―東方撞賢木― 『巫女と男の運命』   作:Veruhu

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 これはPIXIVにも投稿している作品です。


*第壱章* 「送られた世界」
"第一節"


 この世界は間違いだらけである。正しさなんてよく理解できないはずだ。

人間はさまざまな考え方を持っている。一通りではない。数えたら何万何億という物事の考え方があるだろう。だが正しさの基準ならあるはずだ。

 

 

 

 お互いに幸せになる行動を取る。これが正義の基準だと、俺は考える。

 

 

 

 

 

 

   ―第壱章―

      送られた世界

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺は、父の訃報を聞いてからというもの、非常に怠惰な生活を送っていた。目覚めたら大学へ行き、帰宅しレポートを書きノートをまとめ、寝る。遊ぶことさえもない。

 

 

 部屋は散らかり、足の踏み場もないような状態になっていた。憧れていた父が死んだ、志した父が死んだ。そして、この世界の本当の情勢を知った。それだけで胸が張り裂けそうだった。

 

 

 今となってはもう、流す涙も枯れていた。だが、この怠惰な生活は変化していない。

 

 

 父が死んだことは悲しかった。だが、父が死ぬことは子供の頃から覚悟していたことである。この程度じゃここまで落ちぶれたりはしない。

 

 

 

 

 

 俺は、父の葬儀の場で世界の情勢を知ってしまったのだ。

 

 

 

 

 その時俺は世界に絶望した。この国には情なんてものがないような気がしたのだ。

 

 

 その国で私は父の仲間からこの近隣の国々、そして今世界で治安の悪い国々の情勢まで教えてくれたのだ。

世界中で繰り返される、戦争、殺戮、虐殺。情なんてものはない。ただ人々が自分たちの利潤を求めて、人を殺すのだ。

 

 時には、残虐に、時には静かに……殺す。

 

 

 

 

 世界平和なんて遠い遠い夢だったのだ。

 

 

 

 それからの俺はただ闇雲に歩き続けるだけだった。見えるものは闇、闇、闇、希望なんて見えては来なかった。

 

 

 俺は日が経つにつれ自殺を考えるようになっていた。もうこの世の何事も嫌になったのだ。

 

 

 だが、俺は死ななかった。俺が自殺を決意したその晩、妖怪に幻想郷へ連れさらわれたのである。

その妖怪は紅い空間の中に無数の眼を覗かせるスキマを開きその中から出てきた。肩には豪華なフリルつきの傘を握り、格好は妖怪らしい見たことも無い服装だ。いや、装束というのが正しいかもしれない。その妖怪はスキマに腰掛けにっと笑う。胡散臭さが半端ではなかった。だが死を覚悟した俺は恐怖を感じない、なんでもこいという状態だ。妖怪は口を動かし言葉としゃべった。

 

 

 

「びっくりしたかしら? 私は妖怪よ。名を、八雲 紫(やくも ゆかり)というわ。」

 

 

 なんとこの妖怪は俺に向かって自己紹介を始めた。俺はめんどくさそうに妖怪の言葉に耳を傾ける。

 

 

「唐突だけどあなたには能力がある。その能力はこちらの世界じゃ開花しない。その力を私と私の世界は欲しているの。その力はこちらに来て初めて使えるようになるはずよ。」

 

 何を言っているんだ、この妖怪は。能力だとかこちらの世界だとか開花とか、俺を騙して喰ってやろうとでも思っているのか?そんな疑問を抱きながらも、その妖怪は話を続る。

 

 

「あなたを死なせるのは惜しすぎる。それだけの力を持っているのだから。だからこちらに来てくれないかしら。」

 

 俺を死なせるのは惜しい?だから来て欲しい?意味が分からない。もうすぐ死のうという人間に、なんの力があるというのだ。やはりこの妖怪は俺を喰ってやろうと考えているのだろうか。まあ別にそれでも死ねるならいいかもしれない。また妖怪は話を続けた。

