俺の名前はマーン・K・グロニクル。ひどい名前だと我ながら思う。俺を転生させた神様がいるのならどうしてこの名前にしたのか問いただしたい。
さて、俺は転生者だ。目覚めると見知らぬ森の中にいた俺は意識が覚醒したと同時に、このひどい名前とともに様々な情報が頭の中に流れ込んできた。
そこで得た情報から俺はこの世界が漫画『FAIRY TAIL』の世界だということに気付いた。『FAIRY TAIL』……読んではいたが途中で読むのをやめた記憶がある。確かエルザがエロかったり、アクノロギアとかいう黒いドラゴンがヤバい!みたいな感じだった気がする。
兎にも角にもいわゆる異世界転生を果たしたわけで、その定番といえばあれだ。俺TUEEEEである。
だがその願望の達成は不可能だった。俺が得た情報の中で、異世界転生に付き物の特典らしい魔法はあったのだが、その魔法が問題だった。
「あらゆる女性のスカートをめくる風魔法」、「どんな衣服をも溶かす水魔法(溶かすのは衣服のみ)」、「性的快感を与える雷魔法」……。俺TUEEEEではなく俺YABEEEEである。こんな魔法大っぴらに使えば、無双する前に逮捕待ったなしだ。
俺は激しく絶望した。せっかく異世界転生したのにも関わらずこの仕打ちだ。前世でよほど罰当たりなことでもしたのだろうか。
しばらく打ちひしがれていた俺は、あることを思い出す。この漫画の女の子が、みんな可愛かったことを。
しかも作者の趣味なのか、中々におっぱいの大きい女の子がたくさんいる。
そして与えられた
ここから導き出される答えに、俺は笑わずにはいられなかった。前世では考えられなかったことだ。
しかし今の俺には実行する力がある。
「いいだろう。俺は今日から下衆野郎だ」
俺、マーン・K・グロニクルの決意の瞬間であった。
今はX782年、おそらく原作は始まっていない。
俺は情報を与えられたものの、その情報は一般常識や魔法が主で、今の情勢を知るために近くの町に行った。名前は残念なものになっているが、顔や背格好は『FAIRY TAIL』の標準のもののようで、特に町で怪しまれることはなかった。
町を探索し図書館を見つけた俺は中に入り、過去の新聞を漁って、港がナツによって破壊された事件の記事を探した。港を破壊したのは初回だったから、その記事が見つからなければ原作前。見つかれば原作は既に始まっていることがわかる算段だ。
結果、過去数年分の新聞から件の記事が見つからなかったことから、原作は始まっていないと判断した。俺が見た新聞よりもっと古い年代に起きている可能性もあるが、原作に関わることが異世界転生の醍醐味なのに、乖離する未来にいることはないと踏んだ。その時はその時である。
その後新聞だけでなく、他の文献にも目を通してから図書館を出て再び町をぶらついている。
「おっ、宿発見。しかしながらお金がありません。ったく、ケチだよなあ」
俺はいるかもわからない神様の悪口をぼやいていると、ある人物を発見した。青い髪に小柄な体、『妖精の尻尾』のレビィだ。
レビィ、フルネームはレビィ・マクガーデンだったかな。『シャドウ・ギア』という中二病のような名前のチームの紅一点。魔法は文字魔法だった気がする。
原作で活躍は見られたが、実力は『妖精の尻尾』の中でもそんなに高くない。三人がかりでガジルに敵わなかったからね。
それにしても最初にレビィを見つけられたのはラッキーだ。
将来的にはエルザやミラジェーンのような大物を狙っていきたいが、現時点ではノーだ。魔法が戦闘向けでないこともそうだが、何より俺自身の戦闘経験が皆無なのがマズい。そんな状態で挑めば、歴戦の猛者である彼女たちの前に屈することになるだろう。
ゆえにレビィには俺の経験値兼犠牲者第1号になってもらおう。レビィの他に取り巻きが2名いるが、そいつらも問題はない。
くっくっく、俺に見つかったのが運の尽きだったなあレビィちゅわーん。お前は俺の手で遠くない未来に汚されるのだ!ハッハッハッハッハ!!
