ヒーローショーの後日談。オーナーに聞いたら過去最高に評判がよかったらしい。彼自身も「ルーシィが拘束されるところが堪らなかったよ!」と興奮気味だった。
ただラストでポッと出のロキに負けたことは不満だったようだ。俺も実際に観客のブーイングを聞いたから間違いない。
まあロキに負けたということより、まだまだ物足りないという側面が強い気がしなくもない。
そんなヒーローショーの主役を張ったルーシィは結構ご立腹のようだったが、謝罪して報酬をさらに釣り上げたら途端に態度を軟化したとのことだ。さすがに現金過ぎないか?
とにかく俺がしたことは役者の暴走というで収められて助かった。オーナーには「またよろしく頼む」と言われたので、ぜひよろしくしたい。
ヒーローショーも無事終わり、次のイベントは収穫祭だ。原作ではこれに乗じてラクサスがバトル・オブ・フェアリーテイルを開く。
それでラクサス及び雷神衆の面々と戦うことになるのだが、あまり気が乗らない。エロチャンスがないこともそうだが、ラクサスや雷神衆は『妖精の尻尾』の中でも交流がある方で、やり辛いのだ。
長い付き合いで色々良くしてもらっているからね。
どう立ち回るものかと考えていると、インターホンの音が聞こえてきた。知り合いだといけないので、重い腰を上げて玄関に赴く。
「こんな夜分に急に訪れてすまない」
「別に構わんよ。俺の都合に構わず来る連中なんていくらでもいるし」
訪れたのは雷神衆の1人、フリードだった。仲が悪いわけではないが彼の性格もあってか、家に訪れるような仲でもない。
そんなフリードがこの時期に俺の家に来るとは嫌な予感しかしない。
俺はとりあえずフリードを家に上げ、話を聞くことにした。元々表情豊かではないフリードの神妙な面から、これから話を聞くと思うと胃が痛い
「で、どうしたんだ?お前が俺の家に来るとは珍しいじゃないか」
「相談……いや、頼みがあるんだ」
「頼み?」
「ラクサスを止めてくれ」
てっきりラクサス側について欲しいみたいなことを思っていたらさらに難易度が高いことを要求された。
一応詳しい事情を聞くと、原作通りマスターになることを画策したラクサスの企みの全貌を説明される。
「俺はラクサスに付いているが『妖精の尻尾』の仲間を傷つけるような真似はしたくない。かと言って俺が進言してもラクサスはやめないだろう」
「そこで俺に白羽の矢を立てたわけね」
「雷神衆以外でラクサスと親しいお前なら説得出来ると思ったんだ」
フリードが頭を下げて俺に頼み込む。確かにラクサスとは仲がいい方だが、説得となると話は別である。
妄信的に自分の考えを疑わないラクサスを説得するのは不可能だ。それこそ原作のように自分の根底にある思いを自覚しない限り。
「俺じゃなくてまずはマスターに言うべきだと思うけどねえ」
「マスターにこんなことを企んでいると言えばラクサスが破門になるかもしれない。それは避けたいんだ」
実際ラクサスはバトル・オブ・フェアリーテイルの後破門になるし、事前にチクっても同じ結末になる可能性は高い。
……これはラクサス破門不可避なのでは?俺の説得が成功する未来も見えないし。
「フリード」
「説得してくれるか、K!」
「諦めろ」
俺は逃げに入ることにした。どう考えても無理ゲーなのに突っ込んでいく理由はない。
「そもそもフリード、お前は本当にラクサスを止める気はあるのか?」
「なっ!?どういうことだ!!」
「どういうことって、自分が説得しても無理そうだから来たってことはお前はラクサスに何も言ってないってことだろ?」
「!!!!」
「止められないにしても納得いかないなら離反すればいいのにそれも多分してない。仲間を傷つけたくないのにマスターに言わないのもおかしくないか?」
「…………」
フリードは何も言い返さない。俯いて俺の話に耳を傾けている。
