―東方撞賢木― 『巫女と男の運命』   作:Veruhu

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"第四節"

「ははは。」

 

 

 気づくとさきほどのバニーガールさんが乾いた笑いをしている。

 

 

「あははは。」

 

 

 俺もそれに続いて笑いながら、左手を軸にして体を起こした。その女の子を良く見ると、やはり兎だからか目は赤色をしている。またその隣には兎妖怪の子供なのか、やはり頭から耳を生やした小さい兎妖怪が居た。

 

 

「何しに来たのよ。あんた達。」

 

「それはだな……。」

 

 

 その小さな兎妖怪はなにやら魔理沙と話し始めてしまった。

 

 

「あっ、患者さんですね。」

 

 

 と、唐突に俺の目の前に立っていた大きいほうの兎妖怪は言った。どうも俺の右手についているギプスを見てそう思ったようだ。

 

 

「はい、そうです。」

 

 

 俺はそう返しながら立とうとする。しかしその刹那、何処からともなく突風が地面を這って吹いてきた。その突風は一瞬であったが勢いのある風で

 

 

「きゃっ!」

 

 

 目の前にいる兎妖怪のスカートを捲り上げた。そしてそのスカートの中の物をさらけ出す。

 

 

 俺はさすがに申し訳無いような気がして、見えたものから直ぐに目を逸らす。兎妖怪は直ぐに反応してスカートを右手で押し下げた。

 

 

「ぶべらッ!」

 

 

 俺はまた魔理沙に頭を叩かれた。しかも先ほどの二倍くらいの強さで。 

 

 

「どっ、どうして狙ったように風が吹いてくるのよ!」

 

 

 風でスカートを(めく)られた兎妖怪はそう怒鳴った。すると先ほどの小さいほうの兎妖怪が「ふっ。」っと笑ってその理由を説明する。

 

 

「私の能力……"人間を幸運にする程度の能力"。」

 

「ちょっ!」

 

 

 小さい方の兎妖怪が理由を説明し終えると、大きいほうの兎妖怪がそれに驚愕(きょうがく)した。そして俺の方を見やると両手で体を守るような体性にする。

 

 俺を見る目はまるで変態に襲われそうになっている女性のような目をしていた。

 

 

「いやいやいやいやっ!」

 

 

 俺はそれを見やると愕然(がくぜん)として、違うんだと右手を横に振る。

 

 

「今のは不可抗力だろ!!」

 

 

 俺はそう告げた。だがその兎妖怪が俺を見る目は変わらない。

 

 

「でもあなたはこういうのを求めていたんでしょう……?」

 

 

 そうその兎妖怪は問うた。

 

 いや確かにそうだけれども! 見れたら幸せだなぁと思っていたけれども!

 

 

「だ、男子はみんなそんな事を思っているんだよ! 男子の本懐(ほんかい)だよ! 仕方ないだろう!?」

 

 

 俺はそう叫び弁解する。

 

 

「うぅ……。」

 

 

 その兎妖怪は俺の言葉を聞くと急にもじもじし始めた。余計にスカートを押さえて顔を赤らめている。

 

 

「おい! ちび兎! 私にも幸福をくれ!」

 

「ハッ! 誰があんたなんかに私の幸福を分けてやるか! つか誰がチビだごらぁ!」

 

「なにをぉっ!」

 

「このやろうっ!」

 

 

 後ろの方では魔理沙と小さいほうの兎妖怪が争いを始めていた。

 

 

「ちょっ、ちょっと待てって! 落ち着けよ……。」

 

 

 俺はそれを(なだ)めに行く。だが二人の興奮はなかなか収まらなかった。やがて先ほどの兎妖怪が口を開く。

 

 

「あーもう、その二人は勝手にやらせておきましょう。それよりお師匠様の所まで案内(あない)しますので、付いて来て下さい。」

 

 

 一時俺が二人を宥めようとしていたのだが、解決策無しと思ったのか大きいほうの兎妖怪はそう言って来た。俺はどうしようかと頭を手で掻き、首を傾げる。しかしレベルの低い子供の喧嘩だったので、放っておいても問題無しと考えてその兎妖怪の言う通り、付いて行くことにした。

 

 

(あい)分かった。よろしく頼むよ。」

 

 

 俺はそう言うと歩き始めた兎妖怪の後ろに続く。だがどうも後方に続く俺を警戒しているように見えて(こた)えた。

 

 

「……君の名前はなんて言うんだ?」

 

 

 俺は歩き始めて一時経つと、前方を先導して歩いている兎妖怪にそう尋ねる。するとその兎妖怪はこちらに少し振り向いた。

 

 

「人に名を尋ねる時は先ず自分の名から……そんな言葉があった気がするけど、まあいいです。私の事は"レイセン"と読んでもらえれば結構ですから。」

 

 

 そうレイセンと名乗る兎妖怪は告げ、また前に向き直る。

 

 

「あっ、いやこれはすまない。俺は峯野威(みねの あきら)だ。よろしく頼む。」

 

 

