星いざないの詩   作:麻戸産チェーザレぬこ

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 銀ちゃん生きてるけど、銀ちゃんを幸せにするんだゾ!部の部員の皆さまごめんなさい
 その他の部の皆さまにも謝ります
 

雨――空から落ちてくる水滴、又、それの降る日。涙など、しきりに落ちるもののたとえ。

降る――自ラ四。(雨や雪などが)降る。(比喩的に)涙が流れ落ちる。


三、 雨降って

 

 

 震えた声だ。

 

「よくわかったね。私を見破るなんてキミなんかの神様かい」

 

 仮面をつける男の声。

 少年はポリポリと頭を掻きだした。

 

「いや……その、すまん。ぇーとだれ? イイ感じの雰囲気を壊してワルイガ、さ」

「ゑ? ……私以外にだれか?」

「俺が言ったの、このメイデンちゃんのかっこうしたヤツなんだけど」

 

 ホロホロは――何だコイツ、と思いながら当たり前のように答えてやった。

 

「あーその子。よくできてるでしょ、キミの記憶を元にしたお人形だよ。そして彼女たちを駅まで連れてきた。勿論キミたちに気づかないように。ねぇきみー、私今すっごく恥ずかしいんだけど如何すべき」

「知るかよ、てか勝手に俺の記憶読むんじゃねえ」

「そうつれないこと言わないで欲しいよ、――――消滅したはずのアイヌのキミ」

 

 ホロホロが構えると同時に白銀の少女は数多の木の葉となり、突如発生した風に吹かれ、風は仮面へ向かう。

 

「本当はキミをこの敷地内で捕らえたかったんだけど、まぁいい。さっそくだけど約束してくれる? 私たちの邪魔をしないってことを」

「無理だね」

 

 ホロホロは左掌に右手でつくった拳を打ち付け鳴らした。さて、と彼は男にどう攻めるか思考を巡らす。先ほど男は記憶を読んで偽物ジャンヌを作り出したと言った。記憶を読むともなれば消すことや改変することも可能なのではと至って、迂闊には近づけない。又、男はいつ彼の記憶を読んだのか。

 

「なら、キミに制約をかけましょうね」

「やれるもんなら、な!」

 

 何事もまず先手必勝、これがホロホロの信条だ。いくら考えても答えが出なかったからではない。

 ホロホロは男に向かって飛翔し、拳を思いっきり男の仮面にぶちかます。

 と見せかけ、男の目の前で急降下! 男は自分を殴るのだろうとしっかりした守りに入っていたためホロホロが股下をくぐらせることを許してしまう。

 しまったと云う驚き、してやったりの顔が交錯す。

 いざ! 男を出し抜き門から大赦に侵入して駆けだした。その一歩目は外の道路のアスファルトを踏んでいた。ここで彼は驚くがこの隙を狙い仮面は足を引っ掛け、ホロホロを横転させた。鼻からアスファルトに隕石のごとく衝突。

 

「スキあったッ」

「――ハっ?」

「ひかかったっ、ひかかった、――はははははーあーあ。 次はどうでる? なんなら、その青い小人を――――違うね。その青い精霊を本来の姿に戻し私にかかかってきてもいいんだよ」

 

 男は日を背にし腕をだらりとしている。

 しかしなぜかホロホロだけでなくS(スピリット)O(オブ)R(レイン)も動かない。

 

 

「ん? ああ今はもうそういう、仕方ないか。っふ――――さぁ誰そ彼時だ、子供はお家に帰りましょう」

 

 碓氷ホロケウとS・O・Rに男の手がかざされる。すると視界がぼやけて考える頭もねじれていき、待つことを億劫と感じることもそう思うことさえものぐさとなった。

 彼の意識が遠のくなか、仮面は言った。カンカンと鳴るサイレンよりその声が彼を掴んだ。

 

