―東方撞賢木― 『巫女と男の運命』   作:Veruhu

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"第十節"

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、そうそう後一つ気になることがあってだな、魔理沙のことなんだが」

 

「なんですか?」

 

 霊夢は今までの考えや思いを払拭するかのように、首を振って俺に応えた。

 

「なんで魔理沙は、男っぽい言葉を吐くんだ?」

 

 俺は首を傾げながら尋ねる。

 

「んー、そうですね……」

 

 霊夢は首を傾げ目を閉じた。

 

「確かある男に憧れてだったような……」

 

「ある男?」

 

 俺は首を傾げる。

 

「…………これは結構長い話になりますよ? 良いんですか?」

 

「あぁ……どうせ時間は沢山ある。頼むよ」

 

「分かりました。では……」

 

 霊夢は大きく息を吐くと口を開き、昔話を始めた。その昔話は、魔理沙が幼少期の頃に遡る。

 

 ある時、魔理沙が一人で家を抜け出し、何処かに行ってしまったことがという。ただでさえ悪戯好きの魔理沙の事だから、腹が空けば戻ってくるだろうと両親もたかをくくっていたらしい。だが魔理沙は夕方になっても帰って来なかった。

 

 夜の幻想郷には人を喰らう妖怪が出てくる。ここにいたって初めて事態の危険性に気が付いた魔理沙の両親は、急いで幻想郷中を探し回ったという。

 

 その頃から交友関係のあった霊夢の所にも、その魔理沙の両親は訪ねて来ていた。だが生憎その日、魔理沙は霊夢に出会ってはいない。霊夢は当時まだ存命であった母と一緒に夜の幻想郷に飛び出し、魔理沙の捜索にあたったという。

 

 しかし結局その日、魔理沙が見つかることは無かった。博麗家の捜索は途中で幼い霊夢が寝てしまったため、泣く泣く博麗神社に引き返したという。だが魔理沙の両親は夜が明けてもまだ、魔理沙の捜索を続けていたという。

 

 周囲の人間はこの時点で、魔理沙がまだ生きてる可能性は限りなく少ないだろうと、そう予測していたという。その後一週間は一応周囲の知り合いの協力で、魔理沙の捜索が地道に続けられた。だが三日目以降からは知り合いにも諦めの表情が浮かんでおり、実質死亡の方向で捜索が続けられていたという。

 

 結局一週間が過ぎ、協力者たちの捜索も打ち切られていった。特に友好関係の高かった博麗家は一応協力を続けていたが、それは博麗の巫女として幻想郷を見回る上でのついでであり、そこまで大々的な捜索はもうしないでいた。

 

 

 しかしこの時、実は魔理沙は生きていた。幻想郷とはまた別の世界で生きていたという。その世界とは幻想郷にとっての外界、つまり俺が元居た世界だ。なんらかの理由で外界との波動と同調してしまった魔理沙は、強力な博麗結界をも突破してしまっていた。恐らく幼心故に、波動が同調してしまったのではないかという。とにかく魔理沙は魔理沙が失踪してしまったその日には、もう既に幻想郷にはいなかった。

 

 魔理沙は外界の森の中で彷徨っていた。魔理沙にも夜の森の怖さは分かっている。深い森の中では月の光も届かず、自分がまっすぐ進めているのかさえ分からなくなる。

 

 魔理沙は歩みを速めた。だがどちらの方向に進めば、森から出られるか皆目見当も付かない。当たり前だろう。コンパスも無しに森に入れば、大の大人でも遭難することが多い。視界距離の短い森の中では目は大して頼りにならない。頼りにするべきはコンパスや星、月、太陽だ。

 

 だが魔理沙の努力は虚しく、結局夜になってしまった。月の光もほとんど届かない夜の森の中で、絶望を覚えた魔理沙はただ一人、泣き始めてしまった。

 

 幼い魔理沙でも明確に感じられる死の恐怖。その恐怖に耐えきれなかった魔理沙はただただ打ちひしがれて、泣いた。

 

 だがそこに突然、男の子が現れたという。男の子は魔理沙の手を取ると、いとも簡単にそそくさと森から脱出してみせたらしい。

 

 魔理沙はその男の子に手を引かれながら、その男の子の家まで歩いて行った。その時に見たその男の子の町は、幻想郷の人里とは全く違う未来的な姿であったという。その町こそが、魔理沙が初めて見た外界の町の姿であったらしい。

 

 男の子に連れられた魔理沙はその男の子の家に入った。その男の子は手厚く魔理沙を保護すると、飯を出してもてなしてくれたという。

 

