IS学園での物語 作:トッポの人
ディスチャージされたはず……。
小さい頃から私は周りと違うと認識していた。
同世代と比べてではない。大人と比べても私は優秀だったと思う。
思うと言ったのはその時にはもう興味がなかったから。それは実の親でさえ例外ではない。でもほぼ間違いなく、私は優秀だった。
その証拠として大人が知らない事も私は理解していた。知っていたと上辺だけの事ではなく、その物事の根底から理解していた。
でも自他共に天才と認められている私でさえ分からないものがある。それが宇宙だった。
あの広大な宇宙の彼方には未知の星があり、そこには未知の生命がいる。宇宙の果てには何があるのかなどあげればキリがない。調べても調べても、分かるどころか更に気になるところが増えるだけ。
そんな宇宙の魅力に取り付かれた私は必ず宇宙へ行くんだと、一人星が輝く夜空に誓いを立てた。
宇宙へ行くためにはロケットも必要だけど、船外活動をするためのスーツも必要だ。
何が起こるか分からない宇宙において、今の宇宙服では正直心許ない。ほんの小さな破片一つで宇宙服が破れてしまい、人命に関わる事になるからだ。
だから私は何があっても人命は守る宇宙服を作る事にした。これが夢への第一歩と言ってもいいのかもしれない。
スーツには着用者を守るバリアは勿論、制御の中枢であるコア部分に意識を持たせる事で何が起きたのかを観測し、学習し、対応出来るように幅も持たせた。更には独自のネットワークで他のコアにもその経験を伝達出来るようにも。出来る限りの事はした。
「おい、本当に大丈夫なんだろうな……」
「まぁまぁ! やってみてのお楽しみってやつだよ!」
「それをやってみるのは私なんだが」
「と、なんだかんだ文句を言いつつやってくれるのがちーちゃんの良いところ!」
「ちーちゃんはやめろ」
さてさて、作ってみたはいいけど実際動きませんでしたでは話にならない。開発にはテストが付き物だ。
そこで私は小学生の頃からの付き合いで唯一の親友であるちーちゃんを私の夢に巻き込んでみた。勿論、嫌だと言ったら一人でやるつもりだ。
そうしたらあっさりと協力してくれるって。やっぱり持つべきものは親友だね。
「じゃあちーちゃんの熱い要望に応えて、まずは石ころからぶつけてみようかな」
「軽く投げろよ……」
「任せて、ぶいっ!」
試作スーツの機能を確かめるべく、テスト開始。
まずはバリアからなんだけど、銃で試してみようとしたらちーちゃんがかなりガチで止めに来たので石ころからだ。
そんなに怯えなくても大丈夫なんだけどなぁ。
「そぉれっ!」
掛け声と共にスーツを着用したちーちゃんに向かって山なりに石を投げる。予定では展開されているバリアが直前で弾くはずだ。
「あっ」
でも放物線を描いて向かっていく石は直前で弾かれる事なく、ちーちゃんの顔面に命中。
小さい石を投げたからそんなはずはないのに、何故か頭の中で鈍い音が聞こえてきた。
「……おい、どういう事だ?」
「え、えっとですね……」
静かに訊ねてくるちーちゃんは迫力満点だった。あれはまずい。これでもかと頬がひくついて怒りを示している。嘘はつけそうにない。
通常、バリアはあくまで危険なものだけを弾くようにしている。高速で飛んで来る石ころならいざ知らず、緩やかにやってくるのなら弾かない。
束さんとした事がそんな石ころもバリアで弾くように設定するのを忘れていた。やっちまったぜ。
その事を説明するとちーちゃんの険しい顔がより一層強まる。
「何か言う事はないのか?」
「束さんうっかり、てへペロッ!」
「……ほう?」
和んでもらおうと選んだ一言は物凄く失敗だったらしい。とても未成年の学生とは思えない迫力を出しながら重い口を開いた。
「……束、そういえばこのスーツにはパワーアシストとかいう機能があったな」
「えっ」