――今のキミに刻まれるかどうか分からないけど、あっちの三ノ輪は、元は勇者とか、あとなんからしい。

 おっと言い忘れるとこだった。鍵穴が無かったから偽物だとばれてしまったんだね。鍵穴は要なんだね、これからは気をつける。

「また…………逢おう――――」

 

 ――楽しかった、と。

 

 

 ホロホロと青く小さな精霊はとぼとぼ引き返していった。背筋が丸まっていた。

 仮面の男は腰の骨を鳴らし、次は肩を同じようにした。

 

「よかった~あの精霊がこっちの精霊じゃなくて。それに弱っていたな」

「おい、そんなところでなに油を売ってい、る――あの少年はなんだ」

「迷い子みたいです。道を教えてやりました」

「そうか。大赦の人間たるものまごころは持たねばならぬのは無論、人々の模範であることだからな。精進は怠るなよ?」

「諾。先輩」

 

 先輩と呼ばれた大赦の者はもう一度迷い子の少年に意識を向ける。

 

「あの紋様は――――」

「気になりますよね? アイヌも、知っている人間も由来する土地の名も文献も何一つ残さず消滅したというのに」

 

 先輩は尻尾を握られた猫のように食い付く。

 

「なんだ! そのアイヌとやらは。神樹様に害なすならばただではおかんな」

 

 やれやれと首を振るう。

 

「そうなりますよね。神世紀になったと同時に、ですから。普通は知らない――――と云うことなので知らなくていいですよ先輩」

 

 例の少年と反対に位置し、彼らがいる廊下の窓からかろうじて見える池で、鯉が跳ねた。跳ねた、というよりは跳ねた音がここまで耳にやって来た。

 その池に意識をやり、後輩らしき男は可愛いものを見たように先輩を笑う。

 

「なに笑っている? まぁいいがこれからすぐ〝(はかり)〟だぞ」

「忘れてないですよ」

 

 〝議〟が、神樹様の御前で執られることはなくかえって失礼であり、俗世と断絶した木洩れ日の中で酒をちびりちびり呑みながら進めるわけでもなく、或るお社の中数本の蝋燭をたよりにすることもせず、高級なホテル、ビップな場所で行われている。

 乃木家、鷲尾家、三ノ輪家、の者はここにはいない。他の名家もいない。本来ならば位が高い者を中心とし開かれるが、ここは違った。

 〝議〟に集まる者たちは占いにより決まる。したがい、位ある者だけが集うこともあれば下級の家が占める時もある。また、そのような〝議〟で可決されたことに異を唱える者はいない。ちなみに大昔は腐るほどいたらしい。

 

「急な議にお集まりの皆さま、先日、バーッテクスとの戦いで尊い命と、勇者の力と引き換えに散った〝三ノ輪家〟の方々へ、礼」

 

 幾人かの仮面の下には、思い出が、灯籠のように、流れていた。

 

麻八(まや)さま、テツちゃん、タロちゃん、幹道(みきみち)はバーッテクスを追い出す為に将来を捧げてくだすった。麻八さまが麻八ぴっぴの絶妙な塩加減が引き出すあの甘さは思いやりのある温かな味だった。幹道は最期まで神樹様と共にあった。テツちゃんは新しい発見をいつも見せてくれた。タロちゃんはひたすらに可愛かった。御四方がいなければ勇者三人が命を落とすことはおろか、神樹様が犯されていただろう」

 

 〝三ノ輪家〟のお役目は簡単。樹海や神樹様が傷ついた時の代わり身や星返し――命と引き換えにバーッテクスを壁の外へ追い返す最後の一手――でありバーテックス一体につき一人の魂魄が必要となる()()()()()()()。バーテックスを追い返したのは当主の麻八、長男の鉄男、次男の金太郎であった。

 幹道は違った。公務員や民間企業を兼任しつつ農業を営んでいた家の生まれで大赦とは少しも繋がりが無い。三ノ輪家のお役目を持たない彼が戦って命を落としたと大赦が口々に言う背後には幹道の自殺と云う変死。神樹様、大赦、神世紀において、自殺は神樹様への冒涜なため自殺とは認められ無い。

