第三宝具の能力も予想と違いましたしね。
これは担い手の差だと思ってください。
降り積もる雪が覆う世界は、吐く息すらも白色に染める。
剥き出しの指先は無駄な力を一切排除されている。
呼吸をターゲットに合わせじっと待つ。
その境地は遥か東方の名も無き剣士にすら迫る。
そこまでしなければ仕留められない獲物。
ケワタガモ。
上質の毛皮を持つ、この地域に住む怪鳥。
その資源を最大限活かすためには、狙い所は限られる。
その血で羽を汚さずかつ行動不能にしなければならない。
それも驚異的な警戒心を持つこの鳥は自然外のモノに敏感に反応する。
故に、毛皮を目的とした時のケワタガモの捕獲難易度は燕を剣で切る程の超絶技巧なのである。
自身の気配を完全に遮断し、獲物とのシンクロ率を高める技能。
頭が、羽を汚さぬ角度に来た瞬間を逃さずに一発で仕留める速さと正確性。
そして、なによりその時が訪れるのを待つ精神力を持たなければこの奇跡は成り立たない。
不意に、軽い音が響いた。
■■・■■■は素早く、絶命したケワタガモに近寄り慣れた手つきで後処理を終える。
後に彼は語ったという。
「コイツに比べれば人間などデカイだけで、飛べもしない、警戒心も足りない。血の詰まった的に過ぎない」
と。
────────────────────────────
「不味いことになったなマスター」
ヴィクトリアが目覚めると同時に。アーチャーがそう言った。
落ち着き払った声ではあるが、そこに僅かな動揺が混ざってることは何となく分かった。
「何があったっての?」
先程まで見ていた夢を意識から追いやり、聖杯戦争へと切り替える。
「バーサーカーの根城から、奴らの痕跡が消えた。跡形もなくな」
「? 何言ってるのアーチャー、バーサーカーのマスターはアンタが射殺したんでしょ? だったらバーサーカーもとっくに消滅してるんだから当たり前でしょ」
何を言いたいのか分からないという風に首を傾げる。
「あの場でバーサーカーが消滅したというのなら、誰が工房を整理するというのだ、立つ鳥跡を濁さずではあるまい」
「…………」
そのアーチャーの言葉にヴィクトリアは思考を加速させる。
「考えられる可能性は二つね。一つはバーサーカーが新たなマスターと契約を交わした可能性。もう一つは……」
言葉に詰まる。
それは即ちこの英霊の否定にも繋がる結論。
その気持ちを汲み取ったアーチャーは自ら続きを口する。
「何らかの理由で狙撃が外れたか、或いは当たりはしても致命には至らなかったか」
「そ、そうね恐らくその二つのどちらかだと思う。そして把握している限りマスター側の空きはない。バーサーカーのマスターがまだ生き残っているって説の方が有力ね」
だとすれば不味い。
ようやくアーチャーの一言目の意味を理解する。
言うならば、バーサーカー達は今まで王者の様な戦い方を行ってきた。
二対一の不利を無視できる程の実力があるのだから正面から潰しにかかるのは間違いではない。
しかしそれは即ちマスターの護衛に割く意識が薄れるということ。
その隙を付く形でマスターを狙ったアーチャー達。
それは恐らく最悪の結果となった。
「つまり、バーサーカー陣営はアタシ達を排除するまで雲隠れする腹積もりってわけ」
もしくは闇討ちの機会を待つと言ったところか。
こちらが先に仕掛けたこと故に文句は言えまい。
「緊急性が増したわアーチャー! スグにでもセイバーとライダーと交渉を始めるわ、彼等の居場所は?」
「勿論把握している。しかしマスター。レディならその寝癖を直してからの方がいいだろうな」
狙う側から狙われる側になったと言うのに余裕を持った態度のアーチャーはそう笑った。
感想、ダメだしお待ちしております。