「俺も説得を諦めている時点で同類かもしれんがな。まっやらせていいんじゃない?」
「しかし、それは……」
「さすがに殺したりはしないだろうし、何よりその計画は絶対に成功しない」
「成功しない?」
「お前やラクサスが思っている以上にみんな強いってことだ。ラクサスには痛い目見させて、これを機に改心してもらえ」
みんなボロボロになりながらも生体リンクついた魔水晶を壊したりしてるからな。『妖精の尻尾』のメンバーに侮れる奴は1人もいない。
「それと俺はバトルなんちゃらには参加しないから。今の話も聞いてなかったってことにするんで」
「いいのか?」
「俺が参加してもすぐ負けるだろ」
俺の言葉を聞いてキョトンとするフリード。
しばらくして面白かったのか笑みを零す。
「くく、面白い冗談だ」
「そういうことにしておいてくれ」
冗談じゃなくてマジで負けるからな。
フリードは俺との会話で迷いがなくなったのか、来た時よりも明るい表情で帰っていった。
これで一連の流れに支障が出ることはないだろう。
「そういえばバトルなんちゃら出ないならミス・フェアリーテイルコンテスト見れないじゃん」
ミス・フェアリーテイルコンテストに出る女の子の晴れ姿を見れないことだけは心残りだった。
今頃みんなラクサスの策略によって戦っているであろう。
当然俺は自宅待機である。今更石になった女性陣のことが心配になってきたが、エバなら手を出さないと信じている。
ふと窓から空を見ると、球体の魔水晶がマグノリアの街を囲うように浮かんでいた。どうやらエバは既に倒されたみたいだな。
とりあえずは一安心だとのんきなことを思っていた時、インターホンの音が鳴り響く。それも焦っているのか何回もボタンを押している。
なんとなく察しがつきつつも扉を開ければ、そこには息を切らしたカナが立っていた。
「どうしたんだ、カナ?なんか焦ってるみたいだけど」
「焦るどころの話じゃないよ!いいから来い!!」
カナに強引に引っ張られ俺は外に出る。道中にこれまでの経緯とラクサスに対抗するために俺を呼びに来たことを聞かされた。
明らかな人選ミスである。
ビックスローやフリードに遭遇しないことを祈っていると、カルディア大聖堂の方から凄まじい轟音が聞こえてきた。もうラクサスとミストガンが交戦中なのだろう。
カナとともにカルディア大聖堂に着くと、眼前には驚きの光景が広がっていた。
「どうしたフリード?でかいのは威勢だけか?」
「……ラクサス」
多少服がボロボロになっているラクサスと傷だらけで地面に這いつくばるフリード。内部の荒れ具合からも2人の間で交戦があったことが簡単にわかる。
「おお、カナにKか。Kは参加する気はねえと思っていたが」
「すまない、K……俺ではラクサスには届かなかった」
仲間であるフリードを倒したにも関わらず、ラクサスはそれを意に介していない。一方フリードはラクサスを止めれなかった悔しさが顔に滲み出ている。
「なるほどな。大方Kには計画を話していたってところか」
「お前のお粗末な計画なんて知らねえよ、雷馬鹿」
「あくまでとぼけるか。まあいい、お前と最強の座を競えるならなあ」
ラクサスは俺と戦えることが嬉しいようだが、非常にマズい。俺とラクサスの実力は月とすっぽんレベルだ。とてもじゃないが戦いにならない。
「ん?どうやらもう1人来たようだな」
ラクサスが視線を向ける方を見ると、いつも通り不審者の格好をしたミストガンがきていた。
「今すぐ神鳴殿を解除すればまだ余興の範疇で収まる可能性もある」
「おめでたいねえ」
「いや、めでたいのはてめえの頭だ」
「はっ言うじゃねえか、K。お前からやるか?」
「何言ってるの?ミストガンと2人がかりに決まってんだろ」
俺の言葉で場の空気が凍った。みな訝しげな目線を俺に送ってくる。
「あいにく俺は最強の座とか全く興味ないんでね。空の奇妙なものを消すことを優先するぞ。ミストガン、とっととやろうぜ」