 不可解なことがあった。幹道は妻とは別の処で息をひきとってい、鉄男と金太郎の遺体が草の根を分けて探しても見つから無い。

 それでもなお奇奇怪怪な出来事があろうが明日の葬式に四人は送り出されるのだった。しなければならなかった。

 

「今回はバーッテクスが三体だった。三体を撃退したのは三ノ輪家の方たち」

「…………もう一度、お花見をしたかったです」

 

 一人の言葉に続いて、思いにふける声が上がり始まる。

 

「――では、明日素朴に送りましょう」

 

 今回の進行役は咳払いをし、議題に移る。

 

「勇者である三ノ輪銀くんが何の知らせもなく神樹様の、勇者の御力を失った。今月末に銀くんを検査します。もし、銀くんが再度神樹様の御力を纏うことが出来ないと判ぜられたら園子さまと須美さんだけ。皆さん既に目をお通しなさったでしょう、勇者の選別を今月から始めます」

「その事ですがいささか、早すぎるのでは」

「私もだ。大赦(我々)から選んだばかりではないかね。それに『勇者システム』(?)なるものがもうすぐ完成されるのだろう?」

 

 一斉にざわめきだした。そのなか、ホロホロに術をかけた仮面も続く。

 

「いっそのこと星共を招き入れるのはどうです。私たちが神樹様を護るために迎撃するのではなく、神樹様が戦うのです。土着の集合体ならば武神の一柱(ひとり)はおられるはず」

「まぁ、皆さま落ち着いて。我々から選んだといっても猫の額ほどではありませんか。あと格式あるところしか選んでいない。この度は、大赦、民草関係無く撰びましょうということであります。ここは一回、銀くんは勇者になれないとしまして次いでバージョンアップした御二人でいけるとも思えない、としましょう」

「む、確かに勇者一人欠ければ荷は重いな。それと三ノ輪銀が勇者へ復せるとしても最後の柱、前線には出したくない。しかしだ、いつそれを実行するのか教えていただきたい。日や場所によって動けん局もある」

「大丈夫です。今月の二十七日から八月の三日までの期間を目安にし――」

「それはあんまりだ! そして矛盾。『神樹様と死ぬ気で遊BOH(ボー)! わんぱくワラシの会』と被っている、ということはそれも計画に加えると見ましたっ。せっかくスケジュールの最終確認までこぎつけたというのにっ別の日にし――」

「神樹様はその時が善いと」

「――ならば人を寄越してくれるんですよね! 残業代は!!」

 

 仮面から落ち着いてはいるが人間味ある声が発せられた。

 

「ええ、各局暇してる方たちと()()()()()()が手伝います。……お金はー、その、担当がいるでしょに」

(くら)(かた)はっ」

「申し訳ございませんが、今回の議に倉方の方は出席なされてないようです」

 

 と、男の向かいに座る女性。

 とは云ってもこの一連の流れにより厳格な空気がゆるんでしまい、こそこそしてきた。

 他人事として男は見ていたがここで止めるべきだと思い今にも燃え狂いそうな炎に水をかける。

 いつもこの議は途中から脱線し、自分の子供自慢を語りだして喧嘩に発展したり、恐竜の真の形態と絶滅のナゾについて迫るのが大事な事や、ビックバンに宇宙の真理とミステリーサークルについて等の議論に花を咲かす。早く終わるはずの議が夜遅くに終わったというのはザラで、男はそれに付き合うのが楽しいのだけれども今日の一件があった故、軌道を修正した始末であった。

 又、最高局であるはずの樹祭官(いつきまつりのつかさ)のあわれな姿が見ていられない感情も少し含まれている。

 

「有難うございます。まず適正値を見出すことから始まりますが今回は男子も対象とします。ええ、勇者に選ばれるのは少女ではありますけれども、少年たちには勇者とは違ったお役目を与えたいと考えております。神樹様の御賛同はいただきました」