 

 

「突然こんなことを、しかも妖怪に言われたら普通の人間は断るでしょうね。でもあなたに悪いことはしないわ。ここの世界にも飽き飽きしたのでしょう?こっちにはあなたの意にそぐわない世界があるし、なによりあなたにとって一番いい能力が手に入るはずよ。まあ断っても無理やり連れて行くけどね。」

 

 

 この世界に飽きた、か。なんだこの妖怪は、人の心を読むことでも出来るのだろうか。俺にとって一番いい能力?一体どんな能力だというのだ。しかも結局俺の意思なんて関係ないのか。

 

 そしてこの妖怪はさらににっと笑い口角を上げると、大妖怪を思わせる優雅な声で、語尾にこう付け足した。

 

 

「峯野 威(みねの あきら)。」

 

 

 

 その妖怪は、胡散臭い笑みを浮かべ、スキマに腰掛けながらそう話した。

 

 

 

* * *

 

 

 

 

「ん……。 朝か。」

 

 

 最近、早寝しすぎて起きるのが極端に早くなってしまっている。まだ陽の昇りきってない朝だ。外はうっすら明るい。この季節なら6時ぐらいだろう、鳥が鳴いている。

 

 

 ここは、博麗神社だ。俺は朝早くに起きて境内の掃除をすることにしている。居候の身だからこそ、必要だと思ったからだ。まあ、二度寝が出来ないっていうのも一つの理由だが。

 

 

 俺は、長着を着てその上から丹前(たんぜん)を掛け、帯を締めた。和服の着付けにもなれたものである。外に出ると少々肌寒さを感じる程度であった。まだ陽は木々に阻まれて目に出来ないが、しっかり昇っているようで空は青く明るかった。大きく伸びをすると、私は箒を取りに向かった。

 

 

 と、そこには珍しくこんな朝早くに箒を手にした霊夢が立っていた。こんな朝早くに起きてるのはあまりに珍しい。今日は雪が降る異変でも起きるかもしれない。

 

 

「おはよう霊夢。珍しいなこんな朝早から掃除してるなんて。」

 

 

 俺は朝の挨拶をすると、正直な心境を話した。

 

 

「おはよう峯野さん。いつも人任せじゃ駄目だと思って、頑張って起きてみたのよ。やっぱり大変ね、こんな朝早くに起きるのって。」

 

 

 霊夢は俺に気がつくと箒で掃くのを止め、顔をこちらに向けてそう話した。

 

 

「そうだな。でも俺は早めに寝てるからそこまで大変じゃないよ。霊夢はキツイだろ、夜の巡回があるんだから。」

 

 

 そうなのである、この霊夢こと博麗の巫女は幻想郷の見回りを毎晩行っているのだ。それが巫女の仕事なのだという。

 

 

「確かにちょっとキツイわね。でも早起きは3文の得と言うわ。誰かが賽銭入れていってくれるんじゃない?」

 

 

 そういいながら箒で塵を掃き始める。俺は日がうすうすと見え始めた森を見ながら口を開く。

 

 

「綺麗だな。」

 

 

「え……。」

 

 

 霊夢は少しびくんと反応した。

 

 

「紅葉」

 

 

「あ、うん。そう、ね……。」

 

 

 霊夢は少し肩を落としたようにも見えた。なにか悪いことでも言ってしまっただろうか。

 

 今の季節は秋である。博麗神社を中心とするこの森は今、全体で綺麗な紅葉が咲き誇っている。人里からもこの紅葉を見に人々が訪れた。その為この季節は参拝客がいつもより多く訪れるのだそうだ。霊夢もそれに応じて気合が入っているのかも知れない。

 

 

 しかしこの巫女、神社に祀られている神様の名前を知らない上に、祝詞も滅多に奏上しない。しかも、巫女であるにもかかわらず、自分の行動の邪魔をした神様に攻撃までしていると閻魔、四季 映姫(しき えいき)様に怒られたこともあるそうだ。巫女が神と生身で喧嘩をするなどありえるのだろうか。

 

 

 詐欺じゃないだろうな?

