―東方撞賢木― 『巫女と男の運命』   作:Veruhu

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"第五節"

「はい、中の骨を映し出す機械があるんです。」

 

「それは……レントゲンみたいなものですかね?」

 

 

 俺は疑問に思い、そう問い返した。

 

 

「レントゲン……外の世界ではそう言うみたいですけど。……もしかして峯野さんって外来人ですか?」

 

 

 八意(やごころ)先生は一時首を傾げると、そう俺に尋ねて来る。 

 

 

「はい、そうです。おととい位前に此処に……。」

 

 

 俺はそう言いながら頷いた。

 

 

「そうだったんですか……。ではきっと妖怪か妖精にいたずらされたんでしょう。喰われなかったのは幸運でしたね。」

 

「はぁ……。」

 

 

 本当にそうだっただろうか。何か重要な戦いで負傷したような気もするのだが。

 

 その後、軽い話を交えながらも先ほど置いておいた短刀をまた右腰に差して、座敷を出た。そしてその"透骨撮影"に向かう。すこし長い縁側や廊下を歩きながらやがて目的の部屋らしい場所で八意先生は立ち止まった。

 

 

「此処が透骨撮影室です。中で待っていてください。準備をしてきますので。」

 

「分かりました。」

 

 

 俺はそう言われ扉を開いて中に入った。中には沢山の機器があったが、外のレントゲンとあまり変わらないような気もする。機器に書いてある文字は意味不明だ。もちろん日本語でもないし、英語でもない。どこの国の文字なんだろうか。

 

 俺はそう思いながらいろいろと機械を見て回っていると、何時の間に入ってきていたのだろうか後ろに八意先生で立っていた。

 

 

「では峯野さん、ちょっと右腕を此処においてもらっていいですか。」

 

「あ、はい。」

 

 

 俺はそう言われ指定の位置に右腕を置いた。其処から軽く位置を八意先生が微調整し、やがて適正な位置に来たのだろうか手を右手から離して口を開く。

 

 

「はい、それで結構です。ではそのまま動かないでくださいね。」

 

「はい。」

 

 

 そう言ってどこかに行ってしまった。俺は八意先生に言われた通りに、一時の間その状態を保ち続ける。

 

 案外、苦しい。

 

 やがて機械が音をたてて撮影が終わったと思えば、また八意先生が入ってきた。

 

 

「はい、終わりました。現像まで少し時間がかかりますので、先ほどの座敷まで戻り待っていてください。」

 

「分かりました。ありがとうございます。」

 

 

 俺は八意先生の言葉に頷く。やがて八意先生はまたどこかに行ってしまった。俺は先ほどの記憶を辿り、部屋を出てまた座敷までの道を歩み始める。

 

 相変わらず長くてしかも広い縁側だ。長いといっても距離にしてはそんなにあるわけではないが、家の中でこんなに長い縁側というのは本当に珍しい。

 

 そう脳内で思惟しながら歩いていると、左横前方にあった障子が途端に内側から開かれてきた。しかものその障子は今まで見た中で一番豪華なつくりになっている。

 

 一体どんな人が出てくるのだろうと、期待しながらも無闇な接触は控えた方が良いと思い、出来る限り自然に横を通り過ぎようとした。

 

 

「ん~? おはよ~?」

 

 

 だがその障子の内側から出てきた人は、俺におはようの挨拶をして来た。どうも接触は避けられないようだ。

 

 その内側から出てきた女性は和服を着ていた。上半身の着物には襟元に白色のリボンが付けられ、その和服は濃いピンク色をしていた。下半身の着物は明るい赤色で染められており、ところどころに様々な装飾が施されている。

 

 

「は、はい。おはようございます?」

 

 

 俺はこの人にあまり接触しない方がいい気がして、出来る限り穏便に済ませようと思った。

 

 

「誰だっけ君~? まあいいや~、ちょっくら私を座敷まで連れて行ってくれぇ……。」

 

 

 そうその人は告げると、途端に俺に抱きついてきた。そして地面にへたり込む。

 

 

「ちょっ、ちょっと抱きつかないで~! てか貴方だれええええっ!」

 

 

 俺はそう叫んだ。だがその人は俺から離れようとはしない。

 

 こんな綺麗な和服女性に抱きつかれたら俺の理性がああああ。

 

 そう脳内で思惟しながらも、座敷まではあともう少しだからと思い、連れて行くことにした。

 

 

「ざ、座敷ですね。分かりましたので、抱きつかないでー!」

 

「んー眠いんだよー! むにゃむにゃ。」

 

「ぐっ……。」

 

 

 俺はその人を半分抱えながら、半分引きずりながら座敷まで再び歩き始めた。

 

 

「はい、着きましたよ。座敷です。」

 

「はぁー、ご苦労、ご苦労。」

 

 

 やがて俺は座敷にたどり着くと、中にその女性を入れ自身も中に入った。俺は肩を降ろしながら疲れて座布団の所に座り込んだ。そして先ほど連れてきた和服女性を見やる。その女性は畳の上で寝転がっていた。

