―東方撞賢木― 『巫女と男の運命』   作:Veruhu

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"第七節"

   *                  *                  *

 

 

 

 

  峯野威(みねの あきら)視点 

 

 

 

 

―――ガサガサガサッ

 

 

「待ってッ!!!!」

 

 

 

 草々を掻き分ける音が聞こえてきたその突如(とつじょ)、霊夢の声が響き渡った。

 

 俺は今まで土埃の中で待機していると思っていた、霊夢の突然の出現に呆気に取られてしまう。

 

 

「阿比留ッ! 貴方は死ぬ前に一度、貴方の子供の神霊が世に降ろした言葉を知りたいとは思わないの!?」

 

 

 霊夢はまるで先に口を開かせまいという風に、一気に捲くし立て問いかけた。

 

 

「……まだそんな戯言(たわごと)を言うのか。そんな事出来る筈がないと何度も言ったじゃないか。」

 

 

 阿比留は大して興味が無いと言う風に、霊夢から目を逸らした。だが霊夢はまだ諦められないのだろうか、目からは怒気とも闘志とも取れる強い生気が見え隠れしている。

 

 

「……貴方の子供の名前は、阿比留 嶺之介(あびる いわのすけ)。男の子でしょう? 神降ろしの儀式の際に貴方の子供は"阿比留嶺之介郎子命"(あびるいわのすけのいわつこのみこと)と名乗って居たわ。」

 

 

「なにっ!?」

 

 

 阿比留は何故、自身の死した子供の名前を知っているのかと、驚愕(きょうがく)の眼差しで霊夢の方を見やった。郎子命(いわつこのみこと)とは多分、死者に送られる諡(おくりな)の事であろう。そして郎子とは児童に付けられる諡だ。

 

 

「"阿比留嶺之介郎子命"は生前14歳であったこと。男子であったこと。母は阿比留 菊理(あびる くくり)であったこと。自身は母を護るために死滅したことを紹介として降ろしていたわ。」

 

 

「……。」

 

 

 霊夢はこれが証拠だと言うように阿比留に告げた。阿比留はこれに愕然(がくぜん)としてしまったのか、凍りつき絶句してしまっている。

 

 

「今一度(いまいちど)告げるけれど、貴方の息子、阿比留嶺之介は、自身の死には大して杭は無いということ、母のために死ぬことが出来て嬉しいということを主に伝えていたわ。」

 

 

 霊夢は再度、その事を告げた。阿比留は応答こそしなかったが、顔を伏せる反応を見せた。そしてやがて嗚咽(おえつ)と思われる阿比留の声が四重結界の中より響いて来る。

 

 

「ううっ……ぐすっ……嶺之介……ごめんね……。」

 

 

 俺はそれを見ていられなくて顔を逸らした。だが霊夢はその様子をしっかりと見据えている。

 

 

「……再度、問うわ。……阿比留 菊理、貴方は阿比留 嶺之介の神霊、"阿比留嶺之介郎子命"が降ろされた言葉を見たいとは思わない?」

 

「……っ。」

 

 

 霊夢はそう真剣に阿比留に問うた。阿比留はそれに答えないが、動揺しているようにも見える。

 

 

「……黙ってたら分からないわよッ!! 阿比留 菊理ッ!!」

 

「私……わっ。ぐすっ……。私、はっ!!!」

 

 

 霊夢の叫びに呼応したかのように、阿比留は嗚咽を漏らしながらも叫んだ。

 

 

「私はっ! それをッ!!」

 

 

 阿比留は叫び遂に霊夢の問いかけに答えようとしたその刹那、突然辺りに疾風(しっぷう)が巻き起こった。その疾風はまるで竜巻のように渦巻き、付近に在った土や葉、枝を巻き上げる。俺達はそれに吃驚(きっきょう)すると同時に、俺と霊夢は地面に跪(

 

ひざまづ)くように伏せ防御した。巻き上がった枝や土を体中に受け、僅(わず)かだが痛みを感じる。目を開ければ巻き上がった土や枝、葉が飛び込みそうで開けられない。それでも俺は影響が無い程度に薄目を開け、辺りの様子を窺(うかが)った。

 

 

 

―――ザザッ

 

 

 

 その時、一瞬ではあるが誰かが二本足で地面に降り立った音が、風音(かざおと)の中から聞こえてきた。その音は俺の直ぐ右横から聞こえて来る。俺は誰だと思い、右を見やろうとする。

 

 

 

―――ズサッ

 

 

 その刹那、その右に降り立った誰かは地面を蹴った。この音を俺は良く知っていた。この音は人間が何かを蹴るときに片足を素早く横に回転させる時の音だ。俺は蹴られると思い咄嗟に右手を肘の所で折り曲げ、さらに左手をその右手の横に合わせるように組み

 

合わせて上半身を防御した。拳法に置ける上半身防御の基本形だった。

 

 

―――ガッ!!

