【ラブライブ μ's物語 Vol.4】オレとつばさと、ときどきμ's ~Winning wings 外伝~ 作:スターダイヤモンド
なでしこ帰国
オリンピックの結果は、結局男女とも決勝トーナメントには進出できなかった。
女子は1勝1敗1分…勝ち点でフランスと並んだが、得失点差でわずか1点届かず、予選リーグ敗退。
男子は2戦目を終わって1勝1分。
3戦目は…引き分け以上ならOKという状況でありながら、0-1で落とし…なんと4チームが1勝1敗1分で並ぶという大混戦になった。
…が…
こちらも得失点差の関係で涙を飲んだ。
長ければ1ヶ月近く現地に滞在するはずだった選手たちは、しかし、最短の日程で帰国することとなった。
失意の表情で空港に戻ってきた彼らを待ち受けていたのは…行きと変わらないくらいの数のサポーター。
しかし、その前を、肩を落とし、無言で通りすぎる選手たち。
惨敗したのであれば、生卵のひとつやふたつ、飛び交うかも知れないが、本当に紙一重の結果である為、サポーターも怒るべきなのか、健闘を称えるべきなのか…どう迎えたらよいかわからない感じで、拍手は起こったものの、黄色い歓声のようなものはほとんどなかった。
メダルを持って帰ってきたなら、ひな壇が用意され、選手全員での賑やかなインタビューとなるのだが、今回は男女ともそういう状況でない。
女子は監督とキャプテンを務めた桐原が代表して、空港に用意された特設会場にて会見を行うこととなった。
その後、個別に『つばさ』と『オレ』の出番が用意されている。
オレからしてみれば、それは計画よりも3週間早い。
まだ歩くことはもとより、車椅子で移動することすらできない。
それでも『交際発覚の報』を受け、チーム関係者や代表の広報の小野さんと協議した結果、一回は会見を開いておくべきだ…ということになった。
…といっても、オレは会見場には行けないから、病院の会議室を借りての二元中継ということになる。
チームの結果が結果だけに、どう考えても第1部が明るい雰囲気で、和やかなものになるとは思えない。
その後の会見…。
気が重くて仕方がないが、園田さんのこともある。
彼女に迷惑を掛けないよう、しっかりと二股疑惑等は否定しなければならなかった。
…であるなら、ずるずる引っ張るよりも早めに行う方がいい。
オレは上半身だけ、代表の公式ウェアであるワイシャツとブレザーに着替えさせられた。
もちろん、首のコルセットはまだ取れていない。
オレの出番は2部とのことなので、それまでは病室で待機…まずはモニターで1部の会見の様子を見守ることとした。
記者会見の冒頭「国民の皆様の期待に応えられず、申し訳ない」と監督が謝罪し、2人は起立して30秒近く頭を下げた。
まるで法を犯したかのようなその姿に、オレは早々に違和感を覚えた。
まずは監督が3戦を振り返って総括する。
試合直後にもインタビューは行われるが、(勝っても負けても)興奮状態にあるその時と、時間が経ってからの今とはでは、冷静さが違う。
また、まだ試合が残ってる中では言えないことも当然あるだろう。
従って、こういった総括は当然必要であった。
監督は冒頭、ブラジル戦の最初の失点で浮き足立ってしまい、それを建て直すことができなかったこと…2度に渡る不可思議な判定により、勝敗が左右されてしまったこと…ベンチワーク(選手交代)等による判断ミスがあったこと…などを挙げ「そういたことも含めて私の責任」と選手を庇った。
まぁ、そうだろう。
ここで『誰々が悪い』などと言う監督はいない。
例えポーズであってもそう言う。
力負けしたブラジル戦、つばさを欠いたまま挑んだフランス戦はさておき、南アフリカ戦は、もう少し何とかなったかもしれない。
特にPKの判定を受けた後の『抗議によって喰らった2枚目のイエローカード』は、間違いなく防げた。
例えPKで失点しても、その後の50分間を10人で戦うか、11人で戦うかでは体力的に全然違う。
そういう意味では、あれは本当に痛かった。
もちろんそれで勝てたかどうかはわからない。
実際、南アフリカのPKは失敗したんだし、日本はつばさの追加点で2-0で折り返したのだから。
だが結果だけをみると、今大会の『分岐点となった退場処分』だった。
しかし、彼女の心情を考えれば仕方ないことだろう。
責めることはできない。
マスコミからは、改めて個々の試合について、質問が飛ぶ。
≫まずブラジル戦ですが、開始0分で失点してしまいました。あれは坂巻選手のクリアミスからだったと思いますが、キャプテンはどう思われましたか?
