―東方撞賢木― 『巫女と男の運命』   作:Veruhu

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"第二節"

峯野(みねの)さんは飛べないのよ。」

 

「…………はぁ!?」

 

 

 魔理沙は驚愕(きょうがく)のあまりか目を白黒させていた。

 

 

「おっ、お前それで良くあんな場所に居れたな! しかも骨折程度で済むとは……。」

 

 

 魔理沙は俺に向かって軽く怒鳴りつける。俺は全くその通りであるから反論出来ない。

 

 

「外来人と言えど命知らずにも程があるぜ。」

 

「面目ない……。」

 

 

 俺はそう言われ顔を伏せた。

 

 

「待って! 言って置くけど峯野さんは凄く強いのよ!」

 

 

 霊夢は俺を腕で指しながらそう告げた。魔理沙はまさかと言うように笑いながら首を傾げる。

 

 

「えー? 外来人なのに?」

 

「そうよ!」

 

 

 霊夢は叫んだ。しかし俺昨日そんな凄いことしたのか。記憶が欠落しているせいで分からない。

 

 

「どんな所が?」

 

 

 魔理沙はまるで信じていないのだろう。笑いながらそう霊夢に問いかけた。霊夢は憤慨(ふんがい)しさらに吠える。

 

 

「何ってそりゃ峯野さんは"よ"……。」

 

「"よ"? 何だ?」

 

 

 霊夢は突然言葉に詰まった。魔理沙は面白そうに見ている。

 

 

「……あれ? 思い出せない。」

 

 

 霊夢は一時首を傾げ思惟(しい)していたがやがてそう告げた。魔理沙はどっと笑う。

 

 

「あはははははっ! なんなんだよ一体!」

 

 

 魔理沙はそう告げさぞ面白そうに笑った。だが霊夢は俺の方を真面目に見つめ、右手を口に当ててなにやら考えている。今回は目を逸らすことも無かった。

 

 

「本当はただの"人間"なんだろ!?」

 

 

 魔理沙はそう問う。

 

 

「違う! 昨日は私、峯野さんに助けてもらったようなものなんだから! ……どうやって助けてもらったかが思い出せないけど。」

 

「どうして其処(そこ)だけ思い出せないんだよ!」

 

 

 魔理沙は笑いを(こら)えながら霊夢に問うた。霊夢はおかしいという風に首を振る。

 

 

「どうも記憶が曖昧で断片的(だんぺんてき)なのよ。一部のあるべき記憶が欠落していて何が何だが思い出せないの!」

 

 

 霊夢はそう答えた。俺も霊夢に同意見だ。脳内にある記憶が部分的に欠落していた。例えば俺が9時から10時までの情報を記憶していたとする。通常人間は情報の全て記憶できるわけではないが、その記憶にはしっかりとした繋がりがある。俺には10時の情報が記憶されている。その記憶は海に行ったときの視覚情報だ。しかし9時から9時50分までの情報が一切無く、なぜ自身が海に行ったのかさえ思い出せない。そのような状態だった。

 

 

「まあ、戦闘後の後遺症みたいなものかもな。頭を強く打ち付けたのかも知れないぜ?」

 

 

 魔理沙はそう笑顔の残る表情で告げる。しかし本当にそうなのだろうか。頭を打ちつけたからとって此処まで綺麗に部分的な記憶が欠落するとは思えないのだが。

 

 

「そうなのかな……。私にはそうは思えないんだけど。」

 

 

 霊夢は納得できないのか眉を(ひそ)めた。

 

 

「まあ、その事は後で考えるとしようぜ? 今は威をどうやって永遠亭まで送り届けるかを考えよう。」

 

 

 魔理沙にそう言われ霊夢と俺は考えた。やがて魔理沙が口を開く。

 

 

「やっぱり私が永遠亭まで連れていくよ。」

 

「だ、駄目よ! 私が連れて行くわ!」

 

「へー。その体でどうやって?」

 

「あっ。」

 

 

 魔理沙はそう悲しい現実を突きつけた。霊夢は唖然とする。

 

 

「霊夢……。お前今、大した能力も使えないだろ?」

 

「……っ。」

 

