僕の幼馴染がモテないのは僕の責任かもしれない   作:もこっちファンクラブ

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皆様、遅くなりました。
今年もよろしくお願いします。


僕喪6  モテないから 夏休みを満喫する

「ふわぁーっ」

 

 あくびをしながら背筋を伸ばす。夏休みに入ったということで昨日は友人達とはしゃぎすぎてしまった。今日は遊ぶ約束はないので家でゆっくりすることにした。遊びの約束などが来ていないかメールを確認しようとしたとき、珍妙な出来事に出会った。某検索サイトの知恵袋をちらっと見時変な質問を発見してしまったのである。曰く「ぺろぺろとは?」だ。

 

「ああ、夏だなあ…」

 

 夏休みなので、小学生か中学生がふざけて書き込んだのであろう。質問者の予想するところでは「局部」だそうだ。こんなことをわざわざ書いてしまうあたりが本人の幼稚さを際立たせている。

 

「えーと、「そういうことを書くと後で後悔しますよ」と」

 

 ちょっと考えた末にカタカタと打ち込んでおく。以前ならこういう手合いは無視するのだがなぜか書き込んでしまった。そっとしておいてやるのが人情かもしれないが放置の方が辛いような気がする。誰にも注意されないまま社会に出ることになったら…。こんなことは忘れて昼ごはんを作ることにしよう。全く、休みに入ってまだ四日目だというのに…。

今日は親がいないので料理は自分で作らなくてはならない。だ。小さい頃は両親が忙しい時には黒木家の家でごはんを食べさせてもらうことも結構あったものだ。そのお礼にと家事手伝いをするうちにだんだんと覚えていくようになった。おかげで毎日昼をソーメンにして夏バテになることはなかった。また、その頃は黒木家でゲームをしたり虫を取りに行ったりしたものである。その頃の僕や智気にとって智子は良い姉だった…と思う。今はごらんの有様であるが。

 そんなことを考えていたせいか、料理が出来上がるころに来客がやってきた。見るからにサッカー青年である黒木智貴少年だ。夏なのにも関わらずその眼光や表情は真面目そのものである。

 

「よお、元気か」

 

 僕が手を上げて挨拶するが、今日に限っては智貴は硬い顔をしていた。

 

「はい。すいません、突然お邪魔して」

 

「いつになく硬いな。まあ、上がれよ」

 

 確かに智貴は姉と違って態度も真面目すぎるくらいだ。見たところ同級生には気軽な態度をとっていたのだが。

 

「いつも先輩に迷惑かけていますから」

 

 智貴は同じ部活だった頃の名残で今でも僕のことを先輩と呼んでいる。体育会系と言え生真面目なことだ。まあ、今となってはどうでもいい。

 

「お前じゃなくて姉の方だよ。まあ座れって」

 

 遠慮する智貴を椅子に座らせて冷蔵庫から麦茶を出す。氷も入れようとしたが帰って気を遣わせるのでそのままコップに注ぐことにした。逆に姉の智子であればさらに氷を入れないと文句を垂れる。

 

「で、どうしたんだよ」

 

「実は…」

 

 試合に向けて、弁当は部活に合わせた食事に変えようと考えているらしい。それでは母親の手間がかかるし、かと言ってメニューを自分基準にすれば智子にも迷惑がかかると。そのため智貴は自分で弁当を作る練習をしているらしい。母親に教わるだけでなく、自分でも自主的に練習したいが家には厄介なのがいるのでそう何度もは使えないということだった。

 

「偉い」

 

「いや、そんなんじゃないですよ」

 

 今時の中学生はこんなにしっかりしているのだろうか。智子はこの十分の一でも見習って欲しいものだ。勿論、断る理由もないので快く快諾した。その後、僕は智貴と昨日のサッカーの試合や学校生活の話について語り合った。なんのことはない会話だが、昔に戻ったかのように和気あいあいと過ごす。思えば、中学時代はお互い部活関係だった上に一時期ではあるがいろいろあったのでこうするのも久しぶりだな。