森に戻った俺は『シャドウ・ギア』の三人が話していたあるモンスターを探していた。
「一本角バルカン」、「バルカン」と呼ばれるゴリラのようなモンスターの亜種で、普通種との違いは立派な角があることらしい。
レビィは、その一本角バルカンの討伐のために、この地に訪れていた。
なぜ俺が三人のターゲットである一本角バルカンを探しているのかというと、障害になることを危惧したからだ。
バルカンは女好きで有名だが、一本角バルカンはそれ以上で、とにかく性欲がすごい。夜に活動し女性を見つけると襲いかかって、無理やり犯してしまうのだ。
しかも一本角バルカンはタチが悪く、夜に活動するのも夜行性ということではなく、夜になれば人間の視界が鈍ることを知っているためだ。
さらに女性をその場で犯すのではなく、人が来ないような場所に運んだ上で事に及ぶ。
このエロ漫画のキャラクターのような1本角バルカンは実は希少種で、それも町の近くに出るような類のものではない。
しかしその危険性から希少種でありながらも駆除対象であり、駆除すれば高額な報酬が出る。
ここまで聞いてくれればわかると思うが、俺と一本角バルカンは同職だ。
つまりダブルブッキングする可能性がある。俺の初陣をこんなモンスターに邪魔されるわけにはいかない!あと高額な報酬が欲しい!
そんなわけで昼過ぎという、奴の活動時間前から探し始めている。夜に活動するならば昼は寝ているはずだ。寝首を掻くことが出来れば、無駄な戦闘をせずに済む。
「楽勝だな」
かれこれ2時間探していることについては触れないでおく。
探し回るのも飽き始め、『シャドウ・ギア』が弱らせてから、漁夫の利を得るのもいいかなと、考えていた時だった。
俺は一本角バルカンらしきモンスターと『シャドウ・ギア』の面々を発見した。
『シャドウ・ギア』も、おそらく俺と同じように、寝首を掻こうとしたのだろう。戦闘力低いし、しょうがないね。
注目の一本角バルカンはというと、本家バルカンとは違い、体色は黄ばんだ色をしており、特徴として挙げられる立派な角がついていた。
股間に。
「は?」
角ってそういう意味かーい!と、ツッコミたい気持ちを抑えて、一本角バルカンの様子を伺う。角と比喩されるモノは目測で30㎝はある。
あんなので襲われれば間違いなくトラウマだなと思っていると、なんと奴は右手で角の上下運動を始めた。
レビィは恥ずかしさのあまり、顔を真っ赤にして見ないように手で目を覆う。残りの二人もどうすればいいかわからず、困惑している。
一本角バルカンの動きは激しさを増し、その立派な角はさらに大きくなっていた。いつ絶頂に達するかわからない状況に俺も他3人も膠着状態だ。
ここで業を煮やした『シャドウ・ギア』の男2人が一本角バルカンへと向かっていった。
確かに上下運動に集中している今ならチャンスだと思っていた時期が俺にもあった。
瞬殺である。
1本角バルカンは恐ろしい反応速度で2人を殴り飛ばしたのだ。派手に殴り飛ばされた2人は大きく空中に舞い、地面へと落ちて意識を失った。連れの2人がやられてしまい、レビィは動揺している。
一方の一本角バルカンは行為を邪魔され、怒り心頭だ。
あの強さはマズい。一本角バルカンはバルカンよりは強いと聞いてはいたが、ここまでとは予想外だ。戦闘慣れしてない上に、ろくに使えない魔法で戦える相手ではない。
レビィを置いていくことになるが、一度撤退するべきだろうか。
俺が頭を悩ましていると、レビィが一本角バルカンに見つかってしまった。怯えるレビィは抵抗も出来ず、あっさり捕縛されてしまう。
「あ、あぁ……ジェット、ドロイ」
震え声で2人の名前を言うも、気絶している彼らにその声は届かない。一本角バルカンはお構いなしにレビィの服に手をかける。
そしてレビィの服を力任せに破いた。
(ちっぱいきたああああああああああああ!!)