 

 

 そんな疑問を抱きながら近々、秋の例大祭を行うという話を思い出した。例大祭とは、博麗神社が開催する宴会のような物だそうだ。俺はこの疑問を投げかけてみることにした。掃除をしながら霊夢を視界に入れ、口を開く。

 

 

「霊夢、そろそろ秋の例大祭じゃなかったか。」

 

 

 霊夢も顔を上げて口を開く。

 

 

「明後日よ、例大祭は。」

 

 

「うわっ。もうそんなに近い日だったのか。なにか緊張するな……。」

 

 

 例大祭には、幻想郷で強力な人間、妖怪、魔法使い、幽霊などが酒を嗜みに集まる。緊張しないわけがない。

 

 

「大丈夫よ。みんな酔っていい気分のはずだし。私だって居るんだからいくら無力な人間がいたって悪いようにはされないはずよ。それに、ちゃんと神社の居候の雑用係って紹介しておくから。」

 

 

 

 霊夢はそう言いながら笑顔を見せた。

 

 

 

「ありがとう。しかし雑用係ってのは間違ってないが、出来れば勘弁してくれ。」

 

 

 

 俺は視線を落とし軽く息を吐く。確かに雑用係に間違いは無いが、その紹介は悲しすぎる。俺は雑用だけでここに居るわけではないのだから。紫さんにここに住めといわれたのが原因でもあるし。

 

 

「冗談よ。紫が拾った外来人を神社で預かることになったって説明するわ。」

 

 

 霊夢は笑顔を見せ、掃除を再開した。

 

 

「ありがとう。頼むよ」

 

 

 俺も霊夢と同じように掃除を再開した。

 紫というのは前も言った、八雲 紫(やくも ゆかり)のことである。本人から説明を受けたが、この幻想郷を作った中心人物だそうだ。いや、人じゃなくて妖怪か。ほかにも、幻想郷を守る博麗大結界の説明や、妖怪との共存の話もあり、また紫さんと俺は特別な関係なのだが。その話はまたにしよう。

 

 

 俺は無力な人間だ。ここの世界の住人は大抵能力を持って、スペルカードルールという比較的安全なルールのもと戦って遊んでいる。紫さんにこちらに来れば能力が開花する。と言われたが今の所なにも開花しない。先ほども言ったように、この例大祭には強力な者たちが集う。その中には人を喰らって生きていく妖怪もいる。なんの能力も持ってない人間です。といえば興味は無くなり喰らわれてしまいそうで結構怖いのだ。

 

 

魔法使いの霧雨 魔理沙(きりさめ まりさ)や、人形使いの魔法使い、アリス・マーガトロイドとは既に面識があるので大丈夫であろう。

 

 

 幽霊は冥界の白玉楼(はくぎょくろう)に住んでいる、西行寺 幽々子(さいぎょうじ ゆゆこ)という者がいるそうだ。死を操る程度の能力を持っており。人や妖怪を一切の抵抗なしに絶命させてしまうらしい。スペルカードルールがあるといえども怖いものである。

 

 

 この世界の住民が荒っぽい者でないことを祈りたい。 

 

 

 俺と霊夢は掃除を終え、縁側に座って紅葉を見ながら茶を啜ることにした。霊夢が入れてくれたお茶を啜り、紅葉を見て楽しむ。だが紅葉もすごいが霊夢の入れる茶も凄い。俺と入れ方がそんなに違わないはずなのに、なぜが霊夢のは然許り(さばかり)おいしいのだ。まあ圧倒的経験の差、というものなのだろうが。

 

 

 

 

