IS学園での物語 作:トッポの人
今、あなたの心に直接呼び掛けています……。
きっと人気になるであろう作品のタイトルを思い付きました……これで書くのです……。
タイトルは『布仏本音は天使である』です……。
間違っても鬱展開をやってはいけませんよ……。
翌日、朝早くに目を覚ました俺はぼんやりとしたままの頭で辺りを見渡す。
見慣れない部屋に僅かの間だけどういう事かと頭を悩ませるが、直ぐに寮部屋だと思い出した。
「……さて」
首を二、三度鳴らして日課のトレーニングでもしようとしたところでもう一つ、重要な事実を思い出した。
そう、この部屋に住んでいるのは俺だけではないという事を。同居人が寝ているであろう、ベッドへ視線を向けると――――
「すー……すー……」
静かに寝息を立てて眠る天使がいた。その光景は思わず時間を忘れて見てしまうほど。
あれだ。これはマクギリスが見たらやたら得意気な顔であれは天使だ。って言っちゃうくらい天使だ。断言出来る。
寝顔が天使に加えて夜遅くまで何かをやっていた更識を自分の都合で起こすのは忍びない。
そう判断した俺は静かに着替えると、やはり静かに部屋を出た。
とりあえず十㎞程度走ったところで人目につかなそうな森を見つけた俺はそこへ入っていく。
「……よし」
辺りを見渡して周囲に人がいない事を確認してから見よう見まねで空手の型のように構える。言ってしまえば悪い意味での適当にだ。
「すぁあっ!!」
右の正拳から始まるこれまた適当な乱打は風を巻き起こし、周りの草や枝を揺らす。
うん、身体の調子は良さそうだ。思った通りに動けてる。さて、ちょっと技でも行こうか。
乱打を一度止めると深呼吸を一つ。
心も身体も落ち着いたところで再び乱打が始まる。しかし、今度は手順が決まっているのだ。
「ふっ!」
鉤突き、肘打ち、両手突き、手刀、貫手、下段回し蹴り、中段回し蹴り、下段足刀、踏み砕き、上段足刀! 以降、それの無限ループ!
その名も煉獄。れ、ん、ご、く!
七種類ある連撃パターンの二つを選んでやってみた。先程までの適当な乱打と違って、何をすべきか分かっている分、速度も多分威力もこちらが上だ。威力は誰かにやった事ないから分かんないけど。
これまでこのパターンのみを重点に練習した賜物か、流れがスムーズになっている気がする。そろそろ他のパターンを練習してみるのもいいかもしれない。
「……そろそろ戻るか」
さて、気付けばもういい時間になっている訳で。そろそろ戻って準備しないと遅刻する可能性もある。
本当はガーベルコマンドーのソニックフィストの練習とかもしてみたかったのだが、出来る訳ないしいいか。
「……ん」
「いったぁ……!」
帰り道をまた走っていると道端で踞る女子がいた。右足を抑えているところを見るとどうやら怪我をしたらしい。
ていうかあの子はたしかクラスの女子だったはず。自己紹介を聞いてなかったから名前は分からないが、間違いない。
「……大丈夫か?」
「えっ、うひゃあ!?」
心配して声を掛ければ、俺の顔を見るなり痛みで引きつっていた顔が恐怖で引きつる。そして俺から逃げようと後退る。
彼女からすれば俺は追い掛けてきたジェイソンか何かなんだろう。
うん、まぁこれくらいは予想通りだから平気だ。最悪、絶叫されると思ってたがそんな事もなかったぜ。変な声は上げられたけど。
「……立てるのか?」
「ごめんなさい、ごめんなさい、どうか命だけは……えっ? あ、た、多分……」
命乞いしてたクラスメイトは極々当たり前な内容の質問に戸惑いつつも答えた。拍子抜けしたと言ってもいいのかもしれない。
こんなに呆けられるんなら俺も空気を読んで、
「知らないのか? 大魔王からは逃げられない」
とでも言った方が良かっただろうか。
……うん、確実に泣き叫ぶ事になるだろうな。言わないで良かった。
「……そうか。ん」
「えっ、えっ?」
差し伸べた手と俺の顔を交互に見てどういう事なのかと訊ねてくるクラスメイト。
恐らく織斑辺りがやればすんなり分かるのだろうが、やっているのが俺なので非常に分かりにくいようだ。
「……立ちにくいだろう。手を貸す」
「……あっ。ああ、うん」
漸く差し伸べた手の意図を理解したようで、俺の手を掴むとそれを支えに立ち上がらせる。
怪我をしている右足を地面に着けないようにしているのを見ると相当痛むようだ。このままでは到底一人では帰れそうにない。
帰れたとしても女性は準備に時間が掛かる。遅刻は免れない。
