馬車に揺られながら、俺は内心不安でいっぱいになっていた。
「なんでこんな作戦にあたしが参加することになったのー!!?」
ルーシィの嘆きと全く同じことを思っている。
バラム同盟の一角である『六魔将軍』が不穏な動きを見せていることを受けて、4つのギルドによる連合で討伐することになった。
それ自体は知っていたのだが、問題は俺が入れられたことだ。
エンジェルやブレインとは知り合いのため、一悶着あることが確定しているのが痛い。
特にエンジェルは、最近は来てなかったものの、たまに家に遊びに来ては愚痴を聞く仲である。ちょくちょくギルドへの勧誘もしてくるし、何か仕掛けてくるだろう。
唯一の楽しみは今狭い馬車の中で、女性2人と同じ空気が吸えるぐらいだ。それも男2人と1匹がいるせいでプラマイゼロになっているが。
俺がくだらないことを考えている間に集合場所に到着した。『青い天馬』のマスターの別荘らしいこの建物は、ギルドのイメージ通りというか、落ち着かない雰囲気だ。
「『妖精の尻尾』の皆さん、お待ちしておりました」
奥に進むと出てきたのは『青の天馬』のイケメンホスト3人衆のヒビキ・イヴ・レン。
3人はホストクラブのごとくルーシィとエルザをもてなさそうとする。ふざけているように見える3人だが、連合に参加するだけあって実力は高いはずだ。
「君たち、その辺にしておきたまえ」
3人の濃すぎるキャラに圧倒されていると、それを上回る最強の魔導士がやって来た。
「会いたかったよ、マイハニー。あなたのための一夜でぇす」
香り魔法を操る変態魔導士一夜である。言動や3人に慕われていることから悪い人ではないと思うのだが、いかんせんそのブサイクな顔が全てを台無しにしている。
「いい香りだ」
訂正、悪い奴だ。ルーシィを指差していい香りだとか言いやがった。2人とも気持ち悪がっている。
……俺も人のことは言えないか。
その後、男にはぞんざいな扱いをする『青の天馬』のメンバーに異を唱えたグレイを発端に、遅れてきた『蛇姫の鱗』のリオンとシェリーも加わって一触触発の状態になってしまう。
「やめい!!!!」
そこへ現れたのは『蛇姫の鱗』のメンバーにして、聖十大魔道の1人である『岩鉄』のジュラ。彼の一喝で危うく衝突しかけた空気を収める。
「聖十大魔道がいるのは心強いな」
「マーン殿も噂は耳にしている。今回はよろしく頼む」
「出来ればマーンじゃなくてKと呼んでくれ」
ジュラと軽く挨拶を済ませ、残りの『化猫の宿』の魔道士を待つ。
『化猫の宿』といえばマジロリ魔導士の彼女。
「『化猫の宿』から来ました、ウェンディです。よろしくお願いします!!」
周りは小さい女の子が来るとは思わず、驚きの表情を浮かべる。
それにしてもウェンディか。後数年経てば美人になるだろうが、今は手を出せないな。ワンチャン光源氏の真似事をするのもありかもしれない。
邪な目線でウェンディを観察していると、シャルルに睨まれてしまった。目を付けられないよう自然に目線を外す。
「あの娘……なんという香りだ……。ただ者ではないな」
「気付いたか、一夜殿。あれはワシ等とは何か違う魔力だ……」
一夜とジュラはウェンディが普通の魔道士ではないと気付く。エルザも気付いているみたいだが、どうやって気付いているのだろうか。
強者の勘……それだと一夜は外れるな。
「さて……全員揃ったようなので、私の方から作戦の説明をしよう」
一夜がいよいよ本題である『六魔将軍』討伐について話し始めようとする。
「ーーとその前にトイレの香りを」
「そこには香りってつけるな……」
「俺もお花を摘みに行ってくるわ」
「Kは女子みたいな言い方をするなよ!」
説明の前に一夜がトイレに行ったので、俺も便乗してトイレに行くことにした。
すっかり失念していた。
トイレに行った俺は一夜と一緒にエンジェルの襲撃を受けてしまった。しかもエンジェルに連れ去られるオプション付きだ。
「久しぶりだな、マーン・K・グロニクル」
「ああ、こんなに嬉しくない再会はないな」
ブレインがレーサーにジェラールを運んでくるのを告げた後、俺は奴と言葉を交わす。
「K!?そいつと知り合いなの!?」
「……クソみたいな縁でな」
「そう言うな。私はうぬを買っているのだぞ」
捕まったことで余裕のない俺に対し、ブレインは語りかける。
「あの時から短い間にS級魔道士となり、付いた呼び名は『異端者』。私の見立て通りだ」
「はいはい、どーも」
「再び問おう。マーン・K・グロニクルよ、我々のもとへ来い」
「断る」
「そう意固地になるな。うぬなら知っているだろう?ニルヴァーナのことを」
以前にゼロのことに触れたせいで、情報通みたいに思われてないか?