 と、紅葉とお茶を楽しんでいると空の向こうから黒い点のような物が接近してくるのが見えた。漸次(ぜんじ)近づいてくる。あれは魔法使いの、霧雨魔理沙ではないだろうか。こちらに向かってきていて、点が次第に大きな点へと変化し、人の姿に化けた。間違いない魔理沙だ。

 

 

「霊夢、あれは魔理沙じゃないのか?」

 

「そうっぽいわね。あぁー朝から騒がしくなるわ。」

 

 

 霊夢は少し面倒くさそうにした。まあ、確かに魔理沙は悪く言えばウルサイからな。でも良く言えばムードメーカーである。それに霊夢の親友なのである。多分……。

 

 

 

 

「賽銭持ってきてくれてるかしら。」

 

「そうだな~、持ってきてるといいなー。」

 

 

 霊夢は茶を飲みながら平然と口を開く。いつも通りの賽銭欲である。つっこむのも面倒なので同意しておいた。それにこの神社は確かに貧しいので、気持ちは分からないことも無い。

 

 

 そういっているうちに霧雨 魔理沙(きりさめ まりさ)が神社に降り立った。今日もいつもどおりの白黒の服である。

 

 

「よお、お二人さん。今日も朝から元気そうだな。」

 

 

 魔理沙は跨ってきた箒を右手に持ち直し、ニコニコしながら口を開いた。この魔法使いは女の癖にたいそう男っぽい性格をしているのだ。幻想郷の女の中に、コイツを慕っている者が居るとか居ないとか・・・。

 

 

「お茶を飲んでるだけじゃない。」

 

 

 霊夢はいつもどおりの冷たさである。だが友達なのである。多分……。

 

 

「いつも通りに茶を啜っているから元気なんじゃないか。」

 

 

 そう笑いながら、魔理沙は霊夢の隣に腰掛ける。俺は魔理沙に茶を持ってきてやることにした。

 

 

「待っててくれ、今新しい茶を淹れてくるから。」

 

「おう、サンキュー。」

 

 

 俺は、茶を淹れに台所へ向かった。急須に新しい茶葉を入れお湯を足し、頃合に湯呑みに注ぐ。単純で簡単な作業だ。そして、そのお茶とお茶菓子を持って霊夢達が居る縁側に戻り、魔理沙に俺の淹れた茶を渡した。

 

 

「はい、どうぞ。」

 

「おう、さて味はどうかなぁ~?」

 

 

 魔理沙はそんなことを言いながら茶を受け取り啜る。随分な態度だ。

 

 

「う~ん、30点だな。」

 

「なんだと……。」

 

 

 魔理沙は首を捻った。馬鹿な、普通に茶を淹れたはずなのに。

 

 

「霊夢の指導が足りないんじゃないか?」

 

「そうね、ちゃんと指導しておかなくちゃ。」

 

 

 二人はそんな会話を交わす。くそ、淹れてきたやったのに批判しやがって……。

 

 

「そうっすね……。」

 

 

 そう俺は若干顔を引きつらせながらもそう同意した。

 大体は教わったはずなんだが、何がいけなかったんだろうか。愛が足りないとかじゃないだろうな・・・。

 

 

  三人で茶を啜り、茶菓子を食べる。これぞ日本って感じだ。

 

 

「最近異変が全く起きないな……。起きても面倒だか、長く起きないと暇になるぜ。」

 

 

 魔理沙は茶を啜り、茶菓子を食べながらそういった。

 

 

「それもそうね。私の仕事は異変解決なんだから、仕事がなくなっちゃ毎日が暇になるわ。妖怪退治も出来ないし。」

 

 

 霊夢もそれに同意し茶を啜る。

 

 確かにその通りである。ここ最近全く異変が起きていない。あまりに平穏すぎて、逆にこれが異変じゃないかとも思う。まあ無力な俺にとっては、平和が一番良いのだが・・・。

 

 

