

 

 

「あの巻物には……、家伝書、幻想博麗録、第五拾参代目(だいごじゅうさんだいめ)博麗 帆純(はくれい ほずみ)、第十弐話(だいじゅうにわ)妖怪ノ母親ヲ護リシ勇敢ナ子ノ話には! 貴方の子供の魂を降ろして聞き授かった言葉が綴ってあったのよ!」

 

 

 霊夢は敵に叫び掛けた。だが敵はつまらないことを言うなと憤慨する。

 

 

「巫山戯るなッ!! そんなこと出来るはずがない! 全て戯言だろう!?」

 

 

 敵はそう叫び体を震わせた。

 

 

「それが出来るのよ! 私は修行不足の出来損ないで紫に馬鹿にされたけど……。でも出来るのよ! 死者や神の魂を地上に降ろして話をする事が! 一般に神降術とか、神降ろしとか言われるわっ!!」

 

 

 霊夢は反論した。俺は確かにそのような儀式が神道には存在していることを知っている。だがその言葉を全て証拠も無しに信じろと言われるのには、確かに無理があった。

 

 

「そんな馬鹿げた事が出来てたまるか! あいつのただの自己満足だろう!?」

 

 

「そんなことはないわ! あの家伝書に書かれていた事は本当よ! 高祖母はあの書物を貴方に渡せないでいて嘆いていたらしいわ! だからあの書物を家伝書として私達の代に授けたのよ!」

 

 

 霊夢は叫び体を揺らした。だが阿比留はもう聞く耳を持たないのか、眉を釣り上げると一気に空気を吸い込む。

 

 

「黙れえええええええええええええええええええええええええッ!!!」

 

 

 阿比留はその吸い込んだ空気を一気に吐き出し、桁違いの大きな声で一喝した。その声はまるで森全体をも揺らしてしまうかのようである。

 

 

 霊夢はその声に気圧されたのか一気に押し黙ってしまった。   

 

 

「……もういい、分かった。実は血縁関係でしかないお前を殺すことには多少の迷いがあったのだが……、もういい。やはりお前は死体決定だッ!」

 

 

 あびるはそう叫ぶと、両手を突き出し霊夢の方に向けた。考える暇も無く直ぐにその両手の中に黄色い光が集束し始める。

 

 

「死して息子に赦しをを乞えっ! この糞巫女野郎がああああああああッ!」

 

 

 

―――襲符ッ 虎襲爆裂撃ッ!(しゅうふ こしゅうばくれつげき)

 

 

 阿比留は一気に術名を叫んだ。俺はその最中、霊夢の危機を感じ直ぐ様、霊夢の元まで走り始める。だが霊夢の元までは十五メートルほどあった。

 

 

――――――待て……、待ってくれ……! 考える時間をくれ……! このままじゃ霊夢が殺られてしまう! ……だが今の俺に何が出来る? 走っても最早、霊夢まで間に会いそうにない。だがだからと言って他に出来そうな事など、何も思いつきやし

 

ない! 俺は霊夢を助ける事が出来ないのかッ!

 

 

「糞ッ! 何で逃げないんだっ! 霊夢ッ!!!」

 

 

 俺は走りながら最後の望みに賭け、自分でも信じられないほどの大きな叫び声を上げた。だが当人は逃げようともせず、ただこちらを振り返る。

 

 

 その霊夢の表情は怯えもせず、悲しみに顔も歪めず、ただ……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――笑っていた。

 

 

 

 

 

 

 

―――ヒュゥゥゥ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 阿比留の両手からその集束した弾が放たれた。その弾は一直線に霊夢の元まで向かう。その速度は矢と同等程度の速度であった。どう俺が足掻いても間に会わないのは目に見えている。

 

 

 

――――――起きてくれよ奇跡っ! もうこの際何だっていい! 俺の能力でも一瞬で開花してあの霊夢を救ってくれ! 例え・・・例え二日間の仲であっても、俺にとっては大切な恩人なんだ! 霊夢は何だかんだいって俺に優しく接してくれた! 嫌いな筈な

 

のにっ! そんな奴を俺に……俺に笑い掛けたまま……

 

 

 

 

「死なせてたまるかああああああああああああああああああああああああああああああぁッ!!!」

 

 

 

 

 俺は全身に力を込め走りながら全力で叫び、"一途の可能性"に賭けて念じる。

 

 

やがて阿比留の弾丸は命中したのか爆裂した。辺には爆風が巻起こり土を巻上げ木々の太い枝等をもぎ取る。俺はその爆風を直に食い後方に吹き飛ばされる。そして地面に背中から激突した。破片が当たらなかったのは不幸中の幸いだろう。巻上げられた土が視界

 

を閉ざし倒れた体に振り注いだ。最早そこは砲弾が落下した戦場となんら変わりは無かった。

 

 

「ふふふっ。ふははははははははははははは! 遂に殺ったぞ! 遂に仇を取ったぞおおおおおおおおおッ!」

 

 

 あびるは勝利の雄叫びを上げた。だが俺はそんな事などお構いなしに、霊夢が立って居た場所に目を凝らす。やがて土埃も元居た地面に戻り始め、視界が回復し始めた。

 