 

 良く見るとなかなかに美人な女性だ。絶世の美女とはこのような女性の事を表すのかもしれない。 

 

 

「ふぅ~。」

 

 

 そう思いながら俺は軽く息を吐いた。

 

 

「くかー、くかー。」

 

「って結局寝るんかいっ!」

 

 

 俺は寝息を立て始めたその和服女性に思わず突っ込みを入れる。

 

 

「んんっ!? 寝てない寝てないよぉ~?」

 

 

 するとその女性は途端に目を開けてそう告げた。

 

 

「はぁ。」

 

 

 俺は首を僅かに傾げながら頷く。だが一時たつとその和服女性の目はまただんだんと虚ろな目になってきた。

 

 

「くかー。」

 

 

 そしてまた寝息を立て始める。

 

 

「おい……。」

 

 

 俺はまたそれに突っ込みを入れた。するとその和服女性はまた目をぱっと開けて、口を開く。

 

 

「ん! ……いやね、最近あんまり寝て無くってね。今日も10時間程度しか寝れなかったの。」

 

「はぁ。」

 

 

 十分じゃね!? 十分過ぎるんじゃね!?

 

 俺が内心そう突っ込んでいると、その和服女性はさらに話を繋げた。

 

 

「あんまり寝てると永琳(えいりん)に怒られちゃうから、こうして出てきてるんだけど……。」

 

「はぁ。」

 

 

 俺はその話に軽く耳を傾けた。永琳とは多分、先ほどの八意先生のことだろう。

 

 

「眠いわ。」

 

「……。」

 

 

 最早、突っ込むのも面倒になってきた。

 

 

「くかーくかー。」

 

 

 やはりまた寝息を立てはじめる。もうこのまま寝かせてあげようかとも思ったが、"永琳に怒られる"という話を思い出した。俺は軽くその女性に助言を入れることにする。

 

 

「……もう少ししたら八意先生来ると思いますけど。」

 

「え! それはまずいわ!」

 

 

 途端にその和服女性は驚いて辺りを見渡し始めた。

 

 

「君! 悪いんだけど永琳の足音が聞こえて来たときに私が寝ていたら起こしてね!」

 

「はぁ。」

 

 

 その和服女性は俺を見やりながらそう言った。俺は仕方なしにとそれを了承する。

 

 

「くかーくかー。」

 

 

 やがてその和服女性はまた寝息を立て始めた。 

 

 

「寝る気まんまんなんじゃないか……。」

 

 

 俺はそう小声で突っ込みながらも微笑む。そうして俺はその座敷で寝ているその和服女性を見やったり、庭園を眺めたりして待ち時間を過ごした。

 

 

 

 

 

 *                  *                  *

 

 

 

 

 

 やがて奥の方から恐らく、八意先生の足音だと思われる音が近づいてきた。俺は約束通り、今寝ている和服女性を起こしに掛かる。

 

 

「八意先生来ましたよ~!」

 

「す~す~。」

 

 

 あれ、起きないな。しかも心なしか寝息がより深い物になっている気がする。

 

 

「ちょっと! 八意先生来ましたって!」

 

「す~す~。」

 

 

 困ったな。もうちょっと近づいてみるか。

 

 そう俺は思い立ち、寝ている和服女性に接近した。

 

 

「八意先生来ましたよーっ! 起きて下さい~!」

 

「ん~、うるさいっ!」

 

「うわっ!」

 

 

 俺はその女性に怒鳴られると途端に飛びつかれた。俺は驚いて声を上げると同時に、飛びつかれた勢いで後ろに倒れこんでしまう。骨折している右腕に影響が無いように倒れるのもやっとだ。

 

 

「ふふふ。捕まえた~。」

 

 

 その和服女性は眠りながらも俺に抱きつきそんな事を呟いていた。

 

 

「ちょっ、どんな夢見てるんですか貴方っ!」

 

 

 俺はそう突っ込みながらもその人から離れようとする。

 

 

「ちょっ、マジでヤバイって! こんな所、八意先生に見られたら怒られますっ!」

 

 

 俺はそう叫びその女性に訴えた。

 

 

「す~す~。」

 

「起きろーっ!」

 

 

 いくら叫んでもその女性は起きる様子な一向に無い。俺はそれでも諦めずに必死に抵抗した。 

 

 

「この体に巻きつけた両腕を離せーっ! (のが)れられないーっ!!」

 

「ん~ん! 嫌だーっ!」

 

「くぅっ! そんな可愛い声を出しても駄目っ!! いいから退けろーっ!!」

 

「んーっ!」

 

 

 だがその抵抗も虚しくその女性の両腕は離れない。

 

 女の癖にどんな馬鹿力をもっていやがる!!

