自分の中では一ヶ月に一話は投稿しようという意思を簡単に挫けちゃいました。
筆者は意思が弱い、はっきりわかんだね。
風紀委員第177支部にて、黒子は苛立ちを隠さない表情を浮かべていた。その諸悪の根元である
「ん~…この"緑茶"と言うものは良いものですねぇ。紅茶やコーヒーには感じない安らぎを感じます」
「ふふっ、ありがとうございます」
『和むな!』と口には出さず、花冠を頭に乗せた少女に目で訴え掛けるも、花冠の少女とアダムは和やかな雰囲気を醸し出していた。
ちなみに、この花冠の少女こそが初春飾利なのだが、アダムの物腰柔らかい態度のせいで変質者に見えずにいた初春はうっかり茶菓子を出してしまい、今に至る。
「そして、この"お煎餅"…実に旨い!しかも歯が鍛えられる!」
「いい加減にするんですのぉー!!」
白井は『ウガーッ!!』と吠える様に、獣の如く怒り出す。
「まぁまぁ、そう怒らず。ほら、眉間に小皺が…!」
「えっ!うそッ!?」
「嘘ですけど?」
「チクショー!!」
アダムはそれを見て愉快そうに『HAHAHA』と笑い、初春は苦笑を浮かべていた。
連行されたにも関わらず、茶を飲んで和むだけで無く、おちょくった態度を取る黒子はついつい腹の底からシャウトしてしまう。
髪をグシャグシャと掻き乱す黒子とそれを必死で止めようとする初春を見て、ようやく話す気になったのか小さく咳払いをする。
「それで…何故、私を連行したのでしょうか?」
そう言うと、某特務機関の総司令がよく取るポーズで訊ねる。
「…この際、その上から目線な態度は放っておきますの。あなた、先ほどの忠告を全然聞いてませんの?」
「聞いておりましたとも。確か『パソコンキーボードは便座の五倍も汚く、ゴキブリも避けて通るレベル』…でしたね?」
「全然違う!というか聞きたくなかった、そんな嫌な雑学ッ!!」
「あの~…良ろしければ、何で清掃ロボの上に乗ってしまったか教えてくれませんか?」
これ以上、埒が明かないと悟った初春は出来るだけ丁寧にアダムに尋ねる。
アダムは先程のポーズを保ちながら、神妙な面持ちで顔を伏せる。
「話せば長くなります。あれは20年前…いや、数十分前の出来事でした」
「いちいち小ネタ挿まないと気が済まないんですの!?」
~~~
時は幕末。
黒船の来航により───。
「遡りすぎですのぉ!!」
「いえ、私の生い立ちを漫画にしますと"ゴ〇ゴ13"を超える程の長編となるので。これぐらい過去に戻らなくては」
「何で清掃ロボに乗ったのか聞いてますの!ぶっちゃけ、貴方の生い立ちなんて死ぬ程興味ありませんの!!」
『やれやれ、せっかちですねぇ…』と悪びれる様子も無く呟くアダムは素直に数時間前の出来事を話し始める。
~~~
数十分前、アダムは黒子と別れた後、当ても無くただ気の向くままに歩を進めていた。
黒子が別れ際に言った『TPOを弁えて』という言葉を胸に、次なる布教に意欲を高めていたが、気持ちとは裏腹に身体は不調を訴え始める。おもむろに靴と靴下を脱ぐと靴擦れを起こしていた事に気付く。
というのも、不眠不休で遥か辺境の地から学園都市まで徒歩でやって来た訳で、怪我を負う──というか靴擦れ程度で済んだ事自体が奇跡だった。
「おやおや、私のMr.アキレウスが悲鳴を挙げていましか。いやはや、参りましたねぇ」
布教には全身全霊を以て取り組むアダムではあるが、久方ぶりの休憩を挟むのも悪くないと考え、何か手頃なベンチはないかと周囲を見渡す。
『ガーガーピー』
すると、今にも壊れそうなポンコツな音を奏でた清掃ロボがアダムの前を横切る。
忙しなく清掃活動に勤しむ清掃ロボにアダムは瞳を輝かせながら興味深く眺める。
