これ、作者なーんも考えずに書いてます。
プロットとか、現実との整合性とかをぶち抜いて作者の妄想のままを垂れ流してます。
そんな感じのぐだぐだ感を許容できる方のみお進みくださいませ。
深海悽艦との終戦から、かれこれ一年が経った。
俺の現在の心境は、と言えば……。
まあ、何だ。はっきりと言おうか。
正直、現実味がない。
今でも、これが夢で、朝起きたら今日の秘書艦が総員起こしをかけに来るんじゃないかって。
遠征の出発時刻に帰還時刻、資材の残量、先方との演習の打ち合わせ、出撃ルートの確認、そんなことばかりが、空っぽの頭に浮かんでくる。
今でも最前線で奴らとドンパチやってたのが日常で、何にもない平和な一日が過ぎると歯に何かが挟まっているような違和感がする。
何故だろう。
俺は、終戦を望んで、艦娘たちと終戦後の世界を語り合って戦ってきたはずだ。
最終決戦でも前線を支え、奴等に最後の一撃の号令を下したのも俺だ。
なのに、なんでだろうか。
少しも、俺は戦争が終わったなんて思えないんだ。
……これじゃまるで、俺が終戦を望んでいなかったかのようだ。
いい加減、戦争ボケした頭のままじゃマズイってことぐらいわかってんだけどなぁ。
………………さて、そんな俺の身の上話はともかく、現在は朝の6:30。
早起きといえば早起きだが、さして言及すべき時間帯でもない。目を開ければ、木目の天井が見え、無地の緑のカーテンから差し込む朝日の光線が視界を横切っている。
朝特有の気だるく、尚且つ心地のいい感覚を体感で10秒ほど享受し、「今日はこのまま布団から出たくねぇな……」というニート一直線な思考を何とか振り払う。
まるで徹夜明けのサラリーマンみたいに気だるさを全身に纏って布団から這い出て、ずるずると窓際まで移動。カーテンの隙間からチラリと外の様子をうかがう。
空は雲が漂い、ちゅんちゅんちゅんと雀が大層ご機嫌に朝の合唱を行っている。まあ、いつも通り、平凡で、平和で、歯に何か挟まったような違和感を覚える、穏やかな朝だ。
上記のの通り、違和感の正体はわかりきっているのだ。その内、この違和感にも慣れるだろうさ。
そんな感じで違和感をいつも通り適当に受け流し、徐々に意識を覚醒させていく。
眼球を瞼の中で八の字を描くように回し、上、下、右、左、と眼球を運動させてから、カーテンを開け放った。
シャアアア、とレールを釣り子が滑る音と共に、朝日が部屋の中に雪崩れ込む。
「……っ!」
「はにゃ!?」
「ぴゃああ!?」
「……」
すると、後ろの方から可愛らしい奇声が鳴った。
振り返れば、上半身を布団から起こし、うらめしそうな顔で睨む年相応に子供っぽい顔立ちをした黒髪の少女、「暁」。
びっくりして肩を竦め、ぎゅっと瞼を閉じたまま硬直している茶髪の少女、「電」。
未だに眠気が抜けきらないのか、体を起こしてぼーっとした表情で瞼を擦っている勝ち気そうな茶髪の少女、「雷」。
最後に、何の反応も示さず、未だにすやすやと眠りこけている銀髪の少女、「響」。
四者四様な寝起き姿に苦笑しつつ、俺は"元"第六駆逐隊の面々に向けて口を開いた。
「おはようさん。良い朝だぞ、お前ら」
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
「もうすぐ朝飯出来るぞー。顔洗って着替えも済ませちまえよー」
「「「はーい(なのです)」」」
ぱたぱたと駆けていく足音をBGMに、フライパンの上で油を弾くベーコンの焼き色を確かめて卵を落としていく。色気のない男料理だが、朝からインスタントやコンビニ弁当では味気ない上、栄養的にもよろしくないだろう。特に、
ベーコンエッグの他、適当な盛り合わせとサラダを添えて、居間のちゃぶ台の上に並べていく。
並べ終えたところで、開いたままの襖から隣の部屋、つまりは布団を並べていた寝室兼俺の書斎が見えた。その一番端っこで未だに布団を被って眠っていらっしゃる我らが眠り姫の姿が目に入る。
毎度毎度、あいつは懲りもせずに……。
「おら響。気持ちのいい朝だぞ、いつまで寝こけてるつもりだ」
そう言って、俺は容赦なく布団を剥ぎ取った。
流石に布団を剥ぎ取られては寒さに耐えきれなかったのか、響がゆっくりと目を開ける。そのさまはまるで雪の妖精がごとく幻想的。しかして、自然と男を刺激する色気がある。成長したら、男泣かせの悪女になることうけあいだろう。
そうして、その澄んだ氷のような目でこちらを一瞥した響は、即行目を閉じる。まるで何も見ていない、私はまだ夢の中のお花畑にいます、とばかりに。
このやり取りも何度目か。
無駄だと悟りつつも、俺は響に声をかける。
「おいこらお前、ほんとは起きてんだろ?」
