IS学園での物語   作:トッポの人

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今回ちょっと短いです。


第11話

 アリーナのグラウンドで睨み合う俺と名も知らぬ女子。纏っているISは明らかに打鉄とも、ラファールとも系列が違う機体だった。

 この学園に置いてあるのは打鉄とラファールの二機だけ。それ以外となると何処かの国の専用機という事だ。

 

『ミステリアス・レイディ……いきなり大物来たね』

 

 現れたISに先ほどまで一緒になって騒いでいたミコトの声が一気に引き締まった。

 このトーンはセシリアを助けようとした時と同じだ。それほど状況的に、いや目の前の相手がやばいという事になる訳で。

 そうなると俺の答えなんて既に決まっているも同然。一度だけ深呼吸。

 

「…………ふぅー」

 

 ――――よし、チェンジで。

 

『えっ、ちょ』

 

 何を驚く事があるのか。ただでさえ俺自身もこの人がやばいと感じているのに、そこへ追い討ちが掛かったのだ。この結果は当たり前でしかない。

 

『あの、何か春人と因縁あるっぽいんですけど』

 

 問題はそこだ。先ほどの口振りからするにどうやら俺は簪に何かやらかしているらしい。

 思い当たる事が多過ぎて分からないけど。

 

『えぇ……』

 

 同室なんだからある程度は仕方ないんだよ。ちゃんと謝ってるんだけど、それでも足りなかったのか。

 

「呆けちゃって、まぁ。おねーさんが相手じゃ嫌?」

「……分かってるじゃないですか」

『えっ』

 

 口元を隠してくすくす笑っている目の前の女子。俺の気持ちをちゃんと理解してくれていて釣られて俺も笑う。

 

 ふ、ふははは!! なんだ、戦いを避けるのなんて簡単じゃないか! これで――――

 

「へぇ……言ってくれるじゃない」

「……?」

 

 嬉しくてつい口にした一言は、せっかく浮かべていた笑みを消して更に相手の怒りと闘志を燃やすはめに。右手に持っている槍を強く握り直したのを見ると相当だ。

 

 あれ? 余計やる気入ってる気がするぞ。どうしてこうなった。

 

『春人さん春人さん。今のって「私、弱いけどいい?」って問いに「じゃあ、嫌だ」って言ってるようなもので……』

 

 えっ。違う、違うぞ。そっちが弱いから嫌なんじゃない。強いから嫌なんだ。早く訂正しなきゃ。

 

「……いや、あの――――」

「そう言うな、櫻井。これでもこいつはロシアの国家代表で、学園最強なんだ」

 

 織斑先生から教えられた情報は俺の気持ちを更に盛り下げるものだった。

 しかし、教えてくれた織斑先生は何処か楽しげ。俺とは対照的に盛り上がっているように見えた。

 

 いや、もっと嫌だ。何で代表候補生から一気に国家代表で、しかも学園最強と戦わなくてはならんのだ。どう考えても割りに合わない。やっぱりここは抗議して――――

 

「行けるな、お前」

「…………はい」

「よし、では残りの説明を受けろ。山田先生、模擬戦の準備をしましょう」

「は、はいっ」

 

 織斑先生には勝てなかったよ……。

 

 鋭い目付きで問われれば、はいと答えるしか道はなかった。逆らって命を落としたくはない。肩を落としてとぼとぼと二人の元へ行く事に。

 

「うちの会長がすみません。どうしても櫻井くんと戦うって言って聞かなくて……」

「……いえ、気にしないでください」

「はるるん、ごめんねー」

「……ん」

 

 着けば開口一番に謝罪された。どうもこの二人は今も睨み付けてくるあの人の関係者らしい。

 

「……あの人は簪の事で怒ってるんですか?」

「ええ、まぁ……」

「……俺は簪に何をしたんですか?」

「いや、えっと、気にしなくてもいいから」

 