「ただのデコピンがどの程度にまでなるか、お前で試してやる」
「Nooo!!」
そうして始まった追いかけっこ。こんな風に毎日開発と実験と失敗、そして成功を繰り返しているとスーツは完成に近付いていく。
ある日、いつもの如くテストをしているとちーちゃんから当然の質問をされた。
「束、一ついいか?」
「んー? 何ー?」
「協力するのは私だけでいいのか? 他にもいるだろう。この前やってきた人とか」
いつしか私達の実験は有名なものとなっていた。山奥から人間大の何かが飛んでいったりしていれば有名になるのも時間の問題だったのかもしれない。是非とも私達に協力させてくれと色んな人が訪ねてきていた。少しでもそのおこぼれに肖れるようにと。
「ごめんね、ちーちゃん。私、馬鹿な人って嫌いなんだ」
馬鹿は嫌いだ。目先の欲と自分の事ばかり気にしてその先の事なんて一切考えない。こっちのペースを掻き乱されるのはごめんだね。
「……何かしら賞を取っていたと言っていたが」
「ああ、それでも馬鹿は治らなかったんだね。可哀想に」
「はぁ……。もういい……」
説得するのを諦めたのか溜め息と共に俯く。長い付き合いだからこれ以上は何を言っても無駄だと分かったんだと思う。
でもそんなちーちゃんもきっと分からない。皮肉を言いながらも私の夢を真面目に聞いて、ただの善意で協力してくれるのがどれだけ嬉しかったのかなんて。
「私はちーちゃんにぞっこんだからね! 他の人に浮気なんてしないのさ!」
「やめろ、普通に気持ち悪い」
「ちーちゃん酷いよ!」
ま、まぁこんな風に普段はツンデレの化身だけどね。私はちゃんと分かってるからいいのさ!
私達が作り上げたこのスーツはインフィニット・ストラトスと名付けた。いつか何処までも続くこの空の先へ行けるようにと願いを込めて。
そんな願いを嘲笑うかのような事件が起きる。私達が行っていた実験は悪意ある人間の耳にも届いていたらしい。端的に言ってしまえばろくでもない戦争屋だ。どうにかしてISを表舞台に引っ張り出したかったらしい。
そのために掻き集められた百を優に越えるミサイル群は私達が住む関東なんて簡単に焼け野原に変えてしまえる。
私と大切な人達が逃げるだけなら幾らでも出来た。でもちーちゃんがそれを許さない。もしそれをしたら私はきっとちーちゃんの親友ではなくなってしまう。
だがハッキングするにしても数が多いし、時間がない。既に発射されているのもある。逃げるのも、未然に防ぐのもダメなら迎撃するしかなかった。
でも国の防衛装置もこれだけの数のミサイルは想定していないだろうし、私からすれば完全に防げるかどうかも怪しいものだ。
――――そう、選択肢なんてあるように見えて、元から一つしかなかった。
全てのミサイルを迎撃するのに成功した私の夢は全世界で有名となった。着用者の安全を守る画期的な宇宙服ではなく、現行の全てを上回る兵器として。
しかもそのせいで保護プログラムの対象となり、大切な妹の箒ちゃんはいっくんとも離ればなれになってしまった。
「どうしてこうなったのかなぁ……」
暗闇に向かって呟くも答えは返って来ない。
世界中に散らばったコア達からの情報に目を通していくと、あげられるのは悲惨なものばかり。
人の命を守るはずの発明が、人の命を奪っている。直接的にも、ISが女性にしか扱えないのを良い事に女尊男卑とかいうので間接的にも。
どうしてこうなったのか。どうすればいいのか。私には何が出来る。
ぐるぐる頭の中を駆け回り――――
「あっ、そうか」
そこまで考えて気が付いた。私とした事が多少なりショックを受けていたらしい。
単純な話だった。私の夢がこのおかしな世界を造り上げた。ならその世界を終わらせるのが私の夢でも間違ってないだろう。
「うんうん! そうと決まれば早速作ろうかな!」
