あらすじをタイトルに要約してしまいましたが一応。

本来なら幼女戦記の世界観における帝国に転生して、戦争モノの小説を紡ぐはずだったターニャが某小説投稿サイトのテンプレ世界に転生するハメになる話の短編。非常に短い。理由は最後のセリフを言わせたかったから。少しでも笑って頂ければ幸いです。

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『ターニャ・デグレチャフが帝国ではなく、某小説投稿サイトのテンプレ世界に転生する話(短編)』

>>西暦2013年2月22日日本国東京>>

 

私は今理不尽に遭遇している。人間とは本来政治的な生物だと言われているが、リストラされるような人間はどうやら短絡的な感情に身を任せてしまうらしい。何が言いたいのかというと、今日リストラした部下にホームで背中を押され、電車に轢かれる。ただそれだけだ。人生道半ば、やり場の無い悔しさを感じるがどうしょうもない事だ。

 

と思っていると私は更なる理不尽に遭遇した。

 

「お主ら、本当に生身の生物か?」

「失礼、どちら様だろうか?」

 

テンプレ小説でよく見る老翁が、ため息をつきつつこちらを観察している。これは幻覚か走馬灯か、あるいは寝ぼけているのか、どちらにせよ未だに状況が掴めない。

 

「…つくづく、人間性の狂った連中だ。つまらんことを考える」

 

そうしていると、目の前の存在Xはこちらの胸中を読んできたではないか。この世に神は存在しない、であるならば存在Xは悪魔か何かだろう。すると存在Xは、いかにも機嫌が悪いといったように

 

「…創造主を過労死させるつもりか、貴様ら、最近多いのだよ。そなたのような狂った魂は。なぜ、人間性の進歩で解脱せん?涅槃に至りたくないのか?」

「人間性が社会の進歩に伴い、そうなるからでしょうな」

 

ロールズの正義論を振り返りながら、私が死んだなら魂はどうなるのかといった建設的な議論をしようと思うと、また胸中を読んだのか存在Xはこう言った。

 

「輪廻に戻し、転生させる」

 

なるほど答えは実にシンプルだ。おそらく、これは説明責任の全うというものか。私も社会の一員、組織の一員として、踏むべき手続きには理解を示すべきだろう。存在Xに了承の意を表すると、転生…させられる事もなく、愚痴が始まった?

 

「…もうこりごりなのだ。どいつもこいつも信仰心の欠片もない。おかげで70億人もの管理はもはやオーバーワーク。どうしたら信仰心を取り戻せるのだろうか」

 

どうやら信仰心とやらが最近の世の中から欠如しているらしい。解決方法を知りたがっているみたいなので、僭越ながら提案してみる。

 

「信仰心が足りない原因は、神であるにも関わらずこの世の理不尽をどうこうしようという意志が、全くもって欠如しているからでは?それこそ日々つらい生活を送っている人達に、テンプレ小説のような俺TUEEEハーレムなんてさせてあげたらその人達は、貴方への信仰心に燃えるでしょう」

 

我ながらくだらない提案だと思う。しかし存在Xにとってはそうではなかったようで

 

「ふむ…その案、なかなか良いではないか。解決方法を提示してくれて感謝するぞ。何か礼をしてやろう。そうだな…何がいいか…。そうだ!貴様をその第一号にしてくれよう」

 

ん?どうやら私は選択を完全に間違えてしまったらしい。いつの間にか私の来世がテンプレ小説の主人公になってしまっているではないか。私はテンプレ小説が大嫌いだ。あんな物は所詮、現実逃避のくだらない産物にすぎん。その主人公だなんてまっぴらだ。訂正させようと声を出そうとしたその瞬間、私の意識は途切れてしまった。

 

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>>ルナール歴1598年5月17日セイクリッド王国王城>>

 

訂正させようとしたがもう手遅れのようで、私は某小説投稿サイトに履いて捨てる程ありふれた異世界に、王国の第5王子として転生してしまった。もう5歳になる。第5王子という事もあって、跡継ぎには関係が無いし、今の所は平和な時間を享受している。しかしながら平和といっても、魔王なる魔族を束ねる者が王国や他国を殲滅せんと画策しているらしいが、私には関係ないだろう。

 

この世界には自分の能力を表すステータスというモノが存在するらしい。そして、5歳の僕はステータスの儀式なる、自分ステータスを初めて確かめる事をするために、今は神殿に居る。私にこんな転生をさせた存在Xを祀る場所になど行きたくはないが、決まりだから仕方ない。

 

「創造主たる神よ、彼の者にステータスを与えよは

 

神殿の中でもとりわけ地位の高いであろう神官が、祝詞を唱える。すると私の前に、鉄だろうかアルミだろうか、未知の物質で作られているであろうプレートに噂のステータスとやらが記載されているモノが突如として現れた。いささかの驚きを感じながらも直ぐに気持ちを切り替える。そこにはこう書かれていた。

 

『名前:デグレチャフ 性:男 年齢:5 レベル 1

称号:勇者

体力:5000 魔力:5000

筋力:500 俊敏:500 防御:500』

 

ステータスを見てまず驚いたのは、自分が勇者になっている事だ。すると突然、自分が勇者である事を確認した途端に体の行動権が乗っ取られた。しかしながら意識や感情は明確に残っている。

 

どうやら、またしてもあの忌々しい存在Xにしてやられたようだ。勇者というのは元来魔王という悪を討ち果たす希望の光。私のステータスを見た神官や王国関係者が騒ぎ出すのは自明であった。何とか誤魔化そうにも行動権を乗っ取られているためどうしようも出来ない。私はなす術なく勇者として祭り上げられてしまった。

 

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そこから私は必死に乗っ取られた自分の行動を心中で罵倒したり糾弾しながら戦った。自分の行動は酷いもので、ある時はくだらない正義感で奴隷(ご都合主義的に処女の美少女である)の奴隷を解放してハーレムを築いたり、何の葛藤もなく盗賊を殺し尽くし、ある側面から言えば極めて利己的な魔族の殺害等、挙げればキリがない。

 

しかし一人間が存在Xに適うはずも無く、いつしか心の中に存在するデグレチャフも考えが変わっていき

 

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ここはセイクリッド王国の王城内。そこに一人の男が居た。そう、勇者に選ばれた第5王子のデグレチャフ、心の中の存在もいつしか行動権と同化している。傍らには誰の目から見ても美少女である一人の少女がメイド服を来て立っている。彼女もまた、奴隷ハーレムの一員だ。行動権と考えを同じくするに至ったデグレチャフこと元日本の会社員はハーレムを築き、財を成し、まさに酒池肉林の様相を呈する現状でこう呟く。

 

「やっぱり俺TUEEEチート奴隷ハーレムシリアス無し主人公最強ご都合主義異世界冒険譚は最高だな!!」

 

 




最後を言わせたかっただけです。反省します。


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