ニルヴァーナは光と闇を入れ替える魔法。ブレインは暗に無理やりこちら側に引き込むことが出来ると言っているのだろう。
そんな欠陥魔法で脅されたところで屈しはしない。
「ブレイン、本当にこいつを『六魔将軍』に入れるのか?」
俺がどこ吹く風の中、『六魔将軍』の1人であるコブラは疑問の声をあげる。
「何か不満か?コブラよ」
「はっきり言ってかなり信用出来ないぞ」
「ほう、どういうことだ?」
「心の声が聴こえねえんだよ」
コブラのこの発言に他の『六魔将軍』のメンバーも騒ぎ始める。
俺も初耳なんだが。
「まるでノイズがかかったかのように聴こえるんだ。こんなの始めてだぜ」
「なるほど、コブラの対策はバッチリというわけか」
そんな対策は一切してない。
しかし聴かれたらマズい情報は色々持っているので結果としてありがたいな。
「ますますうぬが欲しくなった。幸いまだ十分時間はある。ゆっくり考え直してくれたまえ」
ブレインの方が考え直してくれないかと思いながら、ただただ時間は過ぎていった。その間ウェンディがジェラールを治療したり、そのウェンディをナツが連れ戻したり、目覚めたジェラールがどっか行ったりと目まぐるしくイベントは起きた。
そして事件はジェラールがニルヴァーナを起動した時に起きた。
「……なんでさ」
残っていたミッドナイトは連合のメンバーを狩りに行き、ブレインもニルヴァーナのところへと向かった。
俺を置いてな!!!!
ラッキーなことに拘束は魔法の発動を封じる手錠だけなので逃げることは簡単だ。
だが俺は自身の扱いの雑さに少し怒っている。
「あんなに熱心に誘っておいて放置プレイはないだろ。それだけニルヴァーナに執着してるのかもしれんが」
文句を垂れながら俺は洞窟を出た。
完全に迷子になってしまった件について。
ニルヴァーナの方に行くのはマズいので、他の仲間を探しているが、全然見つからない。
手錠により敵に見つかれば100%勝ち目がない状況。焦りと恐怖の気持ちが蔓延する。
「どこだ、どこだ……どこにいるんだ!」
冷静さを失い闇雲に歩き回るも、周りは木ばかり。
ニルヴァーナのところに行ってエルザと合流する方が安パイだったか。
後悔の念に駆られて移動していると、川が見えた。変わり映えのない景色に苛立ちを隠せなかった俺は安堵する。
「とは言っても人がいないのがなあ……あれは!!」
俺は川のほとりで気を失ったヒビキと氷漬けのハッピー、水に浮かんでいるエンジェルを見つけた。
そういえばルーシィと水辺で戦っていたことを思い出し、状況から戦闘が終わった後だと判断した。
手錠によって自由が利かないのを押して、俺は川に入り彼女を救出する。
もちろん、善意ではない。
ヒビキとハッピーが起きると厄介なので2人に気付かれないような場所までエンジェルを引きづって移動した。
「うおおおおおおお!!ヤるぞヤるぞヤるぞ!!」
エンジェルは意識がなく、目覚めたとしても戦闘によって抵抗しづらくなっている。今がチャンスだ。
「まずはハレンチおっぱいをオープン!」
俺はエンジェルの痴女服をガバッと開く。
そこにはかつて見た白く健康的な双丘があった。双丘の頂上の突起も健在である。
「もう辛抱たまらん」
勢いよくエンジェルの双丘を鷲掴んだ。その柔らかさを確かめるようにじっくりと指を埋めながら揉んでいく。
「は……あっ」
感じているのか、エンジェルの喘ぎ声が漏れ出す。
「ふむふむ、いいおっぱいだ」
俺は双丘を揉みつつ、突起を弄り始める。指で潰し、時折転がしながら刺激を与えていく。
「んっ……んっ……あんっ!」
「ふっ、もうすっかりコリコリじゃないか」
エンジェルの喘ぎ声が激しくなるも俺の手は止まらない。むしろその悦びの声が行為に拍車をかけていく。
俺は出来上がった突起に向かって舌を伸ばした。ねっとりと突起を舐め、感触を味わう。
「ふああっ……」
とても意識を失っているとは思えないくらいエンジェルは感じている。
ここで俺はあることを思いつき、エンジェルの双丘をくっつけるように持ち上げた。
そして双丘の両端へと俺は吸いついた。
「んんんっ!!」
ちゅーちゅーと無我夢中で吸い上げる。
今日一番の刺激に喘ぎ声は一段と激しさを増す。