「そうですね…キックオフ直後のプレーでしたので、風が掴めていなかっというか…難しいプレーだったと思います」
≫ですが、そのあたりは試合前に確認しますよね?
「…風は常に一定に吹いてるわけではありませんので…まぁ、思った以上の風だったということじゃないでしょうか」
≫日本にとって、非常に大きなミスとなりましたが…。
「いえ、まだ始まったばかりでしたし、そこまでは…」
≫2点目を獲られたほうが大きいと?
「…そうですね…」
≫あれは日本のCKからGKにボールを取られて、全体的に前掛かりになったところ、カウンターを喰らいました。残り時間を考えれば、焦る場面ではなかったと思うのですが?
「…そこは反省材料だと思います…」
≫そんなこと、素人でもわかることじゃないですか?
一瞬、その辛辣すぎる言葉に、監督と桐原の顔が引きつった。
「まぁ、ピッチ内にはピッチ内の空気とか感覚みたいなものがありますし、相手あってのことですから…」
と監督が代弁した。
≫しかし、PKで1点返したあとはゴールが奪えず、逆に前半終了間際、3点目を失点してしまいました。
「これはもう、相手が強かったと言うしかないですね。我々が力不足でした」
≫日本は後半にも、夢野選手が吹っ飛ばされて『PKではないか?』というシーンがありました。国内でも『疑惑の判定』とちょっとした騒動になっているわけですが、その点についてはいかがでしょう?
「まぁ…騒いだところで判定は覆りませんし…意見書は協会がFIFAに出すと聴いてますので…」
≫そのプレーで夢野選手は肩を負傷し、目に見えてパフォーマンスは低下したと思うのですが、選手交代は考えなかったですか?
「なかったです」
と監督は即答した。
≫しかし、4点目を獲られた時点で敗色濃厚だったと思われます。これ以上の失点を防ぐ意味でも、夢野選手を早めに交代して、次のフランス戦に備えるという選択肢もあったか思いますが?
「負けるつもりで、私も選手も戦っておりませんので」
少し監督がイラッとした表情になった。
≫結果として夢野選手はフラン戦のスタメンから外れました。
「まぁ、そこは戦術的なことも含めての判断で…」
≫そのフランス戦は4-4でした。最後はギャンブルともいえるパワープレーで、劇的なゴールが生まれ、日本中が歓喜の渦に包まれました。
「それはもう、ベテランの馬場、佐藤が本当によくやってくれました」
》負ければ終わり、という状況でした。
「…そうですね。日本の執念、魂…そういったものを、お見せすることができたのではないかと思います」
≫そして南アフリカ戦…最後は健闘虚しく1ゴール及びませんでした。この点についてキャプテンはどうお考えでしょうか?
「…私たちは精一杯戦いました。でも届かなかった。それだけです」
≫この試合でも、疑惑の判定…ブラジル戦とは逆にPKを取られるということがありました。
「そういったことも含めてサッカーだと思いますので…」
「運も実力のうち…その運が味方してくれなかったということは、我々に自力がなかったのでしょう」
桐原のあと、監督が言葉を続けた。
≫あの場面、振り返って…もう少し冷静になれば、坂巻選手も監督も退場にはならなかったのでは?
「まぁ…そこは…私としても反省しております」
≫予選リーグ敗退という結果を受けて、監督自身の進退については?
「終わったばかりですので、まだ何も…これから協会と相談することになるかと…」
≫ご自身の今の気持ちとしては?続投したい…と?
「負けて満足する人はいませんよ。…ですが、評価というものは、自分ですることができませんので…」
想像通り…いや、想像以上に重苦しい会見。
冗談のひとつもなく、まさに『お通夜』のようだった。
~つづく~