俺は叫びたい衝動を押し留め、レビィの肢体を見る。晒された胸は『FAIRY TAIL』の他のキャラと比較しても控えめだが、女性らしい膨らみがあることは確かだ。
「ギヒヒヒヒ」
一本角バルカンが下卑た笑い声をあげた。レビィのちっぱいに興奮していることがよくわかった。俺も股間が熱くなるのを感じる。
「んっ」
ついに奴はレビィの双丘の突起を弄り始めた。その姿に似合わず、優しく執拗に突起を弄る一本角バルカン。
レビィはなんとか声を押し殺そうとするも、一本角バルカンのテクニックに耐え切れず艶かしい声が漏れる。
「ウホー!勃った!勃った!!」
一本角バルカンの指摘通り、レビィの突起はこれ見よがしに激しく主張していた。
「いや……いや……」
レビィは恐怖と恥ずかしさと悔しさで、思考がぐちゃぐちゃになっている。
モンスターに犯されそうな女の子のシチュエーションはいいなと、邪なことを思いつつ、これからどうするか考える。
レビィを助けるか見捨てるか。正直助ける義理はないのだが、このまま見捨てるのも後味が悪い。
だったらとりあえずやってみてダメだったら逃げよう。
「すっげーエロい。エロいがそこに立つのはお前じゃない。俺だ」
意を決した俺は一本角バルカンの前へと姿を現した。
「ごはっ……」
俺、絶賛サンドバッグなう。
意気揚々と「おい、クソモンスター。彼女を離しな」と、出たまでは良かった。
ボコボコにされるされる。戦闘経験なし・まともな攻撃手段を持たない俺が『シャドウ・ギア』の2人を瞬殺するような奴に、敵うわけがない。
「弱い、弱い。お前雑魚」
「雑魚で悪かったな、こん畜生」
一本角バルカンに煽られて悔しさがこみ上げる。自ら出てきて何もできないのはダサい。
だが敵わないことは事実だ。そろそろ逃げるべきだろうか。
「もう、もうやめて!!」
俺が一方的に殴られ続けているとレビィが声を振り絞り制止を嘆願する。
「私のことはいいから、逃げて!!」
自分がやられるってのに俺みたいな下衆の心配をするなんてレビィちゃんマジ天使。逃げづらくなってしまったけども。
「ウホウホウッホー」
全く傷1つ負っておらず、余裕な一本角バルカン。こいつは確かに強い。
それでもエルザやミラと比べれば雲泥の差だろう。
つまりこいつを倒すことが出来なければスタートラインに立てないに等しい。
「俺には夢があるんだ。ここで逃げるようじゃその夢は叶うことはないだろうね」
俺は闘志を奮い立たせる。全ては初めに誓った野望のために。地面に這いつくばってでもこいつを倒す。
「だから俺は戦うんだ!E・サンダー!!」
俺は雷魔法を奴へと放つ。奴にダメージはなく、逆に気持ち良さそうにしている。
「E・サンダー!E・サンダー!E・サンダー!」
それでも俺は雷魔法を連打する。ダメージはない。
しかし徐々に一本角バルカンが様子がおかしくなる。奴の元々大きくなっていた股間の角がどんどん膨れ上がってきているのだ。先程までの悦楽の表情が崩れ去っていく。
「弾けろ!E・サンダー!!」
俺の最後の雷魔法を受けると一本角バルカンは股間から破裂した。
「なっ!?」
レビィが驚きの声をあげているが、驚いているは俺もだ。
「狙い通りだが、これにはびっくり……」
限界だった俺の意識はここで途切れた。
あれから俺は丸一日寝ていたらしい。眼が覚めると『シャドウ・ギア』の3人が泣きながら俺に礼を言ってきた。正直レビィにしようとしていたことを考えると、この礼を素直に受け取るのは非常に複雑な気分だった。
俺は3人を落ち着かせ、1日見てくれていた礼を逆にした。3人はあなたがこちらに礼を言う必要はないと否定したが、もし3人が薄情な連中だった場合、俺が放置されていたかもしれないと考えると、感謝せざるをえない。
それから一本角バルカンにかかっていた報酬やクエストの報酬の話になったが、もちろん俺は受け取らなかった。ここで厚かましく報酬を受け取るほど腐ってはいない。
礼も言ったし、とっとこの場を去ろうしていた時、『妖精の尻尾』のマスターマカロフが姿を見せた。
「あなたは『妖精の尻尾』のマスターですよね?なぜここに」
聞けば俺は魔力をほとんど消費した上に、一本角バルカンに大怪我を負わされたようで、ポーリュシカの治療を受けられる『妖精の尻尾』に運び込まれたらしい。自分の体を見れば、治療を受けたことがわかった。
3人の心遣いに、思わず涙を流しそうになるのをグッと堪え、改めてマスターに挨拶をし感謝を述べる。3人同様、マカロフも礼を言うことはないと言うが、こっちが気にするのだ。
それからなぜあの森にいたのかなど、いくつかの質問に対し、うまく適当に答え、早々にギルドを去ろうとするが、マカロフから爆弾が落とされることになる。
「お主、『妖精の尻尾』に入らぬか?」