「おお!よもや"全自動腰掛け機"を生きてる間に拝めるとは!流石は学園都市と言ったところでしょうか…」
『じゃ、遠慮なく』と呟くと、清掃ロボの上にチョコンと座り込む。
『…!ガァーピィィピィィィィ!!』
「お、おぉッ!?」
突如、耳をつんざく様な機械音を鳴らし、アダムを振り落とさんと右往左往する。その突然の出来事に流石のアダムも驚いていたが―――。
「Yaaaaa!Fooooooooo!!」
「スゲェあの神父!清掃ロボを乗りこなしてるぞ!?」
最終的にテンガロンハットを被りながら、清掃ロボをロデオの如くノリノリで乗りこなしていた。
~~~
「―という訳です。続きはWebで」
「…一つ質問よろしくて?」
「ええ、どうぞ」
「貴方、本当に神父なんですの!?」
「失敬な。私は"神父汁"100%の純然たる神父ですよ」
「神父汁って何!?そんな果汁100%みたいに言われても!」
律儀にツッコミを入れる黒子に対して律儀に神父汁について説明するアダムの板挟みに初春はアタフタと二人を見守るしか出来ないでいた。そんな中、アダムはおもむろに握り拳を作り強く握り締めると、手の間から真っ黒なドロドロとした液体が滴り落ちる。
その光景を唖然とした表情で眺める二人に対し、何故か得意気に鼻を擦るアダム。
余談だが、神父汁は重油に近い成分らしい。
「と、ところで…神父様は何で学園都市で布教しようと思ったんですか?」
「そうですの。科学が発展しているこの学園都市で宗教を広めるなんて」
「ふふふ……甘いですよ、お二方」
アダムの目が文字通り『キラン』と怪しげに光る。
「私は単に宗教を広めるだけに来た訳ではありません」
意味有り気に言葉を濁すアダムに白井はゆっくり鉄矢に手を伸ばし、警戒し始める。
テロ・洗脳──この第177支部を土台に学園都市の征服を目論んでいるのではと、職業病とも思える考えが脳裏を過る。
「私は…」
「わ、私は…?」
アダムは急に立ち上がり、両腕を大きく広げ顔を上に向ける。
「私の目的は"Love&Peace"!世界を慈愛に満ちた素晴らしき世界にする為ここに来たのです!!」
「…はい?」
「へぇ~!凄いですね!」
羨望の眼差しを向ける初春と拍子抜けしたのか白けた表情を見せる白井。
「今!世界は戦争や暴力による愚かな行為で多くの尊い命が失われています!!」
「まぁ、確かに…」
「その他にも!麻薬・人身売買・テロリズム・強姦・誘拐・人体実験・略奪……淘汰されるべき物を人間自ら産み出してしまい、犠牲となるのも人間ッ!その中で赤ん坊の時で死んでしまう子、両親を亡くし愛を知らず生きていく子供達が大勢います!!」
涙と鼻水を濁流の様に流すアダム。
それに感化されたのか、初春は涙ぐみ、白井は己の浅はかさを呪う。
今までの言動は捨て置き、アダムの心情と涙には嘘や狂言は見られない。風紀委員としてではなく、一人の人間として判断出来る。
「そんな理不尽な事が許されて良いのか!?否!絶対に許されないッ!!」
アダムは力強く机を『バンッ』と叩く──己の意志と決意の強さを表現するかの様に。
「だからこそ私は布教し続ける!そう"Love&Peace"を!!」
話が終わった頃には、初春は涙をハンカチで拭いながら時折、『ヒクッ…』と声を鳴らして身体を震わせる。白井も瞳に溜まる涙を指で拭った。
「うぅ…とても心に染みました……」
「少し…見直しましたの…」
「ちょっと、一体どういう状況よ?」
3人が声のする方へ向くと、茶髪の少女が怪しい物を見る様な目でアダム達を眺めていた。
~~~
御坂美琴は混乱していた。今日は暇だったので後輩の黒子達の様子でも見ようと思い、第177支部に訪れたのは良いが、視界に映り込んだのは顔を涙と鼻水で汚した神父服の男と共に涙を流す知り合い達。
