健全魔導士目指します   作:秘密の区域

11 / 18
計画に支障は付き物である

 人の口に戸は立てられないのか、俺とミラが男女の交際を始めたことは瞬く間にギルドの外部にも広まった。2人とも知名度のこともあり、週刊ソーサラーの記者が来るなど大きな話題を呼んだ。

 

 騒がれるのは仕方がないと諦めてはいたが「最凶カップル」「向かうところ敵なし」とかどうして恐れられるのか。別に2人で世界征服でもしようなんてことはないのに。

 そもそも圧倒的強さを秘めているのはミラだけだ。俺では足元にも及ばん。

 

「K見て見て!これ私たちの記事よ」

 

 ミラがこの前受けた週刊ソーサラーのインタビューが載った記事を見せてきた。記事の見出しには「話題の最凶カップルに突撃!その全貌に迫る!!」と書かれており、インタビューの他に2人で撮ったグラビア写真が掲載されている。

 

「ミラよ、俺はインタビューを受けたことを激しく後悔している」

 

「何か不満でもあったの?」

 

「この写真盛りすぎだろ」

 

 俺はミラと写っているグラビアの写真を指す。いつも通りの美しさのミラの横にキメ顔の俺。写真を撮る時に、カメラマンに乗せられてかっこつけてしまったのだ。

 さらにグラビア用に修正されてそれっぽく見える始末。本人と落差があるにも程がある。

 

「私はいいと思うけど……あっ、もちろん今目の前にいるKが1番よ」

 

 ミラは俺を気遣ってくれるが、反応から写真の方がかっこいいと思ったことは簡単にわかった。自分の容姿の標準さを思い知らされるも、魔法のことを考えるとブサイクな容姿にされなかっただけマシかもしれない。

 

 俺は気晴らしに黒歴史になりそうなソーサラーのページをめくっていく。こういう雑誌は前の世界とも変わらないなあと思いながら読み進めていると、ある記事が目に止まった。

 

「デボン盗賊一家壊滅も民家7軒壊滅……」

 

「それは確かナツが行ったクエストね」

 

 『妖精の尻尾』が誇る破壊王ナツ・ドラグニル。どうすれば盗賊の討伐で民家を壊すのだろうか。

 

「全く、元気があり過ぎるのも問題だな」

 

「元気があってこそのナツでしょ?今日もイグニールが見つかったかではりきって出かけていったわよ」

 

「へ?イグニール?」

 

イグニールの名前が出てくるってことはまさか……。

 

「ただいまー!!!!」

 

 嫌な予感を感じていると、入り口の方からナツの大声が聞こえた。

 

 恐る恐る入り口を見れば、ナツの後ろには見覚えのある金髪の女の子がいる。

 

「てめえ!!!火竜の情報嘘じゃねえか!!!」

 

 ナツは帰ってきて早々、火竜の情報提供したギルドのメンバーを蹴る。そこからパンツ一丁のグレイやエルフマン、ロキが出張って来て乱闘が起こり始めた。

 そんなギルドの様相に唖然とする金髪の女の子ルーシィを見て俺は思う。

 

 原作開始じゃん。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 思っていたよりかなり早い原作のスタートに、俺はマカロフのありがたいお話を聞きながら考え込んでいた。

 

 さすがにそんじょそこらの敵には負けないと思うが、これから表立って出てくる敵と対峙できるレベルには至っていないだろう。魔力の問題は解決しておらず、頼みの綱の原作知識も完全にアテにしてはいけない。

 何よりその原作知識も天狼島から後のことは一切知らないのだ。いずれ初見でイベントに当たらなければならない時が来る。

 

「自分の信じた道を進めぇい!!!!それが『妖精の尻尾』の魔導士じゃ!!!!」

 

 マカロフの「評議員なんて気にせず、やりたいことやろうぜ!」という言葉にギルドのメンバーは大いに喝采を送る。俺も概ね賛成ではあるが、やり過ぎてギルド解散なんてことになれば冗談では済まないので、バレないようにやることも重要だぞ。

 

 いつも通りのギルドの雰囲気に戻り、喧騒を見せる中でルーシィは『妖精の尻尾』の紋章を手の甲につけてもらっていた。

 

 ルーシィ・ハートフィリア。将来的には多くの黄道十二門の鍵を所持することになる有望な星霊魔導士。金髪巨乳お嬢様と、三拍子揃った『FAIRY TAIL』のヒロインでもある。原作ではギャグ的な役柄をこなすことが多いが、ヒロインのポジションにいるだけあってそのポテンシャルは非常に高い。

 

 ついにお目にかかれたが、ボインおっぱいに露出の多さ。目の保養になるなる。最初のころの初々しさも堪らないな。

 

 さて、どうせ関わることになるだろうし、ルーシィに挨拶しておきますかね。

 

「こんなかわいいお嬢さんを引っ掛けてくるとは、ナツも隅に置けないなあ」

 

「ナツとはそういうのじゃ……ってあなたは!?」

 

「マーン・K・グロニクルだ。噂ではとやかく言われているが、これからよろしく頼むよ」

 

 話しかけたらルーシィに露骨にビビられてしまった。俺の評判を耳にしてるのだろう。猛獣に怯える子犬みたいにぷるぷるしている。

 

「ルーシィ安心して。Kはあなたが聞いているよりは怖くないから」

 

 ミラがフォローしてくれるが、暗に怖い奴ではあると言ってないか?