 

 霊夢は愕然(がくぜん)と肩を落とした。

 

 

(あきら)は私が責任もって永遠亭まで連れて行く。そしてそこでちゃんとその右腕に治療を(ほどこ)してもらう。良いだろ?」

 

 

 魔理沙はそう告げ微笑んだ。

 

 

「……。」

 

 

 霊夢は答えない。頷きもしなかった。

 

 

「なあ、威が大切なのは分かるけどさ、このままじゃ腕……変形したままになるぜ? 良いのかよ?」

 

「それは……。」

 

 

 魔理沙は霊夢を軽く諭した。霊夢は唇を噛み締める。

 

 

「な? 連れていってやるだけの事だ。何の心配も要らない。良いだろ?」

 

 

 魔理沙はそう再度霊夢に問いかけた。

 

 

「そう……ね。分かったわ。お願い。」

 

「おう! 任せとけって!」

 

 

 霊夢は頷きそう頼んだ。魔理沙は頷き微笑む。

 

 

「よし! 思い立ったが吉日だ! 威! 着替えて来いよ!」

 

「分かった。」

 

 

 魔理沙はそう()かした。俺は頷き着替えを取りに向かった。

 

 

 

 

 

 

 *                  *                  *

 

 

 

 

 

 

「こんな感じだったか……?」

 

 

 俺は昔の記憶を(さかのぼ)り、着物の着方を思い出していた。今着ようとしている和服は"(しゃ)"と呼ばれる春から夏、秋にかけての着物である。この着物は非常に薄い生地であることが特徴で、透かしてみると向こう側が綺麗に見える。さらにこの着物は着て見ると風通しが良く非常に涼しいのだ。

 

 

「あぁ、そうだった半襦袢(はんじゅばん)を先に着ないと……。」

 

 

 そう俺は呟き半襦袢を上半身に着た。先ほども言ったように紗は非常に薄く向こう側が透けて見えるため、そのまま着ると肌が間接的に露出(ろしゅつ)してしまうのだ。

 

 そしてその後、下半身に股引(ももひき)(まと)った。これは現代社会においてはよく"ぱっち"と呼ばれるものだ。そうして下着を着付け終わると、今度は紗を上から纏った。

 

 帯は角帯か兵児帯(へこおび)かで迷ったが、今日はこれから外出ということで角帯を選択する。

 

 

「念には念を入れて紫さんから貰った短刀を持っていくか……。」

 

 

 俺はそう呟き"短刀 三本木吉光(さんぼんぎよしみつ)"を右腰に帯刀した。右腰に差したのは左腰に差してしまうと左手一本で刀を抜けないためだ。何故左手一本で戦うことを前提にしているかというと、右手が骨折していて使えないためである。

 

 そうしてやっと当時の武士らしい"着流し"が完成した。(はかま)は病院程度の場所に行くのだから必要なしと考え着なかった。

 

 

 そうして(ころも)の取替えを終えた俺は、霊夢達の居た居間へまた戻った。

 

 

 

 

 

 *                  *                  *

 

 

 

 

 

 

「なぁ霊夢。俺たち友達だろ~? 教えてくれよー。」

 

「うるさいわねぇー。くどいわよ!」

 

「んなこと言わずにさー。教えてくれたら手助けしてやるぜ!」

 

「あんたに助けてもらってもろくなことにはならないわよ!」

 

「そんなこと無いって!」

 

 

 居間に入る前に霊夢と魔理沙のそんな会話が聞こえて来た。俺は構わず居間へ入った。

 

 

「着替え終わったぞー。」

 

「おう。」

 

「……っ。」

 

 

 俺がそう告げると魔理沙はそう返してきた。だが霊夢は顔を逸らしてしまう。

 

 

「……何の話をして居たんだ?」

 

 

 俺は訳が分からずにそう魔理沙に問うた。

 

 

「ちょっと、お前のことを……な?」

 

「俺……?」

 

 

 魔理沙はそう教えてくれたが、俺は意味が分からず首を傾げた。

 

 

「ま、いいじゃねーか。それより準備できたんだろ?」

 

「あぁ。」

 

 