「……大丈夫か?」
「だ、大丈夫だよ。ほら、この通り、っ……!」
心配しなくてもいいと片足でひょこひょこと歩こうとするが、飛び跳ねるだけで痛むのか苦悶の表情を浮かべる。
「ほ、ほらね?」
それでも大丈夫だと女子はやせ我慢して笑顔を浮かべて伝えてくる。大丈夫なのだと。だから手はいらないのだと。
まぁ言いたい事は分かる。誰だって俺みたいなやつの手助けなんか借りたくないはず。
でもだからと言ってここで引き下がって怪我人を放っておくなんて事したくない。
だから――――
「……失礼する」
「へっ? きゃあ!?」
ここから先は俺の我が儘だ。
一応、一言断ってから女子を抱き抱える。
横たわった女子を両手で持ち上げるこの姿は俗に言う、お姫様抱っこ。
女子も俺が何をしたのか次第に分かっていき、羞恥で顔が赤く染まっていく。
「ちょ、降ろして! 恥ずかしいから降ろして!」
「……俺も恥ずかしいから大丈夫だ」
「それ大丈夫じゃないよ!? 早く降ろしてよ!」
「……ちょっとの間だけ我慢してくれ。直ぐに終わらせる」
「えっ?」
そう言うや否や、やや前傾姿勢になると土埃を巻き上げて駆け出した。
向かうは寮にいる医務の先生の元へ最速で。大して難しい話でもない。五分以内で着いてやる。
「は、はやっ!? スピード落として、スピード!!」
腕の中にいる女子が騒ぎ立てる。まるでジェットコースターにでも乗っているかのような騒ぎっぷりだ。
俺の服の裾を握り締めているのを見るとかなり怖いらしい。ようは安全バーのないジェットコースターに乗っているのだから当然か。
「……俺はこう思っている――――」
「急に何!? それよりもスピード落とすか、降ろしてよ!」
「凄いのは月刊漫画家よりも週刊漫画家、週刊漫画家よりも日刊漫画家だと」
「何の話してるの!?」
速さの話だよ! 受け売りだけども!
行こうぜ、スピードの向こう側によって感じで要望とは逆に速度を上げていく。ただし、ちゃんと周囲の安全を確認しながらだ。
誰かとぶつかったりして
その甲斐あってか、誰かとぶつかるどころか誰とも出会う事なく寮の医務室へ辿り着いた。
「んー、いい天気ねぇ」
「……すみません。怪我人です」
「ほ、ほぇぇ……」
「えっ、何この状況」
医務室へ入るなり、日の光を浴びていた先生に突っ込まれるのも仕方ない。
速さに目を回したお姫様抱っこされている女子に目付きの悪い男。完全に事案発生である。
「まぁいいわ。こっちに寝かせて」
「……はい」
だが先生は見てみぬふりをしてくれた。その心遣いは非常にありがたい。
言われた通りにベッドの上に寝かせると早速触診で怪我の箇所を調べていく。未だに女子は目を回したままなので聞くに聞けないからだ。
「いっ……!」
「うん、捻挫ね。バケツにいっぱいの氷と水入れてきて」
「……はい」
雑用は任せろー。バリバリ。
今度はバケツを持って食堂まで氷を貰ってくる。行き帰りで怪しいと色んな人に見られていたが、気にしないでいよう。
持ってきた氷水のバケツに患部を浸けてから少ししてだった。
「っ……!」
それまで呆けていた女子が鋭い目付きで俺の顔を睨み付けてくる。その瞳には激しい怒りが渦巻いていた。
さて、何と言われるだろうか。何にせよ、文句は言われなれてるし別に構わないが。
「あのねぇ! こっちがゆっくりって言ったらゆっくり運んでよ!」
「えっ」
「あら?」
「すっごく怖かったんだよ!? あれ人が出していい速度じゃないからね!?」
「す、すまない」
お、おお……そこか。怒りポイントはそこだったのか。もっと根本的な話をされるのかと思っていたがそうではなかったらしい。
静かに怒られるのを想定していたのでこの怒り方は意外だ。思わず平謝り。
なるほど、女子はあんな速度で走れないのか。知らなかったぜ。これも日頃から鍛えている成果か。
しかし、俺の言い分も聞いてほしい。
「……だ、だが急がなければ遅刻してた」
「それよりも身の安全だよ!」
「は、はい、すみません」
いや、アレでも凄く気使ってたんですけど。
多分聞き入れてくれないだろうな。言うのやめておこう。
その後も怒られ続けて気付けば俺は正座で聞かされている状態に。自然とこういう体勢になっていた。
やがて一頻り言いたい事を言い終えたのか、溜め息一つ吐いて――――
「でも、ありがとうね」
先程までの怒りがまるで嘘のように笑顔でそう言ってくれた。
