【完結】藤丸立香のクラスメイトになった   作:遅い実験

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本日…、本日?二話目の投稿です。






彼/彼女の想いと、私の始まり

 

 深夜。

 

 廊下を歩く。

 

 カツカツと、固い床の音が辺りに静かに反響している。

 

 「やあ」

 

 「…ダ・ヴィンチちゃんさん」

 

 「お話、しよっか」

 

 

 ◆

 

 

 今は使われていない部屋、かつて誰かが使っていたかもしれない部屋に案内される。

 

 「今日から三日間、ここがキミの部屋になる」

 

 「案内、ありがとうございます」

 

 「いやいや、礼を言うのは私のほうだ」

 

 「…はい」

 

 とすっ、とベッドに腰掛けたダ・ヴィンチちゃんはぽんぽんと隣を叩く。

 

 「君をここに呼んだ本当の理由はね、アルバムを見たからなんだ」

 

 少し離れた所に座った私は、彼女が簡潔に述べた言葉を咀嚼(そしゃく)する。

 

 アルバム。

 

 私がクリスマスに彼にプレゼントした贈り物。たくさんの思い出が詰まったデータ。

 彼がそれを見て、この世界で生きていたいと思えるように、少しでも彼を支えられればいいと私が作った思い出のカタチ。

 

 「…それが?」

 

 「嬉しそうに、楽しそうに話すんだ。アルバムに写る友人達の話をさ、一人一人。その中でも、キミの話をする時は、何て言うか、年相応の少年のような顔付きでね。…だから、キミしかいないと思ったんだ」

 

 何かを思うように、誰かを想うように、彼女は虚空に視線を漂わせている。

 

 「彼は弱音を吐かなかった。辛くても、前を向き続けた。辛いのは、悲しいのは自分だけじゃないからと。大切な誰かを亡くした時にだって、涙を溢さないように必死に堪え続けた。…でも、彼は普通の少年だ。今まではまだ大丈夫だった。でも、その心はいつか耐えられなくなるだろう。壊れてしまうだろう。だから、どこかで誰かが吐き出させなければならなかったんだ」

 

 ゆるゆると視線を私に向ける彼女は、しかし私ではない誰かを見ているようだった。

 

 「でもね、その役割を担える人間がここにはいなかった。…いなくなってしまった。…そういうの、ロマニの役割だったんだけどねぇ…、肝心な時にいないんだから、まったく」

 

 ああでも、と彼女は付け加える。

 

 「キミをロマニの代わりと見なしているわけでは勿論ないよ。というか、ロマニでもあそこまでのことができたかは分からないしね」

 

 まさか、あんなに泣くとはねー、と彼女はとんでもないことを暴露した。

 

 見てたんですか…?

 

 「ごめんごめん。でも必要な措置だったんだよ。キミのことは信用してても、暗示をかけられている可能性も極小とはいえあったから。うちは心配性な保護者が多くてねえ…。ああ、勿論映像諸々は削除したし、彼にこの事がバレるようなヘマもしないさ。この万能の名に誓ってね!」

 

 その後、ダ・ヴィンチちゃんはどこか神妙な顔になると、私に頭を下げてきた。

 

 ……え?

 

 「だ、大丈夫ですから!頭を上げてください!いえ、ちょっと怒りましたけど、次からはやらないと約束してくれるなら…」

 

 「そっちじゃなくて、いや、そっちもそうなんだけど、…キミを巻き込んでしまったことだ」

 

 巻き込む…。

 

 「必要な措置だった、でもこちらの世界に関係がなかったキミを巻き込んだことも事実だ。…私も年甲斐もなく焦っていたのかもしれないね。彼には後でたっぷり怒られるだろうなあ…」

 

 心配性な保護者。それは彼女も含まれていたのかもしれない。

 

 「…では、立香にたくさん叱られてください。立香が許したら私も許します」

 

 「うわあ、一生許されない可能性も出てきたぞぅ!」

 

 どこか晴れやかな顔になった彼女は立ち上がると、私と目線をしっかりと合わせた。

 

 

────藤丸立香は、大好きな後輩の前では頼れる先輩として意地を張り続けた。数多の英霊たちの前では、人類最後のマスターとして前を向き続けた。だけど、

 

 

 

 「────だから、普通の少年としていられるキミの前では、彼を泣かせてあげて欲しい」

 

 

 その言葉は────、

 

 

 「言われるまでもありません」

 

 

 私は彼の、親友なのだから。

 

 

 「まあその通りだね。…そーれーにー、このお願いも今は、という注釈の付く話だし?マシュとなら、いずれ全てをさらけ出した裸の付き合いもすぐにできるようになるだろうし?」

 

 「…はあ、そうですか」

 

 「反応がうっすーい!まあ、キミ達はそれでいいのかもしれないね」

 

 はふーと息を吐く。

 

 「さすがに話し込み過ぎたね。ここらへんで私は退室するとしよう。では、いい夢を」

 

 「はい、おやすみなさい。ダ・ヴィンチちゃんさん」

 

 彼女はバチコーンとウィンクをすると颯爽と去っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 私はこの世界に生まれ落ちてきてから、ずっと独りぼっちだった。

 

 いつしかそれが当たり前になって、そうであるのが自然なことなんだと自分を納得させていた。

 

 ここは私の世界、私の居場所ではないから。だから親しい人間ができないのは当然のこと。

 

 そうやって理屈を付けて、ずっと言い訳を続けてきた。

 

 他人に興味がないふりをして、強がって、あまつさえ自分は特別(異物)だからと思い込もうとさえしていた。

 

 でも違った。

 

 私に友達ができなかった理由なんて単純だ。

 

 私は、自分から動こうとしていなかった。

 

 たった数回の失敗で絶望して、行動することを怖がって、自身の内側にこもり続けた。

 

 

 でも、その間違いを私に気付かせてくれた人がいた。

 

 大切なのは、自分がどうしたいのかで。

 

 そのしたいことの為に勇気を振り絞って行動することだった。

 

 

 たくさんの友達ができた。

 

 たくさんの思い出ができた。

 

 この世界で生きるということを知った。

 

 

 

 

 

 

 そして今、私は、どうしたいのか。

 

 そんなのは今更考えるまでもないことだった。

 

 

 

 

 

 

 

 


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