 魔理沙は会話を逸らし、俺にそう尋ねた。俺は頷く。

 

 

「よし。じゃあ行くか!」

 

 

 そう言って魔理沙は立ち上がった。しかし俺は心配で気が気でない。昨日も霊夢が俺を人里まで両手で抱えながら飛行したため、霊夢自身が疲労困憊(ひろうこんぱい)になりあのような事態にまで発展してしまったのだ。魔理沙とて例外でないだろう。

 

 

「……お前、どうやって俺を運ぶ心算(つもり)だ?」

 

 

 俺は魔理沙にそう問うた。

 

 

「どうやってって、そりゃ一緒に(ほうき)(またが)るんじゃないか?」

 

 

 箒? 俺はこの単語に疑問を覚えてしまう。

 

 

「箒? ってなんだ?」

 

 

 俺は魔理沙にそう問うた。

 

 

「魔法の箒の事だよ。それに跨って飛んでいくんだ。」

 

「へぇー。」

 

 

 俺は頷いた。魔法の箒か、なるほどな。

 

 

「……えっ。まじで?」

 

 

 俺はその事実に驚愕し聞きなおしていた。

 

 

「そうだぜ? 今見せてやろうか?」

 

「あぁ……。」

 

「よっしゃ!」

 

 

 魔理沙はそう答え息を吸った。 

 

 

「来いっ! 私の箒っ!!」

 

 

 魔理沙はそう叫んだ。その直後何処(どこ)からとも無くヒューンという音が響きやがて……

 

 

 

―――ガシャアアアアアン

 

「うおっ。」

「きゃっ。」

 

 

 

 その魔法の箒が障子(しょうじ)に見事命中した。最初、箒の握るほうから障子の紙の部分を貫通して来たが、後方の枝を束ねてある部分が障子の骨に引っかかりその骨もろとも破壊する。障子は吹き飛ばされ、やがて得意げに右手を伸ばした魔理沙の腕に魔法の箒が収まった。

 

 

「…………どやぁ。」

 

「いやいやいやいや!」

 

 

 魔理沙は得意げな顔になり満足そうにした。だが俺はあきれて大して物も言えず、霊夢は憤慨していた。

 

 

「ちょっと! これどうしてくれるのよ!」

 

 

 霊夢はそう魔理沙に問う。

 

 

「……後で霖之助(りんのすけ)の所にもって行くぜ!」

 

「売るの前提じゃない!」

 

 

 魔理沙はそう答え、霊夢は突っ込んだ。

 

 

「どうしてこっちの障子は開いているのに、わざわざ開いてないほうから突っ込んでくるのよ……。」

 

「箒に回避能力はないんだぜ?」

 

「そこ、得意げになるところじゃないから。」

 

 

 霊夢はこういう事態には案外慣れているのか知らないが、冷静に突っ込む。だが魔理沙の熱はまだ冷めないようだ。

 

 

「どうだ見たか(あきら)! 私の魔法の箒を!」

 

 

 魔理沙はそう言い俺に魔法の箒を突き出す。俺は苦笑いしながら返した。

 

 

「あ、あぁ、凄いな?」

 

「なぜに疑問系!?」

 

 

 俺はどう答えれば良いかが分からず、疑問系になってしまう。魔理沙はそれにどうも納得できないようだ。

 

 

「んー、最期に"マスタースパーク"を決めればかっこよかったかなぁ?」

 

「やめれ、神社が"また"無くなる……。」

 

 

 魔理沙はマスタースパークというスペルらしい術の名前を呟き、霊夢は"また"神社が無くなると発言した。昔、魔理沙に神社を消されたのだろうか。

 

 

「まあ、壊れた障子の代わりなんて、家に幾等(いくら)でもあるからさ! 後でもって来るぜ!」

 

「はいはい。高そうなのにしておいてね。」

 

 

 そうしてこの会話は決着した。正直こんな野蛮(やばん)な女の子とこれから行動を共にするとは。先が思いやられる。

 

 

「よし! じゃあ魔法の箒の力も見せた所だし、行くとするか!」

 

 

 魔理沙は俺にそう告げ。箒に跨った。

 

 

