【完結】藤丸立香のクラスメイトになった 作:遅い実験
2017年。
世界は空白の一年間に阿鼻叫喚、てんやわんやだ。学校も現在休校中だし、というか本当にどうするんだろう。人理焼却は夏に始まって冬に終わったわけだから、その間の分の勉強ができていないのだ。…もしかして留年、とか?いやだー。
…まあ、それはどうでもいいか。
彼は成し遂げたのだ。
世界を取り戻したのだ。
新しい年を迎えられたことへの感謝と祝福を込めて。
おめでとう、立香。
◆
ああ、それにしても暇だ。
学校は休みだし、かといって外出するような気分でもなし。
立香とはいまだに連絡が取れないし。
一人でボードゲームでもしようかな…。
ピンポーン………───────。
チャイムだ。玄関のチャイムが鳴った。
え?誰だろ?
一応スマホを確認するが、誰かから家に来るような旨を伝える連絡はなし。
連絡なしで、家に来るような人間は…。
………。
走る。
勢いよく玄関の扉を開ける。
この時に、私は郵便物の可能性を完全に失念していたことを後悔したが、そんな感情は目の前に立つ男に対する驚愕ですぐに塗り潰された。
鷹のような鋭い眼光。
逆立つような白髪。
褐色の肢体は素人でもよく鍛え抜かれていると分かる代物だ。筋肉すごい。
アーチャーだ。
アーチャーのエミヤが、そこにいた。
やばい写メ撮っとこ。
「…待ってくれ。私のような男が玄関先にいて驚くのは分かるが、即座に通報しようとするのは早計に過ぎるのではないかね?」
…通報?ああ、スマホか。
これは失礼しました。
「…えっと、すみません。それで、どちら様でしょうか…?」
「カルデアという名は知っているかな」
「…立香の、バイト先ですよね」
「そうだ。私はそこに所属しているものでね。女史、所長代理からの依頼を受けて君と話をしに来たわけだが…」
所長代理、ダ・ヴィンチちゃんか。彼、いや彼女が私に話?
なんだろう?私何かやらかしたか?いやまあ結構やらかしていたとは思うけどさ!
名刺のようなものを渡された。おや、ありがとうございます。なんかデザインが格好いい。
「信用できないのは分かる。…私としてもこんな礼を失する来訪は避けたかったのだがな。そうも言っていられないようなのでね。こんな
そう言って彼が取り出したのは、立香だった。違う。立香の写真だった。エミヤさんと写っているものもある。あ、やっぱり成長しているな。体格も良くなってるし、背も伸びている。
「信用できないというのであれば出直そう」
「どうぞ」
彼を出迎えつつ、写真を次々眺めていく。ほうほう、おやおや。
「…」
「…どうかしました?」
何とも言えない微妙な表情をしたエミヤさんは、一つため息を吐くと、私に淑女のなんたるかを説教しだしたのだった。
ええ、私なんで叱られてるの…?
◆
話をした。
簡潔にまとめるならば、こうだ。
立香はカルデアで偉業を成し遂げた。だがそれが原因で今の彼は微妙な立ち位置におり、彼を利用しようとする人間もいるらしい。
そんな人間が目をつけたのが私だった。親族は対処がなされている可能性が高いので、それ以外で一番
なるほどー。
一般人向けにぼかしてはいるが、事情はだいたい飲み込めた。
しかし、魔術師にしては短絡的過ぎる行動だよなー。
いや、外部からの攻撃に対するカルデアの対処が知りたかったのか。
つまり、捨て駒か。
「………」
まあ、それはどうでもいい。立香を害そうとする存在なんて皆⬛ねばいいし。…思考が物騒な方向に逸れちゃったな。うーん、やっぱりなにか気分転換は必要かもしれない。まあ、それは後で考えるとして。
「それで、私にどうして欲しいんですか?」
鋭い瞳で私を見据える彼に問いかける。護衛としてしばらく誰かがつくとかかな?
「君にはカルデアに来てもらいたい」
…………は?
◆
「カルデアへようこそ!歓迎しよう!」
人理継続保障機関フィニス・カルデア。その場所での三日間ほどの一時的な保護の提案に二つ返事で了承した私は、長い移動の後に到着した施設の一室で絶世の美女に歓待を受けていた。
「…すごい。モナ・リザだ…」
「素直な反応ありがとう!」
ダ・ヴィンチちゃんの変態的な整形技術に感動していると、彼、あるいは彼女はさっそくとばかりにこの施設の説明と、そしてカルデアの今までの活動を私に語り始めた。
人理焼却と、それに立ち向かった人々の話を。分かりやすく私に話したのだ。しかもゲーティアやソロモンのことまで含めて。
…えっと、私ってただの一般人なのですが。
どういうつもりだ?反応でも見てるのか?
「うんうん。困惑するのは分かるさ」
「…私にしていい話ではないですよね?」
「その通り!だからこのことは秘密にしてもらえると助かるなあ。…それにしても、簡単に信じるんだね?こんな荒唐無稽な話をさ」
にこやかに笑う彼女の顔をじっと観察する。もちろん何かを読み取れたりはしなかった。
「私に分かることではないので、それは横に置いているだけです。…私がこの話を誰かに漏らす可能性は考えないのですか?」
「それは大丈夫だろうさ。キミは彼がとっても信頼している友人みたいだしね。
…まさか
──────────────。
ふう。
「それもそうですね。それではこの話を私にした理由はなんでしょう?」
「…ああ、それならもうすぐ────」
扉が開く。
「おまたせ、オレに用事って、な…に……?」
立香だった。うん。どうしよう心の準備がまだできていない落ち着け落ち着くのだえーとどういう態度でいればいいんだこれ髪乱れてないかなそうじゃないなんか、なにかしなければ!
とりあえず手を振ってみる。
「え、ええええええええええええええええええええ!?なんで!?なんでいるの?!」
「さあ、二人とも。積もる話もあるだろう。今日は朝まで語り明かすがいい!」
「いや、そうじゃなくて!」
「ほらほら、行った行った」
「ちょ、待っ…!」
混乱する立香と私を力尽くで連れ出した後、私の肩に手を置くと、彼女は私にしか聞こえない声で、
「任せたよ」
と言った。
────あー、うん。じゃあ行こうか立香。どこって、どこだろ?部屋?案内されてないけど。うん、とりあえず立香の部屋行こうか。
色々と、こう、あるみたいだしね。
◆
「大丈夫なのだろうな?」
「もちろん」
「魔術と関わりのない一般人という話だったが、それも疑わしくなってきているぞ」
「少しズレているだけで、彼女は立派な一般人だよ。それに、重要なのはそこじゃない」
「マスターか」
「君も見ただろう?」
「…そうだな。彼女は絶対にマスターを裏切らないだろう。それは確かだ」
「うん、だから彼女に任せることにしたんだ。まったく、本来こういう
────男の話をしよう
ロクデナシの夢追い人の話を