僕の幼馴染がモテないのは僕の責任かもしれない 作:もこっちファンクラブ
突然だが、僕には幼馴染がいる。
幼馴染の名前は黒木智子。何処にでもいる女子中学生だ。別に恋人ではない。態度がツンツン気味な女友達だ。俗言う腐れ縁という奴である。
これは、お互い思春期で気まずい雰囲気になったわけでもなければ、甘い関係になるわけでもない…そんな関係の彼女とのお話。
* * * * * *
階段を登り、ドアをノックすると小柄な女の子が出てくる。
「オッス智」
サボサの髪で振り向く智子。目付きは悪いが大きな瞳が気だるげにこちらを見る。
「ん?ああ、な―んだ。これ見なよ」
パソコンを見せられるとそこには 「喪女」と書かれていた。
「何だよこれ」
真意がわからない。この単語を見せられて何を答えろと言うのか。疑問を隠さず聞くと、フンと智子はバカにした顔で笑う。パソコンで得た知識をひけらかしてご満悦のようだ。
「要するに男にモテないブスのことだよ」
自分には関係ないとばかりに説明する。なぜか得意気だ。地味系女子のわりに表情豊かな彼女を見つめる。まあ、確かにブスではない。これで無愛想な表情から醸し出される近寄り難い雰囲気を出さなければいいのに、と思う。あと知らない人の前で過剰に緊
張するところとか。余計な心配を抱きながら、背が小さいので見下ろす形で彼女を見る。
「ま、あんたには関係ないけど」
あまり女らしくない不適な笑みを浮かべる。今までお下げにしていたのをやめたのは高校で一新するつもりなのだろうか。注文をつければもっとかわいらしく笑えばいいのにと思うが、性分だろう。
「…ああ、そうかい。飯が出来たってよ。早めに降りた方がいいぞ」
妙な自慢を聞いたせいで伝言が遅れた。彼女の弟とゲームをしていたところ、晩御飯の時間になったのであった。
「智貴はどうしたわけ?」
姉という生き物は弟という者を下僕か何かと勘違いしているのではないか。心から弟君には同情する。
「知らん。なぜか僕が呼ぶことになった」
弟も思春期なので姉と対面するのが恥ずかしいのではないか、とは言わない。いくら腐れ縁でも゛女の子に対するデリカシーと言う物は持ち合わせている。部屋を出て階段を下りようとすると智子が呼び止めてきた。
「高校生になる前の最期の情けだ、ご飯食べていけば?モテまくりになった私と話せるような機会はもう無いぞ?」
やれやれ、姉弟そろって思春期か。同じ高校に通うのだから嫌でも顔をあわせることはあるだろうに。別に本性をばらして彼女の恋路を邪魔するつもりも無い。ただ、願わくはこの先彼女に恋人が出来ていても冗談を言い合える中でありたいものだ。本心は告げず御好意に甘えて夕飯をご馳走になる事にした。
* * * * * *
光陰矢の如しと言うように、高校に入ってからあっという間に時間が過ぎた。入学してから、智子の言った通りゆっくりと話す暇も無かった。違うクラスになってしまったので、なかなか顔をあわせる機会も無かった。で、二ヶ月間ぶりに今彼女の家の前にいる。一応言っておくが、友人に急用が入ってしまったので、久しぶりに智貴とゲームで遊ぼうと思いたった。そして部活が終わるまで家で待たせてもらおうと思ったのだ。断じて彼女に合いに来たわけではない。
だが高校生ともなると互いに緊張…しないわけでもないが、たいしたことは無い。呼び鈴を鳴らすとすぐに見知った顔が出迎えてくれた。
「あら、久しぶりね~」
二児の親にしては若い母親が歓迎してくれる。
「まだ、智貴は部活帰ってきてないのよ、上がって上がって」
熱心なことだ。姉と違ってスポーツマンな弟くんに元気を分けてもらえればいいと何度と無く思ったこともある。
「ありがとうございます」
あいつもこれくらいの笑顔を浮かべれば上出来だな、と思いながら上がらせてもらう。だが、次の瞬間とんでもない言葉が出てきた。