 

 そう俺は内心毒づきながらも、いまだ抵抗を続けた。

 

 

「てか、夢見ながらあんたなんて器用な真似してくれてるんですかっ!」

 

「ふふふふふ。」

 

「得意げになるなっ! てかあんた本当は起きてるんでしょ!? 頼むから起きてるって言ってくれーっ!」

 

「くか~くか~。」

 

「演技だよね! それ絶対演技だよね!?」

 

「違うよ。くか~くか~。」

 

「だったら返答するなーっ!!」

 

 

 そんな馬鹿げたやり取りを繰り返しながらも俺は抵抗を続けていた。

 

 畜生! 右手が使えればきっと抜け出せるのに!

 

 

「どうかしましたか~?」

 

「あっ……。」

 

「くか~くか~。」

 

 

 八意先生が障子を開けて中に入ってきた。

 

 つ、遂に現れてしまった!! もう駄目だ! おしまいだ!!

 

 

「……。」

 

 

 だが八意先生は俺たちの様子を見てもなにも言わなかった。それどころか嬉しそうに笑顔になり……

 

 

――シャキーン

 

 

 メスを取り出した。

 

 

「ちょっ! ちょっと待って八意先生っ! 笑顔でメス取り出さないで! 誤解ですって!」

 

「何が誤解なのかしら? 峯野君?」

 

 

 八意先生は笑顔ながらも体中に殺気を帯びさせながらゆっくりと接近して来た。先ほど話していたときのような温和さは一切失われている。

 

 

「ちょっ、ちょっと! さっきまでの温和な態度はどこに行きましたかっ!」

 

「あれは患者に見せる態度。これは敵に見せる態度よ。」

 

 

 そう八意先生は敵対宣言を俺に告げる。

 

 

「ちょっ! マジで違うんですって! これはこの人がいきなり抱きついてきて!」

 

「嘘をおつきなさい! その体性は貴方が抱きついてきているとしか思えないわっ!」

 

「いやいやいやいや!!! 俺の両手ここっ! 頭の上!! 抱きついてない!!」

 

「問答無用よ!」

 

「うわーっ!」

 

 

 八意先生が遂にメスを右手に構えてこちらに接近してきた。

 

 俺は抱きつかれた女性の所為で避けることも出来ずに

 

 

「其処までよ、永琳。」

 

「へ?」

 

 

 突然俺の上に覆いかぶさり眠っている"フリ"をしていた、女性は声を上げた。

 

 

輝夜(かぐや)!」

 

 

 先生はそう叫び目を剥いた。この女性の名前は輝夜というのだろうか。どうも輝夜という名前はおとぎ話のかぐや姫を思い出させる。

 

 

「いやーちょっとこの子で遊んで見たくってね。おいたが過ぎたわ。てへっ。」

 

「……。」

 

 

 輝夜という名前らしい女性はそう言って、舌を少し出して腕を頭に置いた。実に悔しいがこの女性、容姿だけはすばらしく美人なのだ。

 

 だから少しだが、ほんの僅かではあるが、可愛いと思ってしまう自分が居た。

 

 

「いやぁ、まあそんなことだろうと思ってたけどね。」

 

 

 先生はそう言ってメスを懐にしまった。

 

 

「いやいやいや! あんたさっきメスで俺を切り裂こうとしてたよね!!」

 

「輝夜にノってあげたのよ。」

 

「嘘を吐けっ! あれはどう見てもガチな目だった!」

 

「私の演技力はただものでは無いということよ。」

 

「……汗が垂れてますが?」

 

「……。」

 

 

 先生は何も言い返せなくなったのか表情を固めてしまった。だがその後すぐさま懐からメスではなく手拭いを出して顔の汗を拭いた。そして何事も無かったかのように手拭いを懐にしまう。

 

 

「……ねっ?」

 

「ねっ? じゃねえよ。」

 

 

 俺は本能的にそう突っ込んだ。

 

 

「あははははははっ! 本当ごめんね。おいたが過ぎたわ。」

 

「もう本当に心配させないで、輝夜。」

 

「ははははっ。」

 

「……。」

 

 

 先生は輝夜という女性に抱きつき頭をなで始めた。二人はとても仲がいいのであろうか。互いの表情は実に心地良さそうであった。

 

 

 

 *                  *                  *

 

 

 

「…………あの~、話は終わりましたかね?」

 

 

 さすがに待ちきれなくて俺は二人にそう声を掛けた。

 

 

「あら、まだ居たの?」

 

「ひどいっ! 俺、患者なんですけど! ねぇっ!」

 

 

 先生はかなり俺のことを邪険に扱うようだ。

 

 

「ああ、そうだったわね。それじゃ、ちょっと診察室まで移動しましょうか。」

 

「はぁ……。」

 

 

 先生はそういうと輝夜という女性から離れ背を向けて歩き始めた。

 

 

「いってらっしゃーい。」

 

 

 輝夜という女性は歩き始めた先生と俺に向かって手を振りながらそう送り言葉を投げかけた。

 

 

「はいはい。」

 

 

 先生はそういうと、俺と一緒に座敷から姿を消した。

 

 

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