とある神父の布教活動   作:ブラジル

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キャラの口調がどうだったのか、よく忘れてしまう。
若年性健忘症かな?



第四話:聖職者と風紀委員

 

 能力者が大多数を占める学園都市。

 勿論の事ながら、その能力を善行に行使する者もいれば、その逆も存在する。悪事に手を染める能力者はスキルアウト以上に厄介であり、それが上位能力者なら尚更である。

 しかし『目には目を、歯に歯を』という言葉の通り、能力者には能力者を対峙させ、治安を維持していた。

 その治安を維持する者──風紀委員(ジャッジメント)はアンチスキルと共に日夜、学園都市の秩序を保っていた。

 その風紀委員の一人であり、第177支部に所属する1人の少女が活気溢れる商店街で周囲を警戒していた。

 

「確かこの辺りですの…」

 

 

 まだ幼さを残しているものの、その瞳には確固たる意志を秘めたツインテールの少女──白井黒子。

 学園都市随一の御嬢様学校『常磐台中学』の学生として身を置き、『超電磁砲(レールガン)の露払い』を自称している。

 

 

「しかし、困った話ですの。よもや、ナンパだけで出動する事になるとは…」

 

 

 常日頃から発生する能力者やスキルアウトの鎮圧に比べ、今回は一般人だけで解決しそうな事案なだけに、黒子は今一つ風紀委員(ジャッジメント)としての務めに打ち込めないでいた。

 『時間の無駄』だと思いながら、辺りを見回していると───。

 

 

「それではご一緒に!せーの…『Love&Peace』!!」

 

 

『Love&Peace!!!』

 

 

 視線の先には、自動販売機の上で拡声器を用いて、布教活動(?)を行っている神父服の謎の男。そして、その男を取り囲む様に密集した幾人ものギャラリー。

 

 

「分からない…微塵も理解出来ませんの…」

 

 

 実は白井より先にアダムが現場に到着し、しつこくナンパをする不良に対し"ダイナミックエントリー"で失神させた後、勢いで布教活動を行っていた。

 白井は困惑しながらも責務を果たす為、自動販売機の上でタップダンスを披露しながら布教活動に勤しむ謎の神父に近寄る。

 

 

風紀委員(ジャッジメント)ですの!即刻そこから下りて、広報活動を中止しなさい!」

 

「Love&Peace~♪Love&Peace~~♪♪」

 

 

 アダムは止めるどころか、サビに入ったかの様に歌に熱が入る。

 痺れを切らした白井は一瞬の内に自動販売機の上に移動する。これぞ白井黒子の能力が成せる技、"空間移動(テレポート)"である。

 尚もを気付かず、サビを歌い終えて、ハミングを始め出したアダムに苛立ちを感じ拡声器を引ったくる。

 

 

風紀委員(ジャッジメント)ですのぉぉッ!!」

 

 

 流石のアダムも動きを止め、怪訝な表情を浮かべた。

 

 

「そんな近くで怒鳴らないで頂きたい。用があるなら普通に呼んでください」

 

「先程普通に言いましたわ!そしたら無視されましたの!」

 

 

 自身がヒステリックに陥った事に気付くと、小さく咳払いをして平静を取り戻し、軽やかに自動販売機から下りる。

 それに続き、アダムもスタイリッシュに自動販売機から下りると、爽やかに髪を掻き分ける。

 

 

「それで、何かご用で?」

 

「今すぐ、この広報活動を中止してもらいますわ」

 

「うっそぉ~!マジぃ!それマジぃ!?ちょぉ~ウケるんですけどぉ~!」

 

 

 古典的なギャル口調でおどけるアダムに思わず頬を引きつらせる。

 

 

「残念ですが、この学区では無許可の広報活動は禁止されてますの。ですので、即刻止めてもらいます」

 

「何故です!?私はただ布教活動をしただけなのに……!何故!!?」

 

「いや、貴方のやり方がトリッキー過ぎるのでは…?」

 

 

 自動販売機の目の前でウ○コ座りしながら項垂れる大人というシュールな絵面は嫌でも目立ってしまう。

 道行くヒトから嘲笑の的にされつつあった白井は、さっさと現場から離れたい一心でアダムの布教活動を中止させようと尽力する。

 

 

「ほら、広報活動は然るべき許可を得てから行ってくださいまし」

 

「やだやだやぁ~だ~!布教し~た~い~!!」

 

「えぇ~い!暴れるな!」

 

 

 白井はアダムの動きを止めるべく、太腿に装着された鉄矢を抜き取ると、自身の能力で鉄矢をテレポートさせてアダムを自動販売機に打ち付ける。

 

 

「さてと、これで大人しく……って、いない!?」

 

 

 自動販売機には、アダムの神父服だけしか打ち付けられていた。

 