「智子が帰ってきているから、呼んでくるわね」
いや、待て。さすがに年頃の女の子の部屋に…と思ったが、今智子の彼氏が来る予定はないだろう。さすがに来ているならそうといわれるはずだ。僕は自分で予備に行くと言うと、菓子とジュースを持たされて部屋へ向かって行った。
「あいつも菓子のことをスイーツとか言ったりしてんのかな」
苦笑して気が抜けていたのがいけなかった。ノックして入るとそこには人間にあるまじき修羅の表情を浮かべた何かに物凄い勢いで引かれた。
「あわわわわわ!あばばばばっばっば!」
まずい、言葉になってない。智子は何時からこんな顔をするようになったのか。
「うぉおおおお!驚かすな!」
口から泡を吹いている!つーか動揺し過ぎだ。心臓が止まるかと思った。断言していい。アレは女の子が。いや、人間が浮かべていい顔ではない。
「落ち着け!僕だ!良く見ろ!」
たった二ヶ月で昔知らない人に話しかけられたときの様な反応で返されるとは思わなかった。寝巻きだと眼のやり場に困る。
「かかかかかってにぃ…」
あろうことか長年の付き合いの友人相手に絶賛人見知りモードになってしまっている。
「悪かった。菓子とジュースを…」
ああ、まだ驚いていたのか。さっさと出て行こう。今のままでは余りにも気まずい。
「ちょっと来て!」
いや、用件を聞けよ。女の子部屋に入れてもらった感動も無く、話すのにも苦労する智子を宥めるのに時間が掛かった。
「お前、あれ。高校生デビューとかやつか?」
「違ーし!まだこれからだし!」
何を言いたいのかさっぱり分からんぞ。つーか眼を合わせろよ。地味に傷つく。
「まあ、落ちつけよ。顔色が悪いぞ?」
やっと顔をこちらに向けた。と思ったら、いきなりリボンを取り出した。女の子らしい面を見せたと思ったら、ツーテールにまとめたリボンはよれよれだった。
「かわいい?」
睨みながら言うな。
「鏡見て結べよ。ずれているぞ」
別に見るに堪えないわけではない。だがロリ系を目指すならもっと表情を柔らかくするのが先だ。僕の言葉を受けて鏡に顔を向ける。なんかすごいじっと見ている。
「まあ、悪くないと」
思うと言った瞬間異変が起きた。
「うぷっ」
嫌な水音がする。智子の色白の顔が真っ青になり口で抑える。まさか!
「うお!ゴミ箱ゴミ箱!」
「うろおろろろろろろろろろ!!?」
いきなりゲロを吐くなよ!部屋の中にゲロがゴミ箱に吐き出される音が響く。人の気も知らないで、何回人を驚かせれば気がすむのか。間一髪で間に合わせたおかげでなんとか部屋を汚すことなく済ませる事が出来た。戻して激しく息を吐く彼女の背を撫でながら、口もとをティッシュで吹いてやる。コイツは僕を怖がらせて楽しんでいるのか?
なんとか落ち着かせるとこの状況を誰かに見られたられてつわりと勘違いされたらどうしようかとか急に変な不安が頭のなかに芽生えてきた。
「…見ないで。今顔見られたらゲシュタルト崩壊でまた吐く」
その言い方は地味に傷つくわ。だが、女の子の吐いた姿を見てしまったという罪悪感もあり、部屋から一旦出た。
「どうぞ」
暫くして部屋の中から覇気の無い声がしたので、もう一度部屋に入ると彼女は制服に着替えていた。色白な肌に全く染めてない長い黒髪が良く映える。女の子座りニーソックスで包まれたしなやかな脚の線といい、大人しくすると
(清楚な文系少女だな…)
とガラにも無く感じる。まあ、文型少女である前に重度のオタクなのだが。智子は上目遣いでこちらを見る。何故か緊張したので沈黙を破ることにする。
「なあ、具合が悪いのか?」
「べ、別に」
確かに熱があるようには見えないが、寝癖でぼさぼさの髪に眼のクマを見るとストレス過多なんじゃないかとかんぐってしまう。
(まさか…いじめか?)