「起きてなんかいないよ。全然起きてない。今の私はまるで白雪姫のようにぐっすりだよ」
「寝てるやつがそこまで饒舌なもんかよ……しかもそれ、眠ってる原因は眠気じゃなくてりんごの呪いだからな」
無表情でくだらない戯言を垂れ流す響。側頭部に鈍痛を感じる。ちくしょう。初めに会った時はあんなに素直だったのに、何故こんなにも捻くれた奴になっちまったのか。俺の記憶では「了解、司令官の言うことなら従おう」と曇り無き眼で俺に接してくれていたのに。なぜだ。誰がこいつをここまで腐らせたのだろうか。
そんな俺の苦悩など露知らず、響の奴は敷布団の下に潜るという強硬手段に出る。あくまでも徹底抗戦の構えを取る響に、俺は溜息を一つ吐き、かがんで目線をあわせた。
「おら、今日は
「私のカッコについては問題ない。私には暁姉さんがいるから、きっとそれ以上にアレなことにはならないはずだよ」
「否定出来ないのがなあ……! 暁だしなあ……!!」
流れるような姉disにはもはや草も生えない。
その間に、俺は響から敷布団も剥ぎ取ると、響の後ろにある押し入れに押し込む。ついでに押し入れに這っていこうとする響の匍匐前進を首根っこを掴んで持ち上げることで阻止した。
ぶらーん、と。取っ捕まった猫みたいな情けない格好で、目を閉じたまま響は口を開く。
「司令官」
「俺はもう司令官じゃねぇって何度も……」
「じゃあ、あなた?」
「いつからおまえの旦那になったんだ俺は」
「カッコカリの指輪を渡された時」
「ぐうの音も出ない反論をアリガトな。でもカッコカリはあくまで(仮)だからノーカンだ」
「ぐぅ……」
「このタイミングで狸寝入りとかマジかおまえ」
「狸寝入りじゃない……これは、呪いだ。多分、情熱的なベーゼで覚醒する類の……ぐぅ……」
「おーけー。歯ァーくィしばりやがれこのマセガキィ!!」
バチコン、と空いていた手で強烈なデコピンをお見舞いしてやると、流石の響もおでこを両手で押さえて両眼を開けた。
「ひどい。旦那からのいわれのない暴力を受けた。DV反対。いじめ、かっこ悪い」
「くだらねぇこといってねぇで、派手に空爆を受けたみたいな頭を雷あたりに梳かしてもらってこい」
「わかった。私も学習する女だからね。常識的にほっぺにちゅー、で手を打とう」
「俺のデコピンは三連装まで拡張可能だが?」
「不死鳥の秘密は、撤退のタイミングにもあるんだよ」
そう言って上着だけ残し、擬音がつきそうなぐらい機敏な動きで洗面所まで駆けていく響。
まあ、これもいつも通りだ。
洗面所で暁が「髪がもどらない~~~!! 助けて雷ーーー!!」「たすけるわ」「はわわわ! 電もなのです! 雷ちゃん、電も髪が……!」という予定調和も聞こえてくる。そう。いつも通り、平凡で、平和で、穏やかで、少しばかり騒がしい、なんてことはない朝の一幕だ。
「……で、いつも通り、お前が最後に起きたのに一番早く席についてんだもんな」
「私の髪は素直ないい子だからね」
「その素直さ加減がどうにかして髪が生えてる本人に伝わってくれたら僥倖だね」
「
「聞けよオラ」
いつも通り騒がしく、頭の痛い朝だった。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
「おし。これで大丈夫なはずだ」
そう言って、俺はヒヨコのストラップ(暁セレクト)がぶら下がった鍵を時計回りに捻る。軽い手応えと共にガチャ、と鈍い音がして施錠が成功したことを確認。
ガス、水道、電気、暁の忘れ物チェック(これだけ三重にやった)を済ませ、引き戸を何度か開閉する動作をして鍵がかかったことを再確認。今時珍しい木製の一軒家の門をくぐった。
外に出ると、暁を取り囲むかのように塀の前に三人が立ち、何やら話込んでいた。
まあ、大方三人による暁最終チェックだろう。
普段の行いがアレとは言え、相変わらず日常生活的な面での信用は皆無だ。流石は暁としか言いようがない。
だがまあ、戦争が終わってからの丸一年を使い、鎮守府の学校で一般の学校に慣れる為の訓練を重ねてきたわけだから、流石に三人も少しは暁のやつを認めているはずだろうさ。
ほら、会話だってこの通り、幼馴染同士が忘れ物確認を行う程度に──
「いい? トイレに行きたくなったら、ちゃんと先生に言うのよ?」
「暁ちゃん。嫌なことを言われたら、ちゃんと嫌だって言うのですよ? 電との約束なのです」
「暁姉さん。なるべく派手にやらかしてくれていいからね? その分、私への注目が減るだろうから」
「てめぇら保護者か!」
前言撤回。
約一名を除いて全員がオカンと化していた。幼稚園から小学校に上がる娘を心配する母親かお前らは。ああ、残り一名の暁を煽っていたやつは言うまでもない。