 

 

 

*   *   *   *   *   * 

 

 

 

「何お前ら、姉をはぶるのが趣味なわけ?」

 

 智子がジト目で見ながら文句を言ってくる。あの後僕は智貴やおばさん(智貴と智子の母親のことだ)の勧めもあり、黒木家で夕飯をご馳走になることになった。僕がリビングにて寛いでいると、智子が二階からやってきて文句をつけてきたのである。ちなみに彼女が文句を言っているのは自分がはぶられたからではなく自分が家事手伝いをさせられたからである。実に情けない。

 

「大体ま昼間から男二人って、お前らホモなの?死ぬの?」

 

 彼女のあんまりな難癖に僕が反論するよりも先に智貴が心底うるさそうに舌打ちをするとビクッとなっていた。このへたれぶりからすると、先ほど智貴に文句をつけて返り討ちにあったのだろう。

 

「お前…昨日のことをまだ根に持ってんのかよ」

 

 智子の態度から察するに、どうやら姉に対して昨日からこの態度らしい。これで弟に依存気味なのだから困る。それにしても。

一体何をやらかしたのだろう。そしてなぜこいつは反省の色もないのか。

 

「怖い動画を見てトイレに行けなくなった挙句、起こされもすれば不機嫌にもなるだろ」

 

「ちょっお前ばらすなよ!」

 

 あ、これは智子が悪いわ。しかし彼女は薄い唇を歪めてぼそっと呟いた。

 

「男のくせにみミッチィ奴」

 

 健気な弟の正当な怒りと献身に対して姉は舌打ちで答えたのだった。なんという業の深い女であろうか。少なくとも人間の器についてこの少女が文句を言える筋がないのは言うまでもない。

 

「お前ってさ。チビのくせに目線だけは高いな」

 

 僕がぼそっと行ったのが聞こえなかったのか無視したのかはわからない。

 

「そういえばさー」

 

 この後、智子が最近のアニメのことを得意げに語っていた。一見すると無表情のように見えるが多少笑顔(ただしドヤ顔なのだが)に見えた。ちなみに、得意なことを話すときは早口である。

 

「でさート●ボってほんとチャラ男なんだよ。好きになれんわ」

 

 いつの間にか名作魔女映画の話になっていた。ト●ボはっきり言って相手(電子限定)を取っ替えひっかえしているビッチ(電子限定)には言われたくないだろうな。

 

「で、私が話してやったんだからお前もなんか面白い話題を提供しろ」

 

 どうして女ってやつはころころ話を変えるのか。いや、コイツだけか。それにしても自分の会話スキルが低いくせに他人には面白い話を要求する。こんなんだからこいつはぼっちなんだろうな。

 

「そういえば知恵袋でアホな書き込みした奴がいてな」

 

 僕が説明していくと、智子の顔が固まった。

 

「あの書き込みしたのはお前だな!人に恥をかかせやがって!」

 

 お前が書き込んだのかよ…。なんて残酷な真実なんだ。こいつの将来が真面目に不安になってきた。恐る恐る智貴の方を向くと、すごい冷えた目線で姉を見ていた。

ああ、すまん智貴。君にそんな思いをさせるつもりはなかったのだが…。ちなみにそのあと、智貴は姉のことをしばらくスルーしていたのは想像の通りである。

 

 夏休み五日目の夜。友人たちと映画を見て帰った後部屋で寛いでいると、携帯に電話がかかってきた。清田からかと思い電話に出る。

 

「おう、どうしたんだよ。今日だけじゃ遊び足りないのか?またあそこでも行くか?」

 

「はあ?どうしてお前なんかと遊ばなくちゃいけないんだよ、自意識過剰が。リア充死ね」

 

 智子だった。このまま切ってやろうかと思ったがかろうじて意識を抑え話し続ける。

 