「……えっ?」
「何で意外そうにしてるの。そりゃいっぱい文句言ったけど、それでも櫻井くんがここまで運んでくれたでしょ。お礼を言うのは当然じゃない」
「…………そうか」
「???」
そうか。あれはお礼を言われるような事だったのか。知らなかったぜ。
一人頻りに頷いて納得している俺を不思議そうに見ていたが、女子は吹き出して話を続けた。
「それにしても私、櫻井くんの事誤解してたみたい」
「……誤解?」
「うん。櫻井くんが凄く怖い人だって思ってた」
まぁ近所の子供からはラスボス扱いされてたからな。わりとガチな感じで。何度討伐されかかった事か。
大体ピンチになったら瘴気って言って砂埃巻き上げて逃げてたけど。
「でもね、私が文句言っても素直に聞いてくれるところとか、助けてくれたりとか見てたら違うんだなって分かったの。色々変な事言ってごめんね」
「……気にするな。俺は気にしない」
「私が気にするのっ」
「……むぅ」
笑顔から一転、今度はむすっとした顔で言ってくる。良く表情が変わるやつだなと思う。何となく布仏を思い出した。
しかし、困った事にそう言われても俺にはどうすればいいか分からない。こんな事が初めてだからだ。
ない知恵を搾って必死に頭を働かせていると、目の前に手を差し出される。
「握手しよ。それで終わり」
「……分かった」
「これからよろしくね」
「……ああ」
小さな手に触れると暖かさが伝わってきた。
初めてしたが、握手っていいものだなと思えた。
午前中の授業も終えてお昼時。そう、昼食だ。一日の中で俺が最も輝く瞬間である。
昨日と同じく行列をスルーして、おばちゃんにやはり山盛りの定食を受け取ったら後は場所取り。向かうは昨日見つけた影薄く食べられる場所。
ちなみに昨日一緒に食べようと言ってきた織斑と箒は二人でイチャコラしてたから置いてきた。お腹空いてたから仕方ないねん。
まぁ二人仲良くしてねといったところで目的地はもう目の前。
「あっ……」
「……ん」
グレート、目と目が合っちまったぜ……。
目的地に辿り着けばそこには既に同居人である更識が座っている。ちょうど座っていた場所が柱で死角になっていたから気付かなかった。
「どうしたの……?」
「……いや」
どうしたものかと立ち尽くしていれば向こうから当然のように訊ねられる。
いや、更識は恐らく答えは分かっているのだろう。俺もここで食べたかったのだと。
くそっ、まさか先客がいるとは。そういえば更識も俺と同じ孤高の匂いがするのを忘れていた。とすれば、この場所を知らないはずがなかった訳で。ど、どうしよう。
「一緒に食べる……?」
「……いいのか?」
「別にいい……」
まさかの提案に思わず食い付いてしまったが、本当に良いらしい。怯えとかそういうのが一切含まれていないからだ。そこら辺は見慣れてるからさすがに分かる。
更識はダウナーだけどやはり天使だったのだ。
「……失礼する」
「うん……」
短く言葉を交わして対面に座る。やはりいいよと言ったが、緊張しているらしくお互い無言の時間が続く。これは厳しい。
更識は話題を探しているのか、目が泳いでいる。かくいう俺もあらぬ方向を見ている時点でお察しだ。
「あっ……」
そこで初めて俺の持ってきた定食を見たのだろう、山盛りのご飯を見て少し驚いていた。
「いっぱい食べるんだ……」
「……食べきれない事もないが、別にこんなに食べなくてもいい」
「じゃあ何で……?」
「……無理矢理大盛りにされる」
「そうなんだ……」
終わっちゃったよ! せっかく天使が会話の切っ掛け作ってくれたのに全然生かせなかったよ!
内心冷や汗だらだらの俺の目に更識の食べているものが映る。やたら大きな器にいっぱい入ったうどんとかき揚げ。正直、女子が食べるには多すぎる。
辺りを見渡してもそうだ。こんなに大きな器は更識以外誰も持っていない。
「……更識も多いな」
「む、無理矢理大盛りに……」
「……そうか」
「ふふっ」
「ふっ」
そうだった。元気がないんだからと俺は大盛りにされたんだ。失礼だがそれは更識にも当てはまる。要するに似た者同士なんだ。
それに気付いたら二人とも小さく笑みが溢れた。何を緊張していたんだろうか。
大丈夫。この子とならこれからもやっていける。そう確信した昼だった。
とりあえず遅れてすみません。
お仕事ががが……なものでやっぱり不定期になります。
一応は前回の予定を目安にやっていくつもりですのでよろしくです。