 俺はそう改まって謝罪し、自身の名前を告げた。そして先ほど教えてもらったその兎妖怪の名前を脳内に浮かべる。

 

 レイセンか。聞いたことの無い名前だな。どのような漢字を書くのだろうか。

 

 

「なぁ……その……レイセンさん。君の名前はどのような漢字を書くんだ?」

 

 

 俺はそう尋ねた。レイセンは顔だけこちらに振り返る。

 

 

(すず)という漢字に仙人(せんにん)の仙です。後、私の事は呼び捨てでいいですから。」

 

 

 そう鈴仙(れいせん)は告げ、また前に向き直った。

 

 

「鈴仙か……。凄く良い名前だな! 音も字も中々(なかなか)(さま)になってる。名づけ親もさぞかし頭の良い人なんだろう。」

 

 

 俺がそう心中を吐露(とろ)すると、途端に鈴仙は笑顔になってそれに答えた。

 

 

「えへへ。そうですか? この名前は昔の恩人と今のお師匠様につけてもらったんですよ。」

 

「へぇ~、なるほどね。」

 

 

 俺は途端に少しではあるが機嫌の良くなった鈴仙を見やりながら頷く。

 

 

「…………所でさっきから言っている"お師匠様"てのは誰なんだ?」

 

 

 俺はそう問うた。

 

 

「その人はですねー、簡単に言えば永遠亭のお医者様です。」

 

「はー、なるほど。」

 

「ていうか、それを知らずに此処に来たんですか?」

 

「あぁ、まあそうだけど……。」

 

 

 鈴仙はそう尋ね首を傾げる。

 

 俺は此処の事をあまり魔理沙が説明してくれなかったからよく分からないのだ。

 

 

「それじゃ、お医者様の名前も知らないんですか?」

 

「いや、それはさっき魔理沙から聞いたよ。八意永琳(やごころ えいりん)先生だったか?」

 

 

 俺がそう返すと、鈴仙は「あ、はい。そうです。」と返した。

 

 

「お師匠様は医療の達人ですので、その右腕の怪我もきっと直ぐに治してくれると思いますよ。」

 

「なるほど、そりゃ楽しみだ。」

 

 

 鈴仙がそう微笑むと俺も微笑み頷き返す。そうして俺は先導する鈴仙に続いて、永遠亭に向かって歩き続けた。

 

 

――ヒューン、ドーン、ピチューン

 

 

 道中後ろから多分、魔理沙と小さい兎妖怪が小競り合いを起こす音が聞こえて来た。

 

 

「なぁ、後ろやばいんじゃないか?」

 

「いえ、ただのスペル戦ですし。大して怪我もしませんよ。」

 

 

 俺が少し心配になりながら問うと、鈴仙はそう返した。

 

 しかし本当に大丈夫なのだろうか。

 

 俺はそう思いながらも、また前に視線を向けて歩き始めた。

 

 

 

 

 

 *                  *                  *

 

 

 

 

 

「あれが永遠亭ですよ。」

 

 

 一時歩き続けると、林の間から大きく立派な屋敷が見えてきた。鈴仙はそれを指差し教えてくれる。

 

 

「凄いな。立派な屋敷だ。」

 

 

 俺はそう呟き驚嘆(きょうたん)した。

 

 その立派な屋敷、永遠亭は竹の柵で囲まれていた。その中にある屋敷は立派な日本屋敷であり、ふんだんに上等そうな木材を使って作られていた。竹の柵がある為、中の詳細な様子はまだ窺えないが、中もきっと凄い物なのだと思う。

 

 

「こちらからどうぞ。」

 

 

 やがて俺たちは屋敷の門の前までたどり着くと、そう鈴仙に導かれて立派な門から立ち入った。

 

 中にはこれまた広い屋敷の縁側があり、その前には綺麗な庭園があった。

 

 その立派な庭園には綺麗に整えられた竹や松が植えてあり、贅沢に贅沢を尽くした。そんな感じだった。またさすがに池こそ無かったが、この様な庭園の事を"日本庭園"と言うのかもしれない。俺はそう思いながらその綺麗な庭園を眺めていた。

 

 

「峯野さん、どうぞお入り下さい。」

 

「あ、はいはい。」

 

 

 俺はそう鈴仙に(うなが)されて、縁側から屋敷へ上がって行く。

 

 しかし最初、魔理沙に永遠亭と言われた時からうすうす感づいてはいたが、やはり病院ではないようだ。この屋敷はどう考えても居住用の屋敷にしか見えない。此処のお医者様は訪問医療が専門なのだろうか。

 

 俺はそう思惟しながら多分、座敷と思われる部屋に上がって行った。やがて鈴仙がこちらを振り向いて微笑みながら俺を制止した。

 

 

「今、お師匠様を呼んでくるので、此処でお(くつろ)ぎになってお待ち下さい。」

 

「うん。ありがとう。」

 

 

 俺がそう鈴仙に返すと、鈴仙は(きびす)を返して、座敷を出て行った。

 