一喝してやるも、なおも心配そうな眼差し向ける二人と期待の眼差しを向ける一人。
これにはため息を吐くしかない。
「……ったく、揃いも揃って。お前らの姉を信用してやれよ。これでも第一艦隊のレギュラーメンバーの一人だった艦娘だぞ? 学校程度でそこまで取り返しのつかねぇ失態なんざ演じねえだろうさ。なあ?」
確認の意を込めて、自称一人前のレディの方へ水を向ける。
「だ、だだ、だいじょぶ。暁はだいじょうぶなんだから……!! ちゃんと艤装の整備と補給も済ませて……あれ!? ぎ、ぎそうつけてない! ど、どどどうしよう司令官、わた、わたしっ、しゅつげきに遅れちゃう!?」
「……、」
「……ふっ」
響。その勝ち誇ったような顔を止めろ。三連装指弾食らわせるぞてめえ。
……しっかし、なんとまあ、第一艦隊旗艦を務めたこともある駆逐艦がなんてザマだ。一般の学校で本当にやっていけんのか、もう一年訓練積んだ方が良かったんじゃねかこれ。
オラ、がーくがくしてきたぞ。
そんな俺の表情を読み取ったのか、一番オカンの顔をしていた雷が拳を握ってこちらに向き直る。
「大丈夫、私がいるじゃない! 暁が何かやらかしても、私がなんとかフォローするから、きっと大丈夫よ!!」
「……雷、頼まれてくれるか?」
「任せて! もーっと雷を頼ってくれていいのよ!!」
握った拳で胸を叩き、謎の説得力を生み出す雷に、俺はただただ平伏するしかない。
しかし、脳裏で「雷に頼るのは今回限りだ」という誓いをたてる。この誓い、今回で何度目だっただろうか。
いや、忘れるほど多くしていることから、やらなくてもいいような気がしてくるが、これを止めてしまえば、その先に待つのは
因みに、その彼。今は海軍の幹部直属の部隊に在籍しており、エリート街道を絶賛邁進中である。勤務態度は非常に熱心で、健康管理も怠ったことがないとのこと。
家では雷にべったりのねっとりのぐっちょんぐっちょんだとか風の噂で聞いたが、奴はいつごろ逮捕されるのだろうか。
いや待てよ。その実狡猾な奴のことだから、そのままゴールインするかもしれない。
……いや、するな。間違いない。りんごが地面に落ちるぐらい確実にするだろう。ロリコンは狡猾で気色悪いってそれ昔から言われてるから。
っと、話どころか思考がおかしな方向へ航行していた。
とりあえず、暁のことは雷に一任しよう。それでもやらかすんだったら、まあ暁だった、ということにしよう。うん。俺は悪くないはずだ。……監督責任? はは、ワロス。
「……そんじゃま、表に車が待たせてあるはずだから、ぼちぼち行きますか」
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
「……確かに、当日の足を貸してくれたら助かるとは言ったが……なんでよりにもよってコレで来るかなぁ……」
「ねえ、そろそろ自覚したらどうなんだい? 元連合艦隊関東支部総司令官殿。戦争の立役者かつ国民栄誉賞候補が不用意に「足を用意してくれ」なんて言ったらどうなるか」
「……いや、その、タクシーとか適当に手配してくれるかなーって。思って。大淀が、困ったことがあったら何でも言ってくれって言うから、じゃあ、まあよろしくーってな感じで……」
「司令官、さては馬鹿だね?」
響の辛辣な言葉に、俺はぐうの音も出なかった。
それも致し方ない。目の前のそれが、反論を許さなかったからだ。
黒塗りのボディに白銀のライン。バックには日の丸の国旗。
トヨタ・センチュリー。
日本政府、内閣総理大臣の専用車として有名なこの車である。
おかしい、俺は確かに大淀に「足をかしてくれないか?」と頼んだ。ああ、確かに「なるべく安全なやつな。できれば国産でー」と冗談めかして頼みはした。だが普通、
「司令官。君は自身の立場をもっとよく理解するべきだ。君の最後の奮闘がなければ、この国どころか世界規模で人類が滅亡するところだったんだから」
「……俺が実際に戦ったわけじゃない、こともないが。それでも手柄の九割九部九厘はお前ら艦娘のもんだろう? なんだってこんな」
「どうでもいいから乗っちゃわないかい? さっきから人に見られてばかりだ。今に電が暴走して手当たり次第に衝突事故を起こすかもしれないよ?」
「……大淀にはもっと具体的に指示を出そう。そうしよう」
「そういう問題でもないと思うけど……はぁ。まあいいさ。それは、おいおい私が言い聞かせていくからね。私への愛と共に」
「ラストは不穏でしかねぇなおい」
電はエアーになって大気中に漂ってます。
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