「ちゅるるるる……ぢゅぱっ」
吸い終わった突起を見れば、ぴくぴくと吸う前よりどうしようもなく大きくなっていた。しばらく収まりそうもない。
俺は大きめの望遠鏡を取り出した。望遠鏡は今か今かと、天体観測を待ち望んでいる。
その気持ちに応えるように2つの木星の間に望遠鏡をセットした。木星に包まれた望遠鏡は地震に耐えながら観測を始める。
「これは……なんて重力なんだ!!」
しかし激しい揺れによって限界が訪れた。望遠鏡はハジけてビッグバンを起こし、そこには天の川がかかった。
宇宙の神秘を目の当たりにした俺は、さらにその先を見たいと思った。
残るは未知のブラックホール。
この謎を解き明かそうとした時、俺の顎に強烈な蹴りが飛んできた。
恐る恐る確認すると、エンジェルが怒髪天を衝く形相になっている。
「おい、変態ヘタレ。私が気を失っている間に何をしていた?」
エンジェルはハンカチで顔を拭きながら、怒気がこもった声で俺に問いかけてくる。気を失っている間に何をされていたのか悟っているのだろう。
「宇宙への好奇心を満たしていた」
「ぶち殺してやるゾ!!」
エンジェルは怒りに身を任せ、俺に殴りかかってきた。
しかしルーシィとの戦闘のダメージが残っているのか、その動きは鈍い。いくら俺が魔法は使えないとはいえ、身体能力ではこちらの方が上だ。
彼女の拳は空を切る。
「避けずにおとなしく当たるんだゾ!!」
「当たるのはおっぱいだけで十分だ!!」
両者一歩も譲らずに睨み合っていた時、人が迫っている気配を感じた。
「……君たちは何をやってるんだ?」
現れたのは川でぐったりしていたヒビキだ。俺たちが騒いでいたのを聞きつけたのだろう。
これはマズいことになった。
このまま俺の悪行がバレてしまったら一巻の終わりだ。
「実はエンジェルは俺の元カノなんだ」
「なんだって!?」
「はあ!?」
俺の偽りのカミングアウトに2人とも驚愕の声をあげる。
「それで俺なりにけじめをつけようとしてたんだ。お前も色々思うことはあるかもしれないが、ここは任せてくれないか?」
とりあえずヒビキをここから離れさせようと話を誘導する。エンジェルも俺の意図に気付き、余計な事は言わなかった。
ヒビキの恨みを買っているため、下手なことは出来ないというのもある。
ヒビキはしばらく押し黙った後に了承してくれた。ニルヴァーナが完全に起動したこともあって、そちらを優先したようだ。
ヒビキが離れてから俺たちは会話を再開する。
「危ねえ。社会的に死んだかと思った」
「早く死ねばいいと思うゾ」
先ほどまでいがみ合っていたものの、ヒビキの乱入によって俺たちはすっかり毒気を抜かれていた。
「まあどのみちニルヴァーナによってお前たちは終わりだゾ」
「それがそうでもないんだよなあ」
俺はニルヴァーナの欠陥についてエンジェルに話した。エンジェルはそれを聞いてがっくりと肩を落とす。
「私たちがやったことが無駄だったとは……悔しいゾ」
「そんな都合がいい魔法が封印されている時点で裏があると思うべきだろ」
「……お前は一体何なんだ?」
「なんだって言われても」
「私たちが知らないことを知ってたり、私のことを庇ったりしてよくわからないゾ」
それは原作知識と自分の都合のためである。エンジェルを売るより共謀する方が丸いと思ったからとは言えない。
「俺はちょっぴり物知りで、かわいい女の子がほっとけないただの魔導士だよ」
「胡散臭いゾ」
ジト目で俺のことを疑うエンジェル。ちょっとゾクゾクしてきたのは内緒だ。
おもむろにエンジェルは彫刻具座の鍵を使い、カエルムを呼び出す。
「げ、まだやろうっていうのか」
魔法が使える余力があることに俺は焦りを覚える。
「違うゾ。私ばかり好き勝手やられたのが癪だったから今度は私の番だゾ」
カエルムを構えながら迫るエンジェルに対し、距離を取ろうとするもレーザーで動きを牽制される。
「撃たれたくなかったらおとなしくするんだゾ」
「一体どうしようっていうんだ?」
「お前の精根が尽き果てるまで搾りとる」
「え、何言って……やめろ……アッーーー!!」
俺の抵抗虚しく、エンジェルが満足するまで一方的に責められたのだった。