 俺は鈴仙が座敷を出て行くのを見送ると、これまた立派な座敷を見渡す。やはり当たり前のように其処には高そうな掛け軸や、絵などが置いてあり、風情に満ち溢れていた。さらにその座敷の外には先ほど上がってきた、大きな縁側があり、そのさらに向こう側には先ほど見ていた庭園がある。俺は座敷に胡坐(あぐら)をかいて座り込むと、その綺麗な庭園を眺めた。この様な素晴らしい旅館に泊まって見たいものだ。そう思いながら一時の極楽を楽しんだ。

 

 

 (しばら)くすると屋敷の奥の方から二人の者が歩く音が聞こえて来た。俺は鈴仙と先生が来たと思い、体を廊下側の方へ向け二人が入ってくるのを待った。やがてその二人の足音は座敷の板襖(いたふすま)の前で止まり、やがてその板襖が開かれた。

最初に鈴仙が入ってきて、俺に軽く目配(めくばら)せをするとそれに続いて先生らしき人が入ってきた。俺は胡坐の状態でその人に軽くお辞儀をすると、その人も微笑んで返礼をする。

 

 

「どうもこんにちは。」

 

「こんにちは~。」

 

 

 俺はそう軽く社交辞令を交えると、その先生らしき人は俺の目の前まで来た。

 

 

「これを使って下さい。」

 

「お、ありがとう。」

 

 

 横から鈴仙が何時の間に持って来てくれていたのであろうか、座布団を渡してきてくれる。俺はそれを受け取り自身の下に引いた。そして鈴仙がもう一つの座布団を俺の目の前、1メートルほどに置くとそこに先生らしき人が座る。

 

 その人はやはり先生だからだろうか、非常に優しそうな顔つきをしており、またその動き一つ一つも丁寧であった。

 

 さらに服装が摩訶不思議であり、濃い青色と赤色の二色で彩られた服を着ている。また帽子は何処の病院にもいるナースさんが被るものを被っていた。しかしその帽子は先ほどと同じように濃い青色で彩られ、さらに中央正面には赤十字が描かれていた。

 

 

「改めまして、こんにちは。永遠亭の医者の、八意永琳(やごころ えいりん)です。わざわざ此処まで来られてご苦労様です。」

 

 

 そう永遠亭の医者、八意永琳と名乗る女性は告げ、軽く会釈(えしゃく)をした。

 

 

「いえ大したことは無かったです。ありがとうございます。」

 

 

 俺はそう言うと、帯に巻いている下緒(さげお)を外しておいて短刀を、抜刀する意志がないと左腕で伝えながら鞘ごと帯から引き抜いた。通常、右腕のみで刀を鞘ごと持ち上げるのだが、今は右腕が使えない。本当に不便だ。そしてその短刀を自身の目前に置くと両手を突いてお辞儀した。形式的なお辞儀だ。

 

 その後、目前に置いた短刀を自身の直ぐ横へ置き、整えた。

 

 

「えーと、峯野さん今日はどの様な症状で?」

 

 

 俺が短刀を整え終わり、前を向くと八意先生はそう尋ねてくる。俺は前腕部をギプスで巻かれた右腕を、肩の力だけで持ち上げ八意先生に見えやすいようにした。

 

 

「はい。この右腕前腕部をちょっと。」

 

「なるほど……ではちょっとギプスを外しますね。」

 

 

 八意先生はそう言うとこちらに向かってきて、ギプスを取り外し始めた。

 

 

「あぁー、これは珍しい折れ方ですね。誰かにやられましたか?」

 

 

 八意先生はギプスを取り外し終わると、俺の腕を少し驚愕しながら見やった。

 

 

「はい、多分そうだと思うんですが……やられた時の記憶が無くて。」

 

「なるほど。記憶障害も併発(へいはつ)しているんですね。」

 

「はい……。」

 

 

 八意先生は早くも二つ目の症状を確認し終えると、改めて俺の右腕を見やる。

 

 

「ちょっと触りますね。」

 

「はい。」

 

 

 八意先生はそう俺に告げると、右腕を触診(しょくしん)し始めた。

 

 いててててててててててててッ!! 口には出せないけど、いてええええっ!

 何で病院の先生って痛いのが分かってて、此処まで強く触診するのかね! いや病状を確認するためには仕方が無いんだろうけれども! 本当はドSなんじゃないの!?

 

 俺がそう脳内で思惟しながら顔を悲痛に歪めていると、それを八意先生は見やる。

 

 病院の先生って、こういう痛い触診しながらよく患者の顔を見てくるよね。あれってさ、もしかして痛みで苦しみ患者の顔を見て楽しんでんじゃないの!? いや治療のためには仕方が無いのかもしれないけれども!!

 

 そうしてやがて苦しい触診が終わった。

 

 

「分かりました。ではちょっと"透骨撮影"《とうこつさつえい》して見ますので、付いて来てもらってもいいですか?」

 

「透骨撮影……ですか?」

 

 

 俺はその言葉に疑問を抱いた。この単語を聞くの初めてだったからだ。

 

 

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