まさか、人付き合いの悪さがモロに出てしまったのか。緊張して次の言葉を待つ。
「私さ、何でモテないわけ?」
いきなり話が飛んだ。モテないから病気になると初耳だ。心配して損したな。
「…えり好みしすぎているとか」
とかく人間と言うのは高嶺の花というものを好きになりがちだから、彼女も優しく高身長のイケメンな彼氏が欲しいとか言いだしても不思議ではない。
「こんなにお買い得なのに!いや、くやしくねーし」
いや、何に悔しくないのか分からん。それにお買い得だったら積極的に売り込まないと駄目だろ。まあ、確かにこの場合男から声をかけるのが礼儀かもしれないが。
「仮にそうだとして学校内でいきなりナンパできないだろ。それよりもお前、目すごいクマが出来ているぞ」
童顔でしみ一つ無い顔しているのに、それと目つきの悪さで何かとっつきにくい。これが男なら問題ないレベルなのだが、女性だ
と愛想の無い顔に見えてしまう。
「でもブスじゃないだろ?」
そりゃそうだ。それにお前の顔のことなど一言も言っていない。目のクマはどうした。どんだけ顔にこだわるのか。
「なら鏡見ての反応は何だよ…もっと自身持てよ」
僕がそう言うと、視線を鏡に移す。すると物凄い勢いでこちらを見た。
「おい。手伝え」
主語が無いと分からん。それにさっきからお前の介抱でこっちは疲れているのだが。
「何を?」
「暗示だ!」
だからちゃんと説明しろ。智子は僕の疑問を他所に、手のひらで顔を隠す。
「美少女!」
いきなり叫びだす。端から見たら危ない人だ。
「なにこの美少女!?使命はいるレベル!!?」
何かが吹っ切れたように連発する智子。そしてこちらをちらりと見る。見ていて引きそうになったが、また落ち込まれてはたまらない。それに人見知りモードを殴り捨てているのはは良い傾向だ。努力の方向性を全力で間違えていると思うが。要するに自己暗示を手伝えばいいのか。
「かわいい!かわいい!智子はかわいい」
叫ぶ。ブッちゃけ恥ずかしいが互いにやけくそで連発する。
「やっぱり私はブスじゃない」
スクッと怪しい笑みを浮かべて立ち上がる。自己暗示が成功したらしい。彼女は部屋から駆け出すと、黒ぶち眼鏡をかけて戻ってきた。鏡を見て驚愕している。
「あー、眼鏡も似合うな」
僕の言葉が聞こえたのかどうなのか。なにやら自信?を身につけた彼女は着替えると言って僕を追い出す。暫くして、ドアが開き入ってきたのだが…。
「うぉっ!」
うん、言わせてもらおう。すげーケバイ。ある意味ここまでブスメイクをするのは才能ではないだろうか。今すぐ眼を逸らしたい衝動に駆られる。
「どうだ!」
いや、聞かないでくれ。つーか格好を治してくれ。ゲゲゲの鬼太郎の世界にいつの間に迷い込んだのだ。つーか、ギョロ眼をやめてくれ。アヒル口も無理しなくていい。
「…びっくりした。う、うん。いいいんじゃないか」
もはやこんな残酷な嘘をついていいのか。今すぐ着替えてこいというべきじゃないか。あのまま姿でいいじゃないかと言わなくては。取り返しのつかなくなる前に。
「そ、そうかか、かわいいよな?」
とりあえず黙ってくれ。早くこの妖怪を何とかしないと。
「うん。だから着替えて来い。刺激が強すぎる」
主に心臓的な意味で。夜中に見たらショック死しそうだ。
「お前以外の意見を聞いてからだ」
いかん。彼女を解放してはいけない。犠牲者が出る前に早く彼女を人間に戻さなくては。だが、運命は僕に(それと)彼女に味方しなかった。玄関のドアが開かれる音が聞こえてきた。
「ん、ああ、どーも、久しぶりです」
終わりの始まりが近づいてきてしまった。階段を登る音ともにこちらへ来る音が聞こえる。
「いや、待て!僕が階段を降りるからここへ来ては…」
「おーい、弟!」
おい馬鹿やめろ。呼ぶな!
キリッとした目つきのスポーツ少年がこちらを向いた。そして、姉とそっくりな驚愕の表情を浮かべた。
「うわっ!?すっげぇーブス!!?」
ダウト。智子は、石となった。僕も遠からず石化しそうだ。智貴の汗は部活帰りだけが原因ではあるまい。
「って姉ちゃんか、びっくりさせんなよ…」
まだ驚いていたのか。だが、短期間で姉だと見破れるのは家族だからか。弟よ、君は偉い。そしてすまない。君の姉がモテなくなったとしたら、僕の責任かもしれない。
* * * * * *
先ほどの事件後、彼女は部屋へ篭ってしまった。あの出来事のことを忘れるかのように僕と智貴は無言でゲームをしていた。この弟に姉の話題をする事はあまりに惨たらしいと思ったからだ。あの惨劇を防げなかったのは何故だろうか。頭の中はそればかりだ。
「ところで、一ついいですか」
こちらに顔を向けず、手だけピコピコとコントローラーを動かしながら聞く。
「お、何だ」
やけに声が真剣だ。
「…俺が言うのもなんですが、もっとマシな女は世の中にいくらでもいると思いますよ」
智貴よ、お前まで何を言っているのだ。あの事件はそこまで尾を引いていたのか。
「痛ましい事件だったな。気を落とすなよ」
「家のバカがすいません」
これ以上犠牲者を出さないためにも、もっと彼女を気に掛けるように努めよう。まだまだ僕と彼女の高校生活は始まったばかりなのだから…。
多分。もう五月も半ばだけど。
こちらにも書いたきっかけは、友人から「一人称が智貴とかぶって見づらい」と言われたことです。
一人称を変えたからと言って内容が面白くなっているわけではありませんが。一番の理由はアニメのCVを聞いて盛り上がったのが原因です。