ドラゴンクエスト5のグレイトドラゴンが仲間になるまでの話。文体直した。短く続ける可能性あり。

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魔界

 一目見た瞬間、その一行からは強者の風格が感じられた。

 馬で荷物やらを運びながら、その周りを歩いている人間と魔物が入り混じった一行。

 先頭を歩く、紫色の衣服を身に纏った人間は、隣に魔物を連れて歩いている。

 手に持つその杖は、俺達の頭を模したものだった。模しただけのものじゃなくて、その杖からは実際に俺達ドラゴンの力が感じられる。そんな代物を持てるだけでも多分、強い人間だ、と察せられる。

 隣の魔物はここ辺りじゃ見慣れない魔物だ。

 四つ足で、素早い代わりに頑丈ではないような、まあ、見た感じフツーな魔物だが、それは死肉を漁り、捕食の恐怖に怯えるような弱者じゃなかった。鋭い牙や爪を単に持っているだけの、形だけの強者でもなくて、心身共に鍛え上げられた本物の強者の風格があった。

 馬車の後ろには、どうしてか人間の子供と、また魔物が一体ずつ。

 ただ、人間の子供も全く侮れない。濃密な邪の雰囲気を醸し出している山が近辺にあるこの場所でも、それを跳ねのける程の清らかな何かを感じる。魔王に従う身であったならば、その清らかさは滅せねばならないものだと本能的に分かるものだ。俺はそうじゃないが。

 とても強い力を持ってるとは言え、あんな引きこもりに従いたくはないなー、と俺は思ってる。

 その隣には、スライムに乗った剣士の魔物。一行の中では一番弱そうだが、それでも油断は出来ないと分かる強さは持っている。

 馬車の中にも、また誰かが居る気配がある。

 いきなりこの魔界に現れた強者の一行。

 胸が踊る。

 

 そう思ったのは俺だけじゃなく、そして他の魔物達にとっても同じようだった。

 それから、そういう魔物とは別に、魔王に従う魔物は強い敵意を以て殺しに向かっていた。ただ、巧みな連携を以て、また、巨大な火球や雷、竜巻に焦がされ、切り刻まれて悉く返り討ちにされている。

 魔物の方も一矢報いる程度は出来ているが、一行の中には回復魔法を使える者も多く、致命的な傷を与えられた者も居ない。

 魔物と人間が連携を組んでいるって言う事にも驚いたが、それ以上に驚いた事がある。

 強者に挑むという単純な目的を以て臨む輩、要するに俺のように魔王に従ってない奴等に対しては、殺さない事も度々あった事だ。

 手を抜いている訳じゃない。

 正直、悔しいが、俺よりもその一行の方が格上だという事は暫く眺めていれば分かってしまう事ではあった。だが、それでも多少苦戦させられる程度の力は皆、魔界に住む魔物として持っている。

 それなのにだ。特に先頭を歩く紫の衣服を身に纏った人間はその、殺さない傾向が強かった。

 命に賭けても魔王の為にここで殺す、とかそんな、特別な敵意を持たない魔物に対しては極力殺さないように努めていると言っても過言ではなかった。

 気付けば、その先頭の人間に注視していた。

 ――今思えば。俺はその時から見惚れていたのだと思う。人間ながらにしてとても強く、そして俺達の長のように、父親や母親のように、尊敬できるようなその風格に。

 魔王に仕えるキラーマシン達が敗れ、破壊された後、俺はその一行に向けて翼を広げた。

 

