On your mark   作:夜紅

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お久しぶりです!感想ありがとうございます(*_ _)返信はできませんが、更新する際は全部読ませていただいています。お気に入り増えてて、こんなに多くの人が見ているのだと思うと更新ボタン押す手が緊張で震えています。

遅くなったうえに内容短いです。
随分間が空いてしまいましたので、もう忘れられてるかもしれませんね(・_・;)春休みが終わってしまうと国家試験まで更新できないので、なんとか完結させたいところです。ゆっくり書く時間が欲しいなあ。

囲碁知識は皆無なので対局シーンはどうか目を瞑ってくださいね。

あかりちゃんは今日も可愛い



sai vs 緒方

対局開始からしばらく時間が過ぎた。形勢はsaiに傾きつつある。

「まだだ」

緒方は勝負手を打った。上辺で稼いでおいて、右辺の黒一団はシノギ勝負にかけたのである。失敗してしまえば後がないのだが、この場合はリスクを取らないのが最大のリスクだと判断した。一手が重い。画面の向こうにも関わらず、相手を凌駕する雰囲気。ゴクリと唾を飲み込んだ。

(まるで、塔矢先生と打っているようだ)

これほどの打ち手が、どうして今まで表に出ていなかったのだろうか。どんな人物なのか。今までにどのくらい碁を打ってきたのか。知りたい疑問が次々とわいてくる。実際に対局していると、棋譜で見た以上の力を感じる。形勢はまだ悪くないのだが、勝てる気がしない。こちらは必死で食らいつこうとしているというのに、相手にはどこかまだ余裕があるのを感じる。本気を引き出せないのは悔しい。しかし、不思議と楽しい気持ちのほうが勝っている。もっと打ちたい。そう思わせてくれる相手に会ったのは久しぶりだった。盤面は段々と複雑な戦いになってくる。

 

「やっぱり緒方さんと打つのは楽しいなあ」

ヒカルは愉悦の色を目に浮かべて打っていた。

「でも、やっぱりまだ足りない」

緒方は今のままでも十分強い。しかしまだ伸び代がある。ヒカルは、ここから更に強くなった緒方を知っている。何が足りないのかはうまく言葉にできないものの、どこか物足りなく感じてしまう。

「今のままでも十分楽しいけど、また強くなった緒方さんと打ちたいな」

こちらに形勢が傾いてきているが、最後まで手を緩めるつもりは無い。ヒカルは終局への一手を放った。

 

「…さすがだ」

悪手だと思っていた一手がここで最善の一手になった。思わずため息が漏れる。一体どこまで先が見えているのだろうか。手品を見ているような感覚に陥る。一気に形勢はsaiが有利になった。脳内に、今後予想される流れをいくつも描くが、ここに打たれてしまえば勝つのは不可能だろう。

(叶うなら、もう一度)

そう願いながら、緒方は投了のボタンを押した。

 

三日後、緒方は研究会に来ていた。今日は緒方、行洋、アキラの3人である。

「先生、アキラくん、saiをご存知ですか?」

「sai?」

「ええ。ネット碁に強い打ち手がいると聞いて、興味本位で対局を申し込みました」

そう言って緒方は封筒を差し出す。

「これが、その棋譜です」

「――‼」

緒方はプロだ。そして、次期タイトルホルダー最有力候補と目されている若手棋士である。決して弱いわけではない。にもかかわらず、中押し負けをしていたのだ。

「saiとは?」

「正体不明の棋士です。ネット上では様々な噂が流れています。思い当たるプロ棋士はいませんので、プロでないのは確かです」

一瞬、行洋の頭に浮かんだのはいつかアキラと対局したという二人の子どもだった。しかし、子どもに打てる碁ではない、とすぐにその考えは消した。

 

はじめて見る人物の棋譜のはずなのに、アキラはどこかで見たことがあるような気がした。吸い込まれるようにその棋譜を見つめる。

(ボクは、saiを知っている―?)

「アキラ君?」

アキラは緒方に声をかけられて我に返った。

「どうかしたのかい?」

顔をあげると、不思議そうにこちらを見つめる緒方と目が合った。

「…いえ、なんでもありません」

やましいことは何もしていないが、なぜだか目を反らしてしまった。saiのことが、喉に刺さった魚の小骨のように引っかかる。saiと一局打てば、何か分かるだろうか。この違和感がなくなるだろうか。

「緒方さん、ネット碁について教えてください」

 

その日の夕方。風呂から上がったあかりは、自分の携帯に一通のメールが届いているのに気づいた。

「明日美さん?」

どうやら奈瀬からのようである。あの後すっかり仲良くなり、連絡先を交換したのだ。

「緒方先生がsaiに負けた…ってヒカルじゃない!」

緒方のことはもちろんあかりも知っている。最近注目されている棋士だ。今の自分にはとても太刀打ちできないだろう。ヒカルの本当の強さを知らないまま過ごしてきたが、今日それが分かるかもしれない。ヒカルはどんな碁を打ったのだろう。明日になるのが待っていられなくて、急いでドライヤーで髪を乾かした後、ヒカルの家へ向かった。

 

ヒカルの家のインターホンを鳴らす。

「あらあかりちゃん、どうしたの?」

出てきたのはヒカルの母、美津子だった。

「こんばんは!あの、ヒカルいますか?」

「ヒカルなら今、自分の部屋にいると思うわ。上がっていく?」

「はい!」

階段を上がり、ノックをした。ヒカルがドアを開ける。

「あれ、あかり?」

予想外の訪問者に、ヒカルは少々驚いたようだが構っていられない。

「ねえヒカル、緒方先生と打ったの?」

ヒカルの動きがピシッと固まるのが見えた。

「棋譜が見たいな」

キラキラした瞳で真っ直ぐ見つめられると、ヒカルは困ってしまう。あかりのこの目には、どうも弱いのだ。本人は無自覚なのだから恐ろしい。小さく息を吐き、返事をした。

「いいけど、どこでそんな情報仕入れたんだ?」

「明日美さんっていって…院生の人で、今日仲良くなったの」

懐かしい名前に、思わず反応しそうになるが、努めて平静を装う。おそらく和谷あたりが先に気づいたのだろう。小さく息をつき、碁盤を用意する。

「あかり、そっちに座ってくれ」

棋譜並べをしながら、また少し遠くなった“過去”に思いを馳せる。和谷をはじめとした院生仲間と会うことはないと考えると、少し寂しい。そんな気持ちがじわじわと湧いてきたが、そっと蓋をした。

 


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