「三行で話せ」

 

「夏休み、

リア充になるために

力をかせ」

 

「はいはい、三行でどうも。で、これ以上どう力をかせってんだ?」

 

 今までのは力を貸したうちに入らないとでも言いたいのか、こいつは。まあ、前もこんなことを言っていたしこれくらいで怒こることもないだろう。

 

「どうせ暇なんだろ?」

 

 死ね、引きこもり。いかん、落ち着け僕。智子のペースに乗せられてダークサイドに落ちるんじゃない。

 

「まあ、自分を磨くことを考えたほうがいいんじゃないか?」

 

「いつも磨いているんだけど」

 

 嘘を付け嘘を。

 

「まあ、聞け。磨くってのは外面だけじゃない。夢に向かって努力する人間は好意的に見られるもんだ」

 

 不審そうな唸り声を挙げる。同じような条件ならばなにもしないでいる人間よりかはそうだろう。

 

「お前には将来の夢とかはないのか?」

 

僕がそう尋ねると、智子はもったいぶったかのようにまを置くと、得意げに答えた。

 

「直木賞作家になることだな」

 

 これは大きく出たものだ。彼女がこんな大きな夢を胸に秘めていたとは知らなかった。見直したぞ、智子。

 

「じゃあ、今度見せてくれよ」

 

「まだ書いてないけど」

 

「お前、僕をコケにするために電話してんの?」

 

 前言撤回。ここで書くように迫ってもやる気をなくしたとかグダグダ抜かすのが目に見えている。それにしても、こいつを本気にさせるにはどうしたらいいだろうか。

 

「ゆうちゃんを誘っていろいろ聞くとかは」

 

「リア充の真似事とか無理」

 

 リア充実になりたいのに真似が無理ってどういうことなんだ。僕が悩んでいると、智子が苛立ったように話を続ける。

 

「お前さ、もっとハッとするような提案をしろよ。ない知恵絞って。私だって暇じゃないんだからさー」

 

 そのイライラした言い方にこっちもイラつきがMAXになってしまった。

 

「少しくらい自分で考えろ!」

 

「ちょ、ま」

 

 言い捨てると電話をプツッと切ってしまう。短絡に過ぎたかと思い後悔したが後の祭り。頭を抱えるが仕方がない。それにしても幼なじみとはえ、怒鳴って電話を切ってしまうとは…中坊の時の短気さがまだ治ってなかったのか。暫く頭を抱えていたが、悩んでも仕方がないと、智貴の携帯にかける。数コールして、智貴の声が聞こえた。

 

「先輩、どうしたんですか?」

 

「すまん、今大丈夫か?」

 

 僕が聞くと、快く大丈夫ですよと答えてくれた。

 

「実は智との電話を一方的に切っちゃって…」

 

「ああー…」

 

 智貴は何かしら思い当たるふりがあったのか詳細も聞かず何か納得しているようだ。

 

「なあ、智貴。僕さ、智に対してちょっと冷たすぎるかな」

 

 思えば花火大会の時もガミガミ説教していたし。僕はちょっと口が悪いのかもしれない。

僕の言葉を聞いた智貴はちょっと間を置いたあと、探るように尋ねて来た。

 

「…先輩、それ本気で言ってます?」

 

 いかん、僕としたことが…成瀬さんに劣等感を感じているのだろうか。

 

「悪いな、変なことを聞いて」

 

「先輩は正直世話を焼きすぎだと思いますけどね」

 

 突然電話したことを詫びると、雑談をして切った。とりあえず、外出させればいい気もしないでもない。とりあえず考えるのをやめ、ベッドに寝っ転がることにした。

 

 

 

*   *   *   *   *   * 

 

 

 

 次の日、智子から電話かかってきた。何か言いたげではあったが、目的だけ伝えてきた。

 

「なんだ、予定でも決まったのか」

 