 

 

「うっ!!」

 

 

 次の瞬間俺は予想通り右横に降り立った奴に上半身を思いっきり横向きに蹴られた。だがその圧倒的な脚力(きゃくりょく)により俺は何メートルも吹き飛ばされる。その間俺は、殆(ほとん)ど気を失ってしまった。

 

 

「峯野さんっ!?」

 

 

 気が朦朧(もうろう)としている間、霊夢のそんな声が聞こえてきた気がした。

 

 

 

 

   *                  *                  *

 

 

 

 

  博麗霊夢 視点

 

 

 突然付近に竜巻のような疾風が吹き起こった。私と峯野さんは咄嗟(とっさ)に跪(ひざまづ)き防御した。その体勢で暫(しばら)くしていると突然。

 

 

 

―――ガッ!!

 

 

「うっ!!」

 

「峯野さんっ!?」

 

 

 峯野さんが突然何かに攻撃され、それに喘(あえ)いだような声が響いてきた。

 

 

―――ズサァッ

 

 

 その直後、誰かが近くの地面を滑る音が聞こえてきた。付近を見渡すと峯野さんが仰向けに倒れている。

 

 

「峯野さん!!」

 

 

 私は峯野さんの近くへ駆け寄った。既に疾風の如(ごと)く吹いてきた竜巻は威力を失っている。

 

 

「峯野さん!! 峯野さん!!」

 

「うっ、うぅ。」

 

 

 私は峯野さんを抱き抱え呼びかけた。峯野さんは痛みの為であろうか喘ぎ、気を失っているように見えた。私は何処を怪我したのかと全身を見やる。すると右腕の異常に気が付いた。よく見ると右腕は肘から手にかけての前腕が内側に向けて折れていた。右前腕

 

部骨折である。

 

 

「酷(ひど)い……。」

 

 

 私は思わずそう呟いた。

 

 

「確かに、酷いことをしてしまったかもねぇ……。後で八意 永琳(やごころ えいりん)の元へ診察を受けに行くことをお勧めするよ。」

 

 

 突然闇に澄(す)んだ声が響いた。私は驚き、声が聞こえて来た方を見やる。其処(そこ)には見たことも無い無駄に美しい男が立っていた。しかしその体からは猛烈(もうれつ)に大きな妖気が発せられており、妖怪の強者(きょうしゃ)であることは明確で

 

在った。

 

 

「誰っ!!」

 

 

 私は叫び問いかけた。

 

 

「おいおい、誰とはなんだ失礼だな。これで会うのは二度目・・・。あぁ、そうか、そういえば君からは僕に関する"記憶を消した"んだったねぇ。いやこれは失敬。」

 

 

 そうそいつは面白そうに微笑んだ。"記憶を消した"私はこの言葉に疑問を覚えるが、それよりもそいつに憤(いきどお)りを感じ睨みつける。

 

 

「おいおい、そんなに睨みつけるなよ博麗霊夢。お前がどれだけ威のことを心配しているかは既知(きち)しているが、仕方が無かったんだよ。"菊理を助け出す"ためにはね。」

 

「なっ……。」

 

 

 私は驚愕(きょうがく)し咄嗟に周辺を見やった。だが幾等(いくら)探しても先ほどまで薄い青と赤色で輝いていた、峯野さんの四重結界は無い。そしてその代わりに先ほどまで四重結界に捕えられていたはずの阿比留が、地面に降り立ち新手(あらて)の男

 

に対して跪いていた。こいつは相当の実力者、あるいは権力者なのだろうか。

 

 

「まさか、この為に……。」

 

 

 私は思わずそう呟いた。

 

 

「そうさ。威は丈夫な男のようだからね。これ位(くらい)しとかないと、四重結界から意識が外れないと思ったんだよ。」

 

 

 その男は淡々(たんたん)と告げた。つまり峯野さんに腕が折れるくらい強力な一撃を与えることにより、四重結界の構成から意識を外し結界を消滅させるという意味だ。私は納得するが怒気は収まらなかった。

 

 

「こ、この野郎っ……。」

 

 

 そして何時(いつ)の間に意識を回復したのだろうか、私が抱き抱えていた峯野さんが声を上げた。

 

 

 

 

 

   *                  *                  *

 

 

 

 

 

  峯野威(みねの あきら)視点 

 

 

 

 

「そう……。威は丈夫な……だからね。これ位し……、四重……意識が外れ……ったん……。」

 

 

 だんだん薄らとした意識から回復してきた。それと同時に誰かが分からない者の声が聞こえて来る。

 

 

「こ、この野郎っ……。」

 

 

 俺は状況に判断が追いつかないが、怒気の為に思わず声を漏らした。

 

 

「お、さすが威。回復が異様に速いねぇ。さすがは"妖怪の賢者の息子"。」

 

「えっ?」

 

 

 そいつはまるで俺と紫さんの関係を知っているかのように告げた。霊夢はそれに声を漏らし、唖然とする。

 

 

「何故(なぜ)、知っている。」

 

 

 俺はそう問いかけると右手で地面を突き、立ち上がろうとした。が、地面を突こうと右手を広げた瞬間、大きな痛みが走った。

 

 

「うがっ……!」

 

 

 見ると右腕は前腕部が内側に向けて骨折してしまっていた。さっきあいつの蹴りを受けたせいだろう。

 