「やめてー! 部屋の中から飛んでかないでー!」

 

 

 だが霊夢にそれを制止される。

 

 

 

 

 

 

 *                  *                  *

 

 

 

 

 

 

「よし! 今度こそ行こうぜ!」

 

 

 霊夢に部屋から飛んで行くなと制止された魔理沙は場所を外に移した。的確な判断だと俺は思う。

 

 

「なぁ。本当に大丈夫なのか? 俺を乗せて飛ぶとなるとかなり力を使うんだろ?」

 

 

 俺が問うと魔理沙は少しの間、思惟する素振りを見せた。やがてその口を開く。

 

 

「まあ確かに永遠亭まで行くとなるとかなりの力を使うだろうし、一人の時よりも疲労も大きいだろうけど……。ま、大丈夫だぜ。なんせ私の力はありあまってるからな!」                                      

 

 

 魔理沙はそう答え笑顔になった。だが俺は正直な所、"昨日の二の舞"になるのではと動揺が隠し切れない。

 

 

「やっぱり、歩いて行った方が……。」

 

 

 俺はつい弱気なことを呟いてしまう。

 

 

「永遠亭までどんくらい距離があると思ってんだよ。しかも"迷いの竹林(まよいのちくりん)"は"下を歩く"より"上を飛んだ"ほうが迷いにくい。ほら駄々こねてないで行くぞ!」

 

「別に駄々って訳じゃないんだが……。」

 

 

 俺はそう言われしぶしぶ箒に跨ろうとするが、やはり気が引けた。

 

 

峯野(みねの)さん。魔理沙の場合は箒に二人跨ればいいだけだから大丈夫ですよ。昨日は私が両腕で峯野さんをあれだけの間持ってないといけなかったから、疲労困憊(ひろうこんぱい)しちゃったんです。」

 

 

 霊夢は俺にそう告げる。

 

 そうか。昨日の霊夢は俺の両腕を両手で持って飛行していたんだ。しかも神社から人里までの距離だから相当長い時間だ。霊夢には申し訳ないことをさせてしまった。

 

 

「なるほどな……。昨日は無理させて悪かった。」

 

 

 俺はそう霊夢に謝った。だが当の本人は両手を振る。

 

 

「いや、いいんですよ! 収穫もありましたし!」

 

「へ? 収穫?」

 

「なっ、なんでもありません!」

 

 

 そう言って霊夢は顔を伏せてしまった。さっきから霊夢の様子が妙に落ち着いていない気がするのは、気のせいだろうか。

 

 

「つか、よくよく考えると俺の体を両腕で持ち上げるって相当の腕力だろ……。影で鍛えてるのか?」

 

 

 俺は驚愕し、霊夢にそう問うた。

 

 

「いえっ! 霊力を腕に流しただけですよ。」

 

 

 霊夢はそう教えてくれた。俺は頷く。しかし霊力か。"俺にもそんな能力"があればな。

 

 

「おい威! そろそろ箒に乗れよ!」

 

 

 隣で体を横にして箒に乗り、宙にぷかぷかと浮かんでいた魔理沙にそう急かされる。俺は急いで箒に跨った。

 

 

「威! かっこ悪いから私と同じように横向きで乗れ!」

 

 

 魔理沙にそう諭され俺は同じように体を横にして箒に乗った。

 

 

「むっ。」

 

 

 霊夢の顔が少し険しくなった気がする。

 

 

「ありがとう魔理沙。よろしく頼む。」

 

「よっしゃ! いざ! 乗り立ち(のりたち)!」

 

 

 魔理沙はそう叫び魔法の箒がさらに宙へ浮かび始めた。

 

 

「いってらっしゃい。」

 

「あぁ、行ってくる。」

 

 

 霊夢にそう見送られて俺たちは出発した。離陸した神社がどんどん遠くなりやがて点のようになって行く。

 

 

 魔理沙との飛行に関しては、以前霊夢に運んでもらった御蔭かもう怖がることも無く冷静で

 

 

 

 

「うわあああああああああああああああああ! たけえええええええええええええええええええ! はええええええええええええええええええええ!」

 

 

 

 

 ……居られなかった。

 

 

 

 

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