「夏だし、花火するわ。場所はうちの庭な」

 

 約束の場所へ急ぐと、智子が待っていた。僕は見慣れた黒木家邸宅を眺めながら、自分がここまで所帯を持つことができるのだろうかとふと空想に耽った。見慣れたはずのそこそこ広い

 

 庭には僕と知子しかいない。

 

「で、ほかにメンバーは?」

 

「これで全員だけど?」

 

 めんどくさそうに彼女は呟いた。彼女の人望の厚さがわかるというものである。

 

「この前のことを水に流すためにも花火に誘ったのに。もっと私に感謝しろよ」

 

 シャツから除く胸元は白く、ここ数日感外に出てないことは確定だ。パタパタ衣服をうちわのように仰いでいる。下着が見えても知らんぞ。

 

「成瀬さんとかは呼ばないのか?」

 

「ゆうちゃんは彼氏持ちだよ、何考えてるんだよ、いやらしいな」

 

「そんなことを言い出すお前が一番いやらしいわ」」

 

  二人で花火って、そういうのは恋人でやれよ…。まあ集合場所が黒木家の庭ということで嫌な予感はしていたのだが。

 

「あいつなら2階にいるぞ」

 

指差した方を向くと、窓から智貴の姿が見えた。心なしか呆れた顔でこちらを見ているように見える。おそらくが断ったのだろう。まあ、二人で花火しているところを見られたら年頃の中学生にとっては発狂ものかもしれない。輝く花火を見ながら得意げになる智子は、自然な笑顔で少しだけ可愛く見えた。これは雰囲気や暗がりがそうさせているのだろうか。花火の光で、智子の白い首筋が見えた。暑いのを我慢しているのか、しきりに髪をいじっている。この夏でさらに伸びたのか、髪の長さは背骨のあたりまで達している。

 

「なあ。もしかしてお前、夏の花火大会にまだ未練持ってんのか?」

 

 寝不足気味なのか充血した目でこちらを見る。その大きな目は彼女のチャームポイントのはずだが今の状態では周りにとっつきにくさを感じるだろう。

 

「はっ花火なんていつでもできるし」

 

 夏休み前に花火大会を誰かと過ごしたいととあちこちを駆けずり回っていたのだがもう忘れたのであろうか。

 

「ならいいんだけど、お前この夏休みの間に時間が経つのが早くて悶絶したりしてないだろうな」

 

「…」

 

 黙り込んだ。全く、小学生の頃から無計画なことだ。ゴロゴロしてればあっという間に時間は過ぎていくだろうに。後で後悔するなら遠慮せずに成瀬さんに電話でもして遊びに行けばいいのだ。

 

「お前さ、今でもそのリア充になりたいわけ?」

 

 話を変えてここ数日感気になっていたことを聞く。こんな簡単なことなのに、幼馴染相手に探るような聞き方をしてしまった。

 

「……うん」

 

 意外にも彼女は素直に答えた。

「で、目指す目標は具体的にはどんな感じなんだ?」

 

「決まってんだろ。勉強が出来て、スポーツが出来て友人はたくさんでしかもイケメンにモテまくって、それから」

 

 得意げにペラペラと話す智子。自分の得意な分野では多少声が澄んでいい表情をしている。けどな、うん。僕は具体的な対策を聞いたんだ。お前の妄想を聞きたいわけじゃない。目標はでっかく持てとは言うがそこまで行くと自分を顧みてますます虚しくなると思わんのか。

 

「お前さ、リア充になったとして詰まんねえ話でも笑顔で聞けるのか?」

 

「なんでつまんない話を我慢しなきゃなんないんだよ」

 

 不満そうな智子にできる限りわかりやすく話す。

 

「リア充ってのは基本どんな相手に対しても気遣いのできる人間が多いわけよ。気を使って疲れたりすることも多いんだぜ」

 