「あっ、ああ……」
「K、それでいいのか……」
「いいだろ。ラクサスだし」
「随分舐め腐ったことを言うじゃねえか」
ラクサスの怒気が目に見えて高まっていくのが分かる。
確かにあの流れで言うことではないかもしれないが、知ったこっちゃない。俺は俺の都合でやらせてもらう。
カナにはフリードとともに避難してもらい、三者睨み合う。
ここにラクサスVSミストガン・Kペア、開戦。
ミストガンは背中にある5本の杖を1本ずつ床へと立てる。この間にミストガンに攻撃出来そうと思ったのは俺だけではないはず。
「摩天楼」
空間が歪み、カルディア大聖堂は爆発で崩壊する。予期しない大魔法にラクサスが驚愕していると、次元の切れ目に引き込まれ、謎の怪物とご対面した。
「はははははははっ!!!!くだらねぇなぁ!!!!」
しかしそれらは全てミストガンの幻覚だった。ラクサスの笑い声とともに幻覚は簡単に解けてしまう。
「さすがだな。だが気付くのが一瞬遅かった」
幻覚が解かれることを読んでいたミストガンはラクサスの頭上に巨大な魔法陣を用意していた。
「眠れ!!!!五重魔法陣御神楽!!!!」
大層な名前の魔法がラクサスに降りかかると同時に、ラクサスもミストガンの足元から雷魔法をぶち当てる。
両者一歩も引かない激しい攻防だ。
「「お前も戦えよ!!!!」」
影を薄めて眺めていたらラクサスとミストガンに怒られてしまった。
「いやー入り込む隙なかったから、戦わなくていいかなって」
「そんなわけないだろ!!2対1で来るってのはどうした!?」
さっきから怒ってしかいないラクサス。短気は損するから改めた方がいいぞ。
「「ラクサス!!!!」」
俺がふざけている間にナツとエルザが到着。ミストガンはエルザに気を取られてラクサスの攻撃が顔に直撃してしまった。
「ジェラール……」
「お前……」
ミストガンの顔が晒され、ジェラールそっくりなことに戸惑う2人。ミストガンはエルザに申し訳なさそうにしながら逃げてしまう。
「だーーっ、ややこしいっ!!後回しだ!!!ラクサス勝負しにきたぞ!!!!エルザいいよな、俺がやる!!!」
吠えるナツの言葉が頭に入らないのか依然として戸惑ったままのエルザ。そんな締まらないエルザに対し、ラクサスの魔法が打たれる。
エルザを相手にしようとするラクサスに対し、ナツは再度対戦を申し込むも、ラクサスは「いたのか(笑)」と煽る始末。
なんとかナツはラクサスと戦いを始めるが、ナツは劣勢を強いられる。
それからミストガンのことを一旦振り切ったエルザがラクサスの相手に変わる。
そして交戦の中、神鳴殿の詳細をラクサスから聞かされる。エルザは雷帝の鎧を換装し、ラクサスをナツに任せて神鳴殿の破壊に向かったのだった。
すっかり空気になった俺もその場をこっそりと抜け出した。
カルディア大聖堂を抜け出した俺は、無傷のままではマズいと思い、神鳴殿を一個破壊して負傷した。高いところに登らないと攻撃が当たらないのは悲しいものがある。
こうして軽い負傷で済んだバトル・オブ・フェアリーテイルだったが、これで終わりではなかった。
なぜなら俺の目の前にはラクサスがいるからだ。
「まだ怪我治ってないのに無茶だと思うんだが」
「もう会えるかも分からねえからな。心残りはなくしておきたいんだよ」
ラクサスはマジメに俺と戦えなかったことをかなり気にしているようで、マグノリアを出る前に戦いを申し込んできたのだ。
これで会うのが最後というわけではないので、適当にはぐらかしてしまうのもよかった。
しかしラクサスは怪我を押してまで俺との戦いに臨もうとしている。この熱い気持ちを踏みにじるほど俺も外道じゃない。
「仕方ない。今持てる俺の力の全てをぶつけるぞ」
「いいねぇ、そうこなくっちゃな」
ラクサスと俺の真剣勝負ーーその勝敗は君たちの想像にお任せしよう。