 

「危ないではないですか」

 

 

 アダムは白井の背後からニュッと言う効果音を鳴らしながら、頭を出した。

 白井は驚愕した。勿論、あの鉄矢の拘束から一瞬の内に抜け出した事もあるのだが──白井にとってショックだったのは他の事だった。

 

 

「貴方その格好は何ですの!?」

 

 

 アダムはブーメランパンツとネクタイだけを着用した露出が激し過ぎる格好で仁王立ちし、不思議そうに小首を傾げていた。

 色々と言いたい事はあったが、白井はすぐに察知した。

 ───この人、変態だ。

 

 

「貴方、変態ですの!?」

 

「失敬な。服を脱げば裸体を晒すのは至極当然……あ、パジャマ着たままだった」

 

「パジャマ!?ネクタイしたらパジャマになるんですの!!?」

 

 

 アダム曰く『ネクタイを閉めたら頭がボゥッ…として、眠りやすくなるんですよ』と説明しており、それを聞いた者はかなりの確率で『永遠の眠りにつくのでは?』とツッコミを入れている。

 

 

「…抵抗するようなら容赦しませんの」

 

「いえいえ、その様な気は微塵もありません。ただ…」

 

「ただ?」

 

 

 次第に、アダムの顔が真剣な顔付きになっていく。

 

 

「これも平和を望むが故の行動です。行き過ぎた言動だとお思いですが…どうか御容赦ください」

 

 

 先程の言動からは感じられぬ強固で譲る事のない意志を持った雰囲気に白井は沈黙する。

 経緯はどうあれ、アダムも自身と同様に悪を裁き、弱者を救う人間であると風紀委員(ジャッジメント)としての勘が知らせている──露出癖という残念な癖を除いての話だが。

 緊張感で無意識に止めていた呼吸を再開し、アダムに語り掛ける。

 

 

「…分かりましたの、今回は目を瞑りましょう。ですが、今後は適切な処置をした後に広報活動をなさるように」

 

「感謝します。Ms.…」

 

「白井、白井黒子ですの」

 

「Ms.白井、感謝します」

 

 

 一件落着に見えるが、美少女に引き締まった身体を晒しながら(こうべ)を垂れる男性の絵面を『新手の調教かな?』と思い込んだ歩行者達が二人を囲い込んでいた。

 

 

「それでは、今後は気を付ける様に。あと、服は着た方がよろしいかと」

 

「えぇ…人のパジャマにケチ付けるなんて人として…」

 

「変態に人の道理を説かれたくないですの!」

 

 

 変態におちょくられる風紀委員(ジャッジメント)、そんな光景を見ていた一般人は生暖かい眼で白井を応援していた。

 

 

~~~

 

 

「やっぱり心配ですわね……」

 

 

 アダムと別れ、第177支部の帰路へつく途中の白井はまだ安心出来ずにいた。誠実であり変態という性質(タチ)の悪すぎるアダムが大人しく言う事を聞くのか自信が湧かず、時折アダムを追跡しようかと思考を巡らせていた。

 その矢先、白井の携帯が鳴り出す。

 

 

「はい、もしもし」

 

『あ、白井さん。パトロールご苦労様です』

 

 

 電話越しから聞こえてきたのは、まるで飴玉を転がす様な甘ったるい声色をした少女だった。

 

 

「初春?どうしたんですの?」

 

 

 声の主は、白井の同僚兼パートナーを務める初春飾利だった。彼女はレベル1の低能力者だが、ハッキング技術は中学生とは思えぬ程の卓越した技量を持っており、主にそのハッキングを用いて白井のバックアップに回っている。

 

 

『実はまたトラブルが……』

 

 

 ハァ…と思わず溜め息が漏れ、天を仰ぐ。

 せっかく変態の処理を終えたかと思えば、追加の出動要請。いくら義憤に燃えている白井でも、身体が疲れを感じていると溜め息が出るのも無理はない。

 

 

『あの…大丈夫ですか?』

 

 

「えぇ…平気ですの。それで、内容は?」

 

 

 出来れば、能力者やスキルアウトの鎮圧に赴いてアダムによって蓄積されたストレスを発散させたいと、風紀委員らしからぬ考えが芽生え、その考えを掃き飛ばす様に頭を振るう。

 

 

『実は…神父様が清掃ロボをロデオのように乗りこなしながら、布教活動をしているらしくて…』

 

 

 沈黙する白井。それを不思議に思ったのか、電話越しの初春は何度も白井の名を呼び掛けるも、白井はただ身体が震わせているだけ。

 

 

「全っ然反省してないですのぉ!!!」

 

 

 この後、白井はアダムの首根っこを掴みながら風紀委員(ジャッジメント)本部へと連行した。

 

 

 





次回は、ツンデレの人です。

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