今回も好き勝手に書いています。いつも感想欄が優しくて安心します。返信は出来ませんが、全て読ませて頂いています。
本戦開始後から、あかりはアキラと同様に連勝し続けていた。今日の相手は和谷。和谷は同じ夢を追いかける仲間だが、同時にライバルでもある。負けられない。
「藤崎!分かっていると思うが、手加減はなしだぞ」
「もちろん!お互い全力で」
院生に入ったころから感じていたが、あかりは強い。和谷から見て、最近は更に調子が良さそうな印象を受けていたが。
(ここまで力を付けているなんて)
じわじわと真綿で首を絞められていくようだ。形勢は白のあかりへ傾き苦しくなる。
(楽しい!)
あかりに引っ張られて、自分の棋力も底上げされていくようだ。普段以上の力を出せている気がする。黒の生きる道が見つからなくなるまで、夢中になっていた。
和谷が投了し、対局終了の挨拶をして和谷は先に部屋を出る。
(嬉しいはずなのに、なんか嫌だなあ)
仲間を蹴落として先へ進むのは、あまり気分の良いものではなかった。
「またな、藤崎」
複雑な表情のあかりに対して、和谷は蟠りなど一切感じさせず笑顔で去っていった。そんな和谷に少し救われたが、小骨が喉に引っ掛かったような感覚は残ったままだった。
今日もやってしまった。緩手だ。相手に主導権を与えたことで、負けてしまった。普段ならしないミスと、勝てただろう相手。家に向かう足取りが重い。あの日からどうやらスランプへ陥ってしまったようで、あかりはあれから3連敗。
(ヒカルに、合わせる顔がない)
足を引きずるようにしてなんとか家に着く。毎日のようにヒカルが指導をしてくれるが、当然そんな精神状態で身が入るはずもなかった。
「…今日はここで止めにしよう。ここ最近、集中出来てないぞ。何かあったのか?」
あかりの不調をヒカルはとっくに見抜いていた。気が付いていて、今まで知らないふりをしてくれていた。3連敗目の今日は、相当酷い顔をしていたのだろう。
「なんでも、ないの」
ヒカルが寂しさと心配が混ざった顔をする。
(違う、そんな顔をさせたいわけじゃない)
苦しいなら、吐いてしまえばいいのに。意地っ張りな自分が邪魔をする。
しばらく続いた沈黙を破ったのは、ヒカルだった。
「あかり、今夜は花火を見に行こう。近くの河川敷であるみたいだ」
「…行かない」
またあかりの中の天邪鬼が邪魔をする。
「俺が見たいんだ。あかりと。頼むよ」
珍しくお願いされた。ヒカルは狡い。こういう時、大人だと感じる。自分が幼いと感じる。あかりの感情に聡いのは、将来の自分と一緒にいたからだろうか。大人だからだろうか。
「…しょうがないなあ」
あかりの返事に、ヒカルの顔が柔らかく綻ぶ。本当に嬉しそうな笑顔に、悩んでいたことが馬鹿らしくなった。
「ありがとう。この後迎えに来るから、準備出来た時に電話して」
そう言い残し、ヒカルは部屋を出て行った。
あまり人が多いところには出かけたがらないヒカルが、花火大会に誘ってくれた。数年間は碁にどっぷり漬かっている生活だったので、2人きりで行くのは初めてである。冷静になってきた途端、恥ずかしくなってきた。
(ヒカルと、2人っきりで花火大会?)
クーラーをつけているのに、体も顔も熱い。しかし時間は待ってくれない。指導中も2人きりのことが多いが、それとこれとは別だ。
(こうしちゃいられないわ)
あかりは浴衣を引っ張り出し、着付けをしてもらいに母のもとへ向かった。選んだのは、白地に深紅の牡丹が描かれた浴衣と同じく深紅の帯。
「お待たせ。行こうか」
ヒカルが身に着けていたのは、濃紺地に細かく縞模様の入った浴衣に白帯。手に持っているのは扇子。着こなしも仕草も、凛として様になっている。なんだか悔しい。
「ヒカル、もしかして和服は着慣れてるの?」
「ああ、和服で対局する機会も多かったからかな」
それから、と恥ずかしそうに付け加えた。
「自分でも着られたら良いのにっていう独り言を聞かれててさ。塔矢が教えてくれたんだ」
「それは…厳しそうね」
「そりゃあもう。ちょっと後悔した」
うんざりした顔のヒカルが可笑しくて、思わず噴き出した。
「…やっと笑ってくれた。悩んでいる理由は無理に言わなくてもいいからさ、もっと頼ってほしい」
ヒカルの顔が綻んだ。頑張っていた自分が全部崩れていく。ハンカチで涙を優しく拭われた。
「あかりが1人で辛い思いしてると、オレも辛いよ」
ヒカルのほうが辛そうな顔をしていた。胸がキュッと締め付けられる。自分が思っていたよりも心配をかけていたらしい。
「ごめ…ううん、ありがとう」
「いいえ。あかりはやっぱ笑ってたほうがいいな。後、浴衣も似合ってて可愛い」
「へっ!?」
ストレートな誉め言葉に、間抜けな声が出てしまった。
「行こうか。花火の時間まで、屋台を見て回ろう」
「ちょっと待ってよ!」
照れる間もなく、手を引いて歩くヒカルにされるがままになっていた。
あれからいろいろな屋台を回っている間に、打ち上げの時間になった。夜空に大輪の花が咲いては、一瞬で散っていく。次の花火が打ちあがるまでの間、再び闇夜と静寂に包まれる。ヒカルと2人だけの世界になったように感じられた。夜が暗くて良かった。真っ赤な顔も、落ち着かない様子も、見られなくて済むから。
(ずっとこんな夜が続けばいいのに)
こんなにも明けてしまうのが惜しい夜は、初めてだった。
和服の進藤プロに夢を見ています。本編からズレるの分かっているのですが、ヒカあかの甘い話がもっと見たいし書きたい!