この物語の主役はいっくんと箒ちゃんだ。内容は唯一の例外であるいっくんがIS学園で箒ちゃんと再会、二人で愛を育んで強大な敵を倒す王道のお話。ちーちゃんには二人の師匠ポジションに回ってもらおう。
頭の中で思い描いたハッピーエンドの物語を実行すべく、私はラボを稼働させた。二人が戦う強大な敵を作るため。もう一人の例外がいる事も知らずに。
私が切っ掛けで起こったIS学園での事件は奇跡的に死傷者〇で終わった。ただ一人の例外を除いて。
「やぁやぁ、初めましてジョーカー!」
「……どちら様ですか? というかジョーカーって……?」
「皆のアイドル、束さんだよ!」
「…………はぁ」
誰もいなくなった隙にその例外で、もう一人の男性操縦者がいる保健室へ侵入した。
もう一人は窓から突然入って来たのに反応は薄かった。名乗っても微妙な反応だ。
「ジョーカー、君に言いたい事があって遠路はるばる来たのさ!」
「……何ですか?」
「うん、箒ちゃんを助けてくれてありがとう!」
「……このままですみませんが、どういたしまして」
「反応が薄いなぁ……」
「……何かすみません」
ベッドの上で上半身だけ起こしているこいつはそう言うと軽くお辞儀する。やはり反応は薄い。
むむむ、ならこれはどうかな?
「あの三機のISは君を消そうと私が仕向けたんだけど――――」
「っ!!」
言い終える前にこいつの元々悪い目付きがより一層悪くなる。それにつられて雰囲気もガラリも変わった。
もう怒っているのかと思ったけど、どうやら今初めて怒っているらしい。
「……本当、ですか?」
「本当だよ。嘘は吐かない主義だからね」
「大勢の人が怪我するところでした……! 箒に至っては下手をすれば死ぬところだったんですよ!?」
暗くなってきた保健室にこいつの怒声が良く響く。突然やって来た理不尽に対する至極真っ当な怒りだ。
確かに怒られる内容を言ったけど、それでもこいつは他の人が傷付くかもしれなかった事を怒っている。傷付いたのは自分だけなのに。
「そう、だね。だから――――」
そこまで言うと私は深々と頭を下げた。スカートの裾をこれでもかと強く握り締めて。
「本当に、本当にありがとう……!!」
「っ!?」
震える声で言えばベッドから驚きの声と何かに動揺したかのような物音が聞こえてくる。
ここにちーちゃんがいたのなら同じような反応をしていたのかもしれない。私が他人に頭を下げるなんて見た事もないはずだから。
箒ちゃんが狙われた時、私は何も出来なかった。いつも簡単に出来ているキーボードを叩く事さえ儘ならなかった。
もし間に合わなかったなら。もし大切な妹がこの世界からいなくなってしまったのなら。
そう考えただけでもう終わった事なのに今も指先が震え、あれだけ泣いたのに目からは涙が溢れて止まらない。怖くてしょうがなかった。
「あ、あの……す、過ぎた事なんで……な、泣かないでください」
さっきまでの怒りは何処へやら、ベッドの上でオロオロしながらこっちに話し掛けてくる。泣いている私をどうにか泣き止ませようとしていた。
「う、うん。えへへ……君は泣いてる人に弱いんだね」
「……こればっかりはどうにも」
言われて強引に涙を拭うと慌てぶりが面白くて少し笑ってしまった。
屋上での箒ちゃんとのやり取りを見ていたけど、同じようにただひたすらオロオロしていた。泣き止むと心の底から安堵するのも。
「あ、一つ聞いてもいい?」
「……何ですか?」
「何で箒ちゃんを助けてくれたの? 箒ちゃんの事が好きなの?」
こいつは普通なようで狂ってる。基本的な感性は普通の人間に近いようだけど、自分に興味がない。だから自分が怪我した事について何も言わないんだと思う。
そんなこいつでもさすがに死ぬのは怖いはず。だとすれば助ける理由も限られてくる。
もしかしたら箒ちゃんと両思いかもしれないもんね。お姉ちゃんとして知っておくべきだと思います!