 

 だが効果はあったようで、ルーシィは警戒を解いて挨拶を返す。

 

「ったく、いい加減なことが広まるとこういうことがあるから困ったもんだ」

 

「でも全部嘘ってわけでもないじゃない」

 

 その事実すらも脚色されて広まってるから困っているのだよ。

 

 俺があらぬ評判に辟易していると、ロメオとマカロフの言い争いが聞こえてきた。マカロフに相手にしてもらえず、ロメオはギルドを飛び出す。その後を追うようにナツもギルドを出て行った。

 

 ナツの様子を疑問に思うルーシィにミラはナツの事情を説明する。

 

「『妖精の尻尾』の魔導士たちは……みんな何かを抱えてる……」

 

 俺も大量の地雷を抱えてるからわかるぞ。爆発したらただでは済まない。

 

 それより今はルーシィだ。マカオの救出は着いていっても活躍できるか怪しいし、パスしよう。ちょっと心配だが、バルカンには会いたくない。

 

 重要なのは次のエバルーの屋敷に潜入する時だ。俺はここに目的を果たす作戦を見出している。

 

 その作戦とは「エバルーに成り代わり!ドキドキ☆セクハラ大作戦」である。

 

 まず先回りして屋敷に行き、エバルー好みのブサイクな女の子に変身して屋敷に潜入する。その後隙を見てエバルーを気絶させて、エバルーに変身。エバルーの戦闘力は高くないし、用心棒の2人に鉢合わせしなければ余裕だろう。

 そして原作では事前の情報から屋敷に侵入しようとして追い返されるルーシィを屋敷に招き、中で好き放題するといった内容だ。

 

 これでルーシィの甘美な肢体を味わおうじゃないか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 初めブサイクな女の子に中々変身出来ず、苦労することになった。ブサイクな男には余裕で変身出来るのに謎である。

 

 また入れ替わるまでエバルーにセクハラされて、気持ち悪さに蕁麻疹まで出ていたが、先の希望のために必死で耐え抜いた。男にセクハラされるなんてタチの悪い拷問だ。

 

 こうした問題はあったが、無事にエバルー屋敷への潜入と成り代わりは成功した。

 

「すみませーん、誰かいませんかぁ」

 

 門の方からルーシィの声が聞こえてきた。

 

 待っていましたと、小躍りしながら門へと俺は向かう。

 

「ボヨヨヨヨ〜〜ン、我輩を呼んだかね」

 

 エバルーのように地面から出ることは出来ない俺は普通に登場する。

 

「どれどれ」

 

 俺はじっくりルーシィの体を視姦する。服の上からでも強調されたおっぱい、スカートの下から見える綺麗な脚。さすが正ヒロイン、合格点だ。

 俺が悦に浸る一方、体中をじろじろ見られているルーシィの笑顔はぎこちないものになっていた。

 悪戯心が働いた俺はルーシィの尻に手を伸ばす。

 

「きゃっ!」

 

「ふむ、中々いい尻をしてるじゃないか」

 

 俺はルーシィの張りのある尻を品定めするかのように撫で回していく。おっぱいに目が行きがちだが、お尻もたまりませんな。

 ルーシィの表情が嫌悪感を示すようになるも、潜入のためか何も言ってこない。調子に乗った俺はルーシィのお尻を鷲掴み、豪快に揉み始めた。スカートの上からでも感じる柔肉に俺の指が沈んでいく。

 

「あの、これ以上はさすがに……」

 

「なーに、ただのボディチェックだ。最近は屋敷に潜入しようとする輩が多いからな」

 

 やんわりとセクハラを止めようとするルーシィに対し、俺は彼女に刺さる言葉で牽制する。

 

 しかしながらここでやり過ぎて、ルーシィがキレて去ることにでもなれば元も子もない。

 

 俺は適当なタイミングで切り上げて、ルーシィを屋敷に入れた。それからルーシィにはまだ面接があると言ってエバルーの自室へと招く。

 

「さて、最初の質問だ。我輩の屋敷に何の用だ?『妖精の尻尾』の魔導士よ」

 

「なっ、なんであたしが『妖精の尻尾』の魔導士だと……」

 

「手の甲のギルドのマークが丸見えだ」

 

 俺の指摘にルーシィがハッとした表情を浮かべる。潜入しようとしてこれはガバガバだよね。

 

「こうなったら、って鍵が!?」

 

 シラを切れないと分かったルーシィは星霊を呼び出そうとするが、俺が尻を触った際にこっそり鍵を奪ったため呼び出すことが出来ない。

 俺が笑いながらルーシィの鍵を見せびらかすと、ルーシィは悔しそうに俺を睨みつける。

 

 さあ、ここからが本番だ。ハートフィリアの名前を出してルーシィを脅し、完全に抵抗をなくさせてもらおう。

 

 今回は勝ち試合だと確信していると、突然後ろの窓ガラスが割れる音が響く。振り向けばそこにはナツとハッピーの姿があった。ルーシィの潜入が成功したはずなのになぜこのタイミングで乱入してきたんだ!?