「これから先の時期に異変起こるのは辛いかもよ。寒いからね。」

 

 

 俺はそう言った。正直毎晩、毎晩結構心配でもあるのだ。ただでさえこの霊夢の服は……。

 

 

「それもそうね。この服は本当寒いから。」

 

 

 俺が思っていたことを霊夢は口にした。なんとこの霊夢こと博麗の巫女の服はすごいのである。

 

 

「この脇巫(ゲフンゲフン)」

 

「なんですってッ!?」

 

「「はははっ。」」

 

 

 俺も魔理沙も笑ってしまう。魔理沙は脇巫女と言おうとしたのだろう。なんとこの巫女は、あの赤と白のみの平凡な巫女服を霖之助さんに改造してもらって、洋服っぽくしているのである。さらに、その巫女服の袖を肩のところで切って、脇を露出させているのである。

 

―――この季節に……。

 

 この季節に脇を見せているのである。"わきわき"しながら。

 

 

 なんか俺の心が寒くなったな・・・。

 まあ今はこの巫女、丹前を羽織ってはいるが中は巫女服である。寒そうだ……。

 

 

「霊夢はほかに服を着たくはないのか?」

 

 

 俺は、質問を投げかける。

 

 

 「そうねぇ……。まあ、神社に住んでるだけあってこれ以外に着替える必要がないっていうか。でも、たまにはほかの服も着たいかなぁ。」

 

 

「へぇー。」

 

 

 霊夢は顔を斜めにし腕を組んで考えを巡らせた。やっぱり霊夢も女の子なんだから少しくらいおしゃれしたくなるはずだ。外界に戻る機会があったら、普段の感謝もこめて現代風な服でも買って上げた方が良いだろうか。いつその機会が来るかは、分からないが。

 

 

「まあこっちの世界に峯野さんを引っ張りこんで来て、しかも神社に住まわせようとするんだから、ある程度の説明が必要とでも思ったんじゃない?紫のくせに。」

 

「そうか。」

 

 

 霊夢はそういったが、実は俺は紫さんが神社に来る理由は大体分かっている。俺の能力についてだ。

 

 

「これまで紫が外来人に対してここまでしたことってないよな。峯野の能力ってのは一体なんなんだろうな、気になるぜ。」

 

「そんなたいした能力じゃなかったらもう生きていけない……。」

 

 

 俺は心配になり肩をおとす。

 

 

「だっ、大丈夫よ。多分……。」

 

 

 霊夢が少し慰めてくれた。でも多分かよ・・・。

 紫さんにあれだけ期待しているといわれたんだ。それに俺はここに能力が開花するといわれて来た。変梃(へんてこ)な能力が目覚めたらたまった物じゃない。

 

 

 と、ここで魔理沙のお茶が無くなった。

 

 

「魔理沙、次のお茶つごうか?」

 

 

 俺は新しい湯呑みを貰おうとする。

 

 

「いや、これからアリスの所へ行く予定なんだ。」

 

 

 だがそういって湯飲みを置いてしまった。

 

 

 アリスとは、アリス・マーガトロイドのことである。人形を操る魔法使い、霊夢とも仲が良いし。俺とも何度か会っている。

 

 

「よし、じゃあそろそろ行くぜ、邪魔したなっ。」

 

 

 そういって、魔理沙は箒を取り、飛び立つ準備をする。

 

 

「じゃあな~魔理沙。またいつでもこいよ~。」

 

「次は賽銭を持ってきてね?」

 

 

 俺と霊夢は互いに声をかけた。霊夢のは正直ない……。

 

 

「ははっ。悪いがキノコ以外は無理だぜ。お茶ありがとな~、じゃ!」

 

 

 そういって箒に跨り二本指を顔の前でピッっとしてキメた後、空の彼方へ飛んでいってしまった。

 

 

「さて、魔理沙も帰ったし中に入らない?」

 

 

 霊夢は俺にそう提案する。

 