「……人として好ましいとは思っています」
「いやいやいや、私が聞きたいのはラヴの方だよ」
「……別に。そもそもあいつには織斑がいますから」
「お、おぉう……」
「……?」
今度は私が頭を抱えるはめに。こいつは嘘を言っていないからだ。頭に付いてるウサギ耳型の嘘発見器が何も反応しないのがその証拠。
あんなやり取りがあってこれってどういう事なんだろう? そもそもそれなら助けた理由が分からない。
「な、なら何で? 死ぬかもしれなかったんだよ?」
「……確かに死ぬかもしれませんでした」
でも、とシーツを強く握り締めて続ける。
「……でもあそこで行かなかったらどうなるかを想像したんです」
「ほうほう。どうだったの?」
「……後悔しました」
うん。……ぅん?
「えっ、それだけ?」
「……? はい」
「えぇ……」
変なところで話を切られたので続きは、と訊ねればない、と返ってきた。理由としては凄く弱い。
それを察したのか、まだ続きがあったのか、再び口を開いた。
「……想像しただけで凄く後悔したんです。現実に起きてしまえば俺は死ぬほど後悔する」
「――――だから『かもしれない』方に行ったの?」
「……はい」
「そっか」
本当に、本当に単純な理由だ。分かってしまえばあまりにも単純過ぎる理由に笑みが溢れた。そして噛み締めるようにもう一度呟いた。
「そっかぁ……」
行けば死ぬかもしれないけど、行かなかったら死ぬほど後悔する。どっちにせよ死ぬような苦しみは味わってしまう。
だからこいつは選んだ。まだ助かる可能性がある方へと。かもしれない方へと。
「君さぁ、よく馬鹿って言われない?」
「…………言われた事はありませんが、自覚はしています」
また嘘は言っていない。本当に誰にも言われた事がないんだろう。でも間違いなくこいつは馬鹿だ。しかも私が知っている中でもトップクラスの。
「ごめんね。でも私は君みたいな馬鹿、好きだよ」
馬鹿は嫌いだ。それは今でも変わらない。そいつらが私の夢を利用したんだから当然だ。でも世の中にはこんな馬鹿もいるんだね。
何となくだけど、あの子がこいつを気に入った理由が分かった気がする。
「…………ありがとう、ございます?」
「うんうん、今のは褒め言葉だからね。素直に受け取っていいよ」
「……そうですか」
首を傾げて戸惑いながらもお礼を言ってくる彼を見ていると、この世界も捨てたもんじゃないと思えてくる。
史上初ではないんだろうけど、それでもある意味でISのあるべき姿を見せてくれた彼に感謝しよう。
「君はISをそういう風に使うんだね」
「……本当はただ飛んでいたいだけなんですが……」
「へ……?」
「……ん?」
思わず間抜けな声が出た。時間が止まったと言ってもいい。それぐらいあっさりと、そして衝撃的な事が彼の口から飛び出た。
ただ飛んでいたいだけ。とてもISを兵器として見ている人間が言う台詞ではなかった。
「き、君にとってISはなんなのかな?」
歓喜に打ち震える私はその喜びを必死に抑えながら何とか絞り出した。
糠喜びになるかもしれない。だからまだ待て。そう頭の中で叫びながら。
最初の紹介で私が開発者だというのは彼も知っている。なのにそんな事を聞いてくるのが解せないのか、また不思議そうに首を傾げながら彼はこう答えた。
「…………翼なのでは?」
「つ、翼?」
「……人を宇宙へと、空へと羽ばたかせてくれるものでは?」
翼。そう答えた彼の言葉の虚偽を確かめるべく、頭のウサギ耳を見るけど動く気配はない。
嘘じゃ……いや、もしかしたら故障しているだけなのかも。