 俺の質問に布仏先輩は曖昧な態度で答えを返していく。聞けば聞くほど、段々と困った顔になっていった。

 

 やはり簪の事で怒っているのは間違いない。だが、その内容については教えられない、か。ここで口にするのは憚れるような内容の可能性もある。何したんだ俺。

 

「……ちなみに会長というのは?」

「生徒会長の事よ。IS学園の生徒会長は代々最強でなければならない決まりなの」

「たっちゃんはねー、すんごーく強いんだよー」

「……なるほど」

 

 布仏先輩の言い方から察するに最強と学園全体の認識のようだ。誰もが納得して名乗るのを許されていると。

 

 何故そんな相手にリミッター付きという縛りをしなくてはいけないんだ。全く、どうかしてるぜ。

 

「会長の話はそこまでにして、武装の説明をするわね」

「……お願いします」

「まずは『葵・改』からなんだけど――――」

 

 先ほどミコトから教えてもらった『葵・改』を使ったリミッター解除の手順と残された機能から始まった。どうやら普段の状態での攻撃力不足をどうにかしようと考えていたらしい。

 

「次に背部の『ヴァーダント』。これはバインダーが片方に八枚重なってて、それぞれに反りのない太刀が二本ずつ入ってるわ。あとバインダーは盾としても使えるから」

「太刀はねー、普通に切る以外に手元から離れてたら遠隔から音声入力で爆発させられるんだよー」

「……ほう」

 

 何だ、そのオサレな攻撃方法。不覚にもときめいたわ。

 

「そして最後ね。これは何の変哲もない槍で、『楓』っていうわ」

 

 武装欄を見れば確かに『楓』という名の槍がある。槍と言っても生徒会長が持っているような西洋のランスではなく、長い棒の先端に刃が付いてあるのだ。それが二本……それはいい。

 

「……最後?」

「ええ、以上よ。織斑先生がこれだけあればいいって」

「……そうですか」

 

 悲報、俺氏射撃武装持つ事許されず。

 一度目は俺のポカだった。それは仕方ない。でも、二度目は先生からの指示ってどういう事なの……。何でブレオン強制されてるの。

 

 その後、悲しみを胸にこっちと生徒会長の機体説明を受けて終了となった。

 

「じゃあ、頑張ってね」

「頑張れ、はるるん」

「……ん」

 

 二人からの激励に応えて、正面を見据える。先ほどまでは纏っていなかった水を展開している生徒会長がいた。

 勿論、ただの水ではない。布仏先輩の話では、あの水こそが最大にして最強の武装との事。まずは攻守一体の水をどうにかしなければならないのだ。

 

 ていうか水を操る機体って水の魔装機神かよ。そんなんと俺を戦わせないでくれ。

 

『大丈夫、精霊憑依は出来ないから』

 

 もし出来たら戦う相手間違えてるだろ。こんな一般ピーポーじゃなくて、もっとゴツいのと戦ってくれ。

 それより今まで何で黙ってたんだ?

 

『ちょっと教えてもらったところ復習してた』

 

 教えてもらったところ? 何を教えてもらったんだ?

 

『ふっふっふっ、じゃあ見せてあげるから武器構えてよ!』

 

 やたら自信満々のミコトに内心首を傾げつつ、一番慣れている『葵・改』を呼び出す。

 さて、ここからどうするのか。

 

『これで……こう!』

「……む」

「風……?」

 

 するとそれまでたまにしか感じなかった風が『葵・改』を中心に吹き荒れるようになり、やがて荒れた風も落ち着けば――――

 

「なっ!?」

「……これは」

 

 綺麗さっぱり『葵・改』は消えていた。

 しかし、右手には未だに刀を握っている感触がある。どうやら視覚的に消えただけらしい。

 

『んふー、どや?』

 

 う、うおおお……これ、風王結界じゃねぇか! ど、どうしたの!?

 

『イタリアにいるナカーマに教えてもらいました』

 

 イタリアにいる仲間……?