「そのお役目とは何だ? 時折適性が高い子はいるといっても女子の最低値並みだぞ」

「昔の偉人はよく言いましたね、塵も積もれば山となる。彼らのそれを頂戴し、選ばれし女子たちへ与えるのですよ。栄養ドリンクみたいなものですね」

「……すばらしい…………!」

 

 全ての仮面が男に注視した。

 

「あなた、やけに生真面目ですね。明日は雨ですか、雪ですか。それに初めて意見があいましたね、大赦の問題児」

「私のことは気にせず早く進みましょう、……そこまでだったとは、シンガイですヨ」

 

 久しぶりに議は定時通りに終わり、中には大赦の仕事に戻る者や自宅に帰る者に飲みに行く者などの集団に分かれ、男は三番目の輪に入って朝まで呑むのだがこれもしないで大人しく、誰よりも早く家路についた。

 ――では! 男はのらりくらり抜け出していった。

 完全に日は消え世は夜である。

 街の明かりがあるせいなのか星の煌めきが、瞬きが見えずにいて、ホロホロたちに術をかけた男は老婆の荷物を持っていた。その老婆と男は顔なじみで、時々町内の寄席や集まりっこに男は出席し彼女以外の人たちと談笑に花を咲かすのであった。

 

「いつもいつも悪いねぇ」

「いえいえ、人助けは呼吸するようなもんですから。っとぉごみごみ」

 

 彼女は言った。

 

「あんた、家に来ないかい? 夕飯ごちそうするよ」

「すみません、今日わたしやることがあるので」

「そーお、あんまし夜更かししちゃダメよう。あんた若い娘さんのようにべっぴんさんなんだから」

美海(みう)さんこそちゃーみんぐですよ」

「チャーミングなっ」

 

 ははははと二人は笑いあって、別れた。

 

「あーあ~明日葬儀か、やだな~行きたくないな~。だって面倒じゃないですか。たかが発言力がある家ってだけですよ。いや、驚くべきお役目も担ってますが、ん?」

 

 男が足を止めたのは猫の声が聞こえたからであり、猫は茂みから軽やかにこちらへと跳んできた。

 

――!? ねこめ~ッ~~

 

 間抜けな声をあげて猫に顔を踏まれる。

 

「ぬっむ~まったくいけない猫です…………、一体、どこに送るんでしょうね。英雄として夜空に掲げるのかな? それならそれで、夜空は映える。次はそんな夜に、ホロケウくんともう一度会いたいな。でも、今度は月末か、来月の初めか。碓氷ホロケウくん、キミを、私は…………」

 

 この男を初めて見る人ならば彼を切なげな大和撫子として認識するだろう。

 そして男は、手を空へ伸ばし、幼い子の頭をなでるようなぞる。

 

 

 

 

 

 

 

 銀が親友の二人と再会したがその後のことを、彼は知らない。

 

「オマエ、魂食って成長するんだよな? んなら魂を知覚するの長けてるのか」

 

 S・O・Rは気取った格好をする。

 

「なんだその態度。銀の家族は――って、お前でも無理か、そう。こいつァ自分の目ん玉で確かめる必要がある、よしっ、夕ご飯食べたらもっかい往く!」

 

 ホロホロはフライパンと菜箸を手に取った。

 食べ終えたホロホロは食器や調理用具をしっかり洗い、夜の香川に飛び出した。

 全速力で彼は銀の家だった処へ向かう。往こうにも、夜の九時に小学生くらいの子どもが一人で電車に乗るとなると補導されてしまう。走る方も補導員に見つかりはするものの電車より逃げ道がある。

 間もなく降るであろう雨の匂いを、休むどころかますます風切る音を鋭くさせ走るホロホロは感じた。ほんのすこし、冷たい草のにおいがまじる。

 

「ここが、銀の家」

――だったとこ

 

 ホロホロは塀を飛び越え庭に侵入した。

 