 結局魔理沙はその男の子の家で、一週間も保護して貰ったらしい。何故警察に通報しなかったのか、何故その男の子の親が居なかったのかは謎だが、とにかくその男の子は一週間近く魔理沙をその家で保護したのは間違いないらしい。

 

 だが魔理沙は日に日にそこが幻想郷とは全く違う世界であることを悟ったという。魔理沙にとっての元居た世界、すなわち幻想郷に戻るには、元居た森に戻るしかない。そう考えた魔理沙は、その男の子に頼み込んでまた森の中に連れて行った貰った。

 

 その男の子と森の中に分け入って行き、幻想郷、つまり博麗大結界が近づくにつれ、魔理沙の心は幻想郷の波動と同調して行った。そして遂に魔理沙の心は幻想郷の波動と同調し、幻想郷に取り入れられ、幻想郷に帰還したという。

 

 しかしその男の子は幻想郷の波動と同調することは出来ない。かくして二人は博麗大結界という大きな壁に遮られ、結局魔理沙はそれ以降二度と、その男の子とは会っていないという。

 

「と、いう事らしいですよ、峯野さん」

 

 霊夢はお茶を啜った。 

 

「うーん……なるほど、ありがとう霊夢」

 

 俺が眉を顰め腕を組みながら言うと、霊夢は機嫌を悪くしたようにむーっと唸る。

 

「…………何か、ご不満でも?」

 

 霊夢が横目にそう聞いてくると、俺は首を振った。

 

「いや違うんだ。すごく分かりやすい話だったよ、ありがとう。…………でも、どこかで聞いたことがある話だなと思ってね」

 

「……別に何かの御伽噺から取って来た訳じゃないですからね」

 

「あぁ……」

 

 俺は記憶を想起しようと首を捻った。

 キーワードは、夜の森で泣いていた女の子、特徴的な服、魔女の帽子、金髪の女の子、突然消えた女の子。

 

 記憶を巡らせる度、俺の記憶は混濁を強めた。様々な幼少期の記憶が交錯して、頭がパンクしそうになる。

 

 

(思いだせ。思い出すんだ。これは何か大切な思い出なんだ。このことを忘れていてはいけなかったんだ! 思い出せ、思い出すんだ!)

 

 

 俺は記憶を反芻した。そしてやがてその記憶の中に、一つの鉱脈を見つけだす。

 

「――きり……さめ。霧雨……。そうだッ!」

 

「きゃっ! なんですかいきなり」

 

 俺は今まで座っていた縁側を勢いよく立った。そして霊夢に告げる。

 

「――――その男の子、俺かもしれない」

 

「え?」

 

「耳を塞いでろ」

 

 霊夢は意味が分からないという風に怪訝な目で俺を見た。だがやがて溜息を吐くと、両手で耳を塞いだ。

 

 俺はそれを確認すると、一気に空気を大きく肺に入れた。

 

「魔理沙ああああああああああああああああああああああああああッ!」

 

 俺の大声はやまびこになり、多くの山で反響するのが分かった。やがてそのやまびこに遅れて、小さく人の声が聞こえてくる。その声は少しずつ大きくなって、俺の頭上に姿を現す。

 

「威ーっ! どうしたーっ!」

 

 魔理沙は叫びながら地面に着地すると、左手に魔法の箒を持って駆け寄ってきた。魔理沙は大きく手を伸ばせば届く程の距離まで近づくと止まる。俺がその魔理沙の顔をしばらく見つめた。すると魔理沙は恥ずかしそうに視線を外し、頬を赤く染める。俺は口を開いた。

 

「魔理沙……。いや……霧雨(' ') 魔理沙……」

 

 俺がそう言うと、魔理沙は恐る恐ると言うように顔を上げ、上目使いで俺を見た。

 

「な、なんだよ……」

 

 魔理沙は不安そうな顔でそう呟く。




長らくお待たせしてしまい、誠に申し訳ありませんでした。
少し現実の方が多忙を極めておりまして、他の小説ともに執筆が遅れている状態であります。

しかしながらこの小説は、この先どのようにして物語を進行して行くかをとても長く決定している物でありまして、書こうと思えば書ける状態であるのは確実です。

要はやる気なのだと思います。頭の中で勝手に妄想して、それで満足と言うような状態になってしまうのも問題でありますし、なにより執筆作業中にインターネットを使い始めてしまうのも問題だと思います。

とにかく、他の小説ともに頑張って参りたいと思いますので、どうか御見守り頂けると幸いであります。
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