「第六十六射! …………第六十七射! はぁはぁ、だ、第六十八射っ!」
未だに阿比留(あびる)の砲撃は続いていた。だがその射撃間隔は少しずつ広まり、威力と制圧力を低下させている。
「第っ……六十九! …………第七十ッ! はぁはぁはぁ、畜生ッ! 素人がっ……造り出したっ……即席の結界がッ……なぜっ、ここまでッ!?」
そう阿比留は疲れた様子で呟いた。
「はははっ! 笑わせてくれるじゃない! この死に底ないがっ!」
霊夢はそう叫び毒づいた。だが土埃が厚く、有視界距離は2メートルといった所であり、阿比留の声からその阿比留の位置の方角は大体理解出来ても、距離は感覚的にしか理解出来ない。
「ふッ、巫山戯(ふざけ)やがってッ! 防御しか出来ないお前等にっ……何が出来るって言うんだい!」
「(峯野さんはこの間に、地点を移動してください!)」
「(なにっ!? どういうことだ!)」
阿比留はそう疲れながらも叫び返した。だがそれと同時に霊夢は俺に話しを告げる。
「あ~? なんて言ったか聞こえない~!」
霊夢は阿比留に向かってそう叫び時間を稼いだ。
「はぁ、はぁ……このっ……クソガキが!」
「(此処に居ては阿比留の位置が土埃で見えません! あいつに気づかれないように、この土埃の中から脱してください! そして阿比留がしっかり確認出来る地点から、あいつを正確に結界で捕縛(ほばく)するんです!)」
「(しかし! お前はどうするんだ!!)」
また阿比留が何かを話している間に、俺達は話を行った。この程度の声なら阿比留に聞こえないのは間違いないだろう、またその霊夢の作戦にも賛成出来る。
――――――だがこの作戦では霊夢自身、何処(どこ)に脱するというのだろうか?
「……で! どうするんだい、君達! 何もしてこないのかい? それならそれで私としては好都合だけど……、それで君達は本当に良いのかな?」
「(私の力も大分回復してきました! もう私の身は私の結界で守れます! もし私の声が阿比留に聞こえなくなったり、別の所から聞こえてきたりしたら、移動したことが直ぐにばれるじゃないですか! ですから早くっ! 行ってッ!)」
「(待てって! お、おい!)」
阿比留はまた何かを叫び、またそれとほとんど同時に俺達は話をした。そして刹那、霊夢は俺を突き飛ばす。
――――――その時に見た霊夢の素顔は誠に端然(たんぜん)としており、即に決心をしているようであった。その素顔に最早、迷いは無い。これはもうそう簡単には覆らないだろう。
「……分かった。必ず阿比留を俺の結界で捕縛して見せるから、それまで少しの間、待って居てくれ。」
「はい、大丈夫です。お願いしますね。」
俺は霊夢の了解の返事があると同時に結界を解除し、後ろに向かって一気に走り出した。急がなければならない、阿比留の砲撃が何時(いつ)再開するか、全く分からないのだから。そしてこの土埃が何処まで行けば晴れて、視界が回復するのか、それも全く分からなかった。とにかくがむしゃらに走って、視界を確保し阿比留を捕縛しなければならない。俺は全身全霊の力を使って走り続けた。
* * *
博麗 霊夢 視点
「……、そろそろ移動したかい! 私も疲れが取れて来たから攻撃を再開するよ!」
阿比留が叫んでいる。あぁーうるさい、うるさい、やるなら早くやればいいのに。あいつ、本当に私達を殺す心算があるのかしら。何かさっきから私達のことを、妙に気を使っているように見えてならないのだけれど。力の回復だってあれだけ強い妖怪の癖に無駄に遅かったし。やっぱりアイツはただ
――――――なりたくもない狂人に、なりきっているだけじゃないのかしら。
「……居るわよ! 此処に!」
私は峯野さんと私がまるで此処に残っているかのように見せかけるため、あえて返事をした。
「あぁ……、そうかい。……どうして、何もしてこないんだい? 同情でも誘っている心算なのかな?」
阿比留はそう私に問いかけた。だがしかしなぜ直ぐに撃って来ないのだろうか。私達に対して無情なのであれば此処(ここ)で、直ぐにでも攻撃を仕掛けて来てもいい筈(はず)なのに。
「そんなもの期待してもいないわよっ! 私達は絶対にこの結界が貴方の力よりも長持ちするのだと、信じているだけ!」
私はそう叫んだ。だが実際そんな事は不可能に近い。峯野さんの四重結界だったらまだしも、私の二重結界じゃ圧倒的に力負けしてる。しかも私はさきほどの戦いで大分の力を使い果たしてしまった。阿比留は予想以上に強い妖怪だ。私のようなただの人間に対処できるようなレベルじゃない。
「そうかい。アキラ君! 君の能力は素晴らしい物だね! 感服したよ! 四重結界なぞ、紫以外の者が出したところを私は見たことが無いからね!」
阿比留は峯野さんに向かってそう叫びかけた。まずい・・・峯野さんは今、此処には居ない。この森の何処かで聞こえているかも知れないが返事をするはずが無いだろう。それは地点を移動したことがばれることと同義だからだ。
「……集中していて、喋ることも止めているみたいよ!」
私は適当な理由をこじつけて、阿比留に返事をした。阿比留がこだわって、執拗(しつよう)に問いかけてこなければいいが。
「なるほどね! ……君は優れた逸材だから、今だったら見逃してあげるよ? 霊夢をこちらに引き渡せばね!」
