【完結】藤丸立香のクラスメイトになった   作:遅い実験

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誤字報告ありがとうございます。





私の願い

 

  

 

 

 

 朝。

 

 知らない天井だ。

 

 …苦節十何年、初めてそれらしい台詞を言えた気がする。少しは強くなれたのかな。

 

 というかもう起きよう。

 

 

 ◆

 

 

 「ふわ…」

 

 カルデアで迎える初めての朝。

 

 ぱっぱっと朝の支度を終わらせて、…嘘です結構時間かけました。ベッドに座って考える。

 

 朝食はどうするんだろう。

 

 …まさか、エミヤ飯を食べられるのか?あの、例の、噂の、エミヤ飯を!?

 

 とりあえず昨日説明された食堂に行ってみようかな。…うん。なんだ、どう操作するんだっけこのハイテク機械。こう?こうかな?

 

 あ、扉が開いた。では、出発!

 

 

 

 朝の廊下を歩いていると、軽やかな足音と穏やかな話し声が聞こえてきた。こっちに近づいてくるそれは、聞き慣れたものと、可愛らしい少女のもの。

 

 そちらを向けば、楽しそうに語らう少年と少女が見える。隣り合って歩く彼らは本当に幸せそうで。ただ眺めているだけでこっちまで暖かな気持ちになってしまう雰囲気すらあった。

 

 うん。なんか、…いいなあ、ああいうの。

 

 遠くから二人を眺めていると、立香がこちらに気付いたようだった。

 

 「あれ、おはよう。…迎えに行こうと思ってたんだけど、遅かったかな」

 

 「…あ、おはようございます!初めまして、マシュ・キリエライトです!」

 

 立香の隣に立つ可愛らしい少女、何時だって立香を支えてきたデミ・サーヴァント、マシュ・キリエライト。愛すべき後輩である彼女も、ビシッと姿勢を正して元気な挨拶をしてきた。なんかちょっと緊張してる?

 

 でも、うん、可愛い。すごく、可愛い。

 

 …ではなくて、挨拶だ。挨拶大事。

 

 「おはようございます、最上悠月です。初めまして、マシュさん。あ、立香もおはよう」

 

 私ってこんな名前だったなあと思い返しながら答える。

 

 そんなおまけみたいに…、とぶーたれる立香に笑っていると、マシュさんがてて、と私の耳許に近づいてきた。

 

 「あの、ありがとうございます」

 

 うん?

 

 「…え、何が、ですか?」

 

 「今朝の先輩が、その、いつもの先輩でしたので」

 

 ああ、どうやら立香はこの可愛らしい後輩ちゃんにも心配をかけていたらしい。…私、可愛いって何回言ったかな。だって可愛いんだもん。

 

 「どういたしまして。…マシュさんも、ずっと隣で立香を守っていてくれてありがとう」

 

 「いえ、そんな、私なんて…」

 

 おどおどと否定する彼女に、いやいやとそれを否定する私。

 

 「…なんか恥ずかしいから止めて!保護者面談されてるみたいに感じるから!」

 

 「…ふふ」

 

 「ふふふ」

 

 立香は赤い顔で叫んでから、こほんと咳払いして雰囲気をあらためた。

 

 「…それと、そんなこと言わないで欲しい。オレはいつだってマシュが隣にいてくれたから頑張れたんだから」

 

 マシュさんはその言葉に本当に嬉しそうに笑って、立香はそんなマシュさんの様子に笑顔を浮かべている。

 

 穏やかな朝の風景。幸せな日常。

 

 

 

 そこに、闖入者一名。

 

 「おっはよーう!」

 

 ダ・ヴィンチちゃんのお通りだ!

 

 私はぺこりとお辞儀をする。

 

 「おはようございます、ダ・ヴィンチちゃん」

 

 「…ダ・ヴィンチちゃん」

 

 立香はおこだった。…もう死語かな?