 

「アキラ君! 無駄だよ無駄! 博麗霊夢は死んだッ! 私の仇討ちもこれにて閉幕だよッ!」

 

 

 そう言って声高々に笑った。だが俺には"一途の望み"がある。出来れば直ぐにでも霊夢の居た位置まで行きたいのだが、もしものことを考えると足が竦(すく)んだ。だが俺はその"一途の望み"を信じ、ただただ目を凝らし続けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――霊夢は……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

       生きていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「霊夢っ!!!」

 

「なにっ!?」

 

 

 俺は今の攻撃で"傷一つ"受けて居らず、無事な霊夢の元まですぐさま懸け寄った。頭上では阿比留が驚きの声を上げている。霊夢に近づくと本人は自身に阿比留の攻撃が当たっていない理由を理解出来ず、絶句しているようだった。

 

 

「なっ! なぜだっ! なぜ傷一つも受けずにっ……!」

 

 

 上空の阿比留も霊夢が全くの健在で在る事を確認し、またそれが解せないのか不満の声を上げていた。だが俺はその"理由"は言わずに霊夢に呼び掛ける。

 

 

「霊夢っ! おい霊夢っ! 大丈夫なのか!?」

 

 

 呆気に取られていた霊夢は、俺が呼び掛けると目の焦点を俺に合わせた。その表情にはなぜ私は今だ傷一つ無く生き存(ながら)えられているのか、また今見ている世界は現実なのかと明確に語っていた。

 

 

「み、峯野さん……ですか? ……私も貴方も……死んでしまったのですか?」

 

 

 霊夢はまるで無心者かのように表情一つ変えずに、俺にそう問(と)うた。俺は霊夢の肩に手を添えながら口を開く。

 

 

「……上を見てみろ。」

 

 

 霊夢は素直にそれに従い上を見た。俺もその視線を追い上を見やる。

 

 

「そんなっ……誰が……一体。」

 

 

 霊夢はそう呟いた。その霊夢の視線の先に在った物は

 

 

 

 

 

―――"四重結界"

 

 

 

 

 

「ばっ、馬鹿なああああああああああああああああああああああああああっ!」

 

 

 上空で同じ物を見たのだろうか阿比留が嘆き叫んでいた。

 

 俺達が見たその四重結界は霊夢の上方二メートル程度に、防壁と成って君臨していた。薄い赤色と青色の結界が交互に重なり複合防壁と化している。その姿はまるで分厚くまた固く透き通った、薄い赤と青の鉱物の壁のようにも見えた。

 

 

「どうして……。紫がやったの?」

 

 

 霊夢は俺にそう問うた。だが俺は首を横に振る。

 

 

「違うだろう……、多分これは……

 

 

 

 

            俺が張った。」

 

 

 

 俺は霊夢にそう告げた。

 

 

 

「……冥土の土産話にしては、随分と面白くない冗談ですよ……。」

 

 

 霊夢は少し首を傾げ眉を顰めた。

 

 

「冗談じゃ無いと思うんだ。なにかそういう感覚があったから……。」

 

 

 俺はそう返した。実はさきほど最後の賭けで俺は結界が出来るように念じて居たのだ。藁(わら)をも掴む思いの中での咄嗟の行いだったがその瞬間、妙に体と頭が熱くなり全身が少し痺れて疲れたような感覚になった。確証は無いが、この四重結界は俺が創り

 

出した可能性が高い……そう感じている。

 

 

「待て、すこし大きくしてみるから。」

 

 

 俺はそう言って四重結界をより大きくしようと念を込めた。四重結界に掛けている気や念をを引き伸ばすような感覚だ。だがそのまま引き伸ばしてしまえば厚みが薄くなってしまう。俺はさらに四重結界へ気を送った。

 

 

 すると四重結界は四方八方に広がり始め、さらに防護範囲を広げた。

 

 

「そんな……、ありえない……。」

 

 

 霊夢は今見ている光景が信じられないのか唖然とした。それもそのはずだろう。俺自身でさえも今だ術者でである事に確証を持てないのだから。

 

 

「はっ、笑わせてくれるじゃないかアキラ君っ! 君の何処にそんなが底力(そこぢから)が眠っていたのか探ってみたい所だが、生憎(あいにく)僕の我慢の尾は切れてしまったのでね! その出来損ないの結界と共に消させてもらうよッ!」

 

 

 

 そう阿比留は叫び、さらに腕に力を込め始めた。先程と同じように両腕の中に黄色い光が集束し始め弾が形成される。

 

 

 俺は直ぐ様、四重結界を更に広げ霊夢と俺を半球の形で囲った。既に何処にも穴は無い。俺達に弾丸を直接当てるには最早、結界を貫通させるしかないはずだ。

 

 

「峯野さん……。」

 

 

 霊夢は俺に諭すように声を掛けた。だがその声はまるで死を悟っているかのようで弱々しい。

 

 

「……きっと大丈夫だ、霊夢。彼奴の弾丸はこの四重結界を貫けやしない。」

 