「な、何か嘘言ってみて」
「……今日も平和でした……?」
反応した。壊れてはいない。つまり目の前にいるこの子は私の夢の理解者になる。ISを兵器としてではなく、私が名前に込めた願い通りに受け止めて。
世界の何処にもいないと思っていた理解者がこんなところにいたんだ。そうと分かれば早かった。
「ねぇねぇ、君の名前は!?」
「……さ、櫻井春人です」
詰め寄って名前を訊ねる。漸く見つけた理解者だ。興奮している私に彼も戸惑っているようだけど、気にしていられない。名前なんて私が調べれば十秒も掛からないけど、直接彼の口から聞きたかった。
「櫻井春人……櫻井春人……櫻井春人……」
目を瞑って彼の名前を口にする度に胸が暖かくなっていく。それが心地好くて何度も口にした。何度も。何度も。
「じゃあ春人だからはるくんだ! はるくん、はるくん!」
「っ!」
「? 何ではるくん今ガッツポーズ取ったの?」
「…………何でだろう」
幾度か繰り返してから私の中で決まった呼び方で呼ぶと、何でか彼は怪我をしていない左手でガッツポーズを取った。それについて問い掛けてもただ左手をぼんやり眺めるだけ。
自分の事なのに分からないなんて変なの。それよりはるくんとあの子の方が気になるからいいや!
「ねぇねぇ、はるくんのIS見せて!」
「……どうぞ」
包帯やら袖やらで隠れていた待機状態である黒いブレスレットが僅かに覗いた。そこへ私の移動式ラボから出たコードがところ狭しと次々に刺さる。
さすがに怪我をしている状態で展開しろなんて口が裂けても言えない。
「へー……ふーん……」
すると色々と見えてきた。はるくんのISはパワーアシストを使ってその異常とも言える身体能力を抑え込んでいる事、何故そうしているのかも。
三割にまで抑えて更に重りの装甲付けて漸く他の人と同じくらいってかなり凄いけど……。
「はるくん、このISじゃ窮屈じゃない?」
「……まぁ、しょうがないです」
「むぅ……。あと何で近接武装しかないの?」
「……それは織斑先生からの指示です」
「ちーちゃんの!?」
「…………ちーちゃん?」
はるくんがちーちゃんという呼び方が気になっているみたいだけど、それどころじゃなかった。
むむむ……! あのちーちゃんがはるくんの装備に口出ししてくるなんて……まさかまさか箒ちゃんだけじゃなくて、ちーちゃんも?
「はるくんの女誑し!」
「…………何かすみません」
そう言うとはるくんは素直に頭を下げて謝ってきた。我ながら物凄く理不尽だと思う。
それにしても私は追われる身なので直ぐにははるくんの側にいられない。くーちゃんもいるしね。
でもその間にも箒ちゃんやちーちゃんは側にいてアピール出来ちゃう。ず、ずるい。
「そうだ! たしか持ってきてたはず……あった!」
「……?」
負けていられないと宙に浮かぶキーボードを操作してはるくんのISにある武装がインストールされていく。
兵器ではなく、翼として見てくれる彼には必要ないものかもしれないけど備えあれば憂いなしって言うもんね。
「はるくん、武装見てみて!」
「……黄金の、弓?」
「そう! これは束さん特製の遠距離射撃武器で『聖弓ウィリアム・テル』、又の名を――――」
「…………ん? えっ?」
はるくんのISにこれまでにはなかった光輝く黄金の弓が武装欄に映し出される。
「『
「あ、ありがとうございます」
「えへへ」
開発中の専用機に搭載する予定だったから今のISじゃ本来の半分ぐらいしか性能出せないけどはるくんが喜んでくれて何より!
