とりあえず、本人不在で提督が秘書艦と駄弁ってるだけ。
今では鎮火している。
提督の機嫌が悪い。
いつもムスッとしてるけど、今日は輪をかけて酷い。ムスムスって感じ。
もしかしなくてもお昼前に出掛けたのがアレなのかな。
ついて行こうとしたけど、「戦場に行ってくる」の一点張りで取り合ってくれなかったし……本当の戦場だったらまだまだ弱いとはいえ鬼怒の方が相応しいだろうから個人的な用事だったんだろうけど……そこでの戦果が芳しくなかったんだろうなー。
「……ふー」
ため息を吐いた提督はいつもより心なしか小さくなっている感じがした。
よっぽど、ショックを受ける事だったっぽい。
「テートク、仕事捗ってる?」
「あぁ……なんとかな」
その声はどこか上の空で、黒い机の上には未処理の書類がまだまだ残っていた。
「本当に大丈夫? コーヒーでも淹れる?」
「……頼む」
「頼まれました!」
黒い机の上で、真っ黒なコーヒーが揺れている。
「……」
「テートク?」
それを提督はじっと見ていた。
「時雨のパンツ……欲しかったなぁ」
「ぶっ!?」
それはとても痛々しい表情だった。
似た表情をどこかで見たかもしれない。
それでいて、その色を更なる高みへと誘わんとばかりに重く重く淀んだ声。
……それで、このセリフ。
パナイ、これは本当にパナイ。
偉い人が偉い感じの雰囲気を纏って「これから君たちには死地に赴いてもらう」とかアテレコしても違和感がない感じなのに言ってる事は残念を通り越して、憲兵さん案件だった。ウチのテートク、マジパナイ。
「ん……ああ、待て。話せば分かる、分かる筈だ、ステイ、ステイだ……よし」
……色々言いたい事はあるけど、大人しくそない付けの椅子に座る。
「……二股?」
「ぶっ!?」
鬼怒のセリフに今度は提督がぶったまげる番だった。
「いやだって……女の子のパンツが欲しいってそういう事でしょ? テートクだって男の人だし、あんなカワイイ子を放って置けないというのも分からなくはないけど……部下相手に二股はどうかと思うよ?」
「……誤解だ。どう取り繕っても最低な発言だったが、誤解なんだ。だからそんなに大きな声で二股、二股と連呼するのは止めてくれ」
話が話だからいつもよりも低めているつもりだったけど、提督はそれでもご不満だった。
怖がっているような表情で執務室の扉を見ている。
「で、誤解じゃないならなんなの?」
「……こいつだ」
部屋の片隅に放り出された鞄から、一枚の紙が出てきた。
「北上さんと、大井さん?」
「ああ、よそ様の二人だがな。定期的にやっているコラボの一環らしい」
渡された紙は洋服屋さんのチラシらしい。チラシ一面に制服と違う服を着て色々なポーズをとっている二人の写真が載っている。
「で、これが?」
「裏を見ろ」
裏返すと、表の二人と同じように普段見慣れた姿と違った服装の艦娘の写真が載っていた。
その中に件の時雨ちゃんを見つけて――その脇の小さい写真を見て思わず声が出る。
「パンツ……!?」
「そう……パンツだ」
艦娘というのは、自分で言うのはアレだけどみんな可愛かったり、綺麗だったりする。
だからだろうけど、鎮守府を開放してのイベント事の度にたくさんの男の人がやってくる。
それを意識しているのか、チラシの大井さん達や、時雨ちゃん達は男の人でも女の人でも問題ないような恰好をしている……しているんだけど。
【メンズ用パンツ】
漫画の強調線が見えた気がする。普通に商品を紹介するチラシの筈なのに。
というか、他のコラボで売る服の中で一際浮きすぎている気がするんだけど!?
「どうかしている……と、思ったか? だが、実際売れたんだ」
「……あー、パンツが欲しいってコラボのこのパンツの事だったんだ。で、買えなかったんだ」
「あぁ……、道が混んでいて出遅れたとはいえまさか開店から30分足らずで全滅しているとは思わなかったぞ。おまけになくなり次第販売終了と来た」
物憂げな顔。
話しているのはパンツについてなのにどうしてこんな顔ができるんだろう。
「沼というのはそういう物だ」
「沼?」
「……夕張辺りにでも聞いてくれ、っとそろそろか?」
演習場で毎日のように聞いている独特な音が遠くから聞こえてくる。
それは少しずつ大きくなって――
「……テートク、大丈夫なの?」
「一応、今のところ実戦用の弾を積まれた事はない。それと少し席を外すから、妖精さん達に後始末を頼んでおいてくれ」
提督が部屋を出ていくのと、窓ガラスがはじけ飛ぶのはほぼ同時だった。
パンツだけは手に入った。(事後報告