傍から見れば、神父の説法に感銘を受けている様にしか見えずにいた。
「…お──」
「まずっ…!」
すると、白井が目をハートの形にして美琴に向かって跳躍する。
「お姉様ぁぁぁぁぁ!!!」
「寄るなッ!」
「あばばばばばぁ!!」
咄嗟に美琴は電撃を繰り出し、白井をギャグ漫画でよく見られる黒焦げの状態に仕上げた。
ピクリとも動かない白井に対してアダムが呟く。
「Your Died.」
「まだ死んでませんの!」
驚異的なスピードで白井は回復し、体に着いていた黒炭も綺麗に取れていた。
「それより…誰よこの人?」
「申し遅れました、私は愛と平和の伝道師こと、アダム・ロクスバーグと申します。以後、お見知り置きを…」
先程の涙は嘘かの様に、アダムは恭しくお辞儀する。
だが、美琴の反応はイマイチ薄いものだった。理由は、アダムが自己紹介で話した"愛と平和の伝道師"という言葉。
大方、街にうろつく変質者を黒子当たりが連行して来たのだろうと推測した。
治安維持だけでなく、変質者の相手もしたければならない───改めて風紀委員の多忙さを実感した。
「如何でしょう?私と共に"Love&Peace"の真理を貴女が成人式に出席するまで話し合いましょう!!」
「あー…結構よ。そういうの苦手だから」
アダムの言動が胡散臭いせいか、宗教勧誘を拒否する様に軽く受け流す。こういうタイプはこの手に限ると算段し、美琴はこれで解放されるものと思っていたのだが───。
「分かりますよ、誰だって最初は恥ずかしい。ですが!それでは前には進めない!!」
それでも懲りず、尚も布教を行おうとするアダムに流石の美琴も表情を曇らせた。
「さぁご一緒に!せーの…"Love&Peace"!!」
「やらないわよ!!」
美琴が声を荒げながら拒否する。
「何を遠慮しているのですか?そう謙虚になるから、胸も謙虚になるのですよ」
『プッツン☆』
怒りの沸点は容易く達した。
「胸は…胸は関係ないだろがぁ!!」
「いやぁん、危ない」
美琴が電撃を放つが、アダムはオカマ口調で上体を大きく後ろに反らすだけで電撃を避ける。
自身の地雷を踏み抜くだけでなく、腹立だしい動作で電撃を避けた事に美琴の怒りは増大した。
「誰か男の人呼んでぇ!」
「ピカデ○ー梅田!?」
微妙に古いネタにツッコミを入れる初春はさておき、明らかに人をおちょくった態度を見せるアダムを今にでも息の根を止めんばかりに紫電を迸らせる。
「もう我慢出来ない!アンタ、私に付いて来なさい!決闘よ、決闘ッ!!」
「お姉様!?どうか、お気を確かに!この方の言動は目に余るものはありますが、外部からの一般人と──」
「良いでしょ。貴女の申し出、慎んでお受けします……ですが!私が勝った暁には"Love&Peace教"に入信し、その教えを骨の髄まで洗脳──ゲフンゲフン…説かせて頂きますッ!!」
何やら物騒な単語が聞こえたが、詮索すると引き返せなくなる様な気がした3人は敢えて聞こえないフリをした。
「なら、外で戦うわよ。付いて来なさい」
「HAHAHA!これで信徒が増えると思うと、笑いが止まりませんな!HAHAHAHAHAHA!!」
鼻息を荒くする美琴、笑い過ぎてむせるアダム、そんな珍妙な二人に慌てて着いてく行く白井と初春は支部を後にした。
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アダムという名の"歩く理不尽"が去った第177支部は静まり返り、唯一聞こえる音は時計の秒針のみとなった。
その中で、一人の少女──固法美偉は神妙な面持ちでソファーに座り込んでいた。
「…仕事しろよ……」
頭を抱え、柄にも無く落ち込む姿を晒け出す固法を励ます同僚は誰もいなかった。