さ、さぁここからが本番ですよ……。
「で、でね? 束さんお礼というか、ご褒美欲しいなーなんて……」
「……何か欲しいものがあるんですか?」
「ものというか、えっと……その……」
ご褒美の内容を言い淀んでしまう。どんな反応されるか分からないから。
でもこれははるくんの近くにいられない私へのご褒美だ。ちゃんと言わないと。
「ギュってしても、抱き締めてもらってもいいですか……?」
「…………」
い、言ったはいいけど緊張しすぎて思わず敬語になっちゃった。はるくんはそう来るとは思ってなかったのか、頭抱えてるし。
これはダメなのかな? ダメ、なのかな……?
「ダメ……ですか……?」
「ダメじゃないです」
「っ! う、うん!」
目尻に涙を浮かべながら訊けば即座に大丈夫だって言われた。私は意気揚々とはるくんの左側へ向かう。腕が折れてない左側へと。
「し、失礼します」
「…………はい」
はるくんに再度確認してから恐る恐る手を伸ばす。乗り掛かって軋むベッドの音が良く聞こえた。
音が出ないように優しく、柔らかく抱き付けば空いている左手で私の腰を抱き寄せてくれた。優しく、でも力強く。
「……これでいいですか?」
「うん……」
直ぐ側から聞こえてくる声に耳を傾けつつ、五感全てではるくんを覚えていく。匂いも、暖かさも、感触も、声も何もかも。
「はるくん……」
「……何ですか?」
「えへへ、はるくんの声が聞きたかったんだぁ……」
「…………そうですか」
言いながら頬と頬を擦り寄せればまた幸せな気持ちになる。身体をもっと密着させれば鼓動も感じられた。
最初はそれだけで良かったのに足りない。もっと、もっとと欲が出てくる。湧き出る欲に従って動くと、気付けばはるくんを押し倒していた。それでも私の熱は止まらない。熱に浮かされるまま名前を呼んでいた。
「…………あ、あの?」
「はるくん、はるくん、はるく、ぐぇっ」
「学園で何をする気だ、この馬鹿は」
あともう少しというところでちーちゃんに首根っこ掴まれて引き剥がされてしまった。
めくるめく大人の世界が……。残念だけど次回に持ち越しだね。
もう帰ろうとした私はふと用事を思い出して振り返った。
「はるくん!」
「……何ですか?」
「はるくんに専用機あげるね! はるくんが枷なんか付けなくても、この空を思いっきり飛べるような凄いの!」
「……それは……」
元々この世界への皮肉で付けた名前だったけど、ちょうどはるくんに合うしね。もう少し改造すればはるくんの身体能力にも耐えられるはず。
「おい、束。そんな事をすればこいつは――――」
「ちーちゃんも分かってるでしょ? はるくんはそんな子じゃないって」
「まぁ……な」
「……?」
ちーちゃんが何を思って枷を付けているかなんて分かってる。だから本当は五割でも良いところを三割まで抑えてるんだ。
でもはるくんはそんな子じゃない。そこら辺はちーちゃんの方が分かってると思うけど。
「だからはるくんも遠慮しないでいいんだよ!」
そこまで言うとまた少し考えてはるくんは答えを出した。
「……すみません、お願いします」
「えへへ、お願いされました!」
これはこの子に空を飛んで欲しいというだけじゃなく、贖罪と感謝も兼ねている。
よく知ろうともしないで消そうとしてしまった事への贖罪と、まだこの世界は捨てたもんじゃないと教えてくれた事への。
きっとこの子なら、この世界を壊すために作ったISも正しく使ってくれるはずだ。
色々間違えたけど、もう間違えたりしない。世界の何処かにも理解者がいるんだと思うと正しい使い方を宣伝しなくちゃね。
さぁ、頑張るぞー!
次回はこの翌日のお話です。
こんな日常になりましたってのを二話ぐらいやる予定です。