 

 俺はそう返し口を閉ざした。だが俺には彼奴の弾丸を確実に防ぐ確証なんて無かった。この戦いに勝つ確証も無かった。俺に在るのはここに居る恩人、霊夢を護りたい、護らなければならない、そういう感情だけだ。

 

 だがそれだけで十分じゃないか。この四重結界に全てを賭ける。俺は全身全霊の力を注ぎ込み結界を構成した。

 

 

「襲符 虎襲爆裂撃ッ! 第一射ッ!」

―――ヒュゥゥゥゥ

 

 

 あびるの弾丸は直ぐにやって来た。それはこちらに向かって来たと見れば直ぐ様、直上の結界に衝突し爆裂する。辺に爆風を巻散らし土を巻上げ、木々の太い枝を折った。だが結界の中には全くの影響が無く安全であった。

 

 

「まだまだこんなものじゃないよ! 第二射!」

 

 

 安心して胸を撫で降ろす暇もなく、第二弾が接近した。

 

 

「第三射! 第四射! 第五射! 第六射! 第七射! 第八射! 第九射!」

 

 

 幾度も幾度も阿比留の弾丸が着弾した。結界の外の木々は次第に薙倒され、一部は吹き飛び一部は消滅する。土もまたそれで巻上げられ、視界はほぼ完全に閉ざされていった。だがそれでも四重結界は凛として、その場に残り俺達を護り続ける。

 

 

「峯野さんっ!! 峯野さんっ!!」

 

 

 霊夢が隣で俺の名を叫び、俺を呼んだ。

 

 

「なんだ霊夢っ! 集中力が途切れそうだッ!」

 

 

 俺は声を少し荒らげ、霊夢を視界へと入れた。

 

 

「このままでは駄目です! 峯野さんっ!」

 

 

 霊夢は両手の拳を固め、それを膝の上に乗せながら必死に訴えた。その声は弾丸の破裂音に負けじとしているためか、通常よりも遥かに大きな声をしている。俺はそれを一瞥してまた視線を上方に戻した。

 

 

「そんなことは分かってるッ! 霊夢も何か策を考えてくれッ!」

 

 

 俺はそう叫んだ。このままでは俺達が殺られることなど疾(と)うの昔に理解している。俺はただ四重結界で防御しているだけだ。敵はまだまだ沢山の弾を撃ち出すことが出来るのだろう。結界にはあまり傷が付いていないように見えるが、その結界をいつ迄も張

 

って置く事などきっと、不可能に近い。実際、俺の四重結界は集中力の減少の所為か、あるいは俺の霊力の減少、あるいはそのどちらもの所為でその存在が薄れて来ていた。防御出来なくなるのも時間の問題だろう。

 

 決戦に勝利するには、相手を倒さなければならない。だが俺が今出来るのは結界を使っての防御だけで、攻撃など不可能に近かった。つまり相手を倒す策が無いのだ。

 

 

「それを考えましたっ! どうか話を聞いていて下さいっ!」

 

 

 霊夢はそう叫んだ。俺はそれに反応し直ぐ様、霊夢に視線を向けた。

 

 

「分かった! 教えてくれッ!」

 

 

 俺は頷きながらそう叫んだ。そしてまた視線を上方の阿比留が居ると思われる方向へ向け、再び結界の構成維持に集中した。だが俺は同時に霊夢の話を理解出来るように、頭の使用率を今迄より下げる。

 

 

「峯野さんが造り出したこの四重結界……! これをあびるの周りにも造り出すんです!」

 

 

 霊夢はそう訴えた。

 

 

「無理だッ! ただでさえこの結界の維持だけでも限界だってのに、そのうえ更にもう一つ造り出すなんて! しかも阿比留の詳細な現在地だって不明だ! 飛んで来る弾丸で方向は分かっても距離が分からない!」

 

 

 俺はそう反論した。新たな結界を造り出せば、それで集中力と霊力を分散されこの結界は防御力を損失する。一発で仕留められなければあの強力な爆裂弾にこの結界を貫通させられて終いだ。簡単には頷けない。

 

 

「いくら阿比留が憤慨しているとしても、所詮は妖怪です! ただでさえ威力の高いこの術、途中、一旦休憩を挟まないと撃てなくなる筈です! 阿比留が射撃を中止したら直ぐに、それを探し出して結界を展開してください! もうそれしかありません!」

 

 

 霊夢はそう説明した。

 

 

「それまで俺がなんとかして堪えればいいんだな!?」

 

 

 俺はそう問うた。正直保つ自身が無い。

 

 

「そうです! 大変だと思いますが……。」

 

 

 霊夢は叫ぶが俯いた。やるせない気持なのかもしれない。

 

 

「その際、霊夢は協力出来ないのか!?」

 

 

 俺は再度別の質問をした。

 

 

「頑張ってみようと思いますが、最早私の力は限界です……。あまり期待しないでください……。」

 

 

「相(あい)分かった! やってやるさっ!」

 

 

 俺はそう叫び起死回生の一手の前の、少し沈んだんこの空気を戻そうと尽力した。

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