 黄金の鱗を持つ誇り高きドラゴンとして、その正々堂々、正面に立ちふさがった。

 他の仲間達もそうして先に敗れて行っていた。魔王に仕えていなければ、痛めつけられただけで、もう既に他の仲間に介抱されていたり。

 もっと早くに、仲間の中では最初に、と思っていたのもあったが、眺めている内に時間が経ってしまっていた。

 もう、その時点で不意打ちをしようが、仲間と共に戦おうが自分は勝てないだろうという事が分かっていたのに、だ。

 馬鹿なのか? と俺自身思う。まあ、馬鹿なんだろう。

 強く吼えて威嚇をすると、先頭の、紫の衣服を身に纏った人間のみが前に出て来た。

 俺の意図を汲み取ってくれたのか、それとも、一人で十分だと思われたのか。

 その時の俺には分からなかったが、俺が最も戦いたいと思った相手とサシで戦えるという事は喜び以外の何物でも無かった。

 息を吸い始めれば、人間が走って来る。

 懐に入られるまでに、炎か氷か、どちらにせよ吐息をぶつけるには十分に間合いはあった。

 が、直接ぶつけはしない。

 この人間は強力な竜巻の魔法が使える。

 距離がある時に吐息をぶつけようが、竜巻に巻き取られるだけなのは他の仲間の戦いぶりを見て知っていた。竜巻自体は俺には全く効かないが、吐息は無効化されてしまう。

 だから、俺のする攻撃は。

 氷の吐息を地面に吐いた。すぐさま地面が凍って行く。

 人間にとっては滑りやすくなるだろう。だた、俺にとっては、大地を踏むたびに深い足跡が残る重さを持ったこの体を持つ身としては。

 全く問題は無い。

 それでも一歩一歩、人間はしっかりと大地を踏みしめて走って来た。

 色んな場所で、様々な魔物と戦って来たその証が見て取れた。

 骨をも容易く切り裂く爪で迎え打つ。振り下ろし、杖で弾かれた。だが流石に、力は俺の方が上だ。人間は反動で滑り、そこに迫って踏みつける。

 地面が割れただけの感触。

 転がって躱されていた。ぶつぶつとした詠唱が聞こえ、その人間の体が淡く光った。

 くそ、あれは確か、体が硬くなる魔法だ。嫌な事してくれる。

 尾を振り回したが、杖を突き立て、しっかりと足を大地に付けた人間がそれを体で受け止めた。

 硬い、が、軽い。ぐ、と足に力を込めてそのまま投げ飛ばす。

 一気にごろごろと転がって行く人間。すぅ、と息を一気に吸い込む。

 その人間が叫んだ。

 何だ? 少なくとも命乞いじゃない。

 一瞬考えたが、躊躇なく、炎を吐いた。

 

 自慢の火炎が人間に迫り、直撃したのが見えた。

 勝ったか? 殺したか? いや、まさか。

 俺に一人で向って来る程の人間が、火炎一発でやられる程軟弱じゃないだろう?

 直撃した、その数瞬の後、竜巻が迸った。

 思った通りだ。湧きたつ思いが更に強くなる。

 激しい竜巻だ。今までに俺が見た事の無い、巨大で、暴力的な竜巻だ。周りの草木が土ごと抉れていく。強い風に混じって砂や小石が、泥や草木が体に飛んで来る。

 俺の吐いた炎は瞬く間に掻き消され、竜巻が迫って来た。

 この黄金の鱗には全く効かないとしても、どうしようもなく恐怖を覚えてしまう竜巻だった。思わず、目を閉じてしまった。

 竜巻の暴力が体を襲う。木々や岩に叩きつけられる。

 足をしっかりと地面に食い込ませておかなければ、体ごと吹き飛ばされてしまうような恐怖。

 目を、開けなければ。誇り高きドラゴンが、この俺が、恐怖など感じてはならない!

 目を開けた瞬間に、眼前には大岩が迫っていた。

 思わず伏せた。その目の前には杖を振り被った人間が居た。焼け焦げた体。

 ドラゴンの頭を模したその杖の頭が、自分の脳天に叩きつけられた。

 足から力が抜けた。両腕が思わず地面につく。頭がくらくらする。

 だが。

 まだ、負けてない! 炎は直撃している! 焼け焦げている! 人間にもダメージはある!

 歯を食い縛る。後ろ脚に力を込めて、牙を剥き出しにして、食らい付こうと頭を上げて。

 その眼前には、鋭く尖った杖の先端を自分に向けて、人間が構えていた。

 ……駄目だ。

 口を開けたまま、気付けば茫然としていた。

 竜巻が収まる頃、人間は杖を収めて、自分の脳天ではなく地面に突き刺した。

 

 安堵と、それと同時に悔しさが溢れて来た。

 くそ。負けた。俺は、この人間より弱かった。この人間は、俺よりも強かった。

 人間が自分自身に回復魔法を掛ける。自分の付けた傷が癒えて、跡形もなくなっていく。

 そして、人間は敵である自分にも回復魔法を掛けて来た。

 ……色んな魔物と戦う様を眺めていたけれど、他の誰にもここまでしてはいなかった。

 驚いて、瞬きを何度かしている内に、人間は仲間の元へ歩き始めてしまった。俺から去って行こうとしていた。

 躊躇う時間がほんの少し。

 でも、起き上がれば足は、自然とそっちに向っていた。

 人間が立ち止って、振り返って来た。

 数瞬、互いに立ち止って、人間は手を伸ばしてきた。

 どうすれば良いかちょっと悩んだ後に、そこに俺の指先を置いた。

 人間は、爪を両手で握って、親しげに声を掛けた。

 

 ――人間の言葉がどうにか理解できる頃になってから聞いたところによると、俺は、中々惜しいところまで行っていたらしい。国王であり、主人であるアベルは、尾で投げ飛ばされた後、助太刀を拒む為に、転がりながら叫んでいた。

 それを聞いて、益々完敗だと思った。

 元からアベルは、俺がたった一匹で挑んで来たところから、仲間にしようと思っていたのだ。

 ふぅー、と軽く冷たい息を吐く。

 地上の太陽も、悪くない。でも、時々魔界も懐かしい。




PS版のドラクエ5をやってたけど、異様に運が良かった。
グレイトドラゴンとベホマズンスライムが一発で、ヘルバドラーも苦労せずに仲間になった。
そんな思い出。
ドラクエは4,5,8が経験済み。11も買おうとは思ってる。


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