 智子の親友の成瀬さんはその典型とも言えるだろう。中学時代から日々(的確な)努力をしていたみたいだし。

 

「お前にそんなこと言われるとうざいんだけど」

 

 そう言って薄い唇を尖らせる。

 

「大体助けを求めているのに昨日勝手に電話を切りやがって。説得力がないんだけど」

 

 あれは人に要求する態度であってものを頼む態度ではない。普段僕に対してどんな感情で接しているのかそれだけでわかるというものだ。

 

「お前って本当に可愛げないやつだな。智貴にほんと同情するぜ」

 

 しかも執念深いし。二人してむっとして花火を見つめるのだった。線香花火の火がポツリと落ちる。智子は花火が消えた方に視線を向け、俯いた。染められたことの無い長い髪の毛が彼女の表情を隠す。

 

「もう夏休み、六日目になっちゃった…」

 

 心なしか弱気な声だった。彼女もいろいろと休みの暮らし方に思うところがあったらしい。

 

「そうだな、あっという間だな」

 

 できる限り優しい声で返す。

 

「別に遊ぶ約束じゃなくてもいい。特に洋画なくてもいいから成瀬さんや小宮山さんに電話かけてみな。なんなら悩み相談でもいいと思う」

 

「余計なお世話だ、モブ。つーか誰だよ小宮山って。男?」

 

 お前の同級生だよ。成瀬さんの友人でもあり二人は成瀬さんの頭越しに交流していたのだ。智子と似たようなメンタルを持つ少女だ。ぶっちちゃけ言えば智子とはあまり中が良くなかったがそれでも長く接した方ではある。しかし怪しいキャッチセールスを見る子供のような表情をしていたので、本気で分からないらしい。家にまで遊びに来たのに忘れ去られた小宮山さん哀れ。

 

「友達の一人もこっちから誘えないなんて、ヘタレ」

 

 憎まれ口の一つを返すと僕は深呼吸をする。智子は何かを言い返そうとしたが、言葉を止めた。

 

「ったく…」

 

 頭を整理すると、昨日言おうとしたことを思い出す。

 

「例えばさ、イメージトレーニングとかどうだ?」

 

「イメージトレーニング?なんだそれ。だいえっとの新しい方法?」

 

「部活やってた時の訓練なんだが、想像力を使ったシュミレーションみたいなもんだ」

 

「僕の場合で言えばどうパスを受けてシュートするかだな」

 

「それなら私もやったことがあるぞ」

 

 意外にも経験があるらしい。自信満々な智子の顔を見つめる。なんというかこいつ、表情豊かなはずなのに若干硬い気がしないでもないな。笑顔も怒った顔も目のせいで変わってないように見えるのだ。

 

「世界最強の女スナイパーになったイメージとか、アニメの中で自分とオリジナルキャラを登場させるイメージとか」

 

 自信満々で言えるのは素晴らしいことだ。内容は悲惨極まりないが。

 

「それはイメージトレーニングじゃなくてただの妄想だ」

 

 夏なのに幽霊に肩を叩かれたかのように背筋が冷えてきた。

 

「ちなみに魔術師見習いでサーヴァントと言われる使い魔的なを使役してだな」

 

「わかった、もういい」

 

 夏休みだというのになぜ僕は痛いオタクの妄想話に付き合っているのだろう…。僕、もう帰ってもいいかな。

 

「とにかく。もし少しでもトレーニングに興味があるなら今度付き合ってやる」

 

 立ち上がって首を回す。屈んでたせいか若干足がしびれていた。

 

「それじゃあな」

 

 僕が背を向けて踵を返そうとしたとき、智子が僕の服を掴んだ。振り返ると智子が上目遣いをしてコンビニの袋を差し出してきた。

 

「やるよ、アイス。お礼」

 

 黒木邸で悩み相談を聞いて以来初めて智子のお礼の言葉を聞いた気がする。驚いた僕は、しかしできる限り柔らかい声で一声返すのが精一杯だった。

 

「どういたしまして」

 

 帰る途中コンビニの袋を見てみたらアイスが溶けてた。体裁よくゴミを押し付けられたような気がせんでもない。次の日、引きこもりガールの部屋に僕はいた。それにしても相変わらず女の子の部屋とは思えない。変わった点といえばC920と書かれたダンボールが置いてあったことくらいだ。動画サイトに実況でもあげようとしたのであろうか。馬鹿なことを考えながら椅子を押して真ん中に持ってくる。

 

「まずは椅子に座って寛げ」

 

「それくらい楽勝だな」

 

 どすっと女の子らしさの欠片もない座り方で椅子に腰掛ける。

 

「それから目を閉じてシチュエーションに応じた想像をしろ」

 

 ざざっと後ろに下がる。まるで間違ってグロ画像を見たような顔をしている。

 

「ま、まさかお前私を縛っていやらしいことするつもりじゃ…目を閉じている間に胸を揉んだりベロチューしたらぶっ飛ばすぞ、警察呼ぶぞ」

 

 普段どんな妄想をしているのかなんとなく理解したよ。知りたくもなかったけど。智貴が夏休みになってウザさがましたとぼやいていがわかったような気がする。

 

「気持ちわりーこと言ってんじゃねぇ、死ね」

 

 そのシミひとつない頬を思いっきり張り倒したくなる感情をなんとか抑える。あの日以来僕は女に手を上げないと誓ったのだ。それにしてもこんな姉の面倒を見る智貴の偉さがわかる。そりゃモテるわな。流石に僕に帰えられては(ほかに手伝ってくれる人もいないので)困るのか、警戒しながらもまぶたを閉じる。子供の頃以来寝たところを見たことがないが、こんな感じなのだろうか。

 

「それで、最初はどんなシチュエーションにするんだ」

 

「一日に十回はスケベするビッチで、自分の性体験を語るところ」

 

 こいつは見てくれは悪くない(はず)なのにどうして萎えさせるようなことを言うのだろうか。人よけのためか。そりゃぼっちになっても仕方ないだろう。

 

「まずは自己紹介とかにしろ」

 

「よ、よし。ならクラスで面白いことを言っておお受けするイメージだ」

 

 正直僕が手伝う意味はないような気がするが、発言には責任を持たなくてはならない。少しでもこいつが前向きに物事を見れるようになればそれに越したことはないのだ。

 

「やめろ、違うんだ。私は面白い子なんだ。そんな目で見ないで」

 

 怖い夢でも見てるかのように色白な顔を青くする智子。悪霊にでも取り憑かれたかのようにがたがた椅子を揺らす。エクソシストを読んだほうがいいのだろうか。

 

「何いきなり弱気になってんだお前」

 

 夏休みは智子に自分を振り返る時間を与えることとなった。自分を見つめ直すことで何か見えてくるものがあるだろう…。自分の黒歴史とかでなければ良いが。

 

 さて、こんな痛々しい話を聞いてくれてありがとう。最後に、大変恐縮なのだが、僕の言い訳を聞いて頂けるとありがたい。毎回智子に僕は知子に辛辣なことを度々言っているがひとえに彼女のことが心配だからである。決して彼女に悪意を持ったり晒しあげたりするつもりはないのだ。どうかそれは信じていただきたい。

 

 

 

 

 





 どうも、もこっちファンクラブです。長い時間お待たせして申し訳ありません。注文していた6巻も届きテンションは上がっています。七巻も注文しましたしたのでこれからも戦えそうです。
 今週のワタモテは中学以来の三人が揃って遊ぶ約束をしているのでワクワクしています。
これからも書き続けていきたいので読んで頂けるのであればこれ以上幸せなことはありません。コミックスを読まれている方は下に進んでください。








そして、運命の時が訪れようとしていた。
ゆーちゃん襲来である。
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