 

「うん、入ろうか、寒いし。」

 

 

 俺は湯呑みや皿をお盆にのせ、霊夢に続いた。

 

 

「霊夢は昔どんな修行をして能力を手に入れたんだ?」

 

「ん~、博麗の力を手に入れる修行はしたけど、ほかにはそんなにしてないのよね。」

 

 

 霊夢は少しだけ振り返り口を開いた。これは紫さんから聞かされた話だが、霊夢は生まれながら凄い天性の持ち主なのだという。しかもそれが博麗の巫女としての能力を手にいれたのだ。たしかに修行不足なのだそうだが、それを天性のセンスでカバーしとてつもなく強いのだという。それはもう人とはとても思えなくらいに。しかも、幻想郷で1、2を争うほどの強さだ。信じろというほうが無理な気がする。

 

 

「あ~、でも空を飛ぶのには苦労したわね。」

 

「え、本当に?」

 

 

 俺は驚いて聞き返してしまった。この霊夢がそらを飛ぶのに苦労をした?信じられない。

 

 

「うん。空を飛ぶのって完全に常識を外れた行為じゃない?結構難しかったわよ。」

 

「博麗の力のほうが常識外れな気がするが……。」

 

 

 どう考えてもそうだろう。

 

 

「細かいことはいいのよ。」

 

「さいですか。」

 

 

 俺は少し肩を落としながらそう返事をする。常識を外れた行為か。いつか俺も空を飛んでみたいな。そんな外界で誰もが思うようなことを考えながら湯呑みを洗った。そうだ霊夢なら教えてくれるかもしれない。あなたには無理よとか言われるかもしれないが・・・。

 

 

「なあ、霊夢。」

 

「なに?峯野さん。」

 

 

 霊夢は台所の机に座りながら返事を返した。俺は顔だけ霊夢に向けて、空の飛び方教えてくれないか頼んでみる。

 

 

「俺に空の飛び方を教えてはくれないか?」

 

「いいわよ?峯野さん。」

 

「えっ、本当か! ありがとうッ!」

 

 

 そういって俺は思わず腕をグッっと胸の前で握った。なんとも簡単に許可してくれた。くそっ、早く聞いて置けばよかった!だが霊夢と仲良くなれたのも最近だし、仕方が無いか。

 

 

 

「でも今は無理かな。」

 

 

 霊夢はそう否定した。

 

 

「えっ。」

 

 

 やっぱり無理なのかぁー。その前に別の修行とかが必要なのかな。だが俺はその修行も受ける覚悟があるぜ!

 

 

「まずはこの幻想郷の仕組みを知ってもらわないと絶対に習得できないわよ。」

 

 

 幻想郷の仕組み?どういうことだろうか。

 

 

「多分それを教えにこれから紫が来るのかも知れないわね。一番詳しいのは紫なのだから紫から聞いてくれる?結構長くなると思うから。」

 

「そうか、分かった。聞いてみるよ。」

 

 

 俺は皿洗いに集中した。空を飛べるようになったら何をするかね。う~ん、あんまり無いな……。子供の頃は学校に行くのに苦労しなくていいとか考えてたけど、今になって考えると……。人間って成長すると夢をどんどんなくしていくもんなんだなぁ。

 

 

 俺は洗い片付けを済ませ、霊夢の入っているコタツに入った。近頃は暇でしかも寒いため、大抵はコタツに入る。なんだろう、普段は離れ離れになっている家族をコタツとみかんがつなぎ合わせている、そんな気がしないだろうか。冬になると。

 

 

 それからの時間を俺は霊夢とコタツで過ごす。コタツに入りながら思ったのだが、幻想郷は外界から来ると本当に不便なのである。この200年前に居るかのように錯覚する幻想郷は、ある程度は電気を生産し供給しているのだが、それは限定的である。この神社にも一応電気は来ており、電化製品もいくつかは置いてある。