 

「動いちゃ駄目です!」

 

 

 霊夢がそう俺に呼びかけた。

 

 

「今頃気づいたのかい? 威。さっきから気づいていたものかと勘違いしていたよ。」

 

 

 そいつはそう言い微笑んだ。実に腹立たしい。

 

 

「で、話を戻すよ。なぜ君が八雲 紫(やくも ゆかり)の息子であると分かったか。それは君が四重結界をいとも簡単に使えたからだよ。幻想郷の誰にも簡単には真似できなかった術をね。」

 

 

 そうそいつは告げた。確かにその通りなのかもしれない。俺は八雲紫の息子だ。ならば俺が紫さんの持っている術を、遺伝的に使えたとしてもおかしくはない。しかもこいつの言う通り、幻想郷の誰にも簡単には真似出来なかったと考えると尚更(なおさら)で

 

ある。

 

 

「……本当なんですか? 峯野さん?」

 

 

 霊夢は俺を抱き抱えながらそう尋ねて来た。俺はどう答えれば良いかが分からなかったため、無言で返した。

 

 

「……ま、これ以上の面倒事は避けたいのでね。俺達はこれで退散させて頂くよ。」

 

 

 いきなりそいつはそう俺達に告げて来た。

 

 

「待てッ!」

 

 

 俺は叫びそいつを止めようとした。折角(せっかく)此処まで戦ってきたのに、みすみす阿比留を逃がすのには納得いかない。

 

 

「無理ですっ!」

 

 

 だが霊夢がそう叫び俺に対して抱きつく力を強め、制止した。

 

 

「退けッ!」

 

 

 俺はそう叫ぶ。だが右前腕部を骨折し大きな痛撃(つうげき)を受けていた俺の体からは、霊夢の腕を払いのけるような力は出なかった。

 

 

「じゃ、これでおさらばとさせて頂くよ! 威! 霊夢! "また君達を殺しに来る"けれど、それにはかなり長い月日を経たせることにするよ。威という異質で特異な存在が現れたからね。大幅な作戦変更が必要となりそうだ!」

 

 

 そうそいつは告げるとまた付近に疾風が吹き荒れ始め、竜巻を作り出した。

 

 

「くそっ、放せッ! 霊夢!!」

 

「嫌ですッ!」

 

 

 必死に俺は霊夢から離れようとするが、肝心の霊夢はその腕を絶対に緩めなかった。

 

 

「オン アニチヤ マリシエイ ソワカ」

 

 

 そしてそいつはいきなり何かしらの真言だと思われる言葉を唱えた。するとそいつの後方より強力な光が発せられ、俺達は直視出来なくなる。そして最早そいつらが何処に居るのかも判別つかなくなってきた。

 

 

「では最期に取って置きの贈り物を君達に授けよう。僕の名前は"熊埜御堂 直彦(くまのみどう なおひこ)"。我々、結社の長(おさ)だよ。そして能力は"特定の記憶を消去する程度の能力"。その能力で今から君達の一部の記憶を消させて貰うよ。例えば、威の四重結界とか、僕に関する記憶とか。我々にとって都合の良くない記憶は全てだよ。あ、僕の名前くらいは覚えていて貰おうか。また紹介するのも面倒だからね。」

 

 

 そうそいつ、熊埜御堂 直彦は光の中から告げてきた。

 

 

「阿比留ッ! お前はそれで良いのかッ!!!」

 

 

 だが俺はその事に関してはなにも興味が無いという風に、阿比留に対して疑問を投げ掛けた。

 

 

「おいおい、僕の話は完全に無視かい? そんなに菊理のことが好きなのかな? まあ良い、ならば菊理との戦いの記憶ぐらいは残しといてあげようか。」

 

 

 熊埜御堂はそう告げた。だが俺はそのことに関しても大して興味は無い。

 

 

「では、これで本当におさらばだよ! 君たちはこれから記憶を失う! 僕達にとって都合の悪い記憶、全てをね!」

 

 

―――憶符! 怨敵記憶銘記調伏!(おくふ おんてききおくめいきちょうぶく)

 

 

 そのスペルの名前が聞こえると同時に俺は気を失ってしまった。遂に阿比留からの返事も無いままに・・・。

 

 

 

 

 

 

  第参章 「始まりを告げる夢」 終わり




 遂に第参章「始まりを告げる夢」、終了させて頂きました! 事実上、第壱巻の終了でございます! 

 沢山の読者の方のおかげで此処まで来ることが出来ました! この場をもって謝辞を申し上げたいと思います。この『巫女と男の運命』をここまで見て行って下さり誠にありがとうございました!

 まだまだ頑張って参りますので、この『巫女と男の運命』をこれからも御愛読なされますよう謹んでお願い申し上げます!


 さて、次章は短篇の予定であります。第参章で阿比留 菊理(あびる くくり)と熊埜御堂 直彦(くまのみどう なおひこ)との戦闘や会話を行っている最中、裏ではどのような動きが在ったのか、というお話でございます。ではその時まで、さようなら。
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