「あんがい、フツーな家。……、おろ?」

 

 植木鉢に手紙が埋もれていた。

 すぐ手紙を取ることがはばかられた。手紙は熱を帯びていたためホロケウは慎重に読んだ。

 

「『ごめんなさい、謝ればいいという訳ではないのでありますが謝らなければなりません。私はあなたに背を向けました。ですが、子どもたちの為にしなければならなかった。このまま死ぬことをお許しください。』……◯幹」

 

 丸の中に幹の漢字があった。読んで気持ちを悪くしない者はいないだろう。

 ひっくり返してみると地図が書かれていた。

 

「……山」

 

『だれかいる!』

 

 家の中から幼い声が大きな声を発し、こちらへバタバタと足音が迫ってきて手紙を丁寧にしまいホロホロは裏に記された山へ駆けた。

 山に着いた時には顔が汗だくなのはそうなのだが、雨に打たれて全身が重い。腕で顔の汗や雨を拭うもすこぶる降る雨がホロケウを濡らす。

 

「どうだ見つかったか」

「まったく。幹道さんはこの山に向かったと目撃されてるんですけどねぇ」

 

 男二人は山へ入っていく。

 

「なるホロ。どうりで山へ行く車がいっぱいあったもんだ」

 

 茂みの中からホロホロが出てきた。

 山はパトカーのライトや彼らのような者達が捜索していたので明るい。特に明るくテントが張られた場所へ目をやれば仮面をつけている大人たちもいた。

 

「香川県って仮面着けながら捜索するのか。へぇー変わってる」

 

 精霊はツッコミをいれない。しかし

 

「だからこそ、何かやべぇし近づかない方が吉」

 

 精霊は首を横に振らなかった。

 子ども一人は優に隠す茂みのなかで、捜索隊の目を掻い潜るために地面すれすれまで体勢を低くしている。服は泥だらけで、雨が降っているが余計に彼をみすぼらしくさせていた。木々の影で休息して、息をひそめる。

 転生した彼はしょせん小学生の体であった。前の世界で、小学生の頃から自分のでっかい夢の為に、立派なシャーマンになる為に修行はしていたけれども生理的面だけは成長するしかほかならなく、歯がゆい思いをした。

 

「転生特典ってのがあるんじゃねーのかよ」

 

 ため息をつき頭に巻かれ、バンダナ代わりの草や泥がこびりついている白かったタオルを外す。

 びだん、と地面を鳴らす。

 

「早く見つけろ! 鉄男くんに、金太郎くん、二人の体力が無くなるぞ!」

「一旦引き上げません! なんかしらみ潰しっていうか雑になってきてる」

「それにしても、……あがんない。最近日照り続きだったけど、これはちょっとな」

「なーに無駄口叩いてんの」

 

 最後に言った捜索員が肘鉄を放つ。

 会話が耳に入ってきた。休み過ぎたと舌打ちをし後で帰ったらハオに一発根性決めてやると誓い、捜すと同時に彼らから離れようとする。

 ぱきり。

 枝を踏んでしまった。

 

「いるのかい? 大丈夫だよ、さ――」

「ホ、ホロー! ホローッ、ホロー………っ!?」

「なんだ狸か」

「人の声ッ――んなわけあるか! ってホントだ」

 

 彼らの目の前に狸が一匹現れた。

 これに一番驚いたのは誰かなのかと言うまでもないだろう。ホロホロは絶好の機会を無駄にしなかった。

 捜索隊が情報の共有に整理するためテントへ下山するなか、反対に奥へと進んでいく。

 

 ん? 変にここだけ冷たい空気

 

 岩が崩れ、洞窟を塞いでいた。大人が通るにはきつく、かといって子供が入れる隙間すら無い。

 ホロホロは睨み、S・O・Rを自分の体におろした。精霊を憑依させることで人間が出せる以上の力を得られるからだった。又、憑依させなくとも今の彼でもどかすことは造作もないが安全性を一番に考えての行為である。