 

 各部屋に蛍光灯が置かれ、台所には冷蔵庫、風呂場の前には洗濯機があり、風呂のお湯は屋根についてある太陽熱温水器で給湯している。一応生活に必要な電化製品はしっかり常備されているのだが、娯楽機器が一切無い。それを当たり前と考えている幻想郷の民はいいんだろうが、やはり外界の現代社会になれた俺はすこし物足りない。やはり人間は一度楽を体験すると元には戻れないのである。

 

 

 ん~、もし霊夢がよかったらテレビとDVDレコーダー持ってこようかな。あと多少のゲーム機もあったらいいかもしれない。外界に戻ることが出来ればだが。

 

「なぁ、霊夢。」

 

「なに?」

 

 

 霊夢は本を読むのをやめ、顔をこちらに向けた。

 

 

「外界に一旦戻ることが出来るのか?」

 

 

 この博麗大結界を抜けることなんてできるものなのだろうか。

 

 

「えぇ、出来るわよ?」

 

 

 霊夢は何の問題もなさそうに答えた。

 

 

「えっ!そんなまさか……。」

 

「行かせないけどね?」

 

 

 だが突然そんなことを言い出した。

 

 

 

「えっ、なんでっ?」

 

 

 俺はすこし声を荒げて疑問を呈した。

 

 

「だって、行かせたら……。」

 

「え、なに?」

 

 

 小声よく聞き取れなかったが、俺を行かせてしまったらなにか霊夢にとって悪いことでもあるのだろうか。

 

 

「もういいわっ!とにかく行かせないからっ!」

 

「どうしてだよ~。」

 

「言わないっ!」

 

 

 霊夢は少し顔を紅くし、怒ってそっぽを向いてしまった。くっそ~。戻れることは分かったのに、戻らせてくれないとは!だが交渉の余地くらいはありそうだ。

 

 

「いやね、一旦帰ってお金とか家具とかをこっちに持ってきたいんだよ。そしたら霊夢ももっとすごしやすくなると思ったんだけど……。」

 

 

 そういってみた。なるべく霊夢の心を揺さぶるように。そっと強く。霊夢は顔を赤めながら俯き。

 

 

「あ、あなたのことを本当に、信用できるようになれるまでは、ダメ……。」

 

 

 そう消え入りそうな声で言った。えっ!?向こうに行くのってそんな難しいものなのか。まああの大結界を抜けるんだから相当な信頼がいるとか、そんな感じなのかもしれないな。あの結界は一体どんな仕組みで出来ているんだか。まあしばらくは向こうに行くのは無理そうか……。

 

 

「そうか、なんかよく分からんが難しいんだな。じゃああきらめるよ。」

 

 

 俺はそう残念そうな声で言った。

 

 

「そ、そう……。」

 

 霊夢は俯いたまま口を開く。

 

 

「でも、いつか霊夢に本当に信用してもらえるように努力するからな!」

 

「えっあぁ、うん、その、おねがいっ」

 

 

 何か恥ずかしそうな雰囲気で、顔を俯けてしまった。心なしか顔が赤い気がするが、コタツに入りすぎてしまったのかもしれない。

 

 

 そしてその後はしゃべることが無くなり、本を読んで適当に過ごした。

 

 

 昼になり霊夢が昼食を作ってくれた。それを食べ、他愛の無い話をしているときである。突然、紅色と沢山の眼が見えるスキマが現れた。

 

 

 俺の丁度横に。

 

 

 

「よっこいしょっと。」

 

 

 中からいつも通り大妖怪が出てきた。

 

 

「のわっ!!!」

 

 

 しかし、あろう事か中から現れた大妖怪は、俺を体で突き飛ばしながら出てきた。俺は椅子に座っていたのだが、横から突かれたため倒れてしまった。

 

 

           ―バンッ!!―

 

 

 体が床に叩きつけられた音がした……。

 

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