 

「貴様もこの小娘と同じ『妖精の尻尾』の魔導士かね?」

 

「いや、Kも『妖精の尻尾』なのに何言ってんだ?」

 

 なんとか保っていた平常心が一気に崩れ去った。声は微妙に似てないにしても変身は完璧なはずだ。どうして俺だとわかったんだ。

 

「K、匂いでバレバレだよ」

 

 ハッピーの一言で俺は膝から崩れ落ちる。ナツの特性を失念していた。ガバガバなのは俺の方じゃないか。

 

 観念して俺は変身を解き、元の姿に戻る。ルーシィが二転三転する状況におろおろしているが、俺もどうしたらいいのかわからない。

 

「Kがいるのには驚いたけど、なんでここにいるんだ?」

 

「ああ、少し用事があってな」

 

 咄嗟に良い言い訳が出るはずもなく、それっぽい雰囲気を出して誤魔化すことにした。付き合いが長いナツやハッピーは納得してくれたが、ルーシィは明らかに怪しんでいる。

 

「ここにいた理由は置いておくとして、あたしのお尻触ったのはどういうことですか?」

 

 結構根に持っているのだろうか。ルーシィはジト目で俺に手痛い質問をしてきた。

 

「尻を触ったのは鍵を奪うのに気をそらすためだ。潜入にも関わらず、自分の身分を隠そうとしないドジっ子に灸を据えようとね」

 

「ぐっ……」

 

「もっと警戒して動くことだ。これが戦闘なら鍵を奪われた時点でアウトだぞ」

 

 ルーシィの追及を謎説教で躱す俺。

 

 ごめんな、ルーシィ。本当はお前の尻を触りたかっただけなんだ。

 

「ところでお前たちはどうしてここに?」

 

 俺はルーシィたちが受けたクエストを知らないフリをして聞き返す。それからクエストの内容を聞いた俺は、用事のついでに手伝うという体で同行することにした。

 

「あれ、Kが持ってるファイルはなんなんだ?」

 

 ナツがエバルーの部屋から出る前に机の上から取ったファイルについて聞いてきた。

 

「エバルーの不正の証拠まとめ。これで屋敷への不法侵入はチャラに出来るだろ」

 

「Kってそういうところ抜け目ないよね」

 

「権力者の弱みは握ってなんぼだ!」

 

「オイラKがたまに怖いよ」

 

 俺の処世術がハッピーに引かれながら、俺たちは図書室へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そこからは原作通り、エバルーと彼が雇った用心棒である『南の狼』の2人と戦うことになった。

 

 『南の狼』の2人は普通の美人を屋敷に入れた俺に不信感を持っていたようで、彼らの手によって拘束していたエバルーが解放されてしまったのだ。

 だがナツとルーシィの敵ではなく、あっさりと撃破。俺が手伝う必要もなかった。

 

 目的の代物である『日の出』も届けて、クエストは終了。ナツの一言で報酬がもらえず、ルーシィが悔しがっていたのが印象的だった。

 俺も不完全燃焼で終わったことが悔しいぞ、ルーシィ。

 

 とは言え一時はどうなることかと思ったエバルーの屋敷への潜入が穏便に済んで一安心だ。

 

「……やっぱりおかしいわ」

 

「何がおかしいんだ、ルーシィ」

 

 クエストの帰り道、何か引っかかるところがあったのか、ずっと訝しげな顔をしていたルーシィが口を開いた。

 

「Kさんは私たちが受けたクエストを知らなかったはずなのに、あたしがエバルーの屋敷に潜入しようとすることがわかってた」

 

 俺は前の発言を思い出す。確かにルーシィの潜入が云々の後にクエストの内容を聞いてしまっている。発言に矛盾が生じているのは明らかだった。

 

「Kさん、あなたがエバルーの屋敷にいたのは……」

 

 ルーシィは頭が回るタイプだ。まさか俺の真意にたどり着いているのか。

 

「新人のあたしのことを心配したからですね!!」

 

 あ、これは大丈夫なパターンの奴だ。

 

「ミラさんから話は聞いてます。巷では悪い噂も飛んでいますが、Kさんは他人のために体を張ってでも動く人だと」

 

 おそらくエルフマンのことだろう。その件は隠された悪意があるんだよなあ。

 

「そんな優しいKさんは新人であるあたしが問題児のナツと組んでクエストに行くことが心配だった」

 

「ああ!?誰が問題児だあ!!?」

 

「ナツが問題児なのはオイラも同意かな」

 

「ただKさんは面と向かって感謝を受け取るのが苦手だとも聞きました。そこで表立って手助けしようとはせず、回りくどいやり方を選んだのよ」

 

 ミラフィルターから語られた俺の人物像のおかげでとんでもない推理に発展している。それが本当だったら俺は随分なお人好しだぞ。

 

 その後あまり誤解され過ぎるのも厄介なので、誤解を解こうとしたものの、解けることなくこの話はギルドのメンバーに広がることとなった。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。