 

 「どうしたんだい?そんな(かわい)い顔してさ」

 

 「…たっぷり言い訳を聞かせてもらおうか」

 

 「まあまあ、待ちたまえよ。せっかくキミの六年来の友人を招待したんだ!昔話としゃれこもうじゃないか。マシュだって先輩の色々(いろん)な嬉し恥ずかし話を聞きたいだろう?」

 

 「…先輩の…、はい!聞きたいです!」

 

 「マシュ!?」

 

 「旦那様(マスター)のお話ですか?」

 

 「何処から出てきたの!?」

 

 「あらあらまあまあ」

 

 「ちょ…!」

 

 「じゃあまずは、恥ずかしい話からいってみようか!」

 

 「…立香の恥ずかしい話ですか?…じゃあ、学校中を巻き込んだUFO事件、またの名をフライング・パン────」

 

 「それはやめて!マジでやめて!!」

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 「…疲れた」

 

 食堂でサーヴァントたちにもみくちゃにされた立香は、ぐったりとベッドに倒れこんだ。

 

 ダ・ヴィンチちゃんさんはマシュさんを連れて歓迎会の準備に向かってしまった。いや、歓迎会って私の?

 …もしかしたら、沈んでいた彼の為にもともとそれっぽいパーティーを企画していたのかもしれない。名目を変更したただけで。ダ・ヴィンチちゃんさんもマシュさんも、立香のことを心配していたから。

 

 …朝食の席のことを思い返す。

 

 藤丸立香と、マシュ・キリエライト。

 お互いを本当に大切に想い合う二人。

 

 昨日の立香からの話でもマシュさんのことは聞いていたが、実際に二人でいるところを見ていると、それがよく分かった。

 

────彼の居場所。暖かな在処。

 

 

 私はふう、と深呼吸をする。

 

 

 

 「…どうかした?」

 

 「……立香はさ、」

 

 意を決して問いかける。

 

 「…どうするの?」

 

 言葉足らずな私のそれを、十全に理解したらしい立香は、苦笑のようなものを浮かべると起き上がった。

 

 「あー…」

 

 「…」

 

 私は彼の隣に座ると返事を待つ。

 

 「オレはこれからもカルデアで働いていくことになると思う。しがらみとかもあるけれど、オレがそうしたいと思うから」

 

 「…うん」

 

 俯きそうになる顔を堪える。そうじゃないだろう、私。

 

 「…あの時の答え」

 

 「え?」

 

 「立香はちゃんと言葉にして言ってくれたから、私もちゃんと言葉にしたい」

 

 初めて出会ったあの時と変わらない綺麗な青い瞳を見つめて、私にできる精一杯の笑顔を浮かべて、私の想いを告げる。

 

 

 

 

 

 「私は、あなたと、一緒にいたい」

 

 

 

 

 

 「…────────」

 

 立香は百面相みたいに表情を変えながら、言葉に詰まっている。

 

 

 「うん、分かってるよ。それがとても難しいことだってことは」

 

 だけど、そうじゃなくてね。

 

 ずっと隣にいることはできないけれど、離れていても、一緒にいると思えるような、思ってもらえるような、そんな関係になりたいんだ。

 

 辛い時、悲しい時、苦しい時、私は隣にいて、あなたを支えてあげることはできない。

 

 だから、その時の痛み、悲しみ、憎しみ、そういう全部を私に伝えて欲しい、ぶつけて欲しい、背負わせて欲しい。

 

  あなたがその(やさし)さを持ったままでいられるように。

 

 あなたがあなたでいられるように。

 

 いつだって頼って欲しい。私にできることなんて高が知れているかもしれないけれど、私の胸くらいならいつでも貸してあげるから。

 

 私もあなたの帰る場所(いばしょ)でありたいのだ。

 

 「だからいつでも会いにきてね。立香がいないのは寂しいから」

 

 

 「……そ、れが…」

 

 「我が儘でごめんね。でも、これが今の私の答えだから」

 

 彼は天井を見上げてから、何かを想うようにゆっくりとこちらを向いて答えた。

 

 

 「────ああ、約束だ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

────これは、

    臆病な少女が、一歩前へと踏み出した

 

    ただそれだけの物語。

 

 

  

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  

 

  

 「あ、そうだ。マシュさんとの結婚式には絶対に呼んでね」

 

 「はい!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 
 
 
これにて本作は完結です。

必要な説明を省いたり、物語開始前の主人公の内面の話を最後まで後回しにしたりと、色々と不親切な書き方だったと思います。ごめんね。それでも最後までお付き合いしてくださった方々に感謝を。本当にありがとうございます。


続編や番外編などは、何かしら思いつけばあるかも?



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