 

「待ってな! 今、姉ちゃんの処へ帰ろうっ、そーだな――今までふんばってえらいっ! いいぞおーーオッ!」

 

 笑顔で、努めて明るい声を届ける。

 全て処理し終え洞窟に入るとそこはただ広いだけであったけれども、奥から冷気が漂う。除霊を行い、奥へと進む。

 ホロケウは息をのんだ。子供二人が氷漬けにされ、魂が、其処に、無かった。

 氷はびっしりと磐に張りつき氷だけ取ることは出来そうにない。ホロホロは手を当てる。触診して分かったことと云えば氷を削れば子ども二人の体が傷ついてしまう構造となっていた。

 

 なんもできねえって、俺何しに来たんだよ

 

 そこは、当たってもよい場所ではなかったから自分自身に当たった。

 何か手がかりになりそうなものは見当たらず、引き返そうとしたとき、懐にしまっておいた手紙が燃え上がった。

 

「――――!?、――ッ!」

 

 手紙は肌と直に触れあっていたので声にもならない悲痛な叫び。S・O・Rが炎を鎮静してみんとするも炎は次第に業火へと燃え盛る。

 五大精霊であり、水の精の中で玉座に君臨出来るほどのS・O・Rが業を煮やす事訳は、自殺した幹道と云う男の生前手紙に込められた贖罪が、幹道が死ぬことによりより揺るぎ無く、一線を一歩越えてしまえば怨みへと成り果てる「思い」と成った、霊同士――ここでは神仏に悪魔、龍等も含む――の雌雄を定めるのは技術でも体格でもない「()」で決まるが、時折「思い」の強さが「格」を壊したり越えたりする。

 現に「思い」は尋常ではなく、彼の世界の地球五大精霊を相手としていない。

 

 もしかしなくともこれは『子を思う親の思い』かァ、そうでないと……受け入れなんてデキねえヨッ――

 

 ホロホロはS・O・Rに待ったをかけた。

 

「イイッ、気持ち的にも体的にもマダダガ、あとは俺がなんとかしてウケトメ、る……っつ、モザイクだ、モザイクがみえた……」

 

 拳を血が出るほど握りしめ、口を噛みしめ、膝をつき地面に上半身を伏さないために右腕を大地に乗せ支えてもち堪える。左手は手紙の炎に焼かれ続ける胸を押さえていた。

 炎が消えたのは、手紙が消えるのと同時であった。

 ホロホロの目は血走っていた。呼吸を整えるにも胸を焼かれていたためままならない。

 時を移さず精霊はラマッタㇰイカヨㇷ゚((魂をよぶ宝矢筒))にオーバーソウル。

 ホロホロの呼吸が落ち着いてゆく。

 

「すマネェ、だがわかった。一つには銀がここに来たとしてもなんも解決しないこと。二つ、銀以外の何かが必要ってことなんだよ」

 

 やはりこのようにすらすらとそらんじ伝えているのでは無く、とぎれとぎれになりぜぇぜぇと息を荒くしつつ説明していた。

 歩けるくらいに回復したので精霊に支えてもらいながら立ち上がる。

 

 

「必ず、帰ろうな」

 

 視線はどこを指していたのかは本人のみぞ知る。

 

 

 

 

 岩を元に戻す俺。悪く、思わないでくれ…………それにしても、非現実的な氷の結界があるってのに霊力も巫力も感じない

 

 ホロホロはあの捜索隊に見つからないよう岩で隠していた。

 雨は相変わらず降っているが夜の暗さは消えてゆく。

 

「まーた眠れなかった」

 

 最後の岩を嵌め終え

 

「明日から学校とは意味が解らん。つかハオの奴どうやったんだ。あと家も金も。こんなに出来るならあいつがやれよな」

 

 朝日のまぶしさがホロホロの顔にあった。

 皮膚が切れた薬指で顔を汚している泥を取る。

 

「まずは風呂だなこりゃ」

 

 

 

 




 








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