阿比留はそう告げた。あんなことまでしてくれた峯野さんが、そんな安いくどき文句で、躊躇(ためら)うとは到底思えない。本当にうるさいハエね。攻撃するならば早くすればいいのに。やっぱりアイツは狂人になりきっているだけなのかしら。
「…………そうだよね。君がそんな事をするはずが無いか……。いいよ……、君の四重結界と私の虎襲爆裂撃(こしゅうばくれつげき)、どっちが強いか勝負してみようじゃないか! そして君に君がお望みの名誉ある最期を、遂げさせてあげるよ!」
応答しないのを見ると阿比留はそう叫び、決別の言葉を吐いた。私はもう後、数発の砲撃にしか耐えられそうもない二重結界を半円の形に展開する。穴は何処にも無い。
峯野さんはまだだろうか……、まあでもこのことには全く関係ない人なんだから、逃げてくれてても構わないんだけれど。
心臓がバクバク音を鳴らし始めた。しかしさっきも死に掛けたけのに、此処まで心臓が早打ちされたのは初めてだ。あの時は峯野さんが居たからあまり怖くなかったのだろうか・・・。・・・って、あれ? 峯野さんが居たから安心出来ていた私って・・・
――――――峯野さんに少しでも惚れていたのかも……知れない……。
だってよくよく考えたら私、緊急事態といえど峯野さんに抱き抱えられていたし、しかもなんか……かっこ良かったし……護ってくれたし……。
…………あ~ぁ、紫の言っていた通りになっちゃった……。宿命って……、運命って怖い物ね……。だから嫌いなのよ……。
…………でも……、最期にこんな気持ちを感じさせてくれたのならば、紫には感謝しなければならないのかしら……。
「襲符 虎襲爆裂撃! 第一射!」
さ、幻想郷の巫女として最低限、立派な最期を飾ってみましょうか。
相変わらず土埃で視界が晴れないが、だんだん回りが明るくなっているのが分かる。多分、阿比留が両手に先ほどと同じように集束させているのだろう。
―――ヒュゥゥゥゥ
刹那、阿比留の砲弾が接近する音が聞こえ、やがて私の二重結界に命中した。どうもこの二重結界は出来損ないのようだ。ダメージが大きい。
「第二射! 第三射! 第四射!……」
―――ヒュゥゥゥゥ
新たな砲弾が次々と私の二重結界に命中していった。どんどん私の二重結界に損傷が生じる。残念だけどこれはもう・・・もちそうもない。
「第七射! 第八射! 第九射!」
私の結界が損傷を生じようと、阿比留は攻撃の手を休めない。やがて結界に入った亀裂がどんどん広がりやがて・・・
――――――大きな穴を開けた。
「―――ここまで……ね。」
「第十射!」
刹那、阿比留が新たな砲弾を放ったのを感覚的に察知した。周りの情景がスローモーションに変化し、走馬燈が流れる。その走馬燈は私にとって杭のあるものばかりであった。きっと悔しいのであろう、家族や友人、知り合いなどの顔が映し出された。
……でもその中で一番堪えたのは……、峯野さんの映像だった。
……あぁ、私、この世に大きな杭を残してしまった……。
やっぱり私……
――――――……死にたく……無いなぁ……。
―――ヒュゥゥゥゥ
* * *
峯野 威 視点
「はぁっ、はぁっ、はぁっ、はぁっ!」
俺はただただがむしゃらに走っていた。土埃の外に向かって。しかし、何時まで走ってもその土埃は晴れなかった。相当な砲撃だったのだろう、土埃は広範囲に巻き上がり、また辺りの木々は薙ぎ倒されているか、消し飛んでしまっていた。
また自分が今、正しい方向に向かって走っているのかも自信が持てなかった。またもう太陽が沈みかけ暗くなっていることも原因か、有視界距離2メートル程度の世界では星は愚か、地面もあまり見えない。時には立っている木にぶつかりそうになったこともあった。
また人間は視界を失うと、利き足とは逆の方向へ自然と向いていってしまう話も知っていた。利き足が反対の足よりも力が強いために、地面を蹴るたびに方向が気づかぬうちに変わってしまうのだ。俺は今、目指していた方向を誤りまた土埃の中へと突入しているのかも知れない。だが俺はそんな事は無いと自信に言い聞かせ、ただただ走り続けた。
一時すると視界がだんだん晴れてくるのが分かった。遂に土埃の外側へと辿りついたのだろう。俺は嬉々しながら足を進めた。
そして遂に視界が晴れた。だがもう既に太陽はほとんど沈み、辺りはほぼ闇と化していた。阿比留がどこに居るのか発見出来ない。
「はぁっ! はぁっ! はぁっ! 何処っ……だっ!!」
俺は疲れた体に鞭を打ち、またさらに付近を捜索し始めた。だがもし日が沈んだことで有視界距離が木々の上まで届いていないのならば、阿比留の発見は絶望的かもしれない。
「―――襲符 虎襲爆裂撃! 第一射!」
と突然、阿比留の声が俺の所まで轟(とどろ)いてきた。俺はその声が聞こえてきた方向を頼りに、出来る限り土埃の外側を回って向かい始める。
「はぁッ! はぁッ! こんなんでっ……結界っ……をっ……出せるっ……のっ……かよッ!」
俺は走りながらそんな事を愚痴ってしまっていた。内心、絶望していたのかもしれない。
やがて阿比留の爆裂撃が爆発した音が響いてきた。霊夢は大丈夫だろうか・・・。
そう思惟した刹那、遂に阿比留の姿を視認出来た。その阿比留は両手を土埃の中へ向け、集束した光を次々と放っている。
「第七射! 第八射! 第九射!」
俺は即座に阿比留の周りに結界を形成する準備を行った。阿比留の位置を視認し、その周りに結界が出来る姿を想像する。そしてその想像通りに結界を造り出す為、気や念を送り込んだ。
「第十射!」