 何だ、この世界には水の魔装機神だけじゃなくて、風の魔装機神もいるのか。

 

『魔装機神っていうかスクウェアメイジかな?』

 

 あぁ、うん、そっちの方がまだ勝てる気がする。エグいけど。

 

「それは虚ちゃんから聞いてなかったけど、隠すのが好きなのね……この陰険陰湿根暗男っ」

「…………」

『むー……』

 

 二人きりになったせいか、よりストレートに敵意をぶつけてくる生徒会長。最早隠そうともしていない。

 そして初めて知ったが、人間本当の事を立て続けに言われると何も言えなくなってしまう。

 

『……ちょっとは言い返そうよ』

 

 それに反応したのがミコトだった。まるで不貞腐れた子供のようにしている。

 

 と言っても事実だしな。これは仕方ないさ。

 

『いーいーかーえーすーのー!!』

 

 分かった! 分かったから叫ぶな!

 

 頭の中にミコトの声が大音量でぐわんぐわんと響く。二日酔いなんてした事もないが、もし二日酔いになって大声を出されたらこんな気分になるのかもしれない。

 言われた本人ではなく、何故ミコトが怒っているのか不思議だがとにかく言うとしよう。また叫ばれては敵わん。

 

「そっちはマナーが悪いですね。ブーイングにしても度が過ぎる」

「あら、それは失礼しましたっ」

 

 こっちの指摘に少しも悪びれる様子もなく、言葉だけの謝罪が返ってきた。ちらりと見せた舌が、何処か小悪魔的なイメージを作る。

 

『言い返そうとは言ったけど、何故コードは魔弾(タスラム)の人?』

 

 だって、カッコいいだろう?

 

 《こちらの準備出来ました。用意はいいですかー?》

「こちらはいつでも」

「……こちらもです」

 

 間延びした山田先生の声。

 それに応えると同時に、こちらが『葵・改』に風を纏わせているように生徒会長も槍に水を纏わせた。

 水は螺旋状になり、刃を形成していく。凶悪な武器の完成だ。

 

 そういえばこの風って風王結界以外出来ないのか? 歌えば両肩から次元破壊砲とか出せないのか?

 

『出来るはずがないよね。あれ見た目風っぽいだけだから。精々風の防壁とかかなー。ちなみに春人の意思でも使えるよ』

 

 試しに左の掌に風を集めるイメージをしてみれば手の中で小さな渦が出来た。

 それを握り締めてから振り払うと刀を構える。向こうも槍を構えて応えた。

 

「そのポーカーフェイス崩して、化けの皮剥いであげるわ!」

「……こっちから剥いで見せましょうか?」

「『えっ?』」

 

 その瞬間、俺を中心に風が巻き起こった。

 吹き荒れる風は嵐となり、その規模はこの広大なアリーナのグラウンドの約半分を覆うほど。

 

 何これ、凄い。多分やった本人が一番驚いてるわ。ここまで出来るんやなって。

 

『は、春人? 急にどうしたの?』

 

 心配そうにミコトが訊ねてくる。いきなりこんな事をすれば心配するのも無理もない。

 

 簡単な事だ。向こうがこちらを悪役として見ているからそれに応えるまでよ。

 近所の子供にラスボス認定されてた実力、見せてやるぜ。

 

『えぇ……何その経歴……』

 

 改めて問われると本当に何なんだろう……ま、まぁいい。

 

「恐怖は我が喜びとなり、憎しみは糧となる! 我こそは嵐の騎士!」

「悪趣味ね……いいわ、その性根叩き直してあげる!」

 

 こうして暴風の中で生徒会長との戦いの幕が上げられ――――

 

『あの、噛ませ臭半端ないところいいですか?』

 

 何だよ、これからって時に。

 

『こんなに風出してるせいで物凄い勢いでシールドエネルギー減ってて……もう